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2013年1月

2013年1月 8日 (火)

挨拶回りの流儀

実質的な仕事始めの今日。街には挨拶廻りの営業担当者があちこちで見かけられる。
ビルから出て来た男性二人。一人は白髪頭のベテラン営業マン。一人は新人ぽい。

「まぁ、一軒あたりはあんな感じでささっと挨拶すればいいんだ」と、ベテラン氏。
「意外とスムーズで簡単なんスすね」と、新人君。
「まぁ、相手も忙しいんだから、そこんところ察しなきゃ」
「そおッスね!・・・ただ、自分わかんないんスけど、なんでコート着ないんスか?」
「まぁ、相手の前で脱いだり着たりモタモタしてたらみっともないし、迷惑だろう」
「そおッスね!ただ、自分はコートは建物の前で脱いだり着たりするようにって研修で習いました」
「まぁ、そういう流儀もあるな。だけど俺は新年の挨拶廻りではコート着ないんだ」
「なんでッスか?」
「まぁ、気合いだよ。一年の気合いを相手に見せるんだ」
「そおッスか!でも、他の会社の人たち、みんなコート着てますよ?」
「まぁ、気合いが足りないんだな。だからこそ、俺たちの気合いが光るってもんだ。差別化だよ」
「なるほどッスね!納得です!」

彼らの気合いが実を結んで、会社が繁栄するように祈る。
風邪ひくなよ。

おっとっと

「スイマセン」
「ごめんなさい」
駅のホーム。出会い頭に相手をかわす方向が私私と重なった。
相手は紫色のモンクレールのダウンジャケットに白のタートルネックのセーター。明るめの茶色のロングヘアー。三十代前半という感じの女性。
お互いにもう一歩を踏み出したが、また重なった。さらに一歩。ま

ただ。バスケットボールの試合でマンツーマンのガードをしているよう。
さすがに三度重なるとお互い少し可笑しくなって、くすりと笑った。そして、相手の目を見て動きを確認し、ゆっくりすれ違った。
僅か4秒のドラマだった。土曜日の朝。人もまばらな時間だからこその余裕かもしれない。だが、袖触れ合うも多少の縁。平日も殺伐とせずにいたいと思った。

席取り

銀座・有楽町界隈のスタバはまだ、仕事始めをしていない、バーゲン狙いの買い物客で大混雑。そんな中、近隣の会社ビジネスマン4人組がスーツ姿で来店。役職者・担当者二人、新人という風情。

隣り合った二人掛けのテーブルで二組の客が帰り支度をはじめた。

奇跡的なタイミング。新人がダッシュ。席を奪取。
彼は確保した席を守るため、まずジャケットを脱いで1つの席に掛け、次にスマホをもう一つの席に置き、3つめの席にポケットからハンカチを出して置いた。
最後の1つに自分が座って待とうとしたところ、レジの列に並ぶ先輩がこちらに来いと手招きをした。どうやら、コーヒーはおごってもらえないようだ。

彼は尻のポケットから財布を取り出し、列に向かおうとしたが席を確保するために置く物がもうない。そして、彼は「閃いた!」というような顔をしてネクタイを緩め、結び目を保ったまま首から強引に抜いてテーブルに置いた。
...
4人が飲み物を手に持って席に戻ってきた。新人君がジャケットを羽織り、ポケットにハンカチとスマホをしまった。最後に、結んだままのネクタイを頭から被った。ネクタイがおでこで引っかかった。その姿は、テレビでよくある「宴会で酔っ払って頭にネクタイを結んだサラリーマン」のように見えた。

年末年始の彼の奮闘ぶりが伺えた。ガンバレ新人。春になれば後輩が入ってくるだろう。

仕事初めの風景

丸の内のスタバで仕事始め。
周りを見回すと、今日から業務開始は少数派なのか、昼時なのに空席もチラホラ。

  丸の内の華、女性社員の方々は7日スタートが大勢派なのか、姿はまばら。代わりに、丸の内セールの客が何人か戦利品を手にランチしている。

ノマドの若い男女二人は、向かい合わせに座って、 年始など関係ない風情で揃いのLet's noteを開いてパワー全開で作業中。

隣の席には、コートを着たまま空のショートドリンクカップを手に談笑するおじさん4人。年始の挨拶廻りの休憩で根が生えたようだ。メンバーは役員、部長、次長、課長という雰囲気。役員が、バブルの思い出を語り、三人が一斉に首肯を繰り返す。
...
なべて世は事も無し。

イブの物語

スタバの少し離れた席。クリスマスイブの予定に出かける時間つぶしのカップルが一組。
彼女がマフラーを巻いて、正に店を出ようとした刹那、彼が切り出した。
二人の間の空気が凍った。
彼女は手を揃えてテーブルに置き、少し背筋を正して彼の話を聞いた。
彼は話終えると、頬杖をついて彼女を見た。彼女はぴくりとも動かない。
しばらく膠着状態が続いたが、彼女が鞄からハンカチを取り出して席を立った。
しばらくして、彼女が席に戻ると、彼が何かん話かけようとした。

彼女の唇が「もう、いいから」と動いた。
彼女は鞄を取って席を立ち、一人店を出た。右手にハンカチを握りしめたまま。彼が席に取り残された。
店内にはクリスマスソングが流れ続けている。

キス

ボサボサで脂ぎった髪。あまりにもまばらな剃り残しが多いひげ。アイロンを当てたことのなさそうなワイシャツの襟先は丸まっており、羽織ったベージュのステンカラーコートは道路で引きずったように黒く煤けている。
朝の通勤電車のシートに座った、小柄で痩せ型の三十半ばの男。彼が指紋でべたついたメガネのレンズ越しに熱心に見つめているのは、スマホの画面。そこに次々と映し出されるアニメのヒロインたちだ。サムネールのアイコンから次々と美女を呼び出し、人差し指でその口元にタッチする。
電車の中。人から見れば、少し異様な光景も、彼は恥じらうことも悪びれることもなく、疑似キスを行っている。
彼にとって、そのスマホの恋愛ゲームは喜びなのか、単なる作業なのかわからないくらい淡々とした動き。しかし、その様は、まるでハーレムの王が居並ぶ後宮の妻たちに爽やかに朝のキスを贈るように、自然で洗練されている。
王にとって、妻たちに等しく愛を注ぐことは、喜び以上に重要な作業なのかもしれない。
女性専用車両の男性でごった返した車内で、サルタンは世俗を意に介さず、キスを続けて電車に揺られていた。

メール中

スタバのカウンター席でマグカップのコーヒーが揺れた。
地震か?と思ったが、揺れているのはテーブルのみ。震源地は一つ空席を挟んで向こうの男。強烈な貧乏揺すりをしている右足だった。震源の深さ、地上1メートル。
白髪混じりの無精ひげ。ダウンジャケットの初老の男は、スマホを両手でしっかりと握り締め、どうやらメールを打っているようだった。
マグカップが揺れ続けること、五分余り。ふーっというため息とともに、人工地震は唐突に止まった。メールを送信し終わったようだ
男は次に電話をかけ始めた。
「もしもし!」大きな声だ。
「ああ、母さん。今送ったメールに書いたけど、これから帰るから」。

缶の底

土曜日の夕暮れ時。快速電車の最後尾車両。車掌室のドアのもたれて、作業着姿にカバンを肩に掛けた三十半ばの男性が一人。
家路へのお供は、サントリー角ハイボール缶。男は飲んでいる缶の飲み口から、缶の中味をじっと見つめている。
残り少なくなったハイボールが惜しいわけではないはずだ。彼の手にはコンビニの小さなレジ袋に入ったお代わりがもう一缶ある。
缶の底には、何が見えるのか。
残りのハイボールを一気にグイと飲み干し、まるで慌てているかのように、男は新しい缶を取り出してプシュッとフタを開けた。一口飲むと、また、缶の底を覗き込んでいる。
車掌が車内アナウンスで、快速電車の停車駅を告げた。列車の終着駅は、遥か海辺の街だ。
男はアナウンスの声にふと、耳を傾けたように顔を上げ、そのまま遠く窓の外を眺めた。窓の外では日暮れの街の家々に灯りが灯り始めていたが、男はそれよりも、もっと遠くを見ているようだった。
窓の外を眺めたまま、ハイボールをグビリと飲み、男はまた、缶の底を見つめた。

プラダを持った小悪魔

電車内。隣の座席には、プラダのバッグを膝に載せ、マスカラを天まで届けと厚塗りしている小悪魔系メイクのギャル。彼女のまつげは既にバサバサと羽音をたてそうに厚塗りされている。一体、どこまでいけば気が済むのか興味深いが、斜め前の吊革に掴まっている中年男性は少なくとも気に入らないらしく、車内メイクを苦々しく顔で見ている。
ふと、マスカラを塗る手を止め、前に立っている三十半ばと見られる女性に席を譲った。「お腹に赤ちゃんがいます」のキーホルダーを目ざとく見つけたようだ。まだお腹も目立っていないのに、大した慧眼だと言えよう。
「あ、ありがとうございます!」女性は嬉しそうに席に座った。
もう一人、にこりとしたのは、苦虫を噛み潰した顔でプラダを持った小悪魔を見ていた中年男性だ。
人を見かけや、ちょっとした行為だけで判断してはいけない。少し、心温まる光景が車内の片隅にあった。

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