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2012年5月

2012年5月30日 (水)

待てなかった男

夕暮れ時のJR有楽町駅前を男が携帯電話を耳に当て、話しをしながら猛然と走ってきた。
「あー、見えました見えました!!」
年の頃、20代後半。白いワイシャツにノーネクタイのサラリーマン風。
スーツを着た30ぐらいの男の前で足を止めた。

「いやー、先輩。そんな迷う場所じゃないですよね。」
「悪い悪い。オレ、方向音痴じゃん。」
「地図だって渡してるのに。みんな待ってるンすから。早く行きましょうよ!」
「ああ、悪い悪い。・・・ってか、みんな待ってはいなかったみたいだな・・・」

・・・走り寄ってきた男の胸には、焼き肉用のエプロンが下がり、あまつさえ、タレで少し汚れていた。

お辞儀する男

「あッ、○○さん!この度はどうもい世話になりまして・・・」
東京駅。人がごった返す中央通路。白髪が目立った50がらみの、どこか古めかしいスーツを着た男性が突然立ち止まり、携帯電話に出るなり大きな声で話し出した。

「・・・それはもう、大変助かっております。」といって、姿の見えない電話の先の相手に向かって丁寧にお辞儀をする。
「はい、はい・・・手前どもとしましては・・・」と、言葉一つ一つに頭を振って相づちを打ち、「いや、ありがとうございます」と、また腰を折ってお辞儀をする。

あまりに大きな声とオーバーな仕草に人が通りがかりに見て、クスクスと笑う。
だが、カナモリは四半世紀前の新入社員研修を思い出していた。
... 「電話で相手の顔は見えなくても、こちらの態度は伝わります。話すときには姿勢をよくして、相づちで頷いたり、お礼で頭を下げる仕草は相手から見えるものです」と、ビジネスマナーのインストラクターが言っていた。

電話でお辞儀する男はビジネスマナーを思い出してやっているのかといえば、決してそうではないだろう。恐らく、思わぬ相手からの配慮に、心からお礼をするというキモチが態度として発露したのだ
「マナー」とは、単なる「型」ではない。そこに「気持ち」が入っていなければ慇懃無礼にもなりかねない。
マナーの基本を、今さらながら学んだ気がした。

2012年5月27日 (日)

運命を売る女

有楽町阪急メンズ館でネイルをして、そのまま館内をブラブラとしていたら、それが目に飛び込んできた。
真っ赤な半袖シャツ。
襟立てが赤白のギンガムチェックで、襟が細いストライプという凝った造り。
・・・どことなく、宅配ピザのロゴが背中にプリントしてそうな気配もあるけど、そんなことを気にしていてはいけない。こんなキレイな赤い発色は貴重だ。ウェストをスマートに絞ったシルエットも美しい。

「イタリアのおサイズですですので、ご試着をお勧めいたしまっす♪」
と、髪を盛り上げて、バサバサと音のしそうなつけまつげを付け、チークを派手に染め上げた店員が声をかけてきた。
・・・この際、店員の様相などどうでもいい。
「着てみます」と試着室に持ち込む。

最近、気になるウェストがシェイプしたシルエットに耐えられるか心配だったけど、大丈夫だった。
「通りがかりに目に飛び込んできたんだけど、ピッタリだったよ」と店員に告げると、
「運命ですね」と、ニコリ。

「運命」という単語、日常会話でそうそう出てくるモノではないけれど、阪急メンズ館は人の運命も売り場に並んでいるらしい。
私の「運命」、即買い。14,800円。安いものだ。

2012年5月26日 (土)

寄る年波

電車の中の会話。
「あんた、今、“KY”って言ったよね」
「あー、思わず言った。超ひさびさ~」
「もう言わないよね~」
「KYなんて言っちゃうなんて、ウチもばばあだね」
「寄る年波だね」

・・・という会話を残し電車を降りていったのは、二十歳前後の女性二人。ギャル。その証拠に、かなり短いショーパンのポケットの裏地が裾から顔を出している。
...
ギャルは「寄る年波」で年を経るとフツーの女性になるのだろうか?結婚して子どもができるととヤンママになりそうだけど・・・。
などと考えていたら、彼女らと同じ駅で降りる予定だったことに気付いた私であった。

2012年5月25日 (金)

世界一なんだヨ!

スターバックス錦糸町北口店。この店には珍しく、欧米人の客がカウンターに座っていた。30代前半とおぼしき男性だ。
流行りの超薄型ウルトラノートを開き作業をしながらコーヒーをすするその顔は真剣そのもの。紺のチョークストライブのスーツに赤いネクタイが金髪によく映えている。ちょっと前のウォール街で活躍していたのは、こんな感じの人ではなかったかと連想させる姿だ。

手元のBlackBerryに電話がかかってきた。
「Oh~、ゴメンナサイ。きょうはダメなんでス~。」
何かのお誘いを断っているようだ。
ニコッととびきりの笑顔をして、その理由を電話で告げた。
「ボクこれから、SkyTreeに登るんですゥ~」。
まるでオモチャを目にした子どものような表情である。
「すごいチャンスなんだよ。こんなに早く登れるなんて!世界一なんだよ、SkyTreeは!!」

口にしたら、急にうれしさがこみ上げてきたようで、いそいそとパソコンなどの仕事道具をカバンに仕舞いはじめた。
そして、にわかに電話をかけ始めた。
「コンニチハ。○○さん、ボク、今からどこに行くと思う?SkyTreeに行くんだヨ!SkyTreeは世界一なんだ!」
子どものような自慢の押し売り電話を2件ほどかけた後、彼はスタバを後にした。

錦糸町からスカイツリーまでは歩いて約20分。
スキップをするような足取りで歩いて行く彼の姿が想像できた。

2012年5月22日 (火)

通勤のプロ

珍しく朝の満員電車に乗った。出社時間が多様化して通勤も分散化したとはいえ、まだまだ日本のラッシュは健在だ。
昔と違う所は、男性が妙な姿勢で無理矢理吊革につかまっていることだろう。身動きが取れない車内。本来の吊革の意味はない。えん罪防止だ。人と密着度120%なのに、人と触れない努力をしなくてはならない。何とも世知辛い世の中である。

そんな車内でカナモリの背後には小柄な男性が密着している。圧でどんなシルエットのスーツをきているかもわかるぐらいだ。漂ってくるほのかな華麗なる香りから、熟年男性であろうことが想像できる。

電車の揺れで姿勢を崩したか拍子か、背後の彼のアゴがカナモリの肩に乗った。しかし、それを降ろす気配はない。妙に安定している。
「す~っ」。まさかと思ったが、寝息だ。彼は安定した姿勢で眠りに入った。偶然ではないだろう。肩に乗せてくるタイミング。そして、寝入りの早さ。それが彼の毎朝なのだろう。

通勤のプロ根性。しかとその重みを肩で受け止めた朝であった。

2012年5月17日 (木)

修行

「お前、今なにやってんだ?!」。
駅前のチラシ配布。先輩とおぼしき配布員が後輩らしき人間を激しく責める。

「今、受け取ろうとして手を出しかけたろう。何で引っ込めるんだ?」
「スイマセン、自分、気付きませんでした!」
「相手の顔だけ見るな。手の動きに注意しろ!」
「はい!」

「おい、今のところ、もう少し手を伸ばして追い続ければ、きっと受け取ったぞ」
「いや、めいっぱい手伸ばしてんスけど・・・」
「腕と肩だけ動かすからダメなんだ。腰を回せ」
「はい」

「おい、無言になるな。声かけてちゃんと配れ」
「スンマセン。自分、相手の動きに合わせるのでいっぱいいっぱいになっちゃって・・・」
「言い訳するな。次!」
「はい!」

今どき、ティッシュの一つもオマケに付けないで、ナゼ、単なるチラシを受け取る人がいるのか常々不思議だった、コンタクトレンズの割引券。
受け取らせるためには、こんな激しい修行が行われていたようだ・・・。

2012年5月16日 (水)

秘密の椅子

あるオフィスビル前の広場はオープンスペースとなっており、いくつかの椅子・テーブルセットが置いてある。本来は街行く人の小休止や、OLたちのお弁当コーナーとして機能するよう設計されていたのかもしれない。しかし、そこはノマドたちが見逃すわけはない。電源がないので長時間は居座れないが、多くの人がメールチェックなどの軽作業に勤しんでいる。

そんな場所の一角に、ポツリと椅子が置いてある。壁を背にして。テーブル無しで。
周囲から少し浮いた感じで何とも居心地が悪そうなのだが、意外にもその席は人気なのだ。入れ替わり立ち替わり、人が座ってなにやら携帯で話して席を立っていく。

男性も女性も、若年も中年も利用するが、共通点はスーツ姿。そして、資料のたくさん入ってそうなカバンを持っていることだ。
少し聞き耳を立ててみると、どうやらみんな、アポイントの電話をしているらしい。
「・・・はい。それでは○○時に伺いますので、よろしくお願い致します」。
と、多くがその後入れた予定。つまり、当日アポ。突撃営業マンたちだ。

さては、その椅子は魔法の椅子で、「アポイントのお願い」が叶う魔力を持っているのではないか。そのために、代わる代わる営業マンたちが利用するのだ。
と、一瞬思いそうになったけど、そんな非科学的なことはない。
テーブルの席を離れて、その秘密の椅子の近くで自分もスマホをいじったり、留守電を聞くフリをしてもっと会話をよく聞いてみた。

「・・・いや、一度ご案内というか、ご挨拶だけでも結構ですので、何とか・・・」
お、断られることもあるようだ。
と、いうよりは結構な勢いで断られている。次から次に電話しているのだ。
「・・・資料だけでもお渡しさせていただければ。お忙しければ、部署の方に受け取っていただくだけでも結構ですので・・・はい。ありがとうございます!」

秘密の椅子のヒミツがわかった。
その席を営業マンたちが選ぶのは、周りから少し離れていて電話の内容を聞かれないからだ。(聞いちゃったけど)。
そして、次々とアポが取れて席を立っていくように見えたのは、「アポが取れるまで、その席で粘るから」だ。

ある、部族の雨乞いは100%雨が降るという。なぜならば、「雨が降るまでずっと、祈り、踊り続けるから」だ。

突撃営業マンたちの雨乞いの祈り。そして、その聖地をしかと見させてもらった。

2012年5月15日 (火)

悪のSNS?

英語で外国人二人とスタバでミーティングをしているオジサン。IT系企業勤務のようだ。
50歳過ぎだが、スーツの着こなしも英語もキレイでカッコイイ。

外国人二人はIT系のベンチャーらしい。一人はコットンのスーツにノーネクタイ。もう一人は同じくノーネクタイでジャケット&パンツという出で立ち。カジュアルながら、なかなか粋な着こなしだ。

二人は日本人男性に向かってパワーポイントの資料を提示し、英語でプレゼンをしている。10billionを目指すとか、景気のいい話だ。ザッカーバーグはライバルらしい。(←彼は絶対そう思ってないと思うぞ!)。
二人の口からはSNSや広告関連の名前が多数出てくる。

その中で不思議な響きの名前が二つ。
「アクホウドウ」
「アテナ」

おっと、なんだかワルそうだ。

さては10billionはブラックマネーを集めるのか?

それを洗濯したりするビジネスモデルか?

何度も繰り返されるのでわかったけど、「博報堂」と「はてな」だとやっと気がついた。
・・・フランス人だったようだ。

2012年5月13日 (日)

平常心

トイレで小用を足していたら、個室から大きな声が聞こえた。
「あ、お世話になっております。はい、その件でしたら・・・」
大事な用を足している所に電話がかかってきたようだ。

「はい。もう、キチンと現場では対処していますので、月曜にはご報告ができます・・・」
キビキビと応対する声が続く。彼の現在の私用がどうなっているかはわからないが、仕事はデキル男なのかもしれない。
手を洗いながら、聞き入ってしまった。

「はい。では失礼します」。
と、電話を切ったその次の瞬間・・・。
「まったく、ちくしょー。休みの日まで追いかけてきやがって。こっちは何してるとおもってんだ。ブツブツ・・・」独り言で、文句が続く。
そして、「おっと、イケナイイケナイ。・・・観自在菩薩行深般若波羅蜜多時・・・」
小さな声で読経が聞こえてきた。自分を落ち着かしているのだろう。さすがデキル男は違う。男は読経だ。

ジャー・・・。水を流す音がして、デキル男が出てきた。意外に若い男だ。
思わず聞き耳を立てていて立ち去れなかったカナモリと目が合った。
「こんにちは」。
彼はニコリとして何事もなかったようにトイレから立ち去った。
さすが、平常心。
ただ一つ、手抜かりがあったとすれば、彼は手を洗っていかなかったことだ。

2012年5月12日 (土)

孤独の似合う男

昨夜、舘ひろしを見た。・・・というのはウソで、よく似た人。
ナニが似ているって、その背格好と面長な顔立ちやダブルのスーツだけではなく、
醸し出す雰囲気が、似ていた。

見かけたのは、飲み屋が続く街角の外れ。閉店した銀行の玄関前。
気がついたのは、彼が「カチッ」と高そうなライターでタバコに火を付ける音を響かせたのを、通りがかりに聞いたから。
ライターの火が揺らめき、彼の顔を赤く照らした。タバコを吸い込み、フゥーっと吐き出す。街角にオトナな空間が出現していた。

が、彼の足下にはナゼかアサヒスーパードライのロング缶が置いてあった。
タバコを口から離すと、それを一口グビリと飲んだ。
...
いったいどんな経緯で、シブイ男が街角で缶ビールを立ち飲みしているのか。
まだ、22時半過ぎなので開いている店はたくさんある。
誰も一緒に飲んでくれる人がいなくて、一人でお店に入るのはイヤなのだろうか。
それとも、一次会が終わってまだ飲み足りない気分なのに、誰も付き合ってくれなかったのだろうか。
理由は何にせよ、孤独感がその肩から滲み出していた。

しかし、さすがに舘ひろし。その、街角の孤独感が絵になる。
きっと、ココロは寂しい気分いっぱいだろうに。
ひとりぼっちでは生きていけないウサギさんだったら、確実に死んでしまいそうなシチュエーションだろうに。

彼はビールをもう一口、グビリと飲んだ。
「ゲフッ」とげっぷをした。
さすがだ。孤独なげっぷまで絵になるじゃないか。

2012年5月11日 (金)

営業の鬼

ズズッ・・・。

スタバの期間限定メニュー、チョコレ-トクッキークランブルフラペチーノを頬をすぼめながら吸い、その女性は言った。年の頃は30代半ばだろうか。

「だいたい契約時にきちんと説明しているのにちゃんと聞いてない。契約書も読んでない。そのくせ、納品時にゴネるってのはルール違反なのよ。サンプルチェックだってさせてるのに」。

もう一人は20代半ばで、一通り仕事は覚えましたという風情の女性だ。

二人揃って黒のスーツ。といって、リクルート女子学生のそれとはひと味もふた味も違う、カッチリしたカッコイイスーツだ。

ズズズズッ・・・。

「でも、○○さんはそこで絶対折れないからすごいですよね。男の営業だって、請求するときに少し値引き処理するとか、折れるのに・・・。」

「何のための契約のプロセスかと、私は言いたい。そうやって客先を甘やかすから、大事なときに足下を見られるのよ」。ズズズ・・・。

「まぁ、そうやって強気に出るから、社内で『営業の鬼』って名前が付いたんだけどね。非情~に不本意ながら」。ズズズズ・・・。

「○○さんは若い頃からそうだったから、お前も見習えって次長に言われました」。

「若い頃ね。確かに。私、理不尽に負けるのがキライだから。まぁ、昔は『営業の鬼姫』って呼ばれてたのが、いつの間にか『姫』が消えてるのが、さらに不本意なんだけどね」。ズズズズーーーーッ。

「今日はお代わりしちゃおう。」

チョコレ-トクッキークランブルフラペチーノを飲み干した元・営業の鬼姫は、カウンターに向かった。

戻ってきたときには左手にスプーンを握り、右手はさらに甘そうな「チョコレ-トクッキークランブルフラペチーノWithホワイトチョコレートプディング」の大きな容器を持っていた。

元・鬼姫は、ゴネる悪者を退治した、自分へのご褒美を今度はスプーンですくって食べる作業に没頭し始めた。

まどろむ女

「くぅー、くぅー・・・」軽い寝息が小さく開いた唇から漏れて出ている。
「ん、ん・・・」と、軽く頭を動かすと、はらりと一束、髪が流れる。

二十歳そこそこと思われる女性。少し前に流行った「森ガール系」をシンプルにしたような身なり。大学生のように思われる。
明るめに染めた髪をちょっと長めのボブカットにまとめている。
メイクはナチュラル。・・・はっきり言って、カワイイ。

ここは電車の中。
眠る彼女の頭を支えているのは、隣の男性。スーツ姿の30代半ばと思われるビジネスマン。
二人が大学生カップルに見えるとしたら、かなりラブラブな、「リア充、爆発しろ」的構図が出来上がっている。
...
だが、うらやましいぞ、この野郎!と思うのは早計だ。
彼女の眠りっぷりはハンパない。彼の方に、体重をガッツリかけて寝入っている。ここまでやられると、周囲の注目も集まる中、ウレシイより恥ずかしいキモチが先行するはずだ。
その恥ずかしさからか、彼は彼女の頭が肩に乗っていることなど気にも留めていないという風情で、反対の片手でiPhoneを操って、画面に視線を固定している。

彼が、画面から視線を列車の外に転じた。iPhoneをポケットにしまい、床にヒザで挟んでいたブリーフケースの取っ手を掴んだ。降りる駅が近づいてきたのだ。
彼女に起きる気配はない。
彼がそっと、彼女の頭を真っ直ぐにしようと、肩で反対に押しやっても、一層、彼にもたれかかってくる姿勢になってしまった。

「くぅー、くぅー・・・」軽い小さな寝息が続いている。
「ふぅっ・・・」彼は小さなため息をついて、少し浮かせていた腰をシートに
戻し、姿勢を安定させた。

久里浜行きの快速電車は、大勢の人を吐き出して二人を乗せたまま、東京駅を発車した。

おっと!

スタバに入ってきたそのオトコはカッコよかった。
30代前半。仕立ての良さそうなスーツにパリンパリンにノリの効いたワイシャツ。ノーネクタイ。手にはカーボン製のゼロハリ(←すごく高い)。長身細身によく似合う、計算された無精ヒゲがまた、イヤラシイ。
そんなオトコが、カナモリの隣のカウンター席に座った。ちょっと、惚れるかと思った。(←ウソ)。

彼のランチはグランデサイズのソイラテにパンケーキ。女の子みたいなメニューだが、パンケーキが皿の中で溺れそうになるほどハチミツに浸っている。よほどの甘党か、脳みそへの糖分補給が重要な仕事をしているのだろう。
パンケーキを切り分けて、左手のフォークで口に運びながら懐からBlackBerryを取り出した。iPhoneでもスマホでもなく、BlackBerryということは、どこぞの外資系の社員か。

BlackBerryからナイフに持ち替えよ...うとしたとき、彼の手が滑って、ナイフがぽろりと床に転がり落ちた。
「oops!」

・・・今、「oops!」って言ったよな。

格好いいけど、外資社員で英語がうまいのかもしれないけど、とっさに「oops!」と言うヤツは初めてみた。

そしてウップス君は、カナモリのそばに転がるナイフを拾って、「こりゃ、失礼しました」と言い、また、何事もなかったかのようにBlackBerryをいじりながら、ソイラテをすすった。

事務

「事務服が欲しいの」。60代初旬と思われるご婦人が店員に要望した。ユニクロでのことだ。

「事務服に使えるような商品でしたら、こちらにスーツやブラウスなどがございますので、ご案内致します」。店員はにこやかに応えた。

「違ううわよ。事務用よ。そんなのじゃなくて、きちんと動ける服じゃなきゃダメなのよ」。
「ああ、カジュアルなものでしたら、カットソーや鹿の子素材のシャツブラウスなどがよろしいかと思いますが、いかがでしょうか」。店員は遅滞なく切り返す。

「違うわよ。運動するのよ。動きやすくて、汗かいても大丈夫な服よ。ユニクロにはそういうのいっぱいあるって聞いて来たんだけど」。
「事務用でございますよね」。
... 「そうよ。ジム用。あたし、運動不足だから来週から通うことにしたのよ」。
「あ、ジム(GYM)でございましたか」。
「そう。ジム用」。

リアル空耳アワー。楽しませていただきました。

訓告

JR東京駅、総武快速線に乗るには長いエスカレーターを降りていくことになる。
成田エクスプレスも発着するホームなので、時折、大きなスーツケースを引っ張っている人が混じるが、地上駅構内を丸の内側と八重洲側をつなぐ通路の喧噪と比べれば、連休初日といえども静かなものだ。

エスカレーターを降りて左手に、エキナカコンビニ「ニューデイズ」がある。そして、その店の隣には、知る人ぞ知る「立ち呑み場」があるのだ。
コンビニの建物と横に設置された自販機の間にスペースがあり、そこに身を寄せ合ってコンビニで買ってきたビールやチューハイを乾き物をつまみに呑むのが心地良いのだろう。入れ替わり立ち替わり、夕方から夜は誰かしらがそこで呑んでいる。
景気が回復傾向にあるとはいえ、毎晩、店のみをするわけにもいかない。かといって、一杯引っかけて勢いを付けなければ家に帰る気にもなれ...ないという、男たちの悲哀が漂う場所なのだ。

そこで3人の男が立ち呑みをしていた。
連休初日の出勤に、呑まねば気持ちが治まらなかったのかもしれない。

30半ばの男性2人。サラリーマンも10年選手ですっかり板に付き、ちょっとくたびれ感、その醸し出すオーラとスーツから漂う。一人は靴が黒なのに、カバンが茶色だったり、もう一人はノーネクタイなのは構わないけど、明らかに着古したノーアイロンシャツだったりするのがイタダケナイ感じだ。
各々が手に持っているのは、スーパードライとチューハイの氷結。

もう一人は20代前半。黒いスーツは恐らく就活時代に着ていたもので、2つボタンを2つとも留めてしまっているあたりが、いかにも新入社員らしい。
そして、彼が手に持っている黒い缶は、「コカ・コーラ ゼロ」だ。
先輩社員に合わせて立ち呑みしているけど、しっかりノンアルコールである。
こんなところで、「若者のアルコール離れ」の現実を目にした。
そして、彼が言っていた。
「そろそろ、飲み終えて帰りませんか。あ、電車にお酒持ち込んじゃダメですよ」。
・・・しっかりした新入社員の成長に期待したい。

誘う女?

「爪、綺麗ですね」。

夕刻、混み合ったスタバのカウンター。隣の席から声をかけられた。
宮﨑あおいと柴咲コウを足して3で割って、年齢を5足したぐらいの雰囲気の女性。
連休初日にもかかわらず、スーツ姿だ。バッグはエルメスのトート、に似た無印良品製と見た。

・・・女性から声をかけられるとは、なんたる僥倖。しかも、この真っ赤なジャケットの怪しげな男に関心を示すとは、もしかしたら彼女は背中に羽根が生えているんじゃないかといぶかしんでいるうちに、「それ、ただのトップコートじゃなくてジェルですよね」と言葉が続いた。

あわてて応えた。
... 「ええ、最初は磨くだけのつもりだったんですが、つい、ピカピカが気持ちよくなって・・・」
お、何だかイイカンジじゃないか。

「どこでやってるんですか?」と、聞かれた。
「阪急メンズ館で」。
「え?それじゃ、男性のネイリストが施術するんですか?!」

思わぬ反応に一瞬、たじろいだが、ここで会話を途切れさせてはいけない。
「いやいや、女性ですよ。いくら何でもオッサンに、『最近、面白い映画とか観ましたかぁ~?』とか、言われながら塗られるのイヤじゃないですか。挙げ句の果てに、『それじゃぁ、手のトリートメントしますね~』とか言って手をニギニギされるのはゴメンですよ」。

彼女はクスッと笑った。
しかし「メンズ館って、私、勘違いしてました。勉強になりました
と言って、一礼して席を立ってしまった。

しまった~。ここは笑わせる所じゃなかった。
去り際に、彼女が空のマグカップを掴んでいる手を見たら、かなり凝ったネイルアートを施していた。ネイル談義に持ち込むべきだったのだ。
ただのとぼけたオッサンには用はなかったらしい。

後悔先に立たず。じっと手を見る。
少し剥げてきたジェルを気にしながら・・・。

寂しがり屋

スタバ。店内には30半ばの女性が小一時間ほど席を温めていた。
栗色のセミロングの髪を綺麗にカールさせて、しっかりメイクをし、コンサバめなニットに身を包んでいる。
トリーバーチのトートバッグに下がった巨大なチェブラーシカのキーホルダーが印象的だ。
携帯をいじるでもなく、何もせずに店外の様子をじっと眺めている

その顔がパッと明るくなった。
店の外から、四十がらみの男が店に入ってきた。
タイトなスーツを身にまとったノーネクタイ。
河のブリーフケースの取っ手には、小さなキーホルダーが3つ付けてある。
名も知らぬキャラクターと、北海道のまりもっこり、そして、チェブラーシカ。

「待たせちゃったね」。彼が言う。
... ニコリとして、彼女は「大丈夫にゃ」と言った。
「美味しいモノを食べに行くにゃ」。
語尾が全部「にゃ」だ。

・・・寂しかったんだな。

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