10倍伸びる可能性のある?「男性用シャンプー・コンディショナー市場」
日本の人口減少に加え、昨今のコロナ禍で多くの市場が縮小している。そんな中、「今より10倍の伸びが期待できる市場がある!」という夢のある話には多くの人が関心を持つに違いない。その市場が、「男性用シャンプー・コンディショナー市場」だという。
「男性用シャンプー・コンディショナー」は、日経MJ8月6日号の記事によると、<女性用のシャンプー・コンディショナー市場が2000億円程度とみられるのに比べると、10分の1程度にとどまる>という状況のようだ。しかし、<花王の推計によると男性用をうたったシャンプー・コンディショナーの市場規模は180億円程度(2019年)で堅調に推移している>といい、これから大きく期待できる市場であるのだ。
だが、何もしないで市場が拡大するわけではない。<成人男性で男性用シャンプーを使っている割合は2~3割程度。女性用や家族用のシャンプーを使っているのが多数派だ。シャンプー選びにあまりこだわらない男性は多く、日用品であるシャンプーは女性の代理購入が多いのも影響している>という。つまり、多くの男性は「自分専用のシャンプー・コンディショナーを使おう」という顕在的なニーズを持っていないのが現状である。そのため、潜在的なニーズを掘り起こす必要があるのである。
「ニーズはふ(不・負)の字に隠れている」。現在、男性用として売れ筋になってきているブランドは、いずれも、うまく「ふの字」を取り込んでいる。
女性用シャンプー・コンディショナーの多くは、「髪質を美しく保つ」「髪をまとまりやすくする」という、「髪の健康」に主眼を置いている。しかし、髪の短い男性のニーズは本来そこにはない。「髪・頭の匂い」で、自分自身や周りの人に「不快」な思いをさせたくない。「抜け毛」により、「薄毛・ハゲになる」という「不安」を払拭したい。そんな「ふの字」があるのだ。
それに対して、花王の「サクセス」は、「泡立ちをよくしてしつこい汚れを剥ぎ取り、匂いの元などを分解する」という機能を訴求している。P&Gジャパンの「h & s」は、「ミクロの有効成分が毛穴の奥まで届き、かゆみや匂いの元となる原因菌に働きかける」という。ユニリーバ・ジャパンの「クリアフォーメン トータルケア」は、「オリーブを醗酵して得られる保湿成分を加え、抜け毛や頭皮の血行が気になり始めた30代にアピール」しているという。
ユニリーバが明確にターゲットを30代としているが、他社も30代のエントリーユーザーをまず取り込んで、長く顧客になってもらおうという戦略目標を取っている。
しかし、抱えている「ふの字」で言えば、50代のプレシニアや、65歳以上のシニアの方が明確ではないだろうか。「抜け毛」によって、「不格好」になるという「不安」。これに関しては、シニアでは、既に諦めてしまっている人も多いが、プレシニアあたりでは、正に葛藤のさなかにある人は多いだろう。「匂い」に関しては、「頭皮の匂い」に加え、「加齢臭」を周囲にまき散らしてしまうという「不安」「負い目」がプレシニア、シニア共に大きい。加齢臭対策をうたっている商品はいくつか発売されているが、大手メーカーは前面には出していない。
プレシニア、シニアにアプローチしようとするなら、「効果のある商品(Product)を作った」だけでは売れない。それは、各社がメインターゲットとしている30代でも言えることだが、前述の、「シャンプー・コンディショナーへの関与度が低く、奥さんが買ってきたモノを黙って使う」という傾向がより強いからだ。
製品(Product)だけではなく、「4Pの整合性」が重要だ。販路(Place)は、メインの販路であるドラッグストアやスーパーは、足が遠い。身近に日常的に立ち寄るコンビニルートを強化すべきだろう。価格(Price)は、子育て期に突入する30代よりも余裕があるため、若干高めでも良いので、「少し高くてもしっかり効く」という、「高価値戦略」にすべきだ。コミュニケーション(Promotion)は、媒体としては30代よりテレビを主体としたマスの視聴が多いので、そこまでWebやSNSのプロモーションに注力する必要はないだろう。それよりも、花王もP&Gもメインターゲット世代である、亀梨和也や鈴木亮平を起用しているが、プレシニア、シニアのキャラクターを起用する必要があるだろう。個人的な趣味でいえば、プレシニア向けなら、吉田鋼太郎、シニア向けなら草刈正雄などはどうだろうか。
コロナ禍で暗い話題の多い昨今、「10倍の可能性」などという明るい話題のある業界はそんなに多くない。各社には頑張ってもらいたいと思う。
(初出:一般社団法人日本元気シニア総研 メルマガ)