【マーケティング基礎シリーズ・再掲】マーケティングなんてカンタンだ!・間違いがちなフレームワークを総点検(5)
<連載一覧>
(初出:insight now)
【第5回】そのセグメントでは失敗する!
前回まで多くは「環境分析」のフレームワークを見直してきたが、今回は「戦略立案」の第一歩である「セグメンテーション」に進めてみよう。実はここがある意味、失敗するマーケティングの巣窟だったりする。
■結論から言う。そのマーケティングは失敗する!
「この商品のターゲットは20代の女性です!」などという言葉を聞いたら、まず、それは失敗すると思った方がいい。ターゲットの問題ではあるが、その手前の「セグメンテーションの本質」が理解されていないからだ。今回はセグメンテーションに対する世の中の誤った認識を修正していきたいと思う。
■環境分析の次はSTP
前回、第4回で「マーケティングは流れで読み解く」と述べたが、環境分析を行って、おおよその戦略の方向性が見えたら、「どんな顧客に・どのように(競合と差別化できる)魅力を示して行くのか」を考えることになる。これが、マーケティング全体の流れにおける「戦略立案」というパートの「ターゲティング」と「ポジショニング」である。
だが「どんな顧客に」と狙いを定めるには、その手前で「どんな顧客候補がいるのか?」を明らかにすることが欠かせない。それが「セグメンテーション」であり、「Segmentation・Targeting・Positioning」を略して「STP」などという。このSTPをしっかり検討することが、具体的な施策である4Pを設計する上で欠かせない。施策の成否は戦略であるSTPの精度にかかっていると言える。
■「セグメンテーション」とは何か?
Segmentationを日本語にすると「市場細分化」などという訳が付けられる。細分化するためには何らかの「軸」が必要になり、その最も典型的な例が、「性別」「年齢」といった属性だ。同じような「人口統計的変数」として、「家族数」「職業」「所得」・・・などがある。また、別の側面として「地理的変数」で見れば、「居住エリア」などがそれにあたり、他に「心理的・行動的変数」として、「ライフスタイル」「性格」や「購買特性」などもある。多くの場合、こうした様々な「切り口」で、「市場を切り分けていく=細分化」のがセグメンテーションだと思われている。「さて、性別は女で、年齢は20代後半から30代前半で、独身、都市部在住のオフィスワーカー。ライフスタイルは家庭的で性格は堅実志向・・・」などと、いくつもの切り口を重ねて詳細化していく場合もあるが、これがセグメンテーションの本質ではない。
■「グランドビッグマック」は誰がためにある?
日本マクドナルドが、4月6日に期間限定で発売した「グランドビッグマック」。売れすぎて販売休止となったが、肉の量が通常のビッグマックの1.3倍というそのガッツリバーガーを食べたのはどんな人だろうか。上記のセグメントの属性で考えれば、「若年層」「男性」という、いかにもガッツリ食べそうな人がイメージされるが、Googleの画像検索で「グランドビッグマック 食べた」というキーワードで検索してみると、男性は若者だけでなく、ちょっと三十路に入ったような人も見受けられる。また、男性のみならず、巨大バーガーを果敢に頬張る女性の画像も散見される。つまり、性別・年齢に関わらず、「グランドビッグマック」を食べている人は、「”心ゆくまでガッツリ食べたい“もしくは”SNSにアップしてネタにしたい“というニーズを持った人」であると言えるだろう。
■セグメンテーションは「ニーズで括る」
冒頭の「この商品のターゲットは20代の女性です!」が失敗すると言い切った論拠は「20代の女性が、みーんな同じニーズであるわけがないから!」である。ある属性のニーズが等しく同じなどということがあったらかなり気持ちが悪いだろう。高度成長期ならいざ知らず、今日のように消費は高度化してニーズが細分化した社会においてだ。
セグメンテーションを正しく定義するなら、「不特定多数の”個”を同質のニーズを持った集団に括ること」である。一見バラバラに見える個々の存在を、「ニーズ」という側面で同質と考えられる固まりにするということがポイントだ。そして、その固まりができたら、さらに共通項はないだろうかと、先の性別や年齢、職業などの「属性」を見ていくのだ。最終的に属性に落とし込むことをしないと、そのボリュームが予測できなかったり、適切なコミュニケーションの手段や媒体が選択できなかったりするので属性は必要だ。だが、重要なのは、「属性」から先に考えるのではなく、まずは「ニーズで括る」ということなのだ。
前出の「グランドビッグマック」のターゲットとなり得るセグメントの1つが「SNSにアップしてネタにしたいというニーズを持った固まり」だと推測できるなら、発売前にSNSで口コミ促進を図るなどの施策も考えられる。「男性」という性別ばかりを固定観念で見ていたら、女性のニーズを見落とすことになる。もし、「ガッツリ食べよう漢のバーガー!」などという訴求をしてしまったら、せっかくニーズを持っていた女性もどん引きしてしまうかもしれない。
売れるターゲットを見つけ出すことはマーケティング戦略には欠かせない。だが、そこでどんな(属性の)人だろう・・・と、性別・年齢などのビジュアル的に想像を働かせてはダメなのだ。まずは「どんなニーズが潜んでいるだろう?」と考え、それから、「そのニーズを持った人は、どんな(属性の)人なのだろう」と考える順番が大事なのだ。
「セグメンテーションはニーズで括る!」「先入観を持って属性から考えない!」これが絶対原則なのである。
« 出版記念・週末1日セミナー 9のフレームワークで理解するマーケティング超入門 | Main | LINEライブ勉強会のお知らせ »