マーケティングなんてカンタンだ!・間違いがちなフレームワークを総点検(6)
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(初出:insight now)
【第6回】そのポジショニングでは売れない!
現代マーケティングの大家、フィリップ・コトラーは2004年刊行の「コトラーのマーケティングコンセプト」のポジショニングの項で、「マーケティングで最も重要なのはポジショニングである」と明言している。そんな重要なポジショニングにも誤った策定方法によって顧客に全く魅力が伝わっていないという例も散見される。
■ポジショニングはどれぐらい重要か?
コトラーは良好なポジショニングの例としてBMW・ボルボ・ポルシェなどを挙げている。一方、同じ自動車業界においてゼネラルモーターズ(GM)に関しては、ポジショニングが曖昧で、このままではダメになるという旨の指摘をしている。GMは2009年6月1日、連邦倒産法第11章(日本の民事再生手続きに相当する制度)の適用を申請した。正にコトラーが予見したとおりになったわけだ。
コトラーが指摘していたのは、GMの製品は何が魅力なのかが車種毎にバラバラで、顧客にどんな価値をもたらしてくれるのかが分散してしまっている点だ、つまり、「価値の軸」が定まっていなかったのだ。前出の3社は各々自社のポジションを以下のように示している。「BMW=究極のドライビングマシン、ボルボ=世界一安全な車、ポルシェ=地上最強の小型スポーツカー(コトラーのマーケティングコンセプトより)」。
■ポジショニングの役割とは
今日のようにものが満ちあふれ、多くの市場が飽和している環境で、自社の商品を選んでもらうということは並大抵の努力では実現できない。だが、例えばいくら卓越した超高性能な製品を完成させることができたり、それを信じられないぐらいの低価格で販売できる原価構造が実現したりしても、それをうまく顧客に伝えることができなければ、当然売れない。
ポジショニングとは、「顧客のアタマの中で商品を“価値あるもの”と認識させ、そのイメージを植え付けること」であり、その上で「競合との明確な差別化を図ること」である。前掲のBMWは「究極のドライビングマシン」というポジショニングを表す言葉から開発された、「駆け抜ける喜び」というキャッチコピーの方が有名かもしれないが、ともかく単なる移動手段ではなく、究極のドライビング体験が得られることが価値だと言っている。ボルボが安全性を追求してきたことにはあまり疑問を差し挟む余地はないだろうから、ボルボ=安全という価値は想起しやすいはずだ。ポルシェの場合、最強のスポーツカーならフェラーリとかの方が上じゃないかという意見もあるだろうが、ポルシェは「小型」という点にこだわっていて、「小さい」×「速い(高性能)」という価値を訴求し、並み居るモンスターマシンとも差別化を図っているのだ。
■一般的なポジショニング設定方法
BMWやボルボのような、たった一言で自社の価値を顧客の頭の中に刻み込めるのであれば、それはそれで結構なことなのだが、多くの場合そこまで価値や特徴を単純明確化することは難しい。また、競合となる存在と比べられるのも常だ。
故に、ポジショニングは2つの強力な価値の軸を用いて「ポジショニングマップ」を描いて整理する。前出のポルシェの場合の「小さい」×「速い(高性能)」もその例だ。二軸を使って顧客への訴求点を整理し、そこから4Pに反映していくのである。
■二軸設定における「陥りがちなワナ」
当連載の主旨である「間違いがちなフレームワークを総点検」という意味では、この重要な行為である「2軸の設定」において間違いが発生し、マーケティングが失敗するケースが多々あると先に述べておこう。
何が間違いで、どんな失敗が発生するのかを列挙する前に、二軸でポジショニングを表す「ポジショニングマップ」作成の大原則にして最重要ポイントを述べておく。
ポジショニングマップの「軸」は、顧客(ターゲット)の「KBF(購買決定要因)」を用いる・・・ということだ。
故に、それが理解されていないことによって、下記のような失敗するポジショニングの設定のしかたがされる。
■軸が顧客(ターゲット)のKBFになっておらず、「自社がアピールしたい点」になっている!
例えば「缶コーヒー」において、「生産量の少ない希少豆を使用」して、従来にない本格的な味を実現した商品を作った。価格は一般の缶コーヒーとは全く別次元の製品なので「高め」だったとする。すると、軸は「希少豆使用」×「価格:高め」という、軸とポジションが出来上がる。実際にキリンビバレッジは2014年11月より、「ブラジル産の希少黄金豆「ブルボン・アマレロ」を100%使用」し、「200円(消費税抜き希望小売価格)」で売り出した。「キリン 別格 希少珈琲(きしょうこーひー)」という商品だ。しかし、残念ながら売れ行きが芳しくなかったのか、2015年8月には販売終了となっている。恐らく、缶コーヒーユーザーには「コーヒー豆の希少さ」と「ラグジュアリーな価格」というKBFはなかったのだ。それ故、支持が得られず、恐らく売れなかったのだろう。
■ターゲット像が曖昧なので、真のKBFが見えていない!
そもそも、KBFで軸を切ることによって、その顧客の価値観にマッチするポジションを探さねばならないのに、ターゲット像が曖昧では軸を作ることもできない。マーケティングの戦略立案はセグメンテーション→ターゲティング→ポジショニング(STPと略す場合が多い)の制度にかかっている。前出の「キリン 別格 希少珈琲」も「缶コーヒーにも本格的な美味しさを求めたい」「本当に美味しい缶コーヒーなら価格が高くても構わない」というターゲット顧客層とそのニーズがあると考えたなら、そのターゲット顧客はどんな人なんか。真のニーズはどこにあるのか。普段何を引用していて、自社が考えている製品の競合は何になるのか・・・など、顧客とそのニーズをもっと詳細に洗い出すべきなのだ。そうすれば、もっと異なるターゲット顧客の真のKBFが見えてきて、適切な軸の設定、受け入れられるポジションが取れたかも知れない。
■ポジショニングは一発で決まると思っている!
「STP」を細かく表現するなら、Segmentation → Targeting → TargetのKBF(Key Buying Factor)→Positioningなのだ。故に、ターゲットが決まったら、そのターゲット像を詳細化し、ターゲットが考え得るKBFをとにかく数多く洗い出す。そして、そのターゲットならどのKBFを重要視するかを考えて軸を設定し、その上で競合と差別化ができるか検証する。もし、差別化が図れないなら、次の順位のKBFに軸を切り替えてみる。そうやって、マップを何度も書いてみるのが肝要なのである。
もし、上記の手順でターゲットの優先順位が高いKBFの軸で優位なポジションが取れなかったらどうするか。それは、「ターゲットが間違っている」ということを意味しているので、第4回「マーケティングは流れで読み解く」で述べたとおり、「戻る!」という観点で、Targetingのやり直しをすることが必須で、それをせずに無理なPositioningを設定してしまったら、以降の4Pがうまく設計できないことになる。
「マーケティングの流れ」で考えれば、環境分析→STP→4Pだ。そして、4Pを最も簡単な言い方で表現するなら、「魅力の打ち出し方の設計」である。つまり、その設計さえできてしまえば、あとは、その魅力の実現手段である製品・価格・販路・販促の4つの要素(4P)を整合性に留意しながら具体的に考えていくことになる。つまり、4Pはもう実施・実現段階なので、ポジショニングこそがマーケティングの流れの中で最も重要なのはコトラー先生が指摘した通りなのだ。
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