マーケティングなんてカンタンだ!・間違いがちなフレームワークを総点検(7)
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(初出:insight now)
【第7回】4Pは「混ぜないと危険!」
前回も述べたように、コトラー先生も「マーケティングのキモはポジショニングである」とおっしゃっている。ポジショニングで「ターゲットに対する魅力の打ち出し方」を明らかに出いたら、それを「4つのP」で実現していく。それが、「マーケティングの流れ」では、いよいよ最終段階の「施策立案」ということになる。だが、その「そもそもの前提条件」忘れて施策効果は全く出なくなるので重々注意が必要だ。
■大原則:「4P」は「マーケティングミックス」という名前で覚えよう
4PとはProduct=製品・Price=価格・Place=販路・プロモーション=販売促進というマーケティングの実行プランを考える上で欠かせない4つの要素の頭文字を取っている。だが、ここで大きな勘違いが発生する。「4つのPをベストな状態・内容にすること」ことが、最適な4Pの設計ではないということだ。
「4Pは」別名、「マーケティングミックス」という呼び方をされる。そしてこの方が、正鵠を射ている。つまり、「施策プランをうまく作り上げるには、4つのPの要素をうまく組み合わせて全体として最適化すること」即ち、「ミックス」することが欠かせないのだ。「ミックスしつつ、整合性を図り、相乗効果を発揮するような設計」こそがキモなのだ。
■「最適なミックス」を阻むもの
「そうは言っても・・・」と読者の声が聞こえそうだが、「最適なミックスの実現」を阻むものがある。組織の壁である。
・製品は開発部門主導で「技術ありき」だったり、「競合製品と戦えるスペック」などの観点で、「モノ優先」で作られがちだ。
・価格は調達部門などが中心となって、製造原価の制約や競合を意識した価格で決められやすい。
・販路はチャネル営業部隊の理論で既存のしがらみが優先され、革新されることは少ない。
・販促はともすると広告宣伝部の意識はイメージ先行で、マスの認知を獲得することのみ偏りがちだ。
マーケターはそれらの利害を調整し、必要あれば説得しまくって4Pがバラバラに検討されるのではなく、「最適なミックス」となるよう、全体プランを考え提示しなければならない。
■事例で見る「最適ミックス」:2005年の花王・ヘルシア緑茶
この事例は各種マーケティング本に成功事例として記載されているので、さらっと書く。
・Product=「ヘルシア緑茶」を350mlペットボトルで発売。茶カテキン540mg(急須で入れた茶の2倍)という高濃度茶カテキンを豊富に含む。味は濃く、苦みが強い。「特定保健用食品(特保)」のお墨付きで、体脂肪燃焼効果が期待できる。
【特保で効きそう!がポイント】
・Price=350mlで189円。通常の緑茶ペットボトルが、500mlでコンビニ価格148円だったのに比べると割高。特保のお墨付きもあり、製品の期待効果を考えると、少量で割高というプレミアム分は受け入れられて売れている。
【効果期待で高くても買う・高いことでより効果が高そうなイメージ醸成効果も】
・Place=花王は自動販売機のチャネルがないため、コンビニ専用として棚を確保するところからスタート。今までにない商品であるという流通への働きかけが奏功し、優良な店頭陳列スペースを確保
【自販機がない弱みを逆手にコンビニに戦場を集中・大量の棚確保でCMとの相乗効果で手に取らせることに成功】
・Promotion=マス広告も大量に投入。テレビ等で認知・興味→店頭で手に取る→試用というターゲットからのPull販売の行動動線確保を作った
【製品特徴(効果)の認知・理解を図って、店頭接触時に手に取らせるという行動の後押しに】
以上のように、4Pの最適ミックスで成功したヘルシア緑茶だが、2013年10月、「サントリー・特茶」の猛追を受けて現在は苦しい立場になっている。「特茶」の「マーケティングミックス」はそのようなものかを見ていこう。
■ヘルシア緑茶を追い詰める、「サントリー・特茶」のマーケティングミックス
・Product=ポリフェノールの一種である「ケルセチン配糖体」に脂肪分解酵素を活性化させる働きがあることを明らかにしたとして、「脂肪の分解・燃焼」という、より「なぜ、効果があるのか」明確にした。また、味は普通のお茶飲料の中で「濃い味」とされているレベルでヘルシア緑茶ほど苦くない。また、定評のあるおいしい味と情緒的なイメージが形成できている「京都福寿園・伊右衛門」というブランドで展開している。容量は500mlと一般のお茶と同等。
【効果が分かりやすくて効きそう・伊右衛門だから味も良さそうで、事実飲んでみれば濃いめだがおいしい・容量も多くてお得】
・Price=170円とちょっと割高だが、現在清涼飲料は(ヘルシア緑茶発売時と比べると消費税増税により)160円となっているため、差は僅か。
【ヘルシア緑茶より安く、普通の飲料と比べると同量で10円高いだけ】
・Place=主販路はコンビニに加えサントリーが飲料業界2位・50数万台の保有量を誇る自動販売機にも投入。
【より広い売り場で面展開を図る】
・Promotion=CMキャラクターは伊右衛門シリーズで情感溢れる世界観で好評を博している本木雅弘と宮沢りえを起用。但し、思い切り機能訴求をし、登場時のキャッチコピーは本木が薪割りを演じながら「丸太はそのままでは燃えない。だから、分解。」と、脂燃焼のメカニズムを訴求。宮澤は「苦いトクホの時代は終わったようです。」と味訴求を行っている。
【特茶の製品特徴の2点を徹底訴求:脂肪燃焼のメカニズムを明確にして、より多くの人に初めさせることを狙いつつ、ヘルシア緑茶の特徴(弱点)である「味」への対抗軸を明確にしている】
■「4P同士の整合性」と「STP」との整合性
上記のように4Pの整合性構築で一世を風靡した「ヘルシア緑茶」であるが、その抱えた弱点を巧みに突いて、4Pの要素全てで上回るマーケティングミックスを展開した「特茶」は特保飲料トップに躍り出ることに成功した。
だが、それは4Pの整合性(マーケティングミックス)のプランがうまかったからではない。当シリーズの第4回「マーケティングは流れで読み解く」で述べたように、「流れ」、即ち、4Pの手前である、「環境分析→戦略立案(STP=セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)」とマーケティングミックスがしっかり整合している点も見逃せない。
特茶のターゲットは誰か。「(楽して・飲むだけで)痩せたい人」であるのはヘルシア緑茶と同じだが、「飲んで痩せたい」と思いながらも「ヘルシア緑茶に手を出さなかった人」も少なからずいたはずだ。そこにサントリーは目を付けたのだ。
例えば、「苦すぎて味が無理(不味い)」「メタボな中年男性が必死で飲んでそうなイメージが嫌(不格好)」「少なくて割高な気がする(不利)」「量が少ない・もっと飲みたい(不足)」「何で効くのか・効果があるか信じられない(不信)」・・・などなど、よく見てみれば、たくさんの「不」の時を抱えている人が見える。
「ニーズ」とは「現実」と「理想的な状態」のギャップのことだ。ニーズを明らかにするには、「不」という文字を探すのがコツである。「不」のある所にはニーズがある。そこからサントリーは世に多数存在した満たされぬニーズを抱えたターゲットを見出したのである。
そこに対して、分かりやすい「効果のわかりやすさ(脂肪が分解して燃える)」×「(伊右衛門ブランドで)美味しい」というポジショニングを示し、引きつけて、ヘルシア緑茶とも明確な差別化を図ったのである。
4Pを一つ一つ考えるだけでなく、「全体の整合性」「ミックスの効果」に留意しつつ、「マーケティングの流れ」である、その手前の「STP」との整合性にも十分留意すること。それが、最終的に成功する実施プランを作り上げる秘訣であり、必須条件である。
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