「使い切り」で新たな顧客層を開拓した化粧品業界
日経MJ2019年2月25日号に潜在ニーズをうまく発掘した事例が掲載されていた。<百貨店などの化粧品売り場で、容量と価格が従来品の半分程度のみにサイズ商品が増えている。SNS(交流サイト)の影響などでメーキャップの流行の入れ替わりが早まる中、手軽に様々な色合いを楽しめるとして若者層の支持を集める(記事より)>という。どの程度、若年層の開拓に成功しているかというと、<伊勢丹新宿本店(東京・新宿)の化粧品売り場。18年に20~29歳の客数が前年比10%増、売り上げは6%増えた(同)>と数値が示されている。また、同店の化粧品売り場担当バイヤーのコメント、<百貨店の化粧品売り場の中心顧客層は30~50代だが、「ここ2~3年で若年層の顧客が大きく増えた」(同)>と記載している。
「ニーズはふ(不・負)の字に隠れている」。
百貨店の化粧品、通称「デパコス(デパートコスメ)」は品質が良いのは分かっている。しかし、高い。若年層にとっては、価格が「負担」だ。一方、頑張って一度買うと、なかなか使い切らず、そうしているうちに流行の色が変わってしまうことがあるという「不満」が発生する。そこまで量は多くなくていい。「不要」。使い切らず、そもまま残りを放って次を買うのはエコでないという「負い目」…そんな「ふの字」が存在する。しかし、多くの若年層にとって、「デパコス」は、価格の高さから敷居が高く、手が出せない存在となっていたので、それらの「ふの字」は、「顕在ニーズ」ではなく「潜在ニーズ」であったということになる。
「潜在ニーズ」の開拓に各社が踏み切ったのは、その売上効果をきちんと「分解」して考えたからだ。
「売上」を分解すると、「客数×客単価」である。半分の「単価」でも、従来取れていなかった若年層を呼び込めるのであれば、「客数」で補える。
かつ、「使い切り」で、次の商品を購入してもらえるのであれば、従来品より「購入頻度」は高くなるので、「売上=客数(多)×客単価(低)×購入頻度(高)」という数式も成り立つことになる。
「少子高齢化」というマクロ環境の中では、顧客層の年齢が高く、若年層が取り込めないという現状があることは、そのまま手をこまねいていれば顧客は高齢化し、市場が先細りしていくことを意味している。そうした業界における課題の解決にもなっている。
一見当たり前な、「ふの字」を明らかにし、「売上の分解」で課題解決を考えることなどは、マーケティングの「基本のき」ではある。しかし、難しい時代の中で、そうした基本の「徹底」こそが、まずは成功を呼び寄せるカギなのだと再認識したい。