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January 2019の3件の記事

2019.01.25

洗濯洗剤で勝負を賭ける花王の戦略

 花王の沢田社長が<「グループの総力を挙げて開発した未来の洗浄基材」(日経MJ1月25日号)>と語るのは、4月1日に発売する液体洗濯洗剤「アタックZERO(ゼロ)」に用いられているものだ。<アブラヤシの実から食用のパーム油を採取する際の搾りカスが原料。原料の有効活用で環境にも配慮したという。(同)>

 とはいえ、「エコでエシカルな基材使用」は、消費者にとっては、あくまでも「付随機能」だろう。product(製品)の価値構造を明らかにする「製品特性分析」のフレームワークで見た場合の話だ。
 製品特性分析では、製品の価値を三層構造で明らかにする。(3層モデルの場合。他に5層もある)。顧客がその製品の購入によって実現したい中核的な便益を「中核」という。洗濯洗剤であれば、「洗濯機で衣類の汚れを落とせる」となるだろう。その「中核的便益」を実現するために「欠かせない要素」を「実体」という。液体なので「溶けやすい」がそれに相当する。また、「きれいに、白くする」も欠かせない要素だが、「アタックZERO」は<洗剤ブランド「アタック」の中で最高の洗浄力を実現した(同)>というので、「よりきれいに、より白くする」と、実体価値を強化したことになる。

 さらに、洗浄力が強いことから短時間で洗濯でき、時短需要にも対応するとある。「時短」も、もはや洗濯洗剤には欠かせない要素であると言えるだろう。その「時短」は、そもそも花王が2009年に「アタックneo(ネオ)」を発売した時に業界で初めて押し出したコンセプトである。洗浄を高めつつ、洗剤残りしないという機能によって、「すすぎが1回で済む」ことから、CMでも「節電、節水、節時間」というキャッチコピーで訴求していた。それから10年を経て、より消費者にとって「時間」は大切な要素となっている。今日のマーケティングは、消費者の「可処分所得」と同時に「可処分時間」の奪い合いであると言っても過言ではない。そんな環境の中で、お家芸となった「時短」という欠かせない要素=実体価値で勝負を賭けているのが今回の「アタックZERO」なのだ。

 製品特性分析の三層モデルの一番外側、3層目が、「付随機能」で、中核的便益に直接影響は与えないが、「あると、価値を高める要素」である。先の基材の「エコでエシカル」がそれにあたる。また、<新型の容器も開発。片手でレバーを押すだけで簡単に計量・使用できる「ワンハンドプッシュ」を追加した(同)>というのは、正にあるとうれしい要素=付随機能である。

 <花王は、発売から9ヵ月で国内300億円の売り上げを目指す(同)>という。この、満を持して発売する製品の今後に注目してみたい。

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2019.01.16

400億円市場の「漫画アプリ」と「AARRRモデル」

 2018年においてスマホで漫画が楽しめる「漫画アプリ」の市場規模は400億円に成長しているという。日経MJ1月14日号の記事である。
 同記事に記載されている調査会社の報告では、市場の成長は<課金額は毎月増え続け、18年12月単月の課金額は同年1月の約3倍に拡大している(記事より)>とのことである。
市場成長の理由は、<1話ずつ毎日無料で読める漫画アプリを中心に利用者を増やしてきた。最近は1日1話では我慢できず、まとめ読みするために購入する消費者が目立ち始めている(記事より)>という背景があるようだ。これは、非常に今日的なビジネスのやり方が奏功しているという証左だといえる。

 消費者の態度変容を表すモデルとしては、従来次のようなものがポピュラーだと言えるだろう。古典的なものでは、商品及びその情報との接触から購買行動までを表す「AIDMA(Attention:注意→Interest:興味→Desire:欲求→Memory:記憶→Action:購買)」。商品のお試しと継続利用に重点を置いた「AMTUL(Awareness:認知→Memory:記憶→Trial:試用→Usage:日常利用→Loyal:優良顧客化)」。SNSの利用も含めたネット上の行動に合わせた「AISAS(Attention:注意→Interest:興味→Search:検索→Action:購買→Share:共有)」などがそれだ。

 「漫画アプリ」を含め、いわゆるWebサービスにおける態度変容モデルとしては、「AARRR」を使うとビジネスの設計がしやすい。Acquisition:ユーザー獲得→Activation:利用開始→Retention:継続→Referral:紹介→Revenue:収益の発生である。そのプロセスとしては、各種施策による初回訪問獲得→初回利用や会員登録促進→継続利用促進→サービスの共有や紹介促進→優良(有料)顧客化という流れだ。
 注目のポイントは、様々な施策を行い、サービスをさんざん利用させた上で、最後に課金という行動を取らせて収益化を図っている点にある。記事では<「マンガUP!」を運営するスクエア・エニックスによると、最初の数巻を無料にする施策は、続きを購入する消費者を増やすことにつながってきている(記事より)>とある。AmazonのKindleでも、マンガコンテンツは1巻から数巻無料という施策を数多く展開しているが、悔しいながら筆者もついつい、続きをポチっとしてしまって「収益化」にかなり貢献している。
 アプリならではのメリットもある。一度アプリをダウンロードさせることができれば、「Activation:利用開始」としてユーザー情報は簡単に取得できるし、プッシュ通知によって「Retention:継続」も容易に実現できることである。

 態度変容モデルは世の中の動きやメディア・ツールによって最適なモデルが変化する。特に昨今ではデジタル化の進行によって、そのプロセス事に定量的な計測をしてKPI(Key Performance Indicator=重要管理指標)を設定してビジネスの設計と修正をしていくことが欠かせない。その意味では、この「AARRR」モデルは当面の注目株であることは間違いない。

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2019.01.07

「アネロのリュック」が大ヒットした理由は…?

「リュック」という定番アイテム、成熟市場において<累計870万個を売り上げる大人気商品(日経MJ12月21日号)>になっている商品がある。「アネロ」のリュック( http://www.anello.jp/products/ )だ。そのヒットした背景を考えてみよう。

 870万個という数がどれくらい大きいのか実感がつかみにくいかもしれないが、街行く人の背中のリュックを注意して見れば、その上部中央に「anello」という小さなロゴをかなりの確率で発見できるだろう。それぐらいアネロのリュックは普及している。大ヒットのきっかけになったのは、2005年から発売している同ブランドのリュックを、2014年に<モノを出し入れする開口部をがま口タイプにした「口金リュック」を投入した(同)>ことだという。
 そもそも人はなぜ、リュックを用いるのか。背中に背負うことで、荷物の運搬の負荷を軽減できということが根源的なニーズだろう。「ふの字」のあるところにニーズはある。この場合、「負荷」の「負の字」だ。しかし、この「ふの字の解消」は、リュックであれば全て可能だ。荷物を運ぶためには、それを出し入れする。しかし、多くの場合縦長のリュックの上に設けられた開口部から荷物を出し入れするのは、出し入れしにくく、中に入っている物が探しにくい。「不便」の「不の字」が存在する。これは差別化要因になり得るが、開口部を大きく取ってこの「ふの字の解消」をしている製品も多い。
 そんな中で、アネロのリュックが差別化要因となっているのは、「“極端に”荷物の出し入れがしやすい・中が探しやすい」ということだ。「口金タイプ」は、開口部が大きいというレベルではなく、リュックの上部がガバッと全面開口する。この開けっぴろげ感は、他の商品と一線を画すると言っていい。つまり、「ふの字」に対してアネロのリュックは、「徹底して解消」しているのだ。
アネロのリュックは<当初は20代などの若者をターゲットしていたが、「口コミやSNSで小さい子どもを育てる母親世代に広がった」(同)>という。その世代が最も強く「ふの字」を抱えていたのである。<開口部が大きく中がよく見えるため、鞄の中で捜し物をしている間に子どもから目を離してしまう心配もない。さらに地面に置いても自立するため、荷物も多い小さい子を持つ親の心をつかんだ(同)>のである。「ふの字の解消」も、売り手の自己満足で終わっては何の意味もない。それを享受する顧客が確かにいることがヒットの絶対条件であるということだ。

 成熟市場で競合に対して明確な差別化要因を打ち出して大ヒットを飛ばすということはなかなかに難しい。「ふの字の解消」はあらかた行われていて、「新たなふの字」を探すことが困難だからだ。しかし、「ふの字の解消」を「徹底して行うこと」。そして、「それで幸せになる人が確実にいるということ」という重要な要件をアネロのリュックの事例は教えてくれている。

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