洗濯洗剤で勝負を賭ける花王の戦略
花王の沢田社長が<「グループの総力を挙げて開発した未来の洗浄基材」(日経MJ1月25日号)>と語るのは、4月1日に発売する液体洗濯洗剤「アタックZERO(ゼロ)」に用いられているものだ。<アブラヤシの実から食用のパーム油を採取する際の搾りカスが原料。原料の有効活用で環境にも配慮したという。(同)>
とはいえ、「エコでエシカルな基材使用」は、消費者にとっては、あくまでも「付随機能」だろう。product(製品)の価値構造を明らかにする「製品特性分析」のフレームワークで見た場合の話だ。
製品特性分析では、製品の価値を三層構造で明らかにする。(3層モデルの場合。他に5層もある)。顧客がその製品の購入によって実現したい中核的な便益を「中核」という。洗濯洗剤であれば、「洗濯機で衣類の汚れを落とせる」となるだろう。その「中核的便益」を実現するために「欠かせない要素」を「実体」という。液体なので「溶けやすい」がそれに相当する。また、「きれいに、白くする」も欠かせない要素だが、「アタックZERO」は<洗剤ブランド「アタック」の中で最高の洗浄力を実現した(同)>というので、「よりきれいに、より白くする」と、実体価値を強化したことになる。
さらに、洗浄力が強いことから短時間で洗濯でき、時短需要にも対応するとある。「時短」も、もはや洗濯洗剤には欠かせない要素であると言えるだろう。その「時短」は、そもそも花王が2009年に「アタックneo(ネオ)」を発売した時に業界で初めて押し出したコンセプトである。洗浄を高めつつ、洗剤残りしないという機能によって、「すすぎが1回で済む」ことから、CMでも「節電、節水、節時間」というキャッチコピーで訴求していた。それから10年を経て、より消費者にとって「時間」は大切な要素となっている。今日のマーケティングは、消費者の「可処分所得」と同時に「可処分時間」の奪い合いであると言っても過言ではない。そんな環境の中で、お家芸となった「時短」という欠かせない要素=実体価値で勝負を賭けているのが今回の「アタックZERO」なのだ。
製品特性分析の三層モデルの一番外側、3層目が、「付随機能」で、中核的便益に直接影響は与えないが、「あると、価値を高める要素」である。先の基材の「エコでエシカル」がそれにあたる。また、<新型の容器も開発。片手でレバーを押すだけで簡単に計量・使用できる「ワンハンドプッシュ」を追加した(同)>というのは、正にあるとうれしい要素=付随機能である。
<花王は、発売から9ヵ月で国内300億円の売り上げを目指す(同)>という。この、満を持して発売する製品の今後に注目してみたい。