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December 2018の5件の記事

2018.12.21

「パーソナルスタイリング」が目指すものは何か?

 アパレル各社は個々の顧客の好みに合わせて商品を提供する「パーソナルスタイリング」にしのぎを削りだしている。その目指すところはどこにあるのだろうか。

 少し前の記事だが日経MJ12月3日号は、同紙記者によるZARAのパーソナルスタイリング体験記を掲載している。ZARAは<最新のトレンドに熟知したスタイリストが常時5000点以上の商品から顧客に似合ったコーディネートを考え、気に入れば購入してもらう(記事より)>というサービスを<現在全国の10店舗で(同)>展開し、<サービスに携わる販売員は全国で18人(同)>という精鋭が担当しているという。<サービスを通じた服などの平均購入価格は3~4万円程度。中には1週間分の組み合わせを全て選ぶ人もいるという(同)>とのことなので、ファストファッション勢としては価格が高めの同店だが、客単価も購入店数も多く上々だと言えるだろう。

 記事では他社の動きも紹介している。<三越日本橋本店ではコンシェルジュサービスを10月から本格導入。服飾部門では長年経験を積んだアドバイザーが接客する(同)>という。
一方、人力に頼らないサービス提供の方法を取る動きもある。アースミュージック&エコロジーなどを展開している<カジュアル衣料大手のストライプインターナショナルは洋服の定額レンタルサービス「メチャカリ」について、10月からパーソナルコーディネート機能を追加。アプリ内で人工知能(AI)のチャットボットと会話しながら、好みの洋服を探せる(同)>という。ファストファッション勢としては、やはり人件費のかかる対人接客よりマシンインターフェースの方が合理的ということだろう。
 ファーストリテイリングのGUもマシンインターフェースの新しい展開を始めた。
 <GU、原宿に次世代型店舗「GU スタイル スタジオ」アバターで自由に試着!手ぶらで帰れるお買い物(fashion-press)> https://www.fashion-press.net/news/42778
 店内のデジタルサイネージでアバターを使ったコーディネートが試せ、実際に気に入ったコーディネートは気軽に試着もでき、アプリと連携してオンラインで注文もできるため手ぶらで帰ることができるという。

 各社が模索しているのは、「顧客との適切な距離」であろう。アパレル店の接客を嫌がる人は多い。しかし、一方で「自分に似合う服が分からない(という不安)」「選ぶのが面倒(という負担)」という「ふ(不・負)の字=ニーズ」を抱える人も少なからず存在する。その未充足ニーズをすくい取ろうとするのが狙いなのである。
 従来のアパレル店といえば、絨毯爆撃的なチラシ攻勢や、顧客側ではなく、店側の売りたいタイミングで送られてくるダイレクトメール、「これが流行っていますよ~」という、誰にでも一律で行われる店内接客があった。しかし、そうしたコミュニケーションは顧客との良好な関係性構築にマイナスに作用する。
ダイレクトマーケティングの父と言われる、レスター・ワンダーマンが2005年に来日した際に行った講演で、「適切なリレーションシップを生むための秘訣」が語られた。それによれば、「無理にリレーションを強要しないこと」だという。曰く、「多くの場合、顧客は企業に対して“自分は今、〇〇社とつながっている!”などとリレーションを感じることはない。それよりも、“この商品は自分にピッタリだ!”と思われることが肝要だ」という。ワンダーマン氏はその際、「relationshipよりrelevant」と言った。どちらも「関係性」を意味するが、relationshipは「つながり」であるのに対し、relevantは「適切性=ピッタリ」という意味になる。

 熟練の販売員が対応するにしても、AIによるマシンインターフェースで展開しようとも、目指すところは、自分にとっての「ピッタリ感(relevant)」という顧客体験を提供しようということなのである。

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2018.12.17

「悩めるセグメント」のニーズに応える「タテオキクチ」のオーダースーツ

 ネット通販のZOZOTOWNも参入し、「オーダースーツ」は非常にホットな、言い方を変えれば激しい戦いを繰り広げる「レッドオーシャン」に突入しつつある。そんな業界内で生き残るための条件は何だろうか?

 アパレル大手のワールドが新たなブランドで業界参入をした。「アンビルト タテオキクチ」という。日経MJ12月17日号の記事によれば、オーダースーツの他、ジャケットとパンツの組み合わせであるセットアップとそれに合わせるスニーカーやリュックも提案してくれるという。また、<オーダー利用者を対象に、半年間、段ボール1箱分の衣料品の保管を1680円から受け付ける。2019年春をメドにネクタイのレンタルをはじめるのを皮切りに、レンタルサービスも拡大する予定(記事より)>というから、至れり尽くせりではないか。

 オーダースーツに対するニーズとは何か?「自分にピッタリの服を着たい」と答える人は多いだろうが、「自分にピッタリの服」は、ニーズを満たすための「ウォンツ(モノ)」である。ニーズは(自分にピッタリの服で)「きちんとした人と言われたい!」「デキル男に見られたい!」「モテたい!」…などではなかろうか。そうすると、ターゲットは「オシャレな人」ということになる。確かに自分だけの一着を仕立てるというのは、本来贅沢であり洒落者の粋を満たすモノだ。だがそれは「顕在ニーズ」である。「アンビルト タテオキクチ」は、もっと潜在的な未充足ニーズを狙っているのだ。

 ターゲット候補である「セグメント」は、性別・年齢・職業・所得…等々の「属性」で分類するのではない。「ニーズで括る」のが原則だ。前掲の「きちんとした人と言われたい!」「デキル男に見られたい!」「モテたい!」…などのニーズに注目すれば、前述の通り、「洒落者」が1つのわかりやすいセグメントとして浮かび上がってくる。しかし、スーツや服を巡るニーズは洒落者のそれだけではない、逆に、もっと切実なものがある。<職場でカジュアル化が進むが「毎日コーディネートを考えることが面倒」「何を着ていいか分からない」といった声に応えるのが同店の狙いだ(記事より)>という。つまり、着るモノが分からない=「不明」、人からダサいと言われる=「不安」、毎日のコーディネートを考える面倒さ=「負荷」…ニーズは「ふ(不・負)の字」に隠れているのだ。そして、同店のターゲットは、そんな「ふの字」を抱えた「悩める、非・洒落者層」である。対応するニーズとターゲットがはっきりしているため、魅力の打ち出し方=ポジショニングも非常に明確になっている。<ビジネス服の悩み解決を一手に引き受ける店(記事より)>である。

 モノが満ちあふれ、ほとんど市場のニーズは刈り尽くされてしまっていると言われているが、まだまだ、発掘されていない「ふ(不・負)の字」は存在していると言えるだろう。

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2018.12.13

ワコールの事例で考える「ニーズから見た」競合環境の変化の捉え方

 日経MJ12月3日号のワコールホールディングス安原社長のインタビュー記事が興味深い。
 記者の<下着業界で「ユニクロ」が大手になるなど、事業環境の変化をどう捉えていますか。(記事より)>という質問に対して、<「最近の快適性を求める傾向がワイヤなしブラの人気につながっている。ユニクロさんは代表的な例で、もう少し快適性というニーズにちゃんと向かい合っていれば良かったな、という思いはある。(後略)」(記事より)>と述べている。

 「(ブラを作っている)下着業界のプレイヤー」で考えれば、ワコールの最大の競合はトリンプインターナショナルだ。また、ビクトリアズ・シークレットは通信販売がメインで業態が若干違うが女性の支持を集めているという意味で当然競合になる。しかし、ユニクロは当初、ブラを作っていなかったので業界内の競合と見なしていなかったわけだ。
 ユニクロを運営するファーストリテイリングがブラの製造販売に乗り出した原点は、タンクトップにカップを付けた「ブラトップ」である。同社はブラトップの付け心地にこだわり、毎年製品改良に大きな力を注いでいる。その結果派生的に、(付け心地のいいワイヤ無しの)ブラそのものも製造販売するようになったのである。それが、「楽に過ごしたい」という女性のニーズを捉えて大ヒットし、あれよあれよという間に下着業界のリーダー企業であるワコールを脅かすほどの大手競合となってしまったわけだ。
 ブラに対する女性のニーズには、「胸の形を美しく整えたい」というものもあるだろう。そのニーズを満たすウォンツ(モノ)としては、ワイヤ入りは欠かせないのだろう。ワコールとトリンプのブラを巡る戦いを見ると、寄せたり上げたりと、正に「胸の形を美しく整える」というニーズを満たすための製品作りでしのぎを削ってきたと言える。しかし、ワコールの安中社長のコメントにあるように、それ以上に「快適性≒楽に過ごしたい」というニーズが高まっていて、その変化を見逃したが故に、業界外のプレイヤーに成長機会を与えることになってしまったのである。

 ニーズは「現状と理想的な状態のギャップ」であると言える。つまり、「未充足な状態」がニーズの正体だ。故に、そこには必ず「ふ(不・負)の字」が隠れている。上記のブラの例で言えば、ワイヤ入りによる窮屈な「不満・不愉快」、着けていることの「負荷」という未充足な状態があり、「もっと楽に過ごしたい」というニーズが生まれたのだ。そして、その未充足な状態を解消するウォンツとして、ワイヤなしブラが人気を博したという構図である。
 「業界」という言葉は、「事業者(企業)の視点」である。故に、ともするとウォンツ先行になりがちだ。しかし、顧客のニーズを満たすモノは全て競合となり得るのだ。つまり、ワイヤ入りブラの代替品であったユニクロのブラトップという代替品が発達して、ワイヤなしブラのヒットにつながったのがその証左である。
 競合を捉えてその変化を正確に知ることは環境分析の必須要素だ。しかし、競合を定義するには市場における顧客のニーズに注目し、代替品にまで目を光らせることが欠かせないのである。

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2018.12.10

マーケティングの「基本のき」はニーズの明確化!「ふの字探し」を励行しよう!

 砂漠でダラダラと汗をかいて苦しそうにしている人の絵を見せ、「この人のニーズは何?」と聞くと、かなりの確率で「水」という答えが返ってくる。だが、「水」は「ウォンツ」。「ニーズ」は「喉の渇きを潤したい」である。
「ニーズ」という言葉は、マーケティングに携わっている者でなくても、今日、カタカナ言葉として当たり前に使われている。しかし、対になる「ウォンツ」という言葉は意外と流通しておらず、「ニーズ」と取り違えて使われている例が散見される。
 ではなぜ、ニーズとウォンツを峻別しなくてはならないのか?それは、ウォンツ(製品)から考えると、自社の製品ありきで顧客にモノを提示する、顧客のニーズを無視したいわゆる“Product out(製品志向)”になってしまうからだ。それでは売れない。マーケティングの原点、「基本のき」は、ニーズの明確化なのである。

 2018年12月3日の日経MJに興味深い記事が掲載されていた。3輪エアチューブタイヤのベビーカー「エアバギー」を扱うGMPインターナショナルの取り組みだ。今日、こだわりの高品質ベビーカーの種類も多くなってきたが、ベビーカーの使用期間はせいぜい2~3年と短い。また、市場環境は少子化と縮小が免れない。同社の<飯田美恵子社長がたまたま愛犬をエアバギーに乗せて散歩に出かけたところ、思いのほか快適だったことに気づく。ペットが乗せられるユニットを取り付ければ長く使ってもらえるのでは、と考え、ペット用ユニットを付けて販売した。(記事より)>という。さらに、また、チャイルドシートをベビーカーに取り付けられる機能も搭載したという。
 ニーズは「ふ(不・負)の字に隠れている」。つまり、ニーズを明らかにしたければ、「ふの字探し」をすればいいのだ。
 「エアバギー」の製品特性は、「軽く押せる」ということ。つまり、ベビーカーを押すときの「負担」という「負の字」を軽減し、「もっと楽に使いたい」というニーズを充足しているのだ。高齢者用の補講補助器として利用できるよう、ブレーキとショッピングバスケットを付ける機能も搭載したモデルも発売したというが、高齢者という属性のターゲットが同様に持っている「もっと楽に使いたい」というニーズを実現したウォンツを提供したことになる。
 一方、ベビーカーには、赤ちゃんという「自分の大切な存在を運ぶ」という特性がある。つまり、運搬中の「不安」という「不の字」を払拭する価値が求められているわけだ。そこに注目すれば、安全性の高いチャイルドシートをそのまま使用するという展開もアリだと考えることはできるだろう。また、少子化の今日、我が子同様に大事にされている存在を考えれば、ペット用という展開も発想できるのだ。

 GMPインターナショナルのエアバギーは<「4通りの使い方を提案することで、ベビー用品店以外にもペット洋品店やカーディーラーでもエアバギーを取り扱ってくれるようになりました。おかげで顧客層は一気に広がりました」。(記事より)>と同社広報担当者のコメントが掲載されている。また、結果として<4通りの使い方で商品寿命が延びただけでなく、販売力も飛躍的にアップ。今では年間3万台を出荷する(記事より)>という。

 消費が高度化した今日、顕在的なニーズはほとんど刈り尽くされたと言われている。しかし、「ふの字」に注目してみれば、もっと多くのビジネスチャンスは見つかるだろう。
 

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コラムを再開します

長らくお休みをいただいていましたが、少しずつコラム掲載を再開していきます。
恐らく、週1回程度になると思いますが、よろしくお願いいたします。

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