「パーソナルスタイリング」が目指すものは何か?
アパレル各社は個々の顧客の好みに合わせて商品を提供する「パーソナルスタイリング」にしのぎを削りだしている。その目指すところはどこにあるのだろうか。
少し前の記事だが日経MJ12月3日号は、同紙記者によるZARAのパーソナルスタイリング体験記を掲載している。ZARAは<最新のトレンドに熟知したスタイリストが常時5000点以上の商品から顧客に似合ったコーディネートを考え、気に入れば購入してもらう(記事より)>というサービスを<現在全国の10店舗で(同)>展開し、<サービスに携わる販売員は全国で18人(同)>という精鋭が担当しているという。<サービスを通じた服などの平均購入価格は3~4万円程度。中には1週間分の組み合わせを全て選ぶ人もいるという(同)>とのことなので、ファストファッション勢としては価格が高めの同店だが、客単価も購入店数も多く上々だと言えるだろう。
記事では他社の動きも紹介している。<三越日本橋本店ではコンシェルジュサービスを10月から本格導入。服飾部門では長年経験を積んだアドバイザーが接客する(同)>という。
一方、人力に頼らないサービス提供の方法を取る動きもある。アースミュージック&エコロジーなどを展開している<カジュアル衣料大手のストライプインターナショナルは洋服の定額レンタルサービス「メチャカリ」について、10月からパーソナルコーディネート機能を追加。アプリ内で人工知能(AI)のチャットボットと会話しながら、好みの洋服を探せる(同)>という。ファストファッション勢としては、やはり人件費のかかる対人接客よりマシンインターフェースの方が合理的ということだろう。
ファーストリテイリングのGUもマシンインターフェースの新しい展開を始めた。
<GU、原宿に次世代型店舗「GU スタイル スタジオ」アバターで自由に試着!手ぶらで帰れるお買い物(fashion-press)> https://www.fashion-press.net/news/42778
店内のデジタルサイネージでアバターを使ったコーディネートが試せ、実際に気に入ったコーディネートは気軽に試着もでき、アプリと連携してオンラインで注文もできるため手ぶらで帰ることができるという。
各社が模索しているのは、「顧客との適切な距離」であろう。アパレル店の接客を嫌がる人は多い。しかし、一方で「自分に似合う服が分からない(という不安)」「選ぶのが面倒(という負担)」という「ふ(不・負)の字=ニーズ」を抱える人も少なからず存在する。その未充足ニーズをすくい取ろうとするのが狙いなのである。
従来のアパレル店といえば、絨毯爆撃的なチラシ攻勢や、顧客側ではなく、店側の売りたいタイミングで送られてくるダイレクトメール、「これが流行っていますよ~」という、誰にでも一律で行われる店内接客があった。しかし、そうしたコミュニケーションは顧客との良好な関係性構築にマイナスに作用する。
ダイレクトマーケティングの父と言われる、レスター・ワンダーマンが2005年に来日した際に行った講演で、「適切なリレーションシップを生むための秘訣」が語られた。それによれば、「無理にリレーションを強要しないこと」だという。曰く、「多くの場合、顧客は企業に対して“自分は今、〇〇社とつながっている!”などとリレーションを感じることはない。それよりも、“この商品は自分にピッタリだ!”と思われることが肝要だ」という。ワンダーマン氏はその際、「relationshipよりrelevant」と言った。どちらも「関係性」を意味するが、relationshipは「つながり」であるのに対し、relevantは「適切性=ピッタリ」という意味になる。
熟練の販売員が対応するにしても、AIによるマシンインターフェースで展開しようとも、目指すところは、自分にとっての「ピッタリ感(relevant)」という顧客体験を提供しようということなのである。