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2013.04.18

「オフィスグリコ」と「ぐりこ・や」に学ぶ縮小市場での生き残り方

 東京進出以来昨年で10周年を迎え、多くの企業の事務所でお馴染みとなっている「オフィスグリコ」。全国のサービスエリアを中心に人気となっている土産店「ぐりこ・や」。一見別々の展開に見える両者は、1997年に発足した「顧客接点を多様化させる」プロジェクトが結実したものだという。江崎グリコへのインタビューで明かされた同社の戦略を考察してみよう。

■既存の発想を超えろ!

 「既存の売り方では限界が来るという、明確な危機感がありました」。広報担当者は語りはじめた。
1990年代、日本の人口動態は急速な少子化進行を示していた。大手菓子メーカーとしては主たる消費者である子どもの数が減少することは、ビジネスの縮小と直結する。そこで、「今までにない売り方」が様々検討された。当時はまだ菓子が多く扱われていなかったホームセンターやドラッグストアなど、「今までにない売り場」をおさえる新チャネル開発や、もっと賞味期限の短い商品を流通させるなど、「今までにない販売の仕組み」を展開する物流改革などである。それらのアイディアをさらにブラッシュアップし、商品をどう売るかという「モノ売りの発想」をやめ、顧客の視点から菓子に触れる新しいタイミングやシーンを考えていこうという取り組みが考えられたのである。

■見出されたビジネスチャンス

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最初に行ったのは「生活者の1日」を観察することだったという。小学生から60代までの数百名を対象に調査をした結果、「菓子を食べるシーン」として、約70%が「家庭」、約20%が「オフィス」という数字が浮かび上がってきた。今では当たり前となった「オフィスで菓子を食べる」という光景だが、当時の担当者にとって大きな驚きだったという。そこで、「働くこと」と「菓子を食べること」という2つのシーンをつなぐ、新市場創造の可能性が見出された。「オフィスグリコ」のアイディアの原型が誕生した瞬間である。

■「モノ」ではなく「コト」を売る

 担当者が注目したのは、オフィスで菓子が用いられている状況だ。当時は1991年のバブル崩壊からの長引く不況の中、業績回復を目指し多くの企業が成果主義を導入。オフィスで働く人々にとっては労働の効率化や時間管理など、ストレスが増大し始めている時期だった。
「人間は一日中、集中できる訳はない。『ちょっとお腹がすいた』時、『あともうひとがんばり』という時、次の仕事に元気に向かうツールとしてお菓子は役に立つ」。との考えから、お菓子にオフィスでの「リフレッシュメント」という新しいコンセプトを創造したという。つまり、「モノとしての菓子」を売るのではなく、「ソリューション=コトとしての菓子」を売るという発想である。
アイディア誕生から1999年の大阪、2002年の東京での本格スタートまでには簡単には語り尽くせない苦労があったというが、現在その成果として年間43億円の売上を上げるまでに成長している。

■もう一つのビジネスチャンス

 「一貫して、顧客に対してはワクワク感を提供することに注力している」と、「ぐりこ・や」のマネージャーは語った。
 「オフィスグリコ」は働く場という、ハレとケでいえばケの場で用いられるのに対し、「ぐりこ・や」はギフトやパーティーの場での消費というハレの日需要を切り拓いた展開である。そのルーツを辿れば、古く1989年の「ジャイアントポッキー」に行き着く。その後、1994年の大手菓子メーカー初の地域限定お土産菓子「ジャイアントポッキー<夕張メロン>」へと続き、それ以降も顧客に「ワクワク感」を届ける商品を開発し続けた。「モノではなく、ワクワク感を売る」という発想である。
「ぐりこ・や」は、2001年に談合坂サービスエリアにオープンした。ジャイアント菓子や地域限定品だけでなく、一般の店舗では購入できない半生タイプの「ポッキーケーキ」や「ビスコのカステラ」などを扱って人気を博し、店舗を順調に拡大した。

■次のワクワクを探せ

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 「ぐりこ・や」の人気も次第に陰りを見せてきた。それは、競合の相次ぐジャンボ菓子への参入や、コンビニスィーツの進化による半生菓子の魅力の低下などで、顧客の「ワクワク感」が薄れたことによるものだという。
 そこで、参考になったのが、1988年からオープンしている、工場と企業ミュージアムが合体した見学施設、「グリコピア神戸」だ。2011年には来場者累計150万人を突破し、顧客に「ワクワク感」を与え続けている。そこから発想を得て、2012年、「ぐりこ・や」の要素に作りたて菓子を提供するキッチン機能を併設した「ぐりこ・やkitchen」を、東京駅一番街にオープンさせた。

■成長戦略のフレームワークで考える

 江崎グリコの展開は、フレームワークで考えるとその狙いが明確にわかる。
経済学者のイゴール・アンゾフは、企業の成長戦略を4つにパターン化した。いわゆる「アンゾフのマトリックス」である。既存の顧客を対象にするのか、新規の顧客を狙うのか。既存の製品を用いるのか、新製品を開発するのか。顧客・製品、新規・既存の掛け合わせの4つだ。
江崎グリコは、「既存製品×既存顧客=市場深耕」が少子化によってこれ以上図れないとの危機感から、「顧客接点を多様化させる」プロジェクトを発足させた。
その一つの方向性である、「オフィスグリコ」は、「既存製品×新規顧客=新市場開拓」である。菓子を食べるという習慣が低かったオフィスシーン、特に菓子を食べていなかった層を開拓し、現在の利用者は7割が男性だという。
もう一つの方向性である「ぐりこ・や」「ぐりこ・やkitchen」は、「新製品×既存顧客=新製品開発」である。菓子を通常食べている顧客層に対して、今までに見たことのない、他では手に入らない商品を提供することで、「ワクワク感」を醸成し、需要を喚起しているのだ。

■縮小市場で、「何」を「誰」に売ればいいのか?

 日本の人口縮小はもはや逃れられない所まできている。それは、少子化という危機に直面した製菓業に限ったことではない。その環境下で、「何」を「誰」に売っていけば生き残りが見えてくるのか。その答えの一つが、江崎グリコの展開から見えてくる。
 「モノからコトへ」は言われて久しいが、それを具体的にどのように展開するのか。江崎グリコの場合は「オフィスのソリューション」であり、「ワクワク感」であった。その二つは、菓子というカタチを借りて、顧客への具体的な「働きかけ」を行っていることで通底している。
 「顧客は誰か?」を考えることはマーケティングの基本である。江崎グリコの場合は潜在需要を持った新規顧客を開拓し、さらに既存顧客の需要を新たに喚起した。そうすることで、今までの新規顧客・既存顧客という枠を越えて「コトを満たすニーズを持った顧客」というターゲット顧客の再定義をしたのである。
 黙っていれば市場と共に縮む運命を、どう切り拓いていくのか。そのキーワードがこの事例から見えてくるだろう。

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