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4 posts from August 2012

2012.08.27

累計10億本のパルム :そのヒミツはコンセプトの明確さ

 アイスクリームのPARM(パルム)シリーズ、累計販売数10億本。新商品の「PARM ピュレコーティング オレンジ&バニラ」も5月末の発売以来1ヶ月で年間目標の半数である710万本を売り、現在(取材時期:8月下旬)までの約3ヶ月間で既に年間目標を達成しているという破竹の勢いである。そんなパルムの「売れ続けるヒミツ」を森永乳業のブランド担当者にインタビューしてきた。

 パルムが市場に登場した2005年当時、プレミアムアイスはハーゲンダッツが約90%という不動のシェアを占めていた。一方、マルチパック、つまり箱入りアイスは子ども向け、親子向け商品ばかりが棚を占めていた状況であった。

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 「大人向けの箱入りアイスを作る。それが最初の挑戦だったのです」。担当者は当時を振り返った。
「大人向け」というポジショニングをどのように実現したのか。それは、製品(Product)と価格(Price)のバランスにある。当時の箱入りアイスは店頭価格300円が相場。そこを50円あげて350円(当時)というターゲットプライスを設定した。それによって、バリュープロポジション(そのブランドや製品がとり得るポジションニングの前提となる相対的な提供価値の分類)を明確にする「高価値戦略」狙いである。(図1)

 製品へのこだわりは凄まじいものがある。パルムは「なめらかな口どけのチョコレートとリッチなミルク感」を特徴とした商品だ。それを実現するために、プレミアムアイスクリームと同様のクリーム・脱脂濃縮乳を使い、急速冷凍することで氷の結晶の細かいなめらかなアイスを実現したという。さらに最大の特徴はアイスクリームを包むチョコレートは体温と同じ温度で溶けるようにコントロールされており、口に入れた時になめらかに溶ける仕組みに仕上げたのだ。

 発売後に実施した消費者に対する定性調査では、箱入りアイス以外のプレミアムアイスと比較しても遜色ない評価を得られた。ハーゲンダッツに代表されるプレミアムアイスは「週末に気合いを入れて食べる」という用いられ方をする。それに対し、6本入りのパルムは平日に家の中でゆったりと毎日食べるという用い方をしていることが明らかになった。そこから、「毎日のちょっとしたぜいたく」=「デイリープレミアム」というメッセージが紡ぎ出されたのである。

 2005年の発売時、最初の半年間はやはり350円という高めの価格が引っかかり、苦戦をすることとなった。しかし、粘り強い店頭での試食プロモーションが奏功し、小売店の空きの棚替えの時期に棚をしっかりと確保して消費者の人気にも火がついた。そこから、累計10億本ロードが始まったのである。

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 パルムは年間100億円の売上を達成するに至り、森永乳業の社内では新たな挑戦の機運が盛り上がってきた。「チョコ素材以外で、新たなコンセプトを作り上げようと考えたのです」。ブランド担当者は開発当時を振り返る。
 「家の中で自分の時間でゆったりと食べる」。そんなパルムのコンセプトは十分に浸透した。では、次なる挑戦はどのようなシーンを狙うかだ。毎年繰り返しやってくる猛暑。今年の夏も暑くなるだろうと予想して、氷系のアイスに狙いを定めた。氷系のアイスといえば代表格は「ガリガリ君」だろう。それは食べれば確実にカラダをクールにしてくれる。だが、それはどちらかといえば物性的な価値だ。それに対し、パルムは「外から帰ってきて、家の中でゆっくりとしながらカラダも気持ちもクールダウンする」。そんなコンセプトが考案された。

 新たな商品は、「PARM(パルム) ピュレコーティング オレンジ&バニラ」。なめらかなオレンジアイスとしっとりしたバニラアイスを、オレンジ果肉とオレンジピールを含む果汁で包んだアイスバーの誕生だ。それは、パルムのコンセプトである「デイリープレミアム」=「日常のちょっとした贅沢」に、「リゾート」の要素を取り入れた新商品である。
 面白いデータがある。森永乳業の調査によれば、実際に「パルム ピュレコーティング オレンジ&バニラ」を食べた70%以上の対象者が「リゾート地に出かけたようなちょっとした贅沢な気分を楽しんでいる」という。そこから「イエナカ・リゾート」というコンセプトが新たに設定された。

 パルムの従来のターゲットは20~30代の独身有職女性。ピュレコーティング オレンジ&バニラは40~50代の中高生の子どもを持つ主婦をメインとしている。子どもが大きくなり、一緒に長期旅行をする機会も少なくなる。その「自分時間」を「イエナカ・リゾート」というコンセプトで狙っているのである。
 リゾートを感じるパッケージ。「ガリガリ」ではなく、「しっとり」とした贅沢な食感。そしてすっきりとした味わいで従来のチョコ系のパルムともカニバリすることなく棲み分けが成立するスグレモノの商品なのだ。

 プロモーションは寺尾聰をセレブレティーとしてテレビCMをスポットで投下したが、それ以上に口コミが効果を発揮した。試食会などで実際に口にしたファンがFacebookやTwitterなどSNSで自ら情報を拡散し始めたのである。根強いパルムのファンからの支持が証明されたのである。

 現在、パルムブランドはアイスクリームの業界で5位だという。その中で、「男性を取り込んでいくのが課題なんです」と担当者は今後の課題を語った。パルムのブランド認知率はまだまだ低く、特に男性のそれが低いという。パルムの最大の武器は「デイリープレミアム」という明確なコンセプトだ。それをどのように男性向けに展開していくか。今後も挑戦が続く。

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2012.08.15

成功すべくして成功した:アクエリアス ゼロ1億本への道のり

 5月7日の発売以来累計5000万本を突破したアクエリアス ゼロ。8月に入ってさらにスピードは加速し、1億本の大台も視野に入っているという。その背景には「成功すべくして成功したマーケティング計画」が存在することが、日本コカ・コーラ、アクエリアス ゼロ担当マネージャーへの取材から明らかになった。

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■中長期計画
 「それまでのアクエリアスは、 “スポーツ飲料”のイメージが強かった。それをより幅広い概念に拡大したかったのです」。スポーツマンらしい日焼けして引き締まった身体に笑顔が印象的なアクエリアス ゼロ担当マネージャーは意外な言葉から話を始めた。
 時は2010年に遡る。「Fit body. Fit life. いきいきしたカラダへ」。幅広い人々に向けたブランドとなるため、アクエリアスの中長期ブランドスローガンが設定されたのである。

■危機
 スポーツ飲料カテゴリーは2004年をピークに下降傾向を示し始めた。カテゴリー№1の日本コカ・コーラにとっては由々しき事態である。シェア第一位にとって、カテゴリーの衰退はそのまま自社の業績悪化に直結するからである。
 年代別の飲用状況を調査すると、人口のボリュームが大きい40~50歳代が「スポーツ飲料離れ」を示していることが確認された。ミネラルウォーターや茶系飲料へのスイッチが起こっているのだ。

■追い風
 2010年。その夏も記録的猛暑に見舞われた日本。売上の下落傾向に歯止めがかかった。さらに「熱中症」の認知率も79.3%を越えた。(2011年日本コカ・コーラ調べ)。アンケートを採ると、ナトリウム、電解質、イオン…といったキーワードも数多く対象者から聞き出せたという。

■市場のホワイトスペース アクエリアスのベネフィットとは「優れた水分補給」であると定義されていると担当マネージャーは語った。「優れた」とは何か。ブルーのパッケージである「アクエリアス」は4種類の電解質が含まれ、適度な糖分と電解質によって「水より優れた水分補給」を実現する。一方、2005年に発売されたイエローのパッケージである「アクエリアスビタミンガード」はビタミンCが1000mg配合されており、「ビタミンCの水分補給」を実現する。では、「スポーツ飲料離れ」をしている35歳以上にとっては何が有効なのか。そこに手が付けられていないホワイトスペースが存在した。「全方位」で展開をする「リーダーの戦略」ならではの展開である。

■ターゲットの未充足ニーズ
 ターゲットである35歳以上のニーズは何か。それは2008年に特定健康検査(いわゆるメタボ健診)が法制化されて以来高まった「お腹のたるみ」や「中性脂肪」の抑制である。そのため、駅でエスカレーターを使わずに階段を使用する。通勤時に1駅分多く歩くなどの軽い運動を実践する人も少なくない。また、味の好みもターゲットと10~20代では異なることが分かった。ターゲットは、よりスッキリした、甘さが控えめの、濃すぎない味を好む傾向がある。激しい運動をしないために、ニーズも嗜好も異なるのだ。

■競合
 軽い運動をした後、ターゲットは何を飲んでいるのか。それは前述の通りミネラルウォーターやお茶だ。なぜならば、「カロリーがゼロだから」。それは「スポーツ飲料離れ」という危機をもたらしている一方で、大きなビジネスチャンスを示していた。なぜならば、カテゴリー内に競合となる商品が存在していないからである。「アスリート向け」「運動向け」から「日常向け」にイメージ転換を図れば、カテゴリーのオンリーワンになれることを示している。

■失敗
 しかし、日本コカ・コーラには苦い過去があった。カロリーゼロのアクエリアスを2008年9月に市場に投入し、販売に苦戦し、撤退しているのである。その時はターゲットを女性としたが、味もいまひとつという評価となってしまったのだ。

■開発・発売
 市場の追い風を捉え、冒頭の「Fit body. Fit life. いきいきしたカラダへ」のスローガンも掲げた2010年。今を遡る2年前から「アクエリアス ゼロ」の開発はスタートしていた。飲料としては異例に長い、周到な準備期間だといえる。2008年の失敗を教訓として、何よりも中心は「味」の開発に置かれた。ターゲットの未充足ニーズである「すっきりした美味しさ」の実現だ。さらに燃焼系サポート成分である「カルニチン」も配合された。かくして、「カロリーゼロの水分補給」である「アクエリアス ゼロ」が5月7日に誕生した。

■コミュニケーション
 コミュニケーションターゲットとしてはビジネスターゲットである40~40代への波及効果を狙って35才という年齢が設定された。セレブレティーはオダギリジョーが選ばれ、CMは「軽い運動をサポートする」という意味合いから「チアリーダーが日常の運動を応援する」というシーンが演出された。
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 実は現代日本人のカロリー摂取量は戦後一貫して減少している。しかし、肥満を示す「BMI値」は上昇を続けている。要するに身体を動かさなくなっているのである。そこで、京都大学大学院人間・環境学研究科応用生理学研究室の森谷敏夫教授の監修を受け、「ちょこ運動」、つまり毎日こまめにカラダを動かすことを訴えることにしたのである。ターゲットが実践している「軽い運動」を無駄にしない、そのための燃焼系サポート成分「カルニチン」配合をさりげなく訴求する施策なのだ。

■マーケティングマネジメント
 よい製品を作っただけではモノは売れない。環境の変化を掴んで市場のニーズ、未充足ニーズ・市場機会を明確にし、ターゲットをはっきりさせる。ターゲットのKBF(Key Buying Factor=購買決定要因)を洗い出し、競合の動きを察知し、勝てる要素(KSF=Key Success Factor)を設定する。製品の「価値」を消費者まで確実に伝達して売る「しくみ」を構築すること。その一連の「マーケティングの流れ」をモレ抜けなく設計することが重要なのである。

 仕事は「段取り八分」ともいう。その意味からも、2010年から始まっていたアクエリアス ゼロの開発計画は、確実に「成功すべくして成功する」ことを狙った周到なマーケティングの勝利だということができるだろう。

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2012.08.02

誰が・ナゼ飲んだ?アクエリアス ゼロ5000万本

 日本コカ・コーラの「アクエリアス ゼロ」が発売10週間で5000万本の販売を突破したという。どのような新たなターゲットとポジショニングを開拓したのであろうか。

 暑い。連日、うだるような暑さである。それは室内にいても容赦ない。国立環境研究所「平成23年度熱中症患者情報速報」によれば、熱中症の36%が室内で発生しているという。そこで、冷たいものを飲む。震災以降、ミネラルウォーターの備蓄をしている家も少なくない。だが、それではダメなのだ。電解質(ナトリウムなど)も補給しなくては体液が薄まってこれまたヤラレてしまうのだ。そこで、スポーツ飲料の出番である。水分吸収がいい。でも待てよ。スポーツしないのに、スポーツ飲料。なにやら最近、ポジショニングが変化していないだろうか。

 スポーツ飲料の草分けといえば「ポカリスェット」である。しかし、同商品が一貫して訴えてきたポジショニングは「水分吸収がいい」。それ一本だ。
 ポジショニングは通常、2つのキーワードを使って二軸で表現する。しかし、たった一言でその商品の魅力がより鮮烈に伝わるのであれば、それにこしたことはない。例えば、プレミアムカーのBMW。「駆け抜ける喜び」。単なる「走る」ではない。走ることによって喜びまで与えてくれるのがウチのクルマですよ、とひと言でエンスー(クルマ好き)をノックダウンする。同様に、輸液の最大手である大塚製薬は、「水分吸収」一本で勝負を賭けたのだ。

 飲料業界第1位の日本コカ・コーラは、しかし、そんな動きを見逃さなかった。リーダーの戦略の基本である「同質化」。先行する商品と同様のモノを開発して強固な販売力を活かして市場を席巻する戦略である。そうして開発されたのが、「アクエリアス」だ。その時、より「スポーツ」という消費者のKBF(Key Buying Factor=購入理由)を加えたのである。

 さて、「アクエリアス ゼロ」は誰が飲んでいるのか。スポーツをするなら、カロリーを消費する。しかし、チョビッとしかカラダを動かさない層にとってスポーツドリンクのカロリー数は脅威である。すると、「アクエリアス ゼロ」が取っているポジショニングは、「水分吸収」×「太らない」で、「スポーツ」はどこかに消えてしまったことを意味している。しかし、そのポジショニングが、潜在的にスポーツ飲料のカロリーを気にしつつ、水分吸収の機能に魅力を感じていた層にウケたのである。

 「アクエリアス ゼロ」はアクエリアスのブランドエクステンションである。しかし、他にも数ある派生商品とは異なり、本体ブランドが取り込めていないターゲット層を見事にすくい取った商品であるといえる。この商品はさらに暑くなるこの夏をバネにして「それいけ1億本!」という勢いでブランドの新定番になって行くに違いない。

 

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2012.08.01

売れるか?プリウスPHV:トヨタのポートフォリオ計画

 目標年間4万台に対して半年で5千台の販売と業界筋では言われているプリウスPHV(プラグインハイブリッド)。苦戦である。そこには商品の良さが伝わり切れていないというだけでなく、戸建て住宅でないと充電設備が設置できないというハードルが存在する。しかし、巻き返しのチャンスも到来しているようだ。

■トヨタのポートフォリオ計画

 トヨタのラインナップにおいて、プリウスはもはや「金のなる木」として存在している。初代発売以来15周年を迎え、かつての金のなる木、カローラを過去の存在として「黙っていても売れるオイシイ車種」となっているのだ。
 代わって、ポートフォリオの「花形」の存在となっているのは「アクア」である。本体価格の安さや取り回しの良さがウケて大ヒット。なおも伸び盛りの車種となっている。
 そして、「問題児」のポジションにあるのがプリウスPHVである。ポートフォリオマネジメント(PPM)の原則からすれば、「次世代スター」に「問題児」を育てるためにはコミュニケーションコストを中心として多額のキャッシュを「金のなる木」から搾り取って投資する必要がある。しかし、オイシイ金脈が転がっているのである。

■「問題児」の育成にオイシイ補助金

 「エコカー補助金(環境対応車普及促進対策費補助金)」がそろそろ底を尽きると囁かれている。しかし、リリースによればエコカー補助金はこれだけではないという。「クリーンエネルギー自動車等導入対策費補助金(通称:CEV補助金)」。実は、PHV、EV、クリーンディーゼル車にはという“第2のエコカー”を対象とした補助金が存在するのである。現行の制度では、平成25年2月28日までに新車登録された対象車に適用されるため、通常のエコカー補助金が切れる今後、申請の増加が見込まれている。

■マクロ環境(PEST)分析の「Political」要素がカギか?

 マクロ環境における「政治的な影響要因」は主に規制事項に注目することがポイントだが、今回に関しては前述の通り、「補助金」という要素が大きい。もう一方で、「消費税増税」という大きな要素も忘れることはできない。補助金との関係で考えれば、今車検を迎えるユーザーが次回の車検を迎える2014年度には今よりも消費税は8%となって3%上がる。自動車購入に際して3%の差額は約10万円多く支払うことになり、CEV補助金の適応がなくなることも考慮に入れると、プリウスPHVにおいては50万円以上の差額が出ることになる。一部では消費税増税をにらんでプリウスだけでなく、自動車、住宅など高額商品の購入を考える層が増えているという。それが追い風になるのか。

■ロイヤルカスタマーの動きがキモ

 昨今の自動車の買換年数は平均10年を超えており、そんなに話はうまく進まないようにも思われる。
だが、 だが、トヨタマーケティングジャパンの資料によると、トヨタ自動車が集計した「プリウスPHV」の下取り車内訳では、元プリウスユーザーが4割超を占めていることが判明しており、「プリウス」から「プリウス PHV」に移行する彼ら先進層を確実に囲い込むことが、「次世代エコカー」市場を制するためのカギになるという。しかも、現行のプリウスが発売3年目を迎え、今夏から毎月約2万人以上のペースで、初回車検のタイミングを迎え始めていることになるというのである。
しかも、リリースによると、プリウスユーザーは約3割が1日当たり30km以上を走行しており、20km以上を走行する割合も乗用車・ワゴンを所有する全体数より5%以上高く、4割を超えているという。また、プリウスユーザーの4割が、月1回以上の頻度で遠出(100km以上運転)をしており、これは乗用車・ワゴンを所有する全体数と比較して15%も高い数値となり、2~3カ月に1回の割合で遠出をする頻度も10%以上高く、プリウスユーザーの長距離運転の頻度が大幅に高いことが見てとれるという。

 アクティブな現行プリウスユーザーの存在。それが、どの程度プリウスPHVへ移行するのか。トヨタがいかにロイヤリティーを獲得できていたのかが試されるところである。


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