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10 posts from October 2011

2011.10.26

果物復権のキーワードは「手間いらず」?

 「○○離れ」というフレーズも少し飽きてきたが、現代の消費者は「果物」からも離れていたらしい。10月25日付日本経済新聞の記事によれば、<日本人が1日に食べる果物の量は100グラム強とされ、30年前の6割に減っている>とある。掲載されているグラフを見ると、キレイな右肩下がりを描いている。その果物に若者が手を伸ばし始め、復権の兆しがあるという。

私たちはナゼ、果物を食べなくなってしまったのか。
 記事にはJA総研の09年の調査結果が掲載されている。「皮をむいたりするのが面倒」54.3%、「手が汚れる・ベトベトする」22.9%など。皮をむくのではなく「種」も問題なようだ。<「種があると家族が面倒くさがって食べてくれない。ブドウは買うなら『種なし』」>ときっぱり言い切る主婦のコメントもある。私たちはどれだけモノグサになってしまったのか。しかし、栄養摂取だけを考えるなら、代替品がいくらでもある。果汁や野菜のジュースを飲めばいいし、サプリメントも昨今では様々な種類が売り出されている。

 記事のタイトルは<果物離れに歯止め? 「皮ごと」「種なし」面倒なし 品種改良で種類豊富に 手伸ばす若い世代>とある。「皮ごと食べられるブドウ」「種のない柿」など、品種改良で豊富になって店頭に並ぶようになった果物が人気のようだ。ブドウの王様巨峰も種なしだ。今の時期だと他には皮ごと食べられるイチジクも人気だという。また、品種改良も進み、甘くて美味しいけれどあまりに大きな種にガッカリする「ビワ」も種なしが徐々に増えているという。
 手間なし果物は売れ行きも好調だ。伊勢丹新宿本店では、9月の売上が前年対比2桁増し。首都圏のスーパー、オリンピックでは種なしブドウが種ありの倍の売れ行きだという。

 品種改良が美味しさの向上だけでなく、昨今の消費者ニーズに対応するようになった「手間なし果物」には今後、さらなる可能性が考えられる。最も果物から離れていると思われる単身世帯の取り込みもしやすくなるからだ。
 記事には<「一人暮らしをしているから、食べるのはぱっと食べられるバナナぐらい」(26歳の会社員女性)>とのコメントがある。コンビニにも個包装、少量パックの果物も置かれるようになった。コンビニは多少価格が高くても売れるし、何より「果物離れ」したターゲットの目に触れ、認知~興味を得ることが可能なチャネルだ。マーケティングミックス(4P)の整合性の観点からも期は熟しているといえるだろう。果物復権のチャンスである。

 マーケティングの定石としては、ターゲットを考えて、その「購買決定要因(KBF=Key Buying Factor)」のをいかに充足するか検討する。だが、果物の衰退と復活の事例を見ると、同時に「購買棄却理由」を洗い出し、その対処をすることも欠かせないことがわかる。
「美味しい果物を提供しよう」は、「売り手の発想」だ。「美味しい」は確かにKBFになるが、それ以前に消費者・買い手には「面倒」という棄却理由があり、手が伸びていなかったのである。愚直に顧客ニーズとニーズギャップに目を向け、顧客の言葉に耳を傾けることの重要性がわかる事例である。

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2011.10.25

ドレスもスカートもダウン:YOSOOUのユニークな戦略

 今秋冬物から始まった、ユニークなダウンウェアブランド「YOSOOU(ヨソオウ)」が10月24日付日経MJのコラム「モード最前線」で紹介された。その狙いは何だろうか?

 まずは、同ブランドのWebサイトを見てみるとしよう。その特徴が端的に示されている。
 http://dualflex.jp/

 MJの記事にも<よくあるダウンを看板にしたカジュアルブランドではない>と示されている。同ブランドは<コートだけでなく、ジャケットからトレンチコート、スカートやドレス、それにボウタイまですべてがダウン入りだ>というのが特徴。さらに、伸縮率130%の新素材「Dual Flex」を用い、ダウンにありがちなモコモコ着ぶくれした姿ではなく、野外ではなく街で着ることを想定してスタイリッシュに仕上げられている。

 伸縮性新素材が生んだ特長を活かして、ユニークなターゲットの設定をしている。
 <一つの服を男女だけでなく、年代を超え、太っている、痩せているといった体型をカバーして着ることすらできる。まさに家族みんなで着回せる服を目指している>という。
 ポジショニングも明確だ。<ひとつのブランドで全身を装う人はあまりいない。買うのもセレクトショップが多い。「ならば無理してあれこれやるより、ひとつに絞って徹底した方が面白いものができる」>というディレクターの言葉がそれを表している。
 「家族みんなで着回し」というからには、あまりに特別な服では困る。特に価格面がモード系にありがちな目が飛び出るような価格では。その点も安心だ。ジャケット2万8千円台。ドレス4万7千円台など、手の出る価格に設定されている。

 マイケル・ポーターは競争力の源泉を「戦略の3類型」にまとめた。幅広い市場を戦場とし、コストを武器に戦う「コストリーダーシップ戦略」。それに対し、コスト優位は築けないものの、目に見える差別化要素で戦う「差別化戦略」。一方で、広い戦場で戦う力がない場合は、特定の市場に集中して戦いを展開する「集中戦略」をとる。

 カジュアルウェアという戦場においては、ファストファッションの勢いがいまだ衰えない。特にダウンウェアはユニクロの「ウルトラライトダウン」が今年も「数百万枚レベル」と同社役員が販売目標数を発表しているとおり、市場を席巻している。製造数が多くなることによって工場設備費などの固定比率が低減し、より低コストで勝負できる「規模の経済」を効かせた「コストリーダー」の戦い方だ。
 それに対して、スポーツメーカー・ゴールドウィンの「ノースフェイス」などのブランドは、価格では勝負できないものの、完全な防水「ゴアテックス」などの機能的差別化を図る戦略を強めている。
 「YOSOOU(ヨソオウ)」の戦略は「集中戦略」だ。ユニクロもノースフェイスもダウンウェアだけを作っているわけではない。しかし、「YOSOOU(ヨソオウ)」はダウンだけ。ダウンに集中しているため、自ブランドでショップを持つことはしない。イベントショップか、セレクトショップに販売委託をしている。

 フィリップ・コトラーが示した戦略の4類型は、シェア№1なら「リーダー」。リーダーの地位を狙ってチャレンジができるなら「チャレンジャー」。その力はないが、独自の生存領域を確保できているのなら「ニッチャー」。そのどれもできなければ、リーダー企業のおこぼれを拾う「フォロアー」となるとしている。この分類では「YOSOOU(ヨソオウ)」は明らかに「ニッチャー」である。

 「何にでもダウン入り」というユニークな服作りの「YOSOOU(ヨソオウ)」が示しているもの。それは、中途半端な戦略やポジションでは生き残れないということだ。「選択と集中」は経営者が大好きな言葉だ。だが、実際にはあれもこれも、と「選択」はするものの、「集中」しきれない例が散見される。「YOSOOU(ヨソオウ)」はMJの記事にも<販売するのは秋冬のみと実に潔い>とある通り。「選択」とは「しないことを選ぶこと」でもある。同社から学ぶことは多い。

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2011.10.24

「ディズニーストア」ではナニを売っているのか?

 ディズニーのキャラクターグッズを販売するディズニーストアが全面改装されるという。その狙いは何だろうか?

  10月23日付日本経済新聞には、全面改装の計画として<まず仙台市内の店舗を改装し、12月上旬にアジア1号店として再オープンさせる>とあり、世界的には<現在、米国や欧州を中心に37店舗が再オープン><今後5~7年以内に全世界で300店舗の全面改装に乗り出す予定だ>という。
 ディズニーストアに関してWikipediaの記述を調べると、以下のようにある。
 1987年に米国のショッピングセンターに第1号店が開業し、<誕生して間もない頃は、ディズニーランドの商品の予備もしくは在庫がそのままの形で販売されていた。しかし、独自で商品を開発するようになると、テーマパークの敷地外で公式商品を購入することができるという点が消費者に受け、ディズニーの財政を支える柱の一つとなっていった>。つまり、屋台骨を再構築しようというのがこの計画なのだ。

 全面改装の狙いは極めて明確だ。記事にも<買い物客の滞在時間を伸ばすのが狙い>とある通りだ。だが、滞在時間が長かったからといって、それが収益につながるとは限らない。記事には<(米国・欧州など先行している37店舗では)従来の約2倍の来店客数を記録している>ともある。だが、「利益=売上-コスト」だ。改装費用というイニシャルコストだけではなく、イベントなどランニングコストもかさむ。また、「売上=来店客数×購入率×客単価」なので、まず、来店客を「買う気」にさせなければハナシにならない。

 どうやって「買う気」にさせるのか。
 改装した店舗は<「都市の中にある公演」をテーマとし店内にエンターテイメント要素を取り入れる>というのが目玉だ。<アニメを視聴できる巨大モニターや電子看板を設置するほか、キャラクターが登場する店内イベントも充実させる>とある。ミッキー、ミニー、ドナルド、グーフィーが手をつないで、テーマパークのショーさながらに登場しているスペイン・マドリード店の写真が記事に添えられている。つまり、「テーマパークとストアのシームレス化」、もしくは「ストアのミニテーマパーク化」が買う気にさせる切り札なのだ。

 日本においては1983年に東京ディズニーランド、2001年に東京ディズニーシーが開園したが、両テーマパークでも入場料や店内飲食以上に物品販売が大きな収益の柱になっていることは有名だ。とまり、本来物販を生業とするディズニーストアが、来店者に「経験価値」を提供して業績アップを図ろうとしているのが全面改装の狙いなのである。
 日本においてはディズニーストアを2002年4月から2010年3月まで東京ディズニーリゾート運営のオリエンタルランドが経営していたが、売り上げ不振のため経営をウォルト・ディズニー・インターナショナル・ジャパンに返上している。テーマパークと物販が分断されたライセンスでは相乗効果が出なかったということだろう。そこで、世界共通モデルとして、キャラクターの投入という必殺技に出たのだ。単なる「モノ売りの場」から、人々に「世界観の体験」という「コト」を提供して、そのなかで自然とモノを「買う理由」、「必然性」を発生させるという、テーマパークの方法論を踏襲したのだ。特に日本ではディズニー関連事業は成熟化していて、単純にディズニーグッズを手に入れることだけでは既にみんないくつも持っているし、魅力を感じない。故に、体験という附随機能とセットで提供することが欠かせないのだ。

 「モノではなくコトを売る」といわれて久しいが、成功事例は実はそんなに多くないように思う。実現のハードルは高いのだ。「夢と魔法」という「コト売りの専門家」が、どんな手腕を発揮してくれるのか期待したい。

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2011.10.21

「ユニクロ郵便通販・ZARAインターネット販売」開始のワケ

 日本経済新聞本紙と日経MJに2つの通信販売開始の記事が掲載された。ユニクロの「ヒートテック」は郵便局会社と組んで郵便通信販売を開始した。スペインのファストファッションブランドZARAは日本での多店舗展開に加えてインターネット販売の展開を始めた。両社の狙いは何だろうか。

 日本経済新聞10月20日付夕刊と10月21日付本紙にユニクロの郵便通販の展開が掲載された。ユニクロ全店で郵送可能なパッケージ入りのヒートテック30種類を販売するという。また、全国20カ所の主要郵便局でも2種類の商品を販売するが、郵便局の窓口で衣料品を販売するのは初めてのだという。20日に開かれた両社の記者会見で、<「従来は自分や家族用の購入が多かったが、(新商品で)新しい需要が生まれると期待している」>とファーストリテイリングの担当役員がコメントしている。

 ヒートテックの今期の販売目標は、ついに1億枚となった。幼児用は作られていないため、ほぼ日本人1人1枚に行き渡る、まさに国民服となる計算だ。しかし、ヒートテックはアンダーウエア、インナーウェアなので1人複数枚購入する。1億人を顧客化できるわけではなく、「買わない人」「買ったことのない人」も存在する。流通大手なども参入しているため、競合製品を購入する人もいる。その、自社の「白地(ホワイトスペース)」を埋めていくことが今回の戦略なのである。「MGM(Member Get Member)」という。わかりやすくいえば、既存顧客が新規顧客を連れてくるという、顧客の拡大再生産。通信販売の定番的アプローチである。

 ZARAは2010年から欧州各国でネット通販を開始し、現在は欧州16カ国で展開。9月には米国でも開始したという。アジアは日本が最初だ。
 ZARAの戦略は、日本においては通信販売の開始よりも多店舗展開を優先してきたといえるだろう。海外ファストファッションブランドといえば、米国のフォーエバー21やスエーデンのH&M、イギリスのトップショップなどが競合となるが、ZARAの店舗数は現在71店と群を抜いている。なぜ、通販に進出するのか。仮説だが、ZARAは世界各国で多店舗展開を行っているが日本は地代家賃などの新規出店コストが高く、これ以上効率的な出店余地が少なくなっているのではないだろうか。
 スペイン本国での通販の特徴は返品・交換処理を店舗で対応する事情通が教えてくれた。日本の場合は記事では<未使用であれば30日の間は返品に応じる>としか記載がないが、恐らく通販のセンター宛に返送するのだろう。ここに差があるとすれば、どのような意味合いがあるのか。
 スペインの例は店舗と通販を連動させることによって、「(店舗に来る)顧客購買頻度向上」を目的としていると考えられる。一方で、日本の場合は「 (店舗に来ない、来られない) 新規顧客獲得」が主な目的ではないだろうか。ZARAは多くのメディアにも取り上げられており、ブランドネームは多くの人に知れ渡っている。しかし、これ以上効率的に店舗展開が難しいとなると、そこに到達(リーチ)出来ない「白地(ホワイトスペース)」が生じる。

 日本市場は今後人口縮小という傾向が顕著になってくる。それに対してファストファッション、低価格衣料の市場は競合環境の激化などで飽和感を増している。だとすれば、「規模の経済」によって低価格を実現することがビジネスシステムのとして欠かせないことから、「いかに白地を埋めるか」が大きなカギとなってくるのは間違いない。残された日本市場の白地をめぐって、各社が手を変え、品を換えの展開を投入してくることが今後も続くだろう。

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2011.10.17

10代女子を狙え!「ピンクラテ」のマーケティング整合戦略

 良いマーケティング戦略には「整合性」がある。自社を取りまく外部環境、ターゲット、そして施策展開など一連のマーケティングマネジメント全体が結びついて成果を上げるのだ。

 本論に進む前に、わかりやすい事例から見ていこう。
 10月14日付日経MJに<秋葉原にイヤホン専門店>という記事が掲載された。9月に開業したタイムマシン(大阪・浪速)が運営する「eイヤホン秋葉原店」という店だ。秋葉原でイヤホン、ヘッドホンの専門店とは確かにマーケティングの4Pのうち、Place(流通チャネル戦略:店舗においては立地戦略)とは整合しているがアタリマエすぎる感じがするだろう。だが、その他の要素ともしっかり整合しているがキモなのだ。
 店名通り、Product(製品戦略)は店舗自体を「商品」と考えるとわかりやすい。顧客への提供価値は「品揃え」と「試聴可能な機種の多さと店内放送のない環境」、「店員のアドバイス」と充実している。Promotion(販売促進戦略)は商品の大量陳列と試聴体験を全面的に押し出している。 Price(価格戦略)は中心価格帯が一般的家電店の3から4倍と高めにだが、それは、他の商品の「ついで買い」ではなく、ヘッドホンに関与度が高い層だけを狙うというターゲティングを明確化しているからこそできることだ。

 ワールドが運営する10代女子向けの衣料品店「ピンクラテ」。10月16日付日経MJの記事ではティーン向けのアパレルの事例として掲載されている。店名通りピンク色が目にも鮮やかな店内で品定めをするローティーンの女の子たちが映った記事写真には、<多くの商品の価格が5000円以下に設定され「109系」と呼ばれるブランドよりも一回り安い>とキャプションがある。タイトルは<値ごろ感、10代女子つかむ 衣料専門店、SC(ショッピングセンター)にも出店 小遣い減少「安カワ」に支持>とにある。

 記事を見るとマーケティング上の「整合性」がよく見て取れる。
 3C分析的に見てみると、まずCustomer(市場環境・顧客ニーズ)。景気は長く低迷し、それが常態化した。マクロ環境が変化したのだ。顧客のニーズも変化している。<「昔は見え張りで109で買うことがステータスだったが、いまは買う子場所へのこだわりは少ない」(ファッション誌編集長)>だという。Competitor(競合の動き)は、「しまむら」の主に高校生向けのPB「ソリデル」は3~8月の販売が前年同期の5倍、「ポイント」の10代女子向けブランド「レピピアルマリオ」も既存店が売上2桁増だとある。顧客である10代女子のKBF(Key Buying Factor=購買決定要因)がタイトルにあるように、安くてかわいい=「安カワ」になってきていることを示している。では、Company(自社)としてのワールドのピンクラテはどのような戦略取っているのか。
 前掲の通り、「見え張り109系」ではない。地元や近郊のSCに通い、休日には親と一緒に来店するような女の子がターゲットだ。ターゲットは本人だけではない。<SCの店舗なら「休日に親と一緒に来て、ねだることも可能」(ワールド)>と、DMU(Decision Making Unit=購買関与者)もしっかり巻き込んでいる。ポジショニングはユニクロが「価格」×「品質」で優位なポジションを確立しているように、「価格」×「可愛さ」を際立たせている。記事でも<「安くてオシャレ場ブランドが好き」>とユーザーの声を紹介している。
 Product(商品)は、ちょっとギャル系も取り入れたイマドキのディテールとビビッドな色使いで「可愛さ」を強調している。Price(価格)は<Tシャツで1500円~2980円、スカートで2300円~3800円>だ。<1ヶ月の平均小遣いは中学生2502円、高校生5305円>とあるので「手の届く価格」である。また、記事には書いていないが、同ブランドはちょっとした小遣いでも買える、3桁の価格の小物も充実しているのが特徴である。Place(チャネル)は前述の通りSCを中心としている。

 マーケティングのキモは「整合性」だ。すばらしい商品、卓越したプロモーションなど、どこか1カ所がうまくいっていても、その他の要素がかみ合っていなければスポイルされてしまう。まずは論より証拠。<ワールドは今年度、ピンクラテを新たに10店舗弱出店し、計40点弱まで店舗網を拡大>するという。近くのSCに視察に行ってみるといいだろう。もし、10代女子の子どもがいてねだられても、さほど懐は痛まないから安心だ。


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2011.10.12

スマホの普及は「手取り足取り」の段階へ

 スマホ花盛りの今日、果たしてその普及の勢いはこのまま続くのだろうか。もし、問題があるとしたら、どこで、どのように解消すればいいのだろうか。

 イノベーションはよく知られたE.M.ロジャースのイノベーション論による分類では、イノベーター(またの名を“冒険家”:とにかく新しいものに飛びつく人)→アーリーアダプター(またの名を“尊敬される人々”:内容を精査して採用する人)に続いて一般大衆(マジョリティー)へと伝播する。一般大衆はアーリーアダプターの様子を見て「あの人たちが採用したなら間違いないだろう」と動き出す。しかし、動かない場合もある。ハイテク商品の場合に得てして起こるこの現象をジェフリー・ムーアが「キャズム(溝)」と名付けた。アーリーアダプターと大衆を溝が断絶してしまうのだ。

 何がキャズムとして存在するのかをロジャースの「イノベーション普及要件」で検証してみよう。
 ①相対優位性:いままでと比べて明らかな優位性があることが認識できることがキモだが、初心者が展示してある実機をちょっといじってもわからない。
 ②両立性:いままで使用していたものから完全に切り替えることなく併用できればハードルは下がる。だが、携帯は機種変更してしまうので両立性はない。
 ③複雑性:複雑すぎないことは重要要素であるが、操作方法が根本から異なるスマホは初心者にとっては複雑怪奇だ。
 ④試行可能性:「お試し」ができることも極めて重要だが、展示実機で試せる機能は少ない。かなりネックになる「入力」は、どの機能・アプリを選択すれば実感できるかわかる初心者は少ないだろう。
 ⑤観察可能性:目に見える明らかな効果を示すことが最後のキモだが、そこまで辿り着ける初心者はごく少数だろう。
 つまり、一般大衆である初心者の前には、実は広大なキャズムが広がっているのだ。

 <MM総研(東京・港)によると、2011年度のスマホの国内出荷台数は前年比2.3倍の1986万台になる見通し>と、10月12日付の日経MJ記事にあった。いつの間にやら記事中の表記も「スマートフォン」から「スマホ」に改められている。略称が一般的になったということだけでなく、毎日の紙面各記事でも頻出するからだろう。まさにスマホは普及の成長期真っ盛りとなっている。ということは、無事「キャズム」を超えたのだろうか。しかし、筆者はそう思わない。
 ロジャースの論では一般大衆を「アーリーマジョリティー(前期大衆)」と「レイトマジョリティー(後期大衆)」の2つに分類している。先日亡くなったスティーブ・ジョブズが世に送り出したiPhone。追撃するAndroid。それに煽られたアーリーマジョリティーが使用法や使い勝手を精査せずに前倒しで採用したのが現状だろう。この後、レイトマジョリティーとの間にこそ、キャズムが広がるはずだ。

 それを見越していま、従来の携帯電話、いわゆるガラケーから買い換えようとしている「スマホ初心者対応」を家電量販店各社は最優先課題と設定したようだ。日経MJ記事のタイトルには「スマホ初心者取り込みへ エイデオン、相談員増設 ビックは専用カウンター 客への商品説明重視」とある。エイデオンは「スマートフォン教え隊」という腕章を付けた販売員を最大で全国350店舗に設置。ビックカメラはスマホ専用カウンターを、グループ会社である「ソフマップ」に続いてビックカメラ本体の店舗にも拡大するとのことである。まさに手取り足取りで「試行可能性」を実現し、「複雑性」を受容させ、「相対優位性」を実感させる構えだ。

 上記のような施策にも人数的に限界がある。せっかくの担当者やカウンターの配置でも、そこが手一杯で放置されたのであればガッカリ感たっぷりになってしまうのは間違いない。
 これからのスマホの普及、そして量販店やショップでは、いかに確実な「手取り足取り」を実現するかが成功のカギ(KSF=Key Success Factor)となってくるだろう。

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2011.10.11

移ろう人の心と支援の輪:ビッグイシューのおじさんから教わったこと

 雑誌「ビッグイシュー(BIG ISSUE)」はホームレスの自立支援を目的としている。定価300円に販売を担当するホームレスの取り分160円が含まれている。7冊売れば路上ではなく1泊千円前後の簡易宿泊所で眠れる。お金を貯めてアパート賃貸・住所を取得し新たな就職をすることを目標としている人も多い。
 有楽町駅前のビッグイシュー販売員と知り合って、もう1年が経とうとしている。彼から多くのことを学ばせてもらった。その経緯は以下のリンクの通りだ。

 【「BIG ISSUE」のおじさんに教わったこと】
 http://kmo.air-nifty.com/kanamori_marketing_office/2011/08/big-issue-8993.html

 その彼から、気になることを聞いた。

 「さっぱり売れないですよ」。
 彼の人なつこい目がくるっと動いて、珍しく弱音を吐いた。簡易宿泊所から新宿にあるビッグイシューの東京事務所に行って新刊を仕入れ、自分のエリアの有楽町駅前に経って売り、再び簡易宿泊所に戻る。その電車賃で赤字になるときも少なくないという。つまり、1日に3~4冊も売れないのだ。確かに全32ページで300円は雑誌としては高い。だが、その背景を理解した人に支えられていたはずなのだ。
 売上が激減したのは震災直後からだという。確かに東日本大震災は、業種・業態・規模を問わず業績に大きな影響を与えた。ビッグイシューが売れなくても無理からぬことだ。だが、最悪期を脱した業種も多い中、戻りの遅さが気になる。

 「人が入れ替わってしまった感じなんです」。
 彼は売れなくなった原因を分析している。筆者のように彼からビッグイシューを買うために有楽町に立ち寄る継続購入客はともかく、通りがかりにたまに買ってくれる客がさっぱり現れなくなったという。
 震災後の「直帰志向」。仕事帰りに買い物をしたり飲んだりせずに、真っ直ぐ家路を目指す人が増えたとメディアが伝えている。その影響が出ているのだろう。
 
 街は時々に応じて表情を変え、そこに集う人々も入れ替わる。それは自然なことだ。だが、問題は、「顧客数=新規客数+固定客数-逸失顧客数」の「新規顧客獲得」ができないことだという。

 「ホームレス支援なんてものは、順番は最後ですよ」。
 彼は少し悲しそうに笑った。雑誌が売れないだけでなく、ホームレス支援団体の炊き出しなどに影響が出て、震災直後は人々からの支援は被災地に集中し、ホームレス向けの物資が集まらずに実施されないことも多かったという。

 彼は駅前で並んで人々に声をかける日本赤十字の献血募集の人とよく話すという。震災直後は協力者が列をなし、需要をオーバーして断るケースもあったという。人々の「人のために」という意識の高まりの結果だろう。
 「もっとも最近は協力者がかなり減ったって聞きましたよ」。
 震災後半年の8月頃までは活況を呈していたものの、協力者は徐々に減り、ついには例年割れしそうだということなのだ。

 震災によって「人のために」という意識が高まるのはとてもいいことだ。
だが、それが一点に集中し、他にも手助けを必要とする人のことが忘れられてしまったとしたら・・・。
さらに、それが一過性のブームのように忘れられてしまっていくのだとしたら・・・。

 街ゆく人は入れ替わり、その心も移ろいゆく。だが、人が支援をしたあとにも支援を必要としている人の生活は続く。支援という行為が想い出に変わっても、支援を必要とする人の生活は現実なのだ。

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2011.10.07

「白ブリーフ」と「ピンヒール」から次のヒットを読み解く

 流行を見極めるのは難しい。かといって、やみくもに動いてもヒットは生まれない。今回は、逆張り的トレンド予想について考えてみよう。

 男性なら子ども時代、多くの人がお世話になったであろう白いブリーフ。だが、オトナになって履くと「オヤジっぽい」「女性にモテない」とネガティブなイメージがついて回り敬遠される存在となる。ところが、昨今復権の兆しがあるという。
 <節電の影響もあり男性用白いブリーフの需要が徐々に増加中>(週刊ポスト2011年9月16・23日号)
 http://www.news-postseven.com/archives/20110910_30384.html

 上記記事では「見た目の涼やかさ」や「薄い色のパンツでも透けない」など、夏季限定要素がクローズアップされているが、販売現場には節電によるフロックではないデータがある。「ファッションセンターしまむら」の肌着売り場で、前年比10%増のペースで売れ続ける隠れたヒット商品になっているというのだ。(日経MJ2011年10月7日)。理由は同社担当者によれば、「業界が合成繊維一辺倒になった余波」だと指摘している。同記事のタイトルは「ヒートテック全盛時代に・・・あえて麺肌着を売る/中高年は肌触り重視“置き去り市場開拓”」とある。

 ユニクロを傘下に持つファーストリテイリングは猛暑の続く8月25日に、2011年秋冬シーズンのヒートテックの販売目標を発表した。前シーズンの8000万枚から25%増とし、何と1億枚の大台に乗せるというのだ。目標をクリアするため商品の魅力もさらに高めた。男性用には消臭、女性用には保湿と軽量化の新機能を加えたのである。ヒートテックを追撃せんと、大手流通もこぞって機能性肌着を展開する。そんな中、記事では京王百貨店のヒット商品「天使の綿シフォン」を取り上げている。07年から扱う綿100%のカットソーで、1商品で30枚売れればヒットという相場の中、今年9月に200枚が売れたという。ヒートテックとは桁がいくつも違うが、口コミで人気が拡大し、いまでは衣料業界関係者が視察をかねて買いに来るほどだとある。

 ヒットしているのは中高年ターゲットの“置き去り市場開拓”だけではない。10月5日付日経新聞・消費面のコラム「消費の現場」のタイトルは「ピンヒールで美脚に磨き」だった。記事は京都市内の専門ビルオーパ2に登場した、ピンヒール専門売店「ミラーダロイヤル」を取り上げている。厚底のウェッジソールなどは扱わない。かかとの細いピンヒールが女性の心をくすぐるのだという。同店の担当者がコメントしている。「東日本大震災後は歩きやすいそこの平らな靴が人気だったが、夏頃からは対極ともいえるピンヒールが売れ始めた」といい、都内の百貨店でも同じ傾向にあるため東京での出店も検討中であるという。

 モノゴトは、一方に振り切った時にはその反動が出る。「反動需要」だ。「メガフードブーム」が顕著な例である。2007年に「メガマック」が人気を集め、2008年頃には牛丼、コンビニ弁当、カップ麺など様々な食品に飛び火した「メガブーム」は、それまでの健康志向の高まりや2008年度から法制化された「メタボ検診」などへの反動的需要であるといえる。
 その文脈からすると、「ファストファッションバブル」もそろそろ崩壊するのではとも考えられる。
10月5日付日経MJには、「スペンド・シフト―<希望>をもたらす消費 ―」の著者ジョン・ガーズマのインタビューが掲載されていた。リーマンショック以降の大きなトレンドは、「量より質」になり、「エシカル(倫理的)」であり、生産者の「物語」が求められている。「身の丈消費」という点ではファストファッションはリーマンショック後の価値観に合致しているが、大量画一生産・消費=使い捨という側面はエシカル的には支持され続けるか疑問だ。廉価であることが重要なのではなく、消費者が納得できる価格とストーリーのある中小ブランドが台頭してくる可能性が考えられる。例えば、「マザーハウス」。途上国の貧困克服のため、バングラデシュのジュート(麻)やレザーを用いて作った高品質なバッグを製造・販売する同社のような存在がもっと活躍するようになるかもしれない。

 ヒット商品を作りたければ、ヒットの「反対側」を見ることも重要だ。そして、「逆張り」をする。次のブームを読むには、まずは一つの方向に振り切った状態を見つけることから始めたい。

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2011.10.05

【連載リンク】金森努のロングセラー商品の戦略を聞く!・第8回:富士重工業「レガシィ」

 今回は富士重工業の「スバル・レガシィ」。

 このクルマの歴史を読み解くと、いかに時代を先取りし、その波に乗って売れ続けているかがよくわかる。しかし、「波に乗る」という表現は的確ではないかもしれない。レガシイが行ってきたのは流行を追うのではなく、常に「新しい価値」を示し続けてきたことなのだ。では、なぜ長きに渡ってそれが可能になっているのか。それは、「ターゲティングとポジショニングのブレのなさ」によるものなのだ・・・。


 <金森努のロングセラー商品の戦略を聞く!・第8回:富士重工業「レガシィ」>

 ○記事はこちらから!→http://tinyurl.com/3rc35h4

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2011.10.03

キングジムはなぜ、「自習室」を経営するのか?

 「パイプ式ファイル」を1954年に開発し、登録商標を取得してファイルのシェア最大手となったのは、誰しも知るキングジム。同社はビジネスパーソン向けの会員制自習室「アカデミーラウンジ」を池袋で運営し、10月3日に水道橋に2号店をオープンさせている。それはどのような背景からなのか、考察してみよう。

 「PEST分析」というフレームワークがある。PESTはマクロ環境を構成する4つの要素の頭文字だ。Political=政治的な規制事項の影響要因・Economical=経済環境の影響要因・Social=社会情勢の影響要因・Technological=技術的成熟度の影響要因という4つ。その切り口で自社や自社の属する業界に大きなインパクトを与える要因がないか。あるとしたら、それはプラスに作用するのか、マイナスに作用するのかといったことを洗い出していく。

 企業が使うファイルや文具を主たる商材としている同社にとって、何といってもEconomicalの環境悪化は大きな影響要因だ。バブル崩壊後の「失われた20年」と、続く「リーマンショック」。冗費削減のためファイルもぼろぼろになるまで使い回される。さらにPoliticalとTechnologicalとしては2004年成立の「e-文書法(民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律)」が挙げられるだろう。同法によって、<紙として保存された文書をスキャンして画像ファイルとしたものに対しても、一定の要件を満たせば正規の文書として認められるようになった>(Wikipediaより)。
 マイナス要因ばかりではない。Socialとしては、不景気は「企業内個人」という考え方の原動力ともなった。会社の歯車としてではなく、自立して生き抜いていくことを目指す動きである。裁量労働制の広がりなども後押ししているといえるだろう。スキルアップと生産性向上のために会社に頼らず、自分に投資をする人が増えた。資格取得や英語などのスキル習得、ビジネススクールなどでの学習にともなう予復習の場が求められる。「自習室」に対するニーズは高い。スターバックスなどのカフェの店舗を見れば、そのニーズを持った人がいっぱいだ。

 「どこでもデジタルデータでメモが取れる」という利便性が受け、累計10万台以上を販売したテキスト田用入力マシン、「ポメラ」。2009年の日経MJヒット商品番付にも入った。同商品はノートPCの起動の遅さ、バッテリーの持ちの悪さ、サイズの大きさなど、ビジネスパーソンの不満=未充足ニーズの解消を徹底的に追及した商品だ。ポメラを企業単位で導入したという事例は聞かない。10万台を支えている多くは、自身の生産性向上ニーズを持つビジネスパーソンだ。自習室との親和性も高い。また、ニュースリリースで<「自習室」は、近年その数が増加していますが、1席を1ヶ月単位で貸し出すスタイルが主流で、料金も1ヶ月1万5千円以上かかるケースが多いのが現状です。また、無人営業の店舗や、古い建物で営業している店舗も多く、誰もが気軽に安心して利用できるといったものではありませんでした>と未充足ニーズに応える狙いを明らかにしている。

 「アカデミーラウンジ」の利用料金は、例えば「平日夜プラン」では 平日) 18:00~23:00で月額 7,800円(税抜き)と格安だ。10月3日付日経MJの記事によれば、2014年までに10店舗に拡大し、同事業の売上目標を2億円に置いているという。連結決算で約300億弱の売上を持つ同社としては大きなものではない。だが、多店舗展開を進める意図は売上だけではない。そこに集う人々のインサイト、吸い上げる「顧客の声」は新たな製品開発に活用できるという好循環も期待できるのである。

 「何でも時代のせいにしてれば、そりゃ楽だ」。
 炭販売の老舗に生まれ、慶応義塾卒業の翌年に新宿に書店を開業。矢継ぎ早に多店舗展開し、日本の大手書店、紀伊国屋書店に育てた田辺茂一(たなべ・もいち)の言葉だ。(「心に響く名経営者の言葉」ビジネス哲学研究会・編・PHP)1980年にラジオのインタビューで「炭屋の片隅ではじめた本屋が日本一になるような時代はもう来ないでしょうね」と問われたコメントだという。
 「時代のせい」にしないためには、何が問題で、どこにチャンスがあるのかを明確にしなくてはならない。キングジムは事務機という「物売り」から自習室という「サービス業」へと業態を拡大した。そして、そこからさらにヒット商品のタネを見つけ出そうという意図が浮かぶ。その姿勢から学ぶところは大きい。

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