「ニッチなヤツ」を狙うエドウィンの戦略
9月7日付日経MJの第一面記事は、ジーンズのエドウィンが飾った。ファーストリテイリングや大手流通グループが市場に投入した低価格ジーンズに圧されて生産量が縮小する国内ジーンズ市場において、同社はいち早く下げ止まり今年は反転攻勢を見込むという。その秘策は何だろうか。
記事のタイトルは「老舗エドウィン コラボ斬新」。「タカラトミーと人形・釣り用ジーンズ」とコラボの例がサブタイトルとなっている。前者は高伸縮性ジーンズ「503ZERO」の生地を動物キャラクターに用い、可動式関節の動きにも対応する製品を作り上げたものだ。後者は釣り具最大手のグローブライトと釣り竿を保持する専用穴を付けたジーンズを開発したという。
記事のコラボ事例の一覧を整理し直すと、方向性は大きく4つあるようだ。
1つはメジャーコラボ。バンダイと男児に絶大な人気を誇る戦隊もの「ゴーカイジャー」、女児に長期にわたり人気が受け継がれている「プリキュア」を題材にした子供服を製作。光文社とは雑誌・STORYが打ち出す「美魔女」をイメージした女性用体型補正ジーンズを開発。ニューヨーカーとは「ジャケットなどにも合う大人に向けたジーンズ」を開発し各店で販売した。
2つめはニッチな人気を誇るキャラクターとのコラボ。ゲーム開発・販売のイグニッション・エンターテイメント・リミテッドとはPLAYSTATION3とX-Box用ゲーム「El Shaddai」のキャラクターがゲーム中で着用するジーンズを開発した。サンリオとは、うさぎのマイメロディーのライバルキャラ「クロミ」を題材とした子供服を作った。前出のタカラトミーとの人形はオリジナルで作られたものであるが、これもニッチキャラに類することができるだろう。
3つめは「オシャレがわかるターゲット」に向けたコラボ。カフェ企画・運営のカフェ・カンパニーとはエドウィングループのリー(Lee)ブランドでオシャレカフェ向けのユニフォームを開発した。同リーブランドでは記事にはないが、ヴィヴィアンウエストウッドとTシャツやジーンズのコラボ製品を製作・販売している。
4つめは特殊用途。事例は前出の釣り用しかないが、今後増えてくるように思う。
ハーバード大学経営大学院教授のマイケル・ポーターは「事業戦略の3類型」を示した。コスト競争力で勝っていく「コストリーダーシップ戦略」。差別化をして競争相手より優位に立つ「差別化戦略」。特定分野に的を絞り、経営資源を集中する「集中戦略」である。
ファーストリテイリングや大手流通グループの戦略は極めてわかりやすい「コストリーダーシップ戦略」だ。1億枚というヒートテックの今シーズンの販売目標数が示すように、同社の規模の経済・調達力に敵うものはいない。コストリーダーは通常、業界の中でただ1社しか存在し得ない。そして、それに対抗するためには「差別化」が必要だ。しかし、ユニクロの提供価値の要は「価格を上回る品質」であり、その実現・維持のために多大なコストを投じているため、中途半端な差別化では敵わない。いや、ジーンズというデザイン性や品質において大きな差別化要素を示しにくい製品でそれを行おうとしてきたことこそが、今日の国内ジーンズメーカーの苦境を引き起こしたともいえる。そこで、とるべき戦略が集中戦略なのである。
集中戦略のキモはターゲティングだ。消費者全般をターゲットとするのではなく、「特殊用途のユーザー」であったり「マニア」であったり。そうしたニッチを一つ一つ取り込んでいくのがエドウィンのコラボ戦略の基本である。その意味では上記分類の1番目はまだ大きなターゲットのカタマリであるが、2つめのゲームキャラは人気ゲームとはいえ万人が知るものではない。「クロミ」は「マイメロディー」というメインキャラではなく、あえてライバル役とのコラボであり、その「悪役キャラながら、どこかドジっ子」という設定にシンパシーを感じる人を狙っているのだ。3つめのヴィヴィアンウエストウッドはそのタイトなシルエットから1番目のニューヨーカーなどと比べて着る人を選ぶ。カフェ・カンパニーのカフェは、ただのカフェではない。オシャレにこだわっているのだ。さらに4番目の「釣り」は若年層の取り込みによってメジャー化を図りつつあるが、まだまだマイナーだ。
「集中する」ということは「捨てる」ことでもある。「集中と選択」というわりには、「選択しても集中できていない戦略」が散見される。「捨てる勇気」が持てないのだ。ニッチに集中して独自の生存領域を次々と確保していくエドウィンのコラボ戦略から学ぶものは大きいだろう。
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