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2011.09.29

トヨタ軽自動車・価格のナゼ?

 トヨタが軽自動車に参戦した。その名は「ピクシス」。ダイハツからのOEM供給だが、気になるのはその価格。112万~168万円だという。供給元のダイハツも新型軽自動車「イース」の発売を発表しているが、燃費がリッター30Kmとガソリンエンジン車としては最高クラス。にもかかわらず、価格は79万8千円からだ。あまりに違う両社のスタンスのナゾを考察してみよう。

 価格設定には3Cの視点を持つことが必要となる。競合視点・自社視点・顧客視点である。

■トヨタの敵はトヨタ?

 製品は常に競合と比べられる。それを意識した競合視点を「競争志向」の価格設定という。競合となり得る商品を特定し、競合と全く同じ価格にするのか、その上下、何パーセントぐらいに設定するかを考えることになる。
 では、「ピクシス」の競合となる存在は何だろうか。もちろん、前出の「イース」は同じ軽自動車カテゴリーにおける強力な競合だ。というより、真正面から比べられたら勝負にならない。しかし、より問題となる競合がある。トヨタ内を見回してみれば、小型車の「パッソ」は100万円から。「ヴィッツ」も106万円からと逆転現象を起こしている。もし、「ピクシス」がボディーサイズやエンジン排気量から考えて順当に最安価格の車となったらどうだろうか。そうなれば、一気にトヨタ顧客の軽自動車シフトが始まってしまうかもしれない。自社内でのカニバリ(共食い)だ。

■販売目標数の足かせ

 自社視点を、「原価志向」の価格設定という。自社で製品の生産にかかったコスト(固定費+変動費=原価)にいくら利益を上乗せしていこうかと考える方法だ。しかし、「ピクシス」の場合、ダイハツからのOEM供給である。トヨタのお家芸である原価低減効果を社内で発揮することは難しい。
 さらに、供給元であるダイハツに対しても強気に出られない事情がある。原価低減に効くのは「規模」だ。大量生産・販売すれば、商品1つあたりの固定費率を低減できる「規模の経済」という。規模はとにかく自動車の価格設定における一大要因である。日産のマーチは99万円からであるが、マーチはタイで生産し、鋼板の品質を落として構造で強度をカバーする工夫をしてまでコストダウンした世界戦略車。軽自動車は日本限定の規格。スケールメリットの差が逆転に現れているまた、規模化すると固定費だけでなく変動比率、特に人件費の低減も図ることができる。生産量が増すと習熟度が上がり、単位時間あたりの生産性が向上するからだ。その結果、生産量に対する、その担当者の人件費が安くつくことになる。しかし、メディアの伝えるところによれば、「ピクシス」の販売目標台数は軽自動車市場160~170万台のうち6万台であるという(9月27日付YOMIURI ONLINEより)。

■顧客への提供価値は何か?

 顧客視点を「需要志向」の価格設定という。端的に言えば、この視点は「顧客がその製品にどれだけの価値を感じてくれるか」ということだ。
 <軽の比率が52%と全国3位の長崎県も重点地域。長崎、佐賀県を地盤とする西九州トヨタ自動車(佐賀市)の石井俊彦専務は「クラウンやプリウスが販売の中心だが、軽需要を取り込まないと生き残れない」と期待を込める>(同YOMIURI ONLINE)という。顧客は車のイニシャルコストだけで判断するわけではない。軽自動車は車両税、燃費、保険などのランニングコストが安い。さらに、一部地域を除き車庫証明不要なので、「すぐ乗れる」というメリットもあり、震災被災地域などで軽自動車が求められる大きな要因となっている。では、トヨタが顧客に提示できる提供価値は他にないのかといえば、そこは「トヨタブランド」の価値が効いてくる。製品に対する信頼だけではない。メンテナンスなどをしてくれる販売店に対するロイヤルティーも大きな要素だ。つまり、6万台程度の販売目標であれば、自社の販売力で競合となる他社の軽自動車との価格差を埋めることができるという計算だろう。

■「いつかはクラウン」か?

 「ピクシス」は<全国の3095店を通じて販売する。軽を足がかりに顧客層を広げ、将来的には普通車への買い替えを促す戦略だ。特に、保有自動車に占める軽の割合が過半数の地域で攻勢をかける>(同YOMIURI ONLINE)という。トヨタはオールラインアップメーカー故に、顧客の要望があれば軽自動車も取りそろえなければならない。そして、買い換えのたびに上級車にシフトさせる「出世魚方式」が販売店の伝統だ。
 1991年にバブル経済は崩壊したが、話はRV車「RAV4」が発売された94年に遡る。当時、激震が走ったと筆者は販売会社の担当者から聞いたことを思い出す。クラウンに乗っていた高齢ドライバーが、突然RAV4に買い換えるという事例がいくつも出たというのだ。高齢ドライバーにとって「取り回しのよさ」は切実な問題だ。RAV4は、車体の短かさと運転席が高いことによる見通しの良さがKBF(Key Buying Factor=購買決定要因)となったのだ。今日、当時以上に消費者の価値観は大きく変化している。「出世魚方式」はいつまでも通用しないだろう。

「レガシイ」「インプレッサ」などのスポーツタイプの車種に特化したスバル自動車は、ラインアップの中から軽自動車をあえて来春から外し、撤退するという。一方、前述の通り世界戦略車「マーチ」を抱える日産自動車は、三菱自動車と開発会社を共同設立した。トヨタはどのように「本気出す」のだろうか。その時、どのような価格戦略をとってくるのか。その時が楽しみである。

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