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2011.09.29

トヨタ軽自動車・価格のナゼ?

 トヨタが軽自動車に参戦した。その名は「ピクシス」。ダイハツからのOEM供給だが、気になるのはその価格。112万~168万円だという。供給元のダイハツも新型軽自動車「イース」の発売を発表しているが、燃費がリッター30Kmとガソリンエンジン車としては最高クラス。にもかかわらず、価格は79万8千円からだ。あまりに違う両社のスタンスのナゾを考察してみよう。

 価格設定には3Cの視点を持つことが必要となる。競合視点・自社視点・顧客視点である。

■トヨタの敵はトヨタ?

 製品は常に競合と比べられる。それを意識した競合視点を「競争志向」の価格設定という。競合となり得る商品を特定し、競合と全く同じ価格にするのか、その上下、何パーセントぐらいに設定するかを考えることになる。
 では、「ピクシス」の競合となる存在は何だろうか。もちろん、前出の「イース」は同じ軽自動車カテゴリーにおける強力な競合だ。というより、真正面から比べられたら勝負にならない。しかし、より問題となる競合がある。トヨタ内を見回してみれば、小型車の「パッソ」は100万円から。「ヴィッツ」も106万円からと逆転現象を起こしている。もし、「ピクシス」がボディーサイズやエンジン排気量から考えて順当に最安価格の車となったらどうだろうか。そうなれば、一気にトヨタ顧客の軽自動車シフトが始まってしまうかもしれない。自社内でのカニバリ(共食い)だ。

■販売目標数の足かせ

 自社視点を、「原価志向」の価格設定という。自社で製品の生産にかかったコスト(固定費+変動費=原価)にいくら利益を上乗せしていこうかと考える方法だ。しかし、「ピクシス」の場合、ダイハツからのOEM供給である。トヨタのお家芸である原価低減効果を社内で発揮することは難しい。
 さらに、供給元であるダイハツに対しても強気に出られない事情がある。原価低減に効くのは「規模」だ。大量生産・販売すれば、商品1つあたりの固定費率を低減できる「規模の経済」という。規模はとにかく自動車の価格設定における一大要因である。日産のマーチは99万円からであるが、マーチはタイで生産し、鋼板の品質を落として構造で強度をカバーする工夫をしてまでコストダウンした世界戦略車。軽自動車は日本限定の規格。スケールメリットの差が逆転に現れているまた、規模化すると固定費だけでなく変動比率、特に人件費の低減も図ることができる。生産量が増すと習熟度が上がり、単位時間あたりの生産性が向上するからだ。その結果、生産量に対する、その担当者の人件費が安くつくことになる。しかし、メディアの伝えるところによれば、「ピクシス」の販売目標台数は軽自動車市場160~170万台のうち6万台であるという(9月27日付YOMIURI ONLINEより)。

■顧客への提供価値は何か?

 顧客視点を「需要志向」の価格設定という。端的に言えば、この視点は「顧客がその製品にどれだけの価値を感じてくれるか」ということだ。
 <軽の比率が52%と全国3位の長崎県も重点地域。長崎、佐賀県を地盤とする西九州トヨタ自動車(佐賀市)の石井俊彦専務は「クラウンやプリウスが販売の中心だが、軽需要を取り込まないと生き残れない」と期待を込める>(同YOMIURI ONLINE)という。顧客は車のイニシャルコストだけで判断するわけではない。軽自動車は車両税、燃費、保険などのランニングコストが安い。さらに、一部地域を除き車庫証明不要なので、「すぐ乗れる」というメリットもあり、震災被災地域などで軽自動車が求められる大きな要因となっている。では、トヨタが顧客に提示できる提供価値は他にないのかといえば、そこは「トヨタブランド」の価値が効いてくる。製品に対する信頼だけではない。メンテナンスなどをしてくれる販売店に対するロイヤルティーも大きな要素だ。つまり、6万台程度の販売目標であれば、自社の販売力で競合となる他社の軽自動車との価格差を埋めることができるという計算だろう。

■「いつかはクラウン」か?

 「ピクシス」は<全国の3095店を通じて販売する。軽を足がかりに顧客層を広げ、将来的には普通車への買い替えを促す戦略だ。特に、保有自動車に占める軽の割合が過半数の地域で攻勢をかける>(同YOMIURI ONLINE)という。トヨタはオールラインアップメーカー故に、顧客の要望があれば軽自動車も取りそろえなければならない。そして、買い換えのたびに上級車にシフトさせる「出世魚方式」が販売店の伝統だ。
 1991年にバブル経済は崩壊したが、話はRV車「RAV4」が発売された94年に遡る。当時、激震が走ったと筆者は販売会社の担当者から聞いたことを思い出す。クラウンに乗っていた高齢ドライバーが、突然RAV4に買い換えるという事例がいくつも出たというのだ。高齢ドライバーにとって「取り回しのよさ」は切実な問題だ。RAV4は、車体の短かさと運転席が高いことによる見通しの良さがKBF(Key Buying Factor=購買決定要因)となったのだ。今日、当時以上に消費者の価値観は大きく変化している。「出世魚方式」はいつまでも通用しないだろう。

「レガシイ」「インプレッサ」などのスポーツタイプの車種に特化したスバル自動車は、ラインアップの中から軽自動車をあえて来春から外し、撤退するという。一方、前述の通り世界戦略車「マーチ」を抱える日産自動車は、三菱自動車と開発会社を共同設立した。トヨタはどのように「本気出す」のだろうか。その時、どのような価格戦略をとってくるのか。その時が楽しみである。

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2011.09.28

変貌する銀座・有楽町の姿を俯瞰する

 街は生き物のように進化し変貌し続ける。そして、そこに集う人々も様変わりしていく。今回は銀座・有楽町エリアの表情を覗いてみよう。

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 高級ブランドとデパートが建ち並び、人々の夢とあこがれを集める大人の街、銀座・・・という認識はもう古い。その街並みと客層はすっかり変わっている。また、上記のように表現されるとき、近隣の有楽町は銀座とひとくくりに語られることが多いが、そこもまた大きな変化の時を迎えようとしている。

 銀座・有楽町エリアの地理感をざっくり押さえよう。両エリアを縦に貫くのは晴海通りで、中心点は4丁目交差点。晴海通りを中心に4、5丁目で分ける。皇居を背にして左手に1~4丁目、右手に5~8丁目。晴海通りと直行するのが通称銀座通りと呼ばれる中央通り。休日の歩行者天国でも有名な銀座の中心街である。中央通り平行しているのが有楽町に外堀通り、晴海方面が昭和通りだ。

 その中心街たる中央通りの新橋方面・5丁目側には百貨店の松坂屋が店を構えているが、実はそのエリアの特徴は従来の大人・高級という風情ではない。言い換えてみれば、外国人・ファストだ。ファストは、「ファストファッション」のこと。ユニクロ、H&M、ZARA、フォーエバー21が軒を揃える。フォーエバー21は2013年から始まる建て替えまでの期間限定契約とはいえ、松坂屋にテナントとして入居している。客層で目立つのは外国人。欧米人もいるが、中国人が圧倒的に多い。フォーエバー21同様、松坂屋に入居している中国資本となった家電量販店・ラオックスも集客に一役買っている。晴海通りの反対、京橋方面の4丁目側にはアップルストアなど目新しい店もあるが、三越と松坂屋が構えているため、旧来からの百貨店ゾーンといえるだろう。特に三越は2010年秋に売り場面積を1.8倍に増床した。三越、松坂屋の買い物袋を下げた人が目立つ。

 その百貨店ゾーンはさらにこの秋、活性化のために新たな展開を行う。松屋と三越の共同販促だ。長年のライバル関係にありつつも松屋は伊勢丹と提携しており、三越と伊勢丹の経営統合によって微妙な関係となっていたが、両社活性化と地域の盛り上げのため呉越同舟が実現したのだ。「ギンザファッションウィーク」と題して10月19日~25日の間、松屋と三越のロゴのが仲良く並んだ共通の紙袋を使用し、婦人服売り場での共同のショーなどを開催。2万円以上の買い上げ客にトートバックをプレゼントするなどの施策を展開する。

 銀座エリアにアクセスするには、地下東京メトロ鉄銀座線、丸ノ内線銀座駅か有楽町線の銀座1丁目駅、都営浅草線東銀座駅を利用するか、JR有楽町駅から歩くかが一般的だ。有楽町駅からのアクセスは有楽町駅を降りて「マリオン」を通り抜け、晴海通りに出て晴海方面に下っていくのが一般的だった。マリオンにいくつも入っている映画館に立ち寄る人も多い。

 明らかに人の流れが変わったのが2007年のことだ。9月に有楽町近くの外堀沿いに東急ハンズやユナイテッドアローズが入居した「マロニエゲート」がオープン。続いて10月に有楽町駅前に丸井が入居した「有楽町イトシア」が開業した。マロニエゲートの東急ハンズは5階~9階部分の約1,200坪を占め、「自分環境・暮らし環境のクオリティアップ」を提案する新しいフラッグシップ店と位置付けられている。また、ユナイテッドアローズも地階から1階にかけて原宿本店に次ぐ約236坪で展開している。イトシアの丸井も顧客の中心である学生層に加えて、丸井を卒業した若い社会人を呼び戻すという新基軸を打ち出し、オープン当日は平日にもかかわらず大盛況となった。そして、集う人と、人の流れが変わった。従来になく若い層が集まってきた。一様に渋谷や池袋など他の街に出かけるときよりオシャレをしている。そして、JR有楽町駅を降りたらマリオン・晴海通り方面に行かず、駅前のイトシアからマロニエゲート周辺を回遊する。

 有楽町エリアをさらにパワーアップしたのが、9月1日にオープンした。1998年5月30日から2000年12月13日まで宝塚劇場建て替えのため、東京都旧丸の内庁舎跡地に開設されたTAKARAZUKA1000days劇場跡をビックカメラテレビ館とリサイクルショップのコメ兵、無印良品が利用していた。ビックカメラとコメ兵が撤退した跡に「有楽町ロフト」がオープンしたのだ。同時に無印良品もリニューアルし、客層の近い両店の相乗効果で集客力は増し、エリアの魅力を高めている。

 マリオンはどうなるのかといえば、半分はしっかりと有楽町エリアの中核となるはずだ。半分とは、昨年12月25日に閉店した西武有楽町店の後継テナントとして10月28日にオープンする「有楽町ルミネ」のことである。若年層向けの低単価高回転商品を中心とした館造りで定評のあるルミネが、20代後半~30代の「大人の男女」をターゲットとして「これって、Otona?」をキーワードに新コンセプトで展開する。
 マリオンの双璧、阪急はどちらかといえば女性がメインのルミネに対して、ターゲットを完全に男性に絞って10月15日に「阪急MEN'S TOKYO」としてリニューアルオープンする。ストアコンセプトは「おしゃれにこだわる大人の男のための高感度メンズファッションストア」であるといい、スペシャリティーストアとしての性格を打ち出している。売り場面積が狭い館であるため、ターゲティングとポジショニングを明確化しているのだ。恐らく、JR有楽町駅の裏から東京駅丸の内口前の丸ビル・新丸ビルの間まで伸びるブランド店街「丸の内中通り」と性格が似ているのではないだろうか。だとすれば、うまくその導線が作れれば街が拡大し、面白いことになるだろう。

 かつて流通は商圏内の「地域一番店」を目指した。しかし、銀座松屋・三越の共同販促での呉越同舟の例だけでなく、有楽町エリアの活性化は、流通各社がドミナント(船団)を組んでいるように見える。それは、人口縮小と消費者の価値観・趣味の多様化に原因があるのだろう。高度成長からバブル経済の頃は、新規客として価処分所得が上昇した人が増えたり、農村部から人が流入したりして、市場のパイは拡大した。だが、人口縮小と経済停滞で拡大はもはや望めなくなった。個別の競争をしている場合ではない。ドミナント的にエリア(街)の魅力を高め、かつ、ターゲットを明確にして確実な顧客取り込みと囲い込みを果たすしかないのだ。他のエリアと客を取り合う「街間競合」の時代になったのである。

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2011.09.26

「伊右衛門グリーンエスプレッソ」は誰を狙っているのか?

 コンビニで異彩を放つあの商品。飲料の新商品導入ではとりわけコンサバティブなセブンイレブンでも先週、緑茶飲料棚の一角をついに確保した。しかし、別のチェーンではコーヒー飲料棚の端に陳列されている例もある。さて、誰を狙っているのだろう。

 緑茶飲料のパイオニアといえば、伊藤園の「お~いお茶」。長らくトップの座を守っている。チャレンジャーが現れたのは2000年のこと。松嶋菜々子が「お茶にも生があったんだ」と、柔らかな甘みを感じさせる緑茶の新しい味を訴求しキリンビバレッジ・「生茶」が「お~いお茶」を追い上げた。両ブランドの死闘が続く中、2004年に彗星の如く現れたのがサントリー・「伊右衛門」である。老舗・京都福寿園の茶匠が選んだ茶葉だけを使用するという、「お~いお茶」の伝統・本格派という訴求と真っ向対決する価値を世に打ち出た。本木雅弘演じる茶匠・伊右衛門と、宮沢りえが演じるその妻を中心とした世界観が広がるCMも人気で、一気に生茶のシェアを抜き去った。

 そんな伊右衛門ブランドから市場に投入された新商品は、何と「エスプレッソ」である。
 サントリーのニュースリリースによると、<抹茶の深いコクと余韻を愉しめる新しいタイプの緑茶飲料>であり、<“エスプレッソコーヒーのような濃厚でコクのあるお茶”であることをお伝えするため、商品名は「Green ESPRESSO(グリーンエスプレッソ)」>であるという。本木雅弘が舟に乗り周囲を眺めると、水墨画の風景が広がっていくという印象的なCMも大量に流されている。
 商品のパッケージ(外見)も印象的だ。黒のストライプをベースに、抹茶の粉末を鮮やかな緑色で控えめに表現しつつ、背景に“和”のイメージとして松の木のイラストがあしらわれ、CMの水墨画の世界観と連動している。ボトルは口広ボトル缶で、香りを強調するアロマ系のコーヒーと見まごうばかりの仕上がりだ。
 中身はといえば、あえてボトルからコップに移し替えてみるとその色にちょっと驚く。イメージしていた抹茶の鮮やかな緑ではなく、渋そ~な深緑をしている。花王のトクホ飲料「ヘルシア緑茶」のようだ。だが、その味に渋みは全くなく、何よりも馥郁たる風味が立ち上る。外見・中身・風味のバランスが極めて良いことから、CMで認知し、店頭で商品パッケージを手に取って見れば一度試しに飲みたくなり、飲めば風味の虜になるという設計だろう。


 飲料市場の環境を見てみよう。全国清涼飲料工業会の「清涼飲料関係統計資料」によれば、茶系飲料は飲料市場のうち販売量トップを占めている。かつては「お茶は自分で淹れるもの」という日本人の価値観が大きく転換したことがわかる。しかし、右肩上がりは2007年を頂点に反転している。リーマンショック以降、急須で茶葉から淹れることに回帰している様が見える。その他、清涼飲料に関しては全般として右肩下がりが顕著な中、ミネラルウォーターがじわじわと使用量を増すほか、コーヒー飲料は横ばい~微増であるが全体ボリュームは多く、根強いファン層を抱えていることがわかる。
 缶コーヒーはロイヤルユーザーほど1日の消費量が多い。また、加糖・微糖・無糖のカテゴリーがあるが、ヘビーユーザーほど加糖を好みブランドスイッチもしにくい。一方、コーヒー全体で考えるとコンビニのチルド商品や、口広ボトル缶などが「本格」のポジションを狙っている。その中でもチルドにはストレートがなく、口広ボトル缶は香りもにおいて、まだユーザーのニーズを充足できていない。

 では、伊右衛門グリーンエスプレッソは誰を狙っているのか。
 前述の通り、口広ボトル缶で「香り」を訴求し、中身では渋味をなくしほのかな香ばしさのような新しい味を実現している。第1ターゲットは「本格ニーズ」が未充足な状態の缶コーヒーライトユーザーだ。「お茶ならコーヒーに負けない香りと、甘くない本格的な味わいが得られる」というKBF(Key Buying Factor=購買決定要因)を示して取り込む。第2ターゲットは緑茶飲料ユーザーだ。「緑茶の新しい価値」を訴求することによって、緑茶飲料カテゴリーと伊右衛門ブランドからの離反を防止する狙いがあると思われる。
 缶コーヒーユーザーを狙っていると思われる根拠は、前述の異様に凝ったパッケージにある。本屋でマーケティングに興味がない人は、通常マーケティングの本を手に取らない。しかし、ビジネス一般のコーナーに平積みにして、面白い装丁にすれば手に取る可能性は高まるのだ。マーケティングに元から関心のある人も、新奇性で吸引できる。そして、その魅力は飲めばわかるという寸法だ。
 サントリーには香りを楽しむ口広ボトルの「シルキーブラック」がある。その意味では、「グリーンエスプレッソ」とのカニバリ(喰い合い)はある程度発生すると思われる。しかし、缶コーヒーユーザーのうちアロマ嗜好層は最もライトユーザーなので、両商品を併飲するようになるという計算が働いているのではないか。

 久々に登場した、謎めくクロスカテゴリーな新商品である「伊右衛門グリーンエスプレッソ」。実際にはどのような人が、どの程度支持して売れるのか。要チェックである。

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2011.09.20

吉野家は「パンドラの箱」を開けたのか?

 吉野家は「牛鍋丼」を刷新し、同時に「とろりチーズ」などのトッピング小鉢を投入した。そこには重大な意思決定が隠されているのである。

 吉野家が牛丼の具材に豆腐としらたきを加えた牛鍋丼。1年前の発売当初は1ヶ月で1000万食を売り切り販売構成比で50%を超えたが、最近では20%台となっているという。定番として定着した一方、新規客を取り込むインパクトは薄れたため、そのテコ入れであろうと9月16日付日経MJは報じている。

 「売上=客数×客単価」。牛丼は380円。100円安い280円の牛鍋丼をテコ入れして売らねばならないのは、「牛丼戦争」といわれる競合環境の中での生き残りのためだ。同紙では業界最大手・ゼンショーが17日から仕掛ける値引きキャンペーンの記事も掲載されている。「すき家」「なか卯」で各々280円・290円で販売されている牛丼並盛りをどちらも250円に値引く。キャンペーンは今年既に6回目であり、期間も今回は17日間といままでの最長だという。

 客数を増すためには「回転数」を上げることが欠かせない。店舗の繁忙時間は限られている。その時間内にいかに来店客に効率的に提供するかがキモだ。だからといって、店舗スタッフの人数を増やしては最終的には「利益=売上-コスト」なので、収益の低下を招いてしまう。牛鍋丼の刷新はその点にも考慮したものなのだ。
 日経MJの記事タイトルは<「牛鍋丼」刷新 一石二鳥狙う・トッピングで集客・調理場の負担軽減>となっている。厨房オペレーションを単純化し、売り逃しと人件費膨張を回避しているのである。

 新たな牛鍋丼とトッピングは15日から発売され、店舗にも『新味。独自のたれに磨きをかけて新しいうまさになりました。牛鍋丼並盛り280円』というポスターが掲出されている。日経MJに詳説されている刷新のポイントを見てみよう。
 ・従来の牛鍋丼に比べ甘さを抑えよりさっぱりとした味に変え、牛丼に近づけた
 ・低価格化のために一部に使っていた豪州産牛肉を米国産に切り替え、牛丼と共通化。(味の向上だけでなく、具材を煮る鍋を共通化することにより厨房オペレーションを単純化できる)
 ・「追っかけ」と呼ぶトッピングは「とろりチーズ」(90円)と「おくらとろろ」(同)を発売。既存の「ねぎ玉子」と「豆腐しらたき」は量を増やし、計4種となった

 上記の中でも2番目の「牛丼と肉共通化」は実は「禁断の領域」のはずなのだ。例えるなら、ビール。味は酵母で決まる。ビール1位のアサヒは第3のビールでキリンに負けても、決してスーパードライの酵母を他の製品に転用したりしない。牛丼と牛鍋丼の肉共通化は、スーパードライの酵母で第3のビールを作ったようなもの。新規客を取り込むインパクトはあるが、既存客も軒並みスイッチしてしまう恐れがあるのである。

 それでもあえて、「パンドラの箱」を開けたのは、前述の通り新規客集客と店舗オペレーション効率化に加えて、顧客ニーズへの対応という側面も否めない。記事は今回の牛鍋丼の刷新が、トッピング併買を前提としたものであることが伺える吉野家役員のコメントを記載している。「新しい牛鍋丼にマッチする、できるだけあっさりとして溶けやすいモノを選んだ」とトッピング具材の選定基準を明かしているのである。
 ゼンショーは安価な牛丼で集客し、実際にはトッピングバリエーションのメニューで稼ぐ収益モデルである。業界最大手のメニュー提案に消費者もすっかり慣れ、「牛丼は好みのトッピングをして食べる物」という認識が出来上がってきているともいえるだろう。それ故、「松屋」も昨今、トッピング牛丼に相当するメニューを強化している。吉野家も戦いのルールが変わったのであれば、それに対応せざるを得ない。

 記事には同社役員の象徴的なコメントが掲載されている。<「牛丼を磨き上げる。当社はそういう気質の会社。同じように牛鍋丼にも磨きをかけた」>という。これからは牛鍋丼をメインメニューとして牛丼戦争を戦っていく覚悟が感じられる。

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2011.09.15

ローソンに喰われる?!街のケーキ屋の危機をどうするか?

 コンビニスイーツが絶好調だ。そして、その影響を受け地元の街からケーキ屋が消えるかもしれない。どうしたらいいのだろうか?

 ローソンといえば、まず思い出される人も少なくないほどの看板商品となっている「プレミアムロールケーキ」。個人的にはスイーツを嗜まないことは人生の不幸だと思うが、甘いものが苦手な人のために同商品の解説をしよう。
 <個食タイプのロールケーキ。「ウチカフェスイーツ」シリーズの定番商品の一つ。植物性油脂を混合しない、純生クリームを使用。クリーム部分が多く、容器に入れたままスプーンですくって食べるようになっている。2009年7月に開始した「驚きの商品開発プロジェクト」から、デザートの第一弾商品として2009年9月29日に発売開始。発売19カ月で累計販売個数が1億個となった>(はてなキーワードに加筆修正)

 ローソンが牽引してコンビニスイーツ市場は大きく拡大している。6月17日発表の「国内のスイーツ市場調査結果」(富士経済)によれば、2010年の小売スイーツ市場は前年比0.2%増の8718億円とやや拡大であるが、チャネル別にみると、コンビニが同6.2%増の1045億円と大幅増。特にロールケーキが同27.3%増の98億円と急成長したことが要因であるという。(BusinessMedia誠・6月17日調査リポートより引用・加筆修正)

 百貨店でスイーツを買うのはどんな時だろう。通勤ルートの途中に百貨店がある人もいるだろうが、いずれにしても店に立ち寄り売り場まで行くというのは、事前に「スイーツを買うぞ」と決めている「目的買い」であることは間違いない。そしてそれは、いつもと違う「ハレの日」であることが多いだろう。
 一方、自宅近くにあるコンビニでスイーツを買うのは「ついで買い」が多いだろう。日常必要なものを購入するために立ち寄り、ふと目に入ったロールケーキを購入する。それが、1億個という数に積み上がったのは、昨今の「自分にご褒美」需要が活況なことと、ローソンがギフト需要を狙って商品パッケージの表面に印刷されていた150円という価格表示を消し、ギフト専用紙袋を用意したことなどが挙げられる。ただ、それでもちょっと頑張った日や、ちょっとしたお土産を持っていくというレベルの、日常的な「ケの日」に購入するポジションであるといえる。

 だが、ついにローソンは本気を出した。ニュースリリーによれば、<ヨーロッパの本格的なスイーツを6週連続発売!>とある。
 http://www.lawson.co.jp/company/news/043330/
 <期間や数量を限定することで希少な素材や手間をかけた製法などを取り入れた「UchiCaféSWEETSシーズンズコレクション」を展開する>といい、商品写真を見れば、百貨店のケーキ売り場や洋菓子店の商品と何ら変わらない、コンビニスイーツとは思えない品々が並んでいる。とりあえず期間限定で展開し、反応が良ければ定番化するであろうことは間違いないだろう。

 前掲のBusinessMedia誠の調査リポートでは、百貨店のスイーツは前年比1.7%減の3498億円と苦戦しているとあるが、その原因は高価格帯商品の不振や相次ぐ閉店であるようだ。
それより深刻なのが、最も市場規模が大きい総合洋菓子店だ。2011年の市場規模は、前年比6.9%減の2175億円になると見込まれているという。
 街の洋菓子店でスイーツを買うのはどんな時だろう。もちろん、誕生日やクリスマスのホールケーキはれっきとした「ハレの日」需要だ。だが、それ以外の個食のカットケーキは特別な日ではない、さりとて日常でもない、ちょっとしたハレの日。「小バレ」ともいうべき日に買われていたのではないだろうか。カットケーキを選んで組み立て式の紙の箱に入れてもらう。小さなサプライズに用いられるのに、ケーキは贈る側にも贈られる側にも最高のアイテムだ。だが、ローソンのリリースの写真を見ると、その需要をすっかりすくい取ってしまうだけのインパクトが新しいラインナップにはある。
 調査リポートでは、洋菓子店の中には「ロスが少なくコンビニとあまり競合しない焼菓子に注力する動きが見られる」とある。「ケーキを買ってきたよ」といわれて期待に胸を膨らませて中を見たらパウンドケーキだった。なぁんてことになったら、キモチの凹みはハンパでは済まない。そうした反応を避けるためにも、洋菓子店ではなく、今後はローソンで「UchiCaféSWEETSシーズンズコレクション」が選ばれることになる。街の洋菓子店は存亡の危機である。

 「エイビスの車をお使いください。カウンターにお並びいただく列は、ずっと短くなっております」。米国のレンタカー会社の広告コピー例だ。業界№2を標榜するエイビスは、1位のハーツが追従しようにも追従できない戦略で攻撃している。すなわち、顧客数が少ないということは、すぐにチェックインできる最大の武器であったのである。(逆転の競争戦略:山田秀夫・生産性出版より抜粋)
 街の洋菓子店の顧客数はコンビニとは比べものにならないぐらいに少ない。また、店員の数も限られており、家族経営も多い。だとすれば、その規模の少なさは大きな武器になる。馴染み客を店員はおぼえているだろう。時々来る客もなんとなくはわかっているだろう。では、たま~に来る客は・・・?

 戦い方の基本は顧客の個別認識の徹底だ。スタンプカードレベルの顧客管理とリピート促進施策を行っている店は多い。そのレベルを上げるのだ。顧客に対する購入や来店に対するインセンティブを高め顧客情報を収集し、「ハレの日」を確実につかんでメールやDMで事前にオススメのアプローチを行う。「小バレの日」に来店したときには顧客の好みに合わせた商品のオススメを行って、「わかってるなぁ~」という心理的満足感を与える。顧客をできるだけ名前で呼ぶ。小バレの日ほど、ちょっとした気遣いが顧客のココロに響く。

 顧客の個別識別は商売の基本である。だが、いままでそれが十分できていたかは疑問だ。明確な強力な競合が出現したときこそ、まずは基本に忠実になり徹底すべきだろう。それこそが、商品力と価格だけで勝負しないためのカギとなる。

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2011.09.12

ヨーカ堂のPB衣料、その可能性と課題

 イトーヨーカ堂が20~40代向けのカジュアル衣料などのPB(プライベートブランド)「グッデイ」の衣料品を発売し、SPA(製造小売り)に始めて乗り出したという。一方、従来からの国産PB「Made in Japan」も息の長い取り組みをしている。

 <GMSの衣料品改革はできるのかイトーヨーカ堂がSPAに参入する訳>(9月9日・週刊ダイヤモンド)
 http://diamond.jp/articles/-/13945

 従来のスーパー・GMSのアパレルは商品の委託販売を基本として、<(メーカー・卸からの)仕入購買→出荷物流→販売>というバリューチェーンを組んでいた。それに対し、SPAは製造小売りの名の通り<調達購買物流→商品開発→製造→出荷物流→販売>と川上統合をしたものだ。効果として同記事では<原価は15~16%下がる>としている。しかし、一方で<GMSでは肌着のような必需品は売れるが、本当に欲しい“必欲品”を生み出すセンスはない>ともあり、その改革は未知数であるとしている。

 日本におけるアパレルSPAの王座にあるのはユニクロを抱えるファーストリテイリングであるといって間違いない。9月9日、かつて鳴り物入りで登場したデザイナーのジル・サンダーとのコラボ商品「+J」が今シーズン限りという最後の売り出しを開始した。
ナゼ、人気の「+J」が販売終了になるのだろうか。メディアは「ブランド価値向上に対する一定の貢献があり、役割を終えたため」という趣旨のユニクロからのコメントを伝えていた。客足は上々で、8日の銀座店での先行販売では2時間待ちの列もできたという。筆者が店舗を訪れた9日もまるでバーゲン会場であるかのようにごった返し、次々と商品が売れていった。だが、気になることがあった。「+J」の購入客は、他のユニクロ商品を併買する割合が非常に低いのだ。一方のユニクロは、ジーンズのラインナップを広げすぎて失敗をした教訓などを元に、現在はファッション性より「ベーシック回帰」の方向性を明確にしている。「ヒートテック」の販売を1億枚という途方もない目標に置いたのも象徴的だ。かつてのファッションブランドの巨匠とベーシック回帰するSPAでは、シナジーは出にくかったということなのだろう。

 同じく9月9日の日経MJに「ヨーカ堂、国産PBの売り方」という記事が掲載された。「色・サイズを豊富に品揃え/商品情報を売り場にこまめに提供/オーダーメイドでオリジナル感」とサブタイトルがある。
 PBは「Made in Japan」。もう何年もヨーカ堂が育てている日本国内で製造した商品を取りそろえたブランドだ。記事にある商品の例としては、例えばジーンズの名産地・岡山で作られたデニム地の帽子。<高い縫製技術を活かして、かぶった際のフィット感を大切にするために(中略)サイズは1cm刻みで取りそろえた>という。オーダーメイドの革製かばんの例もある。<形は10種類、素材は3種類、色は7色を用意するなど、組み合わせは7種類を用意するなど、組み合わせは1000種類を超える。(中略)商品は2週間で完成する>という。

 ユニクロがベーシック回帰する一方で、海外ファストファッション勢は相変わらずファッション性が売り物だ。H&Mは世界規模での販売を前提に「多品種大量販売」を仕掛ける。ZARAは売る場で売れている商品を製造現場にフィードバックして、再度製造から販売までのバリューチェーンを高速回転させる「少量高回転大量販売」を得意技としている。

 消費者が「購入する理由」をKey Buying Factor(KBF)という。価格の安さ、品質、オリジナリティーなど個々人において様々なKBFが存在する。そして、そのKBFを実現する成功のカギをKey Success Factor(KSF)という。するその中で、「Made in Japan」は「多品種少量」による自分にピッタリであるというフィット感やオリジナル感というKBFを実現しようとしている。そして、そのKSFは日本メーカーとのコラボレーションによって、<調達購買物流→商品開発→製造→出荷物流→販売>というバリューチェーンの物理的距離を短くし、短時間で回していくことにある。
 だとすれば、「Made in Japan」は上記のZARAのモデル以上に国内産地のメリットを活かした「少量高回転」が可能となる。消費者の欲しいものや流行をキャッチアップして、すぐに製造し売り場に並べるのである。そこで必要なものは、多少割高でも「価値」を納得して買ってもらえるような商品企画のノウハウであり、それを可能にする販売現場での顧客の声の吸い上げだ。

 大量生産による「規模の経済」によって安価に商品を提供するSPAの逆張りともいうべき展開は、確かに<中国製など海外製品に比べると平均3割ほど高い>という。しかし、<「品質を意識する人が増えれば、今後はプラスワンとして日本が注目されるようになる」>と同社では読んでいるという。
 大震災以降、消費者のモノの購買に対する意識は変化している。不要不急のモノの購買を控えるという段階からは脱しているが、自らの納得するモノを選ぼうという意識は強まっているように思える。その意味では、ヨーカ堂の「Made in Japan」にはチャンスが到来していえるといえるだろう。

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2011.09.08

キリンFIREにマーケティングの「整合性」を見る

 缶コーヒーを飲む。どんなシーンを想像するだろうか。どんな人が、どんなふうに飲んでいると。そのイメージを変えるため、キリンビバレッジが斬新な試みをはじめた。

 <キリンビバレッジ、缶とペットで異なるCM コーヒー「二本立て」強化>(9月8日SankeiBiz)
http://www.sankeibiz.jp/business/news/110908/bsc1109080503008-n1.htm

今月27日からの主力コーヒー商品「FIRE」のリニューアルに際して、ペットボトルの「ネオ」と缶の「挽きたて」シリーズを刷新。<これを機に、主に20代向けはペットボトル、30~40代には缶と、ターゲットとする世代を明確に分け、テレビCMなど広告の内容も変える>という。
 狙いは明確だ。<もともと缶コーヒーは、30~40代の男性が主なターゲット。若い世代や女性の取り込みが課題となっていた>という。それに対して、<今年の春、ペットボトルタイプのネオを発売。ペットボトルと缶の両方で異なる味わいを取り入れた>と製品改良を行ったのだ。その結果、<「女性や若い人にアピールできるようになった」>という成果があったという。

 缶コーヒーを飲むイメージは、外回りの営業マンがふと足を止めて、自動販売機でガチャンと買って、その場で蓋を開いて飲むという感じではないだろうか。右手にコーヒー。左手にタバコ。オトコの世界だ。
 ところが、自販機、缶コーヒー市場に異変か起きている。自販機の売り上げは下がり、稼ぎ頭のコーヒーも売れなくなってきているのだ。大きな理由の一つがタバコ自販機の撤廃。(小売り関係者の談)。taspoの導入に際して対応機に替えることなく撤去したものも多い。缶コーヒーの友がなくなり、ふとしたブレイクのきっかけが失われた。オトナのオトコの缶コーヒー離れ、自販機だ。かつては飲料販売のシェアの半分を占めていた自販機は、現在35%にまで低下し、コンビニエンスストアが25%にまで伸びてきている。

 新たなターゲットを確保しなくてはならないのは、販売量減少をテコ入れするためだけではない。忘れがちな現実であるが、ターゲット顧客も歳を取るのである。缶コーヒーをこよなく愛する渋いオジサンは、やがて渋いジイサンになる。そして、その先は・・・。
 ターゲットと共に歳を取り、消えていった商品カテゴリやブランドは多い。そうならないためにも、ターゲットの若返りを図らねばならないのだ。そして、そのためにはターゲットの嗜好や行動に合わせなければならない。
 日本では1996年から飲料用の小型ペットボトルの使用が認可された。それから15年。若年層にとっては缶よりペットボトルの方が飲料容器としては馴染みがあるだろう。飲みかけを持ち歩くというスタイルもすっかり定着している。

 容器と味はマーケティングにおいては4PのProductの要素だ。そして、CMはPromotionの要素である。マーケティングのキモの1つは「整合性」である。何か1つの要素が突出して良くてもうまくいかない。各要素が「整合」していることが欠かせないのだ。さらに重要なのは、4Pの各要素はターゲットに魅力的であるかという要素と「整合」していることが欠かせないのである。
 今年の春に<ペットボトルと缶の両方で異なる味わいを取り入れた>という味と容器をターゲットに合わせた改良を行った。さらに27日からは<テレビCMなど広告の内容も(ターゲットに合わせて)変える>という。さらに4Pの残る要素、Place(販路)は、ペット容器はコンビニエンスストアで扱う。コンビニエンスストア利用者は中高年は男性層に偏りがあるが、若年層では男女ともに利用する。価格は130円と競合商品と並ぶ相場価格。こうしてみてみると女性及び若年層という新たに開拓すべきターゲットに向けて、4Pの整合を図っていることがわかる。

 日常の業務では、「製品を改良しよう」「価格戦略を見直そう」「チャネルのテコ入れをしよう」「新しいCMを考えよう」などと、個別要素が課題として上がることが多い。しかし、各々の要素は全てつながっている。「整合性」が欠かせないのだ。さらに、「誰」をターゲットとし、そのターゲットに魅力が伝わるかという視点も欠かせないのだ。近視眼にならないことが肝要なのである。

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2011.09.07

「ニッチなヤツ」を狙うエドウィンの戦略

 9月7日付日経MJの第一面記事は、ジーンズのエドウィンが飾った。ファーストリテイリングや大手流通グループが市場に投入した低価格ジーンズに圧されて生産量が縮小する国内ジーンズ市場において、同社はいち早く下げ止まり今年は反転攻勢を見込むという。その秘策は何だろうか。

 記事のタイトルは「老舗エドウィン コラボ斬新」。「タカラトミーと人形・釣り用ジーンズ」とコラボの例がサブタイトルとなっている。前者は高伸縮性ジーンズ「503ZERO」の生地を動物キャラクターに用い、可動式関節の動きにも対応する製品を作り上げたものだ。後者は釣り具最大手のグローブライトと釣り竿を保持する専用穴を付けたジーンズを開発したという。

 記事のコラボ事例の一覧を整理し直すと、方向性は大きく4つあるようだ。
1つはメジャーコラボ。バンダイと男児に絶大な人気を誇る戦隊もの「ゴーカイジャー」、女児に長期にわたり人気が受け継がれている「プリキュア」を題材にした子供服を製作。光文社とは雑誌・STORYが打ち出す「美魔女」をイメージした女性用体型補正ジーンズを開発。ニューヨーカーとは「ジャケットなどにも合う大人に向けたジーンズ」を開発し各店で販売した。
 2つめはニッチな人気を誇るキャラクターとのコラボ。ゲーム開発・販売のイグニッション・エンターテイメント・リミテッドとはPLAYSTATION3とX-Box用ゲーム「El Shaddai」のキャラクターがゲーム中で着用するジーンズを開発した。サンリオとは、うさぎのマイメロディーのライバルキャラ「クロミ」を題材とした子供服を作った。前出のタカラトミーとの人形はオリジナルで作られたものであるが、これもニッチキャラに類することができるだろう。
 3つめは「オシャレがわかるターゲット」に向けたコラボ。カフェ企画・運営のカフェ・カンパニーとはエドウィングループのリー(Lee)ブランドでオシャレカフェ向けのユニフォームを開発した。同リーブランドでは記事にはないが、ヴィヴィアンウエストウッドとTシャツやジーンズのコラボ製品を製作・販売している。
 4つめは特殊用途。事例は前出の釣り用しかないが、今後増えてくるように思う。

 ハーバード大学経営大学院教授のマイケル・ポーターは「事業戦略の3類型」を示した。コスト競争力で勝っていく「コストリーダーシップ戦略」。差別化をして競争相手より優位に立つ「差別化戦略」。特定分野に的を絞り、経営資源を集中する「集中戦略」である。

 ファーストリテイリングや大手流通グループの戦略は極めてわかりやすい「コストリーダーシップ戦略」だ。1億枚というヒートテックの今シーズンの販売目標数が示すように、同社の規模の経済・調達力に敵うものはいない。コストリーダーは通常、業界の中でただ1社しか存在し得ない。そして、それに対抗するためには「差別化」が必要だ。しかし、ユニクロの提供価値の要は「価格を上回る品質」であり、その実現・維持のために多大なコストを投じているため、中途半端な差別化では敵わない。いや、ジーンズというデザイン性や品質において大きな差別化要素を示しにくい製品でそれを行おうとしてきたことこそが、今日の国内ジーンズメーカーの苦境を引き起こしたともいえる。そこで、とるべき戦略が集中戦略なのである。

 集中戦略のキモはターゲティングだ。消費者全般をターゲットとするのではなく、「特殊用途のユーザー」であったり「マニア」であったり。そうしたニッチを一つ一つ取り込んでいくのがエドウィンのコラボ戦略の基本である。その意味では上記分類の1番目はまだ大きなターゲットのカタマリであるが、2つめのゲームキャラは人気ゲームとはいえ万人が知るものではない。「クロミ」は「マイメロディー」というメインキャラではなく、あえてライバル役とのコラボであり、その「悪役キャラながら、どこかドジっ子」という設定にシンパシーを感じる人を狙っているのだ。3つめのヴィヴィアンウエストウッドはそのタイトなシルエットから1番目のニューヨーカーなどと比べて着る人を選ぶ。カフェ・カンパニーのカフェは、ただのカフェではない。オシャレにこだわっているのだ。さらに4番目の「釣り」は若年層の取り込みによってメジャー化を図りつつあるが、まだまだマイナーだ。
 
 「集中する」ということは「捨てる」ことでもある。「集中と選択」というわりには、「選択しても集中できていない戦略」が散見される。「捨てる勇気」が持てないのだ。ニッチに集中して独自の生存領域を次々と確保していくエドウィンのコラボ戦略から学ぶものは大きいだろう。


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2011.09.06

窮鳥は懐に飛び込むのか?:コンパクトデジカメの生き残り

 9月6日付・日本経済新聞の新製品情報に一つのデジタルカメラの発売が掲載された。何気ない記事だが実はそこにはデジカメの未来が隠されているのである。

 新製品は22日発売予定のパナソニック「LUMIX DMC-FX90」。記事タイトルに「写真、スマホに直接送信」「本体に無線LANの通信機能を搭載」とある。今までも無線LAN対応の機種は存在した。今回の製品の眼目はスマホと連動させるという発想である。

 製品、及び製品カテゴリの製品の市場への浸透状況は、導入期→成長期→成熟期→衰退期という普及過程(プロダクトライフサイクル)を辿る。製品が市場の潜在顧客の大部分に行き渡った段階である成熟期においては、ブランドや製品バリエーションが多様化すると同時に価格競争が熾烈化する。やがて競争に敗れた弱いブランドが脱落していき、衰退期に至ることになる。
 コンパクトデジカメ市場はもはや衰退期に突入したとも考えられる。昨年11月に同紙が報じた関連記事によれば<2010年9月の(コンパクトデジカメの)平均単価は1万8400円(税抜き)で前年同月比22%下がった。デジカメ全体(12%下落)と比べて値下がり幅が大きい>としている。

 衰退に至る理由はいくつかある。1つはデジカメ市場のアッパーモデルに需要がシフトしていることだ。フィルム代やプリント代から解放されて、写真を撮るという行為はより身近になった。劇的にショット数は増加。(ナゼならタダで撮影はできるからだ)。多くのモノゴトで技量は練習量に比例して向上するのと同じで、写真も撮り慣れることでうまくなる。すると、「よりキレイに本格的に写真を撮りたい」というニーズが発生する。すると、一眼デジカメに移行する。「そこまで本格的にやるつもりはないし、一眼デジカメは重いし」という層も、小型の「ミラーレス一眼」がすくい取っている。ミラーレスならレンズが大きくて本体から飛び出しているが(レンズの大きさがある程度写真のキレイさを決めるので、それはしかたがない)、それ以外はコンパクトデジカメと大きさもさほど変わらず、操作も極めて簡便だ。
 もう一つ大きいのは、スマホ市場の拡大だ。もともと、ケータイに搭載されたカメラの機能が向上し、コンパクトデジカメと変わらないようなレベルになってきてはいた。しかし、スマホになってより使い勝手が向上したのだ。タッチスクリーンで撮影し、撮影済み画像を閲覧する時の使い勝手は従来の「ガラケー」といわれる携帯電話の比ではない。そして、撮影した写真はすぐさまmix、TwitterやFacebookなどのSNSにアップできるという手軽さだ。

 よりキレイにというニーズを一眼、ミラーレス一眼がすくい取っている以上、コンパクトデジカメの活躍の場は日常の何気ないスナップやメモ代わりに限定されてくる。しかし、撮影したその先はどのように使われるかといえばSNSにアップしてシェアするか、手元に保存しておいて液晶画面で閲覧するという使われ方だろう。(写真をプリントするという行為は多くの人が忘れ去っている)。だとすれば、インターネットとの親和性や、閲覧する画面の大きさ、キレイさでコンパクトデジカメはスマホには敵わない。

 デジタルカメラも導入期では、「デジタルで画像がきれいに残せること」という「中核価値」だけでも購入してもらえた。カシオが1995年にQV-10という25万画素の機種を市場に投入して以降、各社の画素数競争に明け暮れた。成長期においては、中核価値は当たり前な要素となり、中核をどのように実現するかという「実体価値」が競争課題となった。「高倍率なレンズのズーム比率」や「薄型コンパクトで携行性のよい本体」などだ。成熟期においては、さらに中核価値とは直接関係のない「付随機能」での競争となる。「シールプリント印刷機能内蔵」や「動画・静止画合成機能」などを搭載した機種が発売された。

 「LUMIX DMC-FX90」も「付随機能」の強化に該当する。しかし、そのユニークなところは、コンパクトデジカメの衰退に拍車をかける不倶戴天の敵であるスマホの懐に飛び込むような付随機能を加えたことだ。確かに日常のちょっとした撮影はスマホのカメラで十分事足りる。しかし、「もうちょっとこう撮れたらなぁ・・・」と思うシーンは確かに存在する。そんな時はやはり、餅は餅屋。ピントや露出の調整や、撮影シーンに応じた自動調整などデジカメに一日の長がある。
 スマホの普及率はどんどん高まっている。その環境の中で、「LUMIX DMC-FX90」は「スマホの周辺機器」というポジションを獲得することを目指しているのではないだろうか。つまり、中核機能として「スマホカメラの補完」があり、実体価値として「スムーズな連携」がある。付随機能として「デジカメ単体としても使える」という、価値構造を逆転させた発想だ。

 市場環境の変化で顧客にとっての商品の価値や競合関係は変化し続ける。その中で生き残るためには柔軟な発想が必要なのである。

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2011.09.02

恋せよオヤジ?:BEAMSポスターのナゾ

 8月31日。誰しも知るオヤジの街・新橋。その最深部ともいうべき烏森の入り口であるJRの駅通路にオシャレな駅貼りポスターが出現した。広告主はセレクトショップのBEAMS。キャッチコピーは「恋をしましょう」だ。ナゼ、新橋にポスターを貼ったのか?

 「恋をしましょう」は、BEAMSが全ブランドを横断して展開するキャンペーンである。「KOIWEB」という専用サイトを作って、女優・蒼井優が歌って踊る「恋をしましょう体操」の動画を公開している。素朴な少女の姿を描いた写真集「未来ちゃん」で人々の心をとらえた写真家・川島小鳥が8組のカップルの姿を写し撮ったアルバムも公開されている。FacebookとTwitterに連動したと連動したアプリ、「恋センサー」をアップされている。盛りだくさんで贅沢なサイトだ。

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 そのキャンペーンメッセージとWEBサイトを告知するポスターが各駅に掲出されている。その1つが新橋の烏森口改札を出て右側の壁面に登場した。

 ローカルな話題なので少々説明をしよう。ほろ酔いのお父さんたちがテレビのインタビューを受けることで有名な「SL広場」とは山手線・京浜東北線ホームの前後反対側に位置する。改札を出て左に進めば日テレなどもある汐留・シオサイトに行き着く。オシャレなポスターは、シオサイトに向かう人の注目を集めようとしているのかといえば、そうではない気がする。確かに改札で待ち合わせをしている人の目には多少入るが、メインの導線上ではない。右に出れば、細々とした飲み屋がひしめくディープなゾーンへと続く。そんな場所にBEAMSのポスターが掲出されたのだ。しかも「恋をしましょう」である。

 屋外広告として通行量は文句の付けようのない優良物件だ。反対側の壁面にはパナソニックの電動シェーバーが長く陣取っている。確かにひげ剃りは新橋に似合う気がする。商品のキャラクターがKAT-TUNの亀梨和也だと前を通るオジサンが認識するかは怪しいが、商品には注目するだろう。では、BEAMSのポスターは誰に訴えかけているのだろうか。

 「恋をしましょう」は同社の35周年記念でもある。1976年創業。1980年代に雑誌・ポパイとコラボレーションをして若い男性の間にBEAMSブームを巻き起こした。当時ポパイでファッションから恋愛までを学んだ20代の若者も現在では40代半ばから50代だ。BEAMSの凄いところは当時からのファンを顧客として囲い込みながら、新たな若い顧客を取り込んで成長し続けたことだ。その意味では、ポスターは新橋を拠点とするビジネスパーソン(レディースも展開しているので、当然女性も含む)に訴求しているのだと考えるのが自然だ。だが、それならばわざわざオヤジ比率の高い新橋烏森口にポスターを貼る必要があるのだろうか。

 オヤジの「恋」というと、なにやら不倫臭が漂い、ドロドロしたイメージが想起されるかもしれない。だが、誰もが「天城越え」的な情念の世界にまで足を踏み入れるわけではない。

 「恋は遠い日の花火ではない」。
 サントリーオールドのCMの名コピーだ。長塚京三、田中裕子、大森南朋らが演じるのは「恋の気配」だ。実際には何にもないかもしれない。だけど、胸が温かくなる想いを持ってみなよ、というメッセージが伝わってくる。

 BEAMSのサイトには3篇の「恋をしましょう体操」がアップされている。
娘である蒼井優が言葉の通じないインド人の彼氏を親に紹介する「異国の彼篇」で、母親が彼氏を気に入り「イメージは大切よ!」と父親に力説する。
 友達の彼を好きになってしまう「人の彼篇」。付き合いが長いという友達と彼氏。彼はデートの際に鼻毛が飛び出している。惰性の生活はダメというメッセージだ。そんな彼のどこに惹かれたのかはナゾであるが、ともかく蒼井優は「磨くわワタシあそこもここもピカピカに」と歌う。
 「恋人だらけのカフェ篇」では、「なんにもないとかそんな日は、恋とか落ちたらいいかもね」「怯えていたらなんにもないのわかってる」とさらに背中を推す。
 3つの動画では、「まずは自らのイメージを良くせよ」「自分を磨け」「惰性の日常と決別せよ」とメッセージを伝えているのだ。

 新橋烏森口を通行するオヤジたちは、実は最もキャンペーンの対象になるのではないか。
 かつてはポパイを買い、恋にトキメキ、BEAMSの服を買って自分を磨いていた青年も家庭を持ち仕事と生活に追われるようになった。だが、ある程度地位と収入も上がり、子どもも自立していった。そんな時にぽっかりと空いた胸の穴ボコに気付く。それを見ないようにして日常に埋没していく日々。そんなオヤジにBEAMSは「戻っておいで」というメッセージを込めてポスターを貼ったのではないだろうか。

 恋は遠い日の花火ではなかったら、どうすればいいのか。まずは「自分を磨く」のだ。イメージを良くして、人からよく見られることもさることながら、自分に自信を持つ。そうして、実際は何もなくとも「なんにもないとかそんな日は、恋とか落ちたらいいかもね」と、恋するココロを思い出してみる。すると、惰性に満ちた日常が意外と輝いて見えてくるかもしれない。

 「恋をしましょう」のポスターとWEBサイトにあるコンセプト全文を引用したい。

 みなさん恋をしましょう。誰かを好きになりましょう。そして自分を好きになりましょう。みなさん恋をしましょう。それは世界を新しくしますから。知らなかった歌を好きになりますから。ゴハンが美味しくなったりしますから。深呼吸の意味を変えたりしますから。それは嘘の悲しさを教えてくれたりしますから。たとえそれが終わっても、きっと何かを残してくれたりしますから。さあ、年齢を超えましょう。性別を超えましょう。経験を超えましょう。地球は愛が救ってくれますから。

 ※「KOIWEB」 http://koiweb.beams.co.jp/

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2011.09.01

「女子向けスマホ」は「女子」を狙っているのか?

 ケータイ擬人化キャラの堀北真希が「女子のためのドコモ・スマートフォン」とはっきりとCMで言い切っているソニー・エリクソンのXperia ray。そのターゲットは本当に女子だけなのだろうか。

 CM<walk with you「女子向けスマホ」ray篇>では、若い女性3人が同商品を手に取って触りながら、「なにこれ?」「かわいい!」「色いいよね!」と、外観を見て感想を口にしている。傍らに擬人化キャラの堀北真希が立って、「はじめまして、新しいスマートフォンです」といい、続けて「わたし、片手でいいんです」とこの商品の最大のセールスポイントをアピールする。USP(Unique Selling Proposition=競合には実現できない独自の価値)を提示しているわけだ。CMでも女性達は画面を触り、「ホントだ!」「親指でいけるし!」と感心している。
 ドコモのホームページにあるCM紹介では、<女子だって、スマートフォンを使ってみたい!だけど、「実際どうなの?」「重かったり、操作が面倒だったりしない?」・・・なんて心配している女の子たちにぜひ見てほしい!>とある。確かにXperia rayはスマートフォンに移行していない女性を狙ったものであることは間違いない。商品ページを見ると<100gのコンパクトボディ>も重要なウリであることがわかる。サイズは従来の携帯電話と同サイズでさらに薄い。

 2003年頃、女性の間に一大旋風を巻き起こした「ヌーブラ」。当初は「若い女性向け」をイメージさせる訴求をしていた。通常のブラと異なり、肩ひもやアンダーベルトが無いため締め付け感がない。衣服にシルエットが浮き出ず、背中部分がないためファッションの自由度が高くなる。さらにバストの谷間を強調できたり、バストトップの位置を高くできたりという美乳効果にも注目が集まった。
 裸の胸にシリコン製のカップを直接貼り付けるという従来と全く異なる使用法のため、当初はイノベーションの採用に抵抗感がない若年層が狙い通り動いた。しかし、その後に40~50代の熟年女性が購買に走り売上を大きく底上げした。
 ヌーブラが「熟年女性のバストを美しく見せる」という訴求でデビューしたらどうだったか。40~50代の熟年女性層はいわゆるバブル期に青春を謳歌した年代だ。消費と自分磨きに貪欲な人も少なくない層であり、化粧品や健康器具、新たなダイエットやエクササイズ法など自らを美しく見せるアイテムを見逃さない。だが、「熟年向け」と明言されると「体型補正のため」という効用が強調されることになり、抵抗感が先立ってしまっただろう。「若い娘も使っているんだし!」という点が重要なのだ。

 「コミュニケーション・ターゲット」と「ビジネス・ターゲット」という。ヌーブラの場合、「オシャレでもっとキレイになりたい若い女性に!」と訴求する。すると、当然それに該当するターゲットも購買に動くが、それを見てより大きなカタマリとしてのターゲット層が動くことを期待して戦略を立てる。ターゲット設定には「優先順位(Rank)」と「波及効果(Ripple Effect)」という観点が欠かせないのである。

 「女子向けスマートフォンXperia ray」。ターゲットは本当に女子だけなのだろうか。
 スマートフォンはいわゆる「キャズム(溝)」を超えて、広く一般に普及する段階に入ったといわれるようになった。日本独自仕様である従来の携帯電話を「ガラケー(ガラパゴス携帯)」などと呼ぶが、その機能を取り込んでユーザーの裾野を広げようとするスマートフォン、「ガラスマ(ガラパゴススマートフォン)」の機種も充実してきた。その段階で移行するのはどんな層なのか。
 確かに、「大きすぎる」「重い」という購買棄却理由で従来のケータイを使い続けていた若年女性層は狙えるだろう。だが、熟年女性層も大きく動くことが考えられるのだ。もっと明確にいうなら、「1・2・3」という短縮ボタンの付いた「らくらくホン」からの買い換えである。
 携帯電話の使用状況を見ると、残念ながら熟年男性は最低限の機能を使用するに留まっている。それに対し、熟年女性はアクティブに利用している。そのニーズを受け、「これって、もはやらくらくホンじゃないのでは?」というまでに進化している。次に来るのは、スマートフォンだ。
 そうした熟年アクティブユーザーは「1・2・3」というボタン付きである「高齢者向け」という機種のイメージに不満を持っている。故に、「らくらくスマートフォン」を作ってはいけないのだ。

 Xperia ray。それは、本格的な普及期に入ったスマートフォン市場で、イノベーション論でいうところの「アーリーマジョリティー(前期大量採用者)」を取り込むことである。CMにあるように、「コミュニケーション・ターゲット」として若い女性に「女子向け」と訴求しつつ、「ビジネス・ターゲット」として密かに熟年女性・アクティブユーザーを狙っていると考えられるのだ。

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