キリンFIREにマーケティングの「整合性」を見る
缶コーヒーを飲む。どんなシーンを想像するだろうか。どんな人が、どんなふうに飲んでいると。そのイメージを変えるため、キリンビバレッジが斬新な試みをはじめた。
<キリンビバレッジ、缶とペットで異なるCM コーヒー「二本立て」強化>(9月8日SankeiBiz)
http://www.sankeibiz.jp/business/news/110908/bsc1109080503008-n1.htm
今月27日からの主力コーヒー商品「FIRE」のリニューアルに際して、ペットボトルの「ネオ」と缶の「挽きたて」シリーズを刷新。<これを機に、主に20代向けはペットボトル、30~40代には缶と、ターゲットとする世代を明確に分け、テレビCMなど広告の内容も変える>という。
狙いは明確だ。<もともと缶コーヒーは、30~40代の男性が主なターゲット。若い世代や女性の取り込みが課題となっていた>という。それに対して、<今年の春、ペットボトルタイプのネオを発売。ペットボトルと缶の両方で異なる味わいを取り入れた>と製品改良を行ったのだ。その結果、<「女性や若い人にアピールできるようになった」>という成果があったという。
缶コーヒーを飲むイメージは、外回りの営業マンがふと足を止めて、自動販売機でガチャンと買って、その場で蓋を開いて飲むという感じではないだろうか。右手にコーヒー。左手にタバコ。オトコの世界だ。
ところが、自販機、缶コーヒー市場に異変か起きている。自販機の売り上げは下がり、稼ぎ頭のコーヒーも売れなくなってきているのだ。大きな理由の一つがタバコ自販機の撤廃。(小売り関係者の談)。taspoの導入に際して対応機に替えることなく撤去したものも多い。缶コーヒーの友がなくなり、ふとしたブレイクのきっかけが失われた。オトナのオトコの缶コーヒー離れ、自販機だ。かつては飲料販売のシェアの半分を占めていた自販機は、現在35%にまで低下し、コンビニエンスストアが25%にまで伸びてきている。
新たなターゲットを確保しなくてはならないのは、販売量減少をテコ入れするためだけではない。忘れがちな現実であるが、ターゲット顧客も歳を取るのである。缶コーヒーをこよなく愛する渋いオジサンは、やがて渋いジイサンになる。そして、その先は・・・。
ターゲットと共に歳を取り、消えていった商品カテゴリやブランドは多い。そうならないためにも、ターゲットの若返りを図らねばならないのだ。そして、そのためにはターゲットの嗜好や行動に合わせなければならない。
日本では1996年から飲料用の小型ペットボトルの使用が認可された。それから15年。若年層にとっては缶よりペットボトルの方が飲料容器としては馴染みがあるだろう。飲みかけを持ち歩くというスタイルもすっかり定着している。
容器と味はマーケティングにおいては4PのProductの要素だ。そして、CMはPromotionの要素である。マーケティングのキモの1つは「整合性」である。何か1つの要素が突出して良くてもうまくいかない。各要素が「整合」していることが欠かせないのだ。さらに重要なのは、4Pの各要素はターゲットに魅力的であるかという要素と「整合」していることが欠かせないのである。
今年の春に<ペットボトルと缶の両方で異なる味わいを取り入れた>という味と容器をターゲットに合わせた改良を行った。さらに27日からは<テレビCMなど広告の内容も(ターゲットに合わせて)変える>という。さらに4Pの残る要素、Place(販路)は、ペット容器はコンビニエンスストアで扱う。コンビニエンスストア利用者は中高年は男性層に偏りがあるが、若年層では男女ともに利用する。価格は130円と競合商品と並ぶ相場価格。こうしてみてみると女性及び若年層という新たに開拓すべきターゲットに向けて、4Pの整合を図っていることがわかる。
日常の業務では、「製品を改良しよう」「価格戦略を見直そう」「チャネルのテコ入れをしよう」「新しいCMを考えよう」などと、個別要素が課題として上がることが多い。しかし、各々の要素は全てつながっている。「整合性」が欠かせないのだ。さらに、「誰」をターゲットとし、そのターゲットに魅力が伝わるかという視点も欠かせないのだ。近視眼にならないことが肝要なのである。
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