変化する食卓とキッチンの風景
個食化の時代。働き方が多様化すると共に子どもの塾通いなどが増加し、家族の生活サイクルがかみ合わないことが多くなり、1990年代頃から家族全員で食卓を囲む機会が減少したといわれている。家庭料理を代替したのがファストフードやコンビニエンスストアの食品だ。個食の進行で、家族が揃ったときでも各々が好みの食事をすることもアタリマエになり、大鍋を家族で囲むのではなく一人ひとりが好みの鍋を食べるという「銘々鍋」の風景も珍しくなくなってきたという。家族そのものがいない世帯も増加している。日本の世帯数は、単身世帯の増加によって2015年までは人口減少とは裏腹に増え続ける見込みである。食卓の風景を一変させる大きな要因だ。
個食対応の食品はとにかく手間がかからないことが肝要だ。和食ファミリーレストラン事業と冷凍食品製造を展開するキンレイが、<火にかけるだけの具材付き冷凍麺「お水がいらない すき焼うどん」>を発売した。同商品のUSP(Unique Selling Proposition=独自の提供価値)は、<水を加える必要もなく、専門店のような本格的な味を楽しめるとのこと。「節電」「時短」商品としてもおすすめ>(マイライフ手帳@ニュース)だという。
家庭の変化はキッチンの調理器具の風景も一変させている。インターネット調査のマイボイスコムの調べによると、「電気ポット」所有率は40.2%。「電気ケトル」所有率は19.0%だという。つまり、4割以上の家庭が「お湯を沸かす専用調理器がない」のである。鍋で沸かすのかといえば、カップに水を入れてレンジでチンして沸かす派も多いのだ。
使用調理器の変化に対応して、カップ麺の最大手・日清商品は「冷凍 日清 太麺堂々 辛味噌ラーメン」を発売した。
1971年、日本マクドナルドと同じ年に誕生したカップ麺のパイオニアブランドであるカップヌードルを持つ同社にとっては由々しき事態である。かつてはアーノルド・シュワルツネッガーが筋骨隆々肉体にヤカンを2つ持って体操を披露するCMが一世を風靡したが、そのヤカン自体が家庭から消えているのだ。
市場の変化を狙って様々な企業が「チンする麺」を上市し、従来型のお湯を注ぐカップ麺の代替品としてシェアを切り取っていく。前出のキンレイも「お湯を加えてレンジでチンするだけで出来上がる」という「チンして食べてね!もっちり太麺の豚骨醤油らーめん」などのシリーズも発売している。売り切れが相次ぎ、話題となった日清食品の「カップヌードルごはん」も市場の変化に対応し、「電子レンジ対応商品」を開発するために誕生したと同社はホームページの開発秘話で明かしている。まずは「ごはん」で先行し、完璧を期して「ヌードル」に移行するというシナリオが見て取れる。「太麺堂々」は電子レンジ対応カップ麺でも牙城を築くための負けられない先兵なのである。
進む個食化と簡便化によって変化する食卓とキッチンの風景。そこで生き残るためのキーワードは何か。
フジッコの「おまめさん」。内容量が平均で160グラムある家族向け商品の「おまめさん」は、個食化が進んだ時代に合致しない商品となり、一時は売上が低迷。そこで、「食べきれる量目・食べやすい容器・そのまま食卓に置ける」をコンセプトに商品開発を進め、新製品を発売したところ、工場の能力が追いつかないほどの売れ行きとなった。
定番中の定番ともいえる「ノザキのコンビーフ」も変化している。内容量を100グラムから1回使い切りサイズの75グラムに減じると同時に、缶のフタをゼンマイ状にねじって開けていくという伝統的な構造を変え、開けやすいプルトップの「イージーオープン缶」にした商品を発売した。
単なるパッケージのデザイン変更は「付随的価値」の向上に過ぎないが、「一人前にピッタリのサイズ」や「開けてすぐ食べられる」と用いられ方に関わるものは「実体的価値」として訴求力が強い。また、「量が多くて余ってしまう」「開けにくい」等、消費者の購買棄却理由を抽出して最適化することも「手に取って買ってもらう理由」として重要だ。
市場はどんどん変化していく。しかも残念なことに、かつての大量生産・大量消費の時代のようにカンタンでオイシイ話はなくなっている。変化をつかみ、先取りし、消費者に「買う理由」を提示し続けること以外には生き残る方法は見つけにくいのである。
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