ニーズを聴け!枠を壊せ!:縮む市場での生き残り術
7月20日付・日経MJに目を惹く2つの記事が掲載されていた。そこから何が学べるだろうか。
1つはコンビニエンスストアでのクリーニング取り次ぎサービスに関する小さな記事だ。「水洗いクリーニング コンビニで受け付け CVSベイエリア」とタイトルにある。千葉県と東京都で「サンクス」のFCを展開する同社が7月から東京都中央区の4店舗で試験的に始めたサービスである。Tシャツなら30枚入る専用バッグにTシャツやズボン、靴下などを詰めて持ち込むと1回1,500円で水洗いして3日後に返却されるしくみだ。働く女性や洗濯する余裕のない会社員らの利用を見込むとある。
している。
クリーニング市場は総務省の家計調査からの推計値で、1992年のピーク約8,200億円から2009年に4,300億円まで減っているという。クリーニングの事業者も減少し、クリーニング事業者向け業務用洗濯機から三菱重工機器が09年に撤退するなどの動きもあった。
不景気による生活防衛、節約志向から消費者は家庭での洗濯を強化した。クリーニングの代替として男性用の形態安定シャツや高性能アイロン、衣類にやさしい斜めドラムの洗濯機が普及し、臭いを防止しよい香りをつける柔軟仕上げ剤の発売も相次いでいる。
クリーニング事業者はまさに存亡の危機に立たされているわけだが、取り次ぎ業務を行うコンビニにとってもあてが外れた格好になっていた。「Convenient=便利な」の意味通り消費者のかゆいところに手が届くサービスを提供して来店頻度を増やすのが目的で、都市部で行っていたクリーニングの取り次ぎサービスも利用者が減っては意味がない。
CVSベイエリア社が目をつけたのが、「水洗いクリーニング」である。もともとは米国でコインランドリーの付帯サービスとして発祥したといわれているが、日本では「デリウォッシュ( http://www.deli-wash.jp/ )」などが展開し、利用が広まっている。
コンビニの主要顧客でもある、「働く女性や洗濯する余裕のない会社員」というターゲットは「家庭での洗濯を強化」という世の中の動きとは異なる。その時間と手間をかける余裕がないのだ。故に、クリーニングできちんとプレスしたシャツを提供されるだけでは不十分であり、「普通なら自分で洗濯するような衣類も人に洗って、干して、たたんで欲しい」というニーズを潜在的に持っているのだ。
従来のクリーニングでは解消されない未充足ニーズを発見し、そのニーズに応えるサービス提供者と結びつけることで利便性を提供し、コンビニもまたオーバーストア、過当競争のなかで生き残りを図っているのである。
もう1つの注目記事は「雑貨店 20~30代女性向け拡大 ワッツ 若い母親の需要開拓」という記事だ。「ワッツ」は100円ショップ業界第4位の企業である。同社が展開する店舗ブランドの1つ「ブォーナ・ビィータ」は、記事によれば「ピークの04年に14店あったが、採算悪化により新規出店を凍結。不採算店を閉め、一時は6店まで店舗を減らした」とある。復活の転機は取扱品目を見直したことだ。「その後、1000円前後の商品を投入するなど100円商品を主体にした品揃えを見直したところ、収益が徐々に改善。08年から出店を再開し、好調だったため出店拡大に踏み切る」という。
記事にある「20~30代女性」「若い母親」というターゲットのニーズは何なのか。
100円ショップ業界の企業であるワッツが提供していた「100円商品」はニーズを満たす対象物=「ウォンツ」にはなり得ていなかったのである。彼女らに大切なことは、「価格が100円であること」ではなく、「そこそこ安くて、オシャレな雑貨」であることだったのだ。現在、「同雑貨店の平均客単価は1200円程度」というのがその証左である。
同じ100円ショップ業界では業界第2位の「セリア」が従来の100円雑貨を「オシャレな100円雑貨」に絞り込んで「カラーザデイズ」の店舗ブランドを展開し、今年3月にはマルイジャム渋谷店(東京・渋谷)に大型ショップを開いた。全く同じ土俵で勝負してもつぶし合いになるだけだ。ワッツはセリアと同じターゲットを狙いつつ、商品価格の枠を広げ、100円ショップ業界から一歩踏み出すことで生き残りを賭けているのである。
人口減少時代に入った日本。景気に薄明かりが見え始めた矢先に起きた大震災。座しているだけでは市場は縮小し、売上は低下する。そんな環境の中、自らの枠を壊して新たな需要を取り込む試みをはじめたコンビニ&クリーニングと100円ショップの企業事例。これらから学ぶところは大きいだろう。
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