サッポロライオンの物流革命を検証する
ビアホール運営のサッポロライオンが物流体制を刷新するという。そのインパクトを読み取っていこう。
7月18日付日経MJに「サッポロライオン、物流体制を刷新 食材、各店ごとに一括発送」という記事が掲載された。11月をめどに各店舗で卸売業者が個別に納品する現状を、物流センターに全ての食材を集約して仕分け、店舗ごとに一括発送するという体制を作るということだ。記事には「スーパーなど小売業では物流拠点から店舗への一括発送は定着しているが、外食産業では珍しいという」と書かれており、大規模な外食チェーンでは当たり前と思っていたので筆者もちょっとビックリした次第である。
記事の詳細を見ると「首都圏にある飲食店約30業態、計120店を対象とする」とあるが、現状は「各店舗は肉などの食材を約80の卸売業者から個別に仕入れている」という状態だという。その結果、「120店に食材を届けるトラックは1日に合計約1500台。特に銀座の店舗では1日50台近くが乗り付け、『近隣に迷惑を与えかねない状態にあった(同社)』」という。それを、物流業者が持つ神奈川の物流センターに「卸売業者はいったん食材を配送。必要な食材が揃った段階で店舗ごとに仕分けし、各店舗に1日1便、トラックを出す体制に改めるという。
フィリップ・コトラーは流通チャネルの役割として、「生産者と消費者との間に卸売業者や小売業者が入ることで、全体の取引数を減らすことが出来る」ことだとしている。
サッポロライオンの場合で検証してみよう。
直接取引の場合、総取引数=納入業者数×店舗数となるため、その数は単純計算で80×12=9,600に上る。
間に流通業者が1社入った場合は、総取引数=流通業者数(納入業者数+店舗数)となり、1(80+120)=200に集約される。
上記試算の通り、物流革命のインパクトはかなり大きい。しかし、今までかかっていなかった物流業者への支払い、物流センターのコストが発生する。それをどうするのか。記事では「(納入のための)各店舗への配送回数が減り、卸売業者は物流コストを抑えることはできる。サッポロライオンは卸売業者に対し食材の卸売価格の引き下げで還元を求めていく考えだ」とある。しかし、値引き交渉によって物流コストがトントンになるのであれば、サッポロライオンにはさらに大きな利益を得ることになる。「食材の在庫を余分に抱える必要がなくなるため、倉庫スペースを縮小できる」という点だ。現在出店を注力している50席規模の「エビスバー」の場合、「倉庫スペースを10%削減できれば、1~2席増やせる」という。
実際の売上貢献がどの程度になるかは、詳細がわからないためフェルミ推定を行う。
平均客席数増設を1.5席、ランチと夜の合計の客席回転を4回転、平均客単価を3,500円、営業日数を月25日と考え、「エビスバー」以外の店舗も同様であると仮定して120店舗、12ヶ月では、1.5席×4回転×3,500円×25日×120店舗×12ヶ月=756,000,000円である。たかが1.5席の増席効果も積み上げれば馬鹿にできないことがわかるだろう。
物流、つまりロジスティックは原材料調達から製品配送までの物流システム全般を指すが、別の言葉を使うなら「兵站」である。「戦場の後方にあって,作戦に必要な物資の補給や整備・連絡などにあたる機関(大辞林)」。華々しい敵との直接戦闘に目を奪われ、兵站をおろそかにすると負けるのは近代戦の原則である。サッポロライオンは遅れた飲食業の物流体制を変革したが、他業種でも目に見えない部分でおろそかになっていることはないか検証してみる必要があるだろう。
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