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2011.07.25

P&Gの「髪の手触り」という訴求に学ぶ

 P&Gから、「髪の手触り」に焦点をあてたシャンプー、コンディショナー、トリートメントなどのヘアケア製品がリニューアル発売された。その意図はどこにあるのだろうか。

 発売されたのは、「ハーバルエッセンス なめらかスムース シリーズ」と「ハーバルエッセンス うるおいモイスチャー シリーズ」。ヘアケアブランド「ハーバルエッセンス」は従来から、「香り」を訴求ポイントとしている。ニュースリリースでも、<発売当初から「香り」にこだわってきたブランド>であり、<いつまでも髪から咲き誇る表情豊かな香り>という特徴が挙げられている。
 その「香り」を強化する一方、今回のリニューアルでは、ニュースリリースによれば、<消費者の髪に対するニーズであるなめらかな髪の手触りを実現>したという。P&Gといえば、製品づくりに関して徹底した消費者調査を行う事で知られているが、今回も消費者ニーズを的確に捉えて商品を市場に投入したということだろう。しかし、この商品のマーケティング的注目点は、その訴求の切り口にある。

 この商品の提供価値をコトラーの「製品特性5層モデル」で考えてみるとわかりやすい。

・中核=製品を手に入れることで実現できる中心的な価値→ヘアケア製品の場合、髪を清潔にする。洗い上がりを(ゴワゴワにならないように)整える。

・基本=中核価値を実現するために欠かせない要素(価値)→簡便に使用できること。(昔のシャンプーは2度洗いしたり、コンディショナーはお湯に溶かしたり、トリートメントは水分をふき取って、髪に馴染ませてしばらく時間を置かなければならないなどいろいろ面倒だった!)

・期待=中核価値を直接実現する要素ではないか、付加されていることが期待される価値→髪を「しっとり」や「サラサラ」にする(成分が配合されている)。

・拡大=価値として提供されることで魅力を高める要素→髪が良い香りになる。他の商品でも「香り」を工夫しているが、この商品は従来、特にこの価値を高め、強調していた。

・潜在=消費者が気付いていない、または期待されていないが、実現されれば魅力を高めることになる要素→今回、従来はスキンケアに用いられる「手触り」という価値要素をヘアケア製品に持込み、この部分を強化した。

 製品の価値構造は、普及の前段階、つまり導入期や成長期においては価値構造の中心部分、中核や基本的価値で十分消費者のニーズを充足させることができる。しかし、成熟期に入ると求められる価値が中核からどんどん付加的な要素になってくるのである。そのため、「ハーバルエッセンス」は従来になかった「手触り」という切り口を訴求しているのである。

 製品の提供価値は目に見える、有形のスペック(仕様)的な価値=「機能的価値」と、無形で感じ取る、気分などに影響する「情緒的価値」に二分できる。

 ヘアケア製品は成熟化しており、機能的価値では差別化困難なため、「ハーバルエッセンス」は従来から「香り」=ヘアケア製品の拡大価値に注力して「情緒的価値」を訴求していたといえる。体臭も薄く身体や身に付ける物に関して「無臭」を好んでいた日本人にとって、「香り」を身にまとうということは特別なこと、「ハレとケ」の「ハレ」である。リリースでも<いつまでも髪から咲き誇る表情豊かな香りが、ハッピーの予感に満ちた一日をナビゲートする>としている。
 だが、日本人の香りに対する関心は年々高まっている。「衣類の洗濯」の世界を見れば、「ダウニー」が火をつけ、国産メーカーもこぞって参戦している「香り付き柔軟仕上げ剤」が人気になっていることがその証左だ。そうなると、早晩ヘアケア製品も差別化の主戦場は「香り」になることが予想される。
 そこで、P&Gは先手を打ち、髪の「手触りが良くなる」という消費者にとっては潜在的な状態ではあるが「髪をさわって(さわられて)気持ちが良い」という機能と情緒両面に働きかける価値を訴求したのだと考えられる。先に挙げたリリースの一文には前段がある。<1回使っただけで実感できるなめらかな髪と、いつまでも髪から咲き誇る表情豊かな香りが、ハッピーの予感に満ちた一日をナビゲートする>というのが全文だ。新たな訴求ポイントを強調していることがわかる。

 重要なのは、P&Gが製品の技術に用いた、髪を「なめらか」にするという技術を、「手触り」という「効用」伝えることでシズル感を高め、情緒的価値に昇華させることに成功している点だ。機能的価値はなかなか具体的に伝わりにくいため、「○○配合」や「□□技術」という訴求しがちだ。技術を顧客視点で「効用」に置き換えることはとても大切なことなのだ。

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