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2011.06.03

イマドキの卒業アルバムは「フォトブック」で作る?

 6月1日付日経MJに「フォトブック普及テコ入れ デジカメデータを製本 卒業アルバムに活用提案 写真関連の協議会」という記事が掲載された。その意図と背景を考察してみよう。

 協議会とは、「フォトブック普及協議会」という名だ。タイトルにあるように、「フォトブックは主にデジタルカメラで撮影した画像データをアルバム形式で製本する」サービスのことだ。「写真プリントの落ち込みで苦戦する写真関連企業の経営を支援する」という目的だという。同協会のホームページにある市場伸長予想では、2007年に19億円・95万冊だったものが、2011年には85億円・440万冊という右肩上がりのようだ。
 しかし、より一層の伸びが期待される。なぜなら、DPE(写真の現像・焼き付け・引き伸ばし)市場が劇的に縮小しているからだ。DPE店だけではない。店内やセンターで使用されるラボの機械のメーカー、用いられる薬剤や印画紙のメーカーに至るまで、関連業者が影響を受けている。

 競合はホームプリントなのかといえば、確かに以前はそうだったようだ。家庭できれいに印刷できるプリンターが手ごろな価格で手に入る。自分で印刷したり、引き延ばしたりする楽しみもあった。しかし、もはや消費者はそんなことには飽きている。
 何より大きいのは、記憶メディアの大容量化と低価格化だ。PCの外付けハードディスクは2TB(テラバイト)という、一生分の画像を蓄積できるような容量が1万円を切る価格で販売されている。しかし、PCに画像データを移すことをしないユーザーも多い。バックアップを取らないと消えてしまうリスクがあるので避けるべきだが、何しろ大きいものではSDカードは32GBもの容量がある。カメラの液晶画面も大きい。カメラの目的の画像を探す機能も進化して使いやすくなっている。自分で楽しんだり、人に見せたりと、アルバムを何十冊も持ち歩いているようなものだ。プリントなどするはずもない。

 タイトルにあるように、同協会はフォトブック普及の活路を「卒業アルバム」に見出した。
 卒業アルバムといえば、写真館が学校から請け負うことが多い。撮影から編集、製本まで。結構な収益が得られるはずだ。そして、その写真館はDPEも手がけていたりする。となると、その収益がフォトブックに喰われることになってしまう。何という身内の喰い合い。写真館危うし!・・・と思うのは早計であった。
 記事によれば、「生徒数が少ないといった理由のため、従来型の卒業アルバムの制作を断念している学校にフォトブックの活用を提案する」という。

 フィルムカメラのデジタル化、記憶媒体の大容量化と液晶の大型化という技術的なマクロ環境の変化と同時に、少子化・学校生徒数の減少という社会的なマクロ環境も変化していた。卒業式には卒業証書と卒業アルバムはセットがお約束なのに、それが実現できない環境になっている。その問題を解決する提案。まさに「ソリューション(solution=解決策)」である。

 自分たちが「売りたい」と思うモノは「ウォンツ」だ。それを消費者が必ず必要としているという保証はない。消費者にあるものは「ニーズ」。理想的な状態と現実のギャップである。「きちんとした卒業アルバムがほしい」のに、「生徒数が少なくコスト高になって作れない」。「少人数でも卒業アルバムを作りたい」というニーズをフォトブックというウォンツが見事に充足させたのだ。

 ターゲットを設定するには「5R」という考え方を用いる。Realistic Scale, Rate of Growth, Reach, Rival, Rank & Ripple Effect,という検証ポイントの頭文字6つのRだ。
 ・Realistic Scale(規模はあるのか?)=少子化の昨今、少人数の学校は多いだろう。
 ・Rate of Growth(成長性は?)=小学校などは統廃合が進んでいる。今後さらなる少子化で、ターゲットは増すだろう。
 ・Reach(到達可能か?)=公的な存在である学校のリスト入手は容易だ。ダイレクトメールなどでのアプローチも可能である。
 ・Rival(競争関係は?)=写真館が活躍できる規模を持った学校は対象にしないのであれば、むしろ経済効率から考えて誰からも相手にされない学校をターゲットに限定するなら、競合は存在しない。
 以上の4つのRだけでも狙うに十分な魅力があるが、残りの2つがフォトブックの普及にとって最も魅力的となる要素だ。
 ・Rank(優先順位は?)& Ripple Effect(波及効果は?)
 卒業生家庭にフォトブック製の卒業アルバムが配布されれば、そこからの波及効果も期待できる。その家庭で「へぇ、こんなにきれいに作れるんだ。うちでもやってみよう!」となる。卒業という区切りは次のステップのスタートでもある。そこから撮りためる写真を定期的にフォトブックに出力してもらえるチャンスなのだ。

 環境の変化を捉え、消費者のニーズに対応する。マーケティングの基本中の基本であるが、言うは易く行うは難し。しかし、今回のフォトブック普及協議会のニーズ発掘は出色に値するであろう。より多くの児童・生徒の思い出がフォトブックに鮮やかに残されつつ、普及が促進されることを祈る。

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