本気出した西友は消費者の味方になれるか?
日本のスーパーマーケットの販売スタイルが変わるかもしれない。その先鞭をつけているのが「西友」だ。世界最大の売上高を誇る「ウォルマート」の資本傘下としての優位性を活かした展開で攻勢をかけることが予想されるのだ。
■震災後に消えた「チラシ」と「特売」
3月11日の大震災後、スーパーのチラシが激減しているという。
6月14日の配信でNEWSポストセブンが<全国約1000人のモニターから約1100チェーン・3万店舗のチラシを毎週1万枚集めて、特売数&価格調査を行う、チラシレポート>社の調べを報じた。<例年と比べてチラシの枚数が地域により半分もしくは3分の1><東北地方だけでなく、全国的な流れ><この20年間でこれほど減ったことはない>という。
http://news.nifty.com/cs/item/detail/postseven-20110614-22876/1.htm
チラシの目的は集客である。そしてその「エサ」は「特売」。チラシで特に目玉として掲載されている商品を「ロスリーダー」という。価格変動が少ない卵や牛乳、夏なら飲料や箱アイスが設定される。そして、集客のために赤字覚悟で値付けする手法を「ロスリーダープライシング」という。狙いはロスリーダーと共に高収益商品を併売させることだ。そうして、全体として目標とする利益率を達成する。「マージンミックス」という。日本のスーパーマーケットの伝統的な手法である。
チラシが消えたということは、「特売」も減っていることを意味している。同・NEWSポストセブンの記事では食品流通の専門家である「食品工場の工場長の仕事とは」主宰・河岸宏和氏がコメントしている。<「震災でモノが足りないという“品薄感”が広まったため、あえて値段を下げなくても消費者がスーパーでモノを買うようになった。顕著なのがヨーグルト。品薄感があったから、自然に特売が減って値段も上がりました」>という。
■「EDLP」という戦略
チラシによる集客の対極にあるのが上記NEWSポストセブンで河岸氏も指摘している「EDLP(Everyday Low Price)」。日本のスーパーのバリューチェーンを考えてみれば、調達→物流→在庫→販売促進→販売となる。Low Priceはチラシ=販売促進に関わるコストを原資に商品販売価格全体を押し下げ実現する。Everydayは特売期間を設けず、各商品を年間通じて低価格で販売することを意味するのである。
1962年に誕生した米国のウォルマートが世界最大の売上高を誇るまでに急速に成長したのは、低価格、物流管理、コスト削減という要因であるが、KSF(Key Success Factor=成功のカギ)は「EDLPによるバリューチェーンの最適化」なのである。
「EDLP」を既に実践している企業は日本にも存在する。例えば、東京都大田区仲六郷に本社を置き、関東と東北に店舗を展開する中堅ディスカウントスーパーマーケット (DS)、「オーケー(OK)」だ。1958年創業の同社は、ウォルマートを徹底的に研究して1986年以降EDLPを実践している。同社は<原則として各商品につき1メーカーに絞り品目数を減らして1品目を大量に仕入れることで仕入れ価格を抑えている。チラシなどに基づき、近隣の競合店(スーパー、ドラッグストア等)が特売などによりオーケーの販売価格を下回った場合にはそれ以下の価格まで下げる「対抗値下げ」を行いPOP広告を掲示して対応している>(Wikipediaの記述)という。そうして同社は激戦区である国道16号線商戦を生き抜いているのである。
■本気出した西友
NEWSポストセブンの記事では、チラシを減らして特売をなくした結果<「震災後のスーパーの利益率は軒並み上がっている」>と前出の河岸氏は指摘する。しかし、チラシと目玉商品削減により利益率アップをスーパー各社が享受しているうちに、大本命が動き出した。西友だ。
<西友が1000品目値下げ…16日から>(6月14日読売新聞・@niftyニュース)
http://news.nifty.com/cs/economy/economyalldetail/yomiuri-20110614-00869/1.htm
記事によれば<食品や日用雑貨など計1000品目の価格を16日から順次、平均10%値下げすると発表した>という。
セゾングループの中核企業であった西友が、バブル経済崩壊後の経営失敗の影響から抜け出せずにウォルマートの資本参加を受け入れたのは2002年のこと。以降、あれよあれよという間に資本比率は高まり、2008年についに完全子会社化され上場廃止に至ったのは記憶に新しい。西友には資本だけでなく「EDLP」の手法も注入された。
EDLPは日本の消費者にはあまりなじみがない。そこで、同社はEDLPをわかりやすくするために「KY(カカクヤスク)」と言い換えてテレビCMでも継続的に訴求している。しかし、バリューチェーンで考えれば、調達→物流→在庫→販売促進→販売という「販売促進」がチラシからテレビCMに変わっただけで、本当に価格を安くする原資の確保にはなっていない。西友の値下げ原資はどこから出てくるのか。
上記NEWSポストセブンの記事によれば<5月末に総務省が発表した4月の全国消費者物価指数は、生鮮食品を除いた総合指数が2年4か月ぶりに上昇。値上がりした項目は全体の3割以上に及んだ>という。市場は震災直後の「モノがあればラッキー」という、棚がガラガラ状態は脱している。モノが戻ってくれば消費者の目はイヤでも価格に行くことになる。ガマンも限界になってくるだろう。
上記の読売新聞・@niftyニュースの記事で西友は値引きの理由を以下のように述べている。
<西友が5月末に行った消費者調査で、65%が「物価が上昇したと感じる」と答え、理由として「安売りやセールが減った」ことを挙げたという。西友は「震災後に物価が上がったわけではないが、より消費者に安さを実感してもらいたい」としている>。
これは、実質的に他社に対する「宣戦布告」である。「KY(カカクヤスク)」は、今回は「KY(根性で・安く)」なのかもしれない。
西友の1000品目値下げはその消費者心理を読んだものだろう。広告投資をしたまま、さらに値下げをすることは二重コストになるが、ここが「勝負のしどころ」だと踏んだのだ。
利益率アップを享受しているスーパー各社は西友の動きに対してどのように反応するのか。再びチラシと特売を復活させるのか。もしくは、「オーケー」のように独自のEDLPを展開するようになるのか。この節目となるかもしれない動きは継続的にウォッチするに値するだろう。自分の家計のためにも。
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