ゼンショー値下げに松屋・吉野家追随せず?牛丼戦争は終わるのか?
ゼンショーの「すき家」「なか卯」で牛丼の値下げが7月5日までの期間限定で始まった。4月から3ヶ月連続で、今回は両店そろって250円の業界最安値レベルで集客を図っている。一方、4月5月には同様に値下げを行い客足を伸ばした吉野家ホールディングスと松屋フーズは現在のところ値下げを表明していない。牛丼戦争は終結するのだろうか。
ゼンショーの勝ちパターンはアドオンセリングだ。すき家は実際の注文はトッピングを施した「白髪ねぎ牛丼」「キムチ牛丼」などで稼ぎ、なか卯では、牛丼に「小うどん」などをセット併売する。その意味では、「最安値牛丼キャンペーン」はゼンショーにとっては集客のための販売促進ツールであると考えるなら、定期的に割引クーポンを配布するようなものだから実施する意味がある。
一方、松屋のメニュー構成を見れば既に定食屋の風情がある。牛丼より高単価な定食を注文する顧客がもともと多く、かつ、最安値牛丼で新規集客しても定食の注文に転換できる割合が少ないとしたら、実施する意味はない。また、吉野家は「牛丼一筋」だ。低価格対応の「牛鍋丼」を発売したが、牛丼の価格は据え置きたい。最も低価格牛丼戦争から離脱したい理由が明確である。
牛丼各社が利益を削って「チキンレース」の如き戦いも、業界3社による「コップの中の戦争」ならぬ「どんぶりの中の戦争」では済まなくなってきた。
6月27日付日経MJの記事によれば、ファミリーレストランのすかいらーくが4月から甲府市で試験的に運営してきた低価格業態「どんぶりガスト」の多店舗化に乗り出した。年内に2号店を出店し、2~3年で100店体制を目指すという。
同店は280円の「ハンバーグ牛丼」、同価格の「たぬきうどん」や300円の「ポークカレー」などを販売する。その一方で、客単価は450円と設定しているということから、アドオンセリングのしくみもしっかり整えているということになる。つまり、ゼンショーの展開をしっかりと研究しているのだ。
「どんぶりの中の戦争」に割って入ってくる競合だけではない。どんぶりメニューではなく、サンドイッチも280円である。「サブウェイ」も今月から曜日ことに通常のサンドイッチメニューが一律290円になる「得サブ」の展開をはじめた。サブウェイファンである筆者の観察するところでは、「得サブ」で「初サブウェイ」(←同店独特の注文方法に慣れていないのでわかる!)と思われるお父さんたちがかなり出現してきた。恐らく牛丼客を吸引しているのであろう。当初、280円のサンドイッチ単品(+無料の水など)を注文していたが、やがて「ペプシネックス(Sサイズ)」などをセットにしても470円としっかりワンコインでお釣りがくることを知り、利益率の高いドリンクをセット注文する人も増えてきた。しっかりアドオンセリングに載せられている。
しかし、「どんぶりの中の戦争」が拡大した「トレーの上の戦争」も、どこかで潮目が変わるはずだ。
食べ物の話ではなく、スーツの話に目を移してみよう。同様に6月27日付日経MJのアパレ欄に「タカキュー “1万円スーツ”半減 3~4万円台充実 実用性高める」という記事が掲載された。
1万円を切るスーツはデフレ下の2007年、西友が親会社ウォルマートの調達力を活かして7980円のスーツを30~50代向けに投入し。その後、リーマンショックによる一層の景気悪化も手伝って消費者のニーズも高まり、流通大手各社や百貨店、紳士服専門店も参戦。アンダー1万円スール市場は激戦化した。しかし、契機に薄明かりが見えた2009年から一転、1万円スーツは売れ残りが出る店も頻出した。代わって格安なパターンオーダースーツが人気を集めはじめたのだ。
既製服中心のタカキューの場合、商機を「機能性」に求めたようだ。「秋冬物はポケットの多さと使いやすさを売り物にする。従来の携帯電話より大きめのスマートフォンの普及や、携帯電話を2台持つ人が増えていることなどに対応し、専用ポケットを設ける」という。価格は「1万円(税抜き)の商品の割合を約8%と前期に比べ約半分程度に減らす。一方、1万9000円(同)のスーツは前期並みの40%程度とし、2万6000円(同)の商品を新たに発売する。3~4万円前後の商品の商品も前期の約30%から約40%に引き上げる」という。
価値を高め、従来の上の価格帯に移行する動きは他店にも見られる。「機能性スーツ」の主戦場は「洗えるスーツ」だ。紳士服量販大手は1万9800円などの2万円を切る価格でしのぎを削る。そこから一線を画そうとしているのが、株式会社オンリーが展開する「THE @ SUPER SUIT STORE」だ。同店は1万9800円、2万9800円で展開する、いわゆる2プライススーツ店だが、パターンオーダーも提供できるのが特徴だ。そして、その得意技を活かして、「洗えるオーダースーツ」を3万8000円(税別)で展開している。2プライスの競合や、量販大手の洗えるスーツより、「オーダー」という強みを活かして1万円高い価格で勝負を賭けているのだ。
紳士スーツに見られる、各社が消費者ニーズを見て、機能を高めたり自社の得意技を使ったりして「安いだけではない」という価値で戦う、業界の「ポケットの中の戦争」。牛丼業界の「どんぶりの中の戦争」は同様に各社が工夫し、戦い方に多様性が出てくるのであろうか。
まずは、吉野家、松屋が追随するかが直近の注目ポイントとなるだろう。
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