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21 posts from June 2011

2011.06.30

「トクホンの入浴剤」に隠された戦略は何だ?

 「外用消炎剤」、平たくいえば「湿布薬」。代表的なブランド名を挙げるなら、久光製薬の「サロンパス」と「トクホン」の名が出てくるだろう。製品の発売は1933年(昭和8年)。サロンパスより1年先輩の押しも押されもせぬロングセラー商品である。社名を株式会社鈴木日本堂から商品と同じ社名株式会社トクホンに変更したのが1989年(平成元年)のことである。

 そのトクホンから薬用入浴剤「トクホンの湯」(医薬部外品)が発売された。
 トクホンが消炎剤以外の製品を発売するのは、社名変更と同じ1989年にビタミン配合ドリンク剤「トクホン内服液」発売を発売して以来のことだ。さらに遡れば創業の1901年(明治34年)にかぜ薬「オピトリン」、頭痛膏「乙女桜」などを製造販売していたが、その後は消炎剤一筋を販売し、「トクホン内服液」も振るわず販売中止をして以来、ドメインを消炎剤に集中していたのだ。

 企業の成長戦略を考えるフレームワークに「アンゾフのマトリックス」がある。
 既存の商品で勝負をするのか、新たな商品に賭けるのか。既存の市場・顧客を相手にするのか、新たな市場・顧客を獲得するのかという4象限で、既存×既存は「市場深耕」、既存×新規は「新商品開発」と「新市場開拓」、新規×新規は「多角化」という戦略となる。
 トクホンの薬用入浴剤「トクホンの湯」の発売は上記のどれにあたるのか。既存の顧客に新たな商品として入浴剤を販売しようという戦略と考えれば「新商品開発」だ。しかし、「トクホンの湯」は当面「ネット限定販売」なのである。既存のドラッグストアなどの売り場=市場ではなく、新市場であるネットでの販売を目指すということは、新たな商品を新市場で販売する「多角化」に分類される。そして、「多角化」は成功確率が低い成長シナリオであるのだ。なぜ、そのチャレンジに踏み切ったのか。

 <トクホン、薬用入浴剤「トクホンの湯」を通販チャネルで発売>(6月28日マイライフ手帳@ニュース) 
  http://tinyurl.com/42krgws

 マイライフ手帳@ニュースよると、<トクホンモバイルサイトのほか、楽天市場にトクホンオンラインショップを開設>とある。
また、元々はこの商品はトクホンの販促ツールであり、トクホン社の製造ではないようだ。
 昨年来、<貼り薬「トクホン」にオリジナル入浴剤を添付するプロモーションを実施している。消費者から、この入浴剤を使うとスーッと心地よく、とても楽になるとの反響と製品化への要望が寄せられたという。そのため、トクホンは製造元の北陸化成(石川県白山市)と共に肩こりや腰痛に効果的な処方をさらに検討した結果、「トクホンの湯」が生まれた>(同)という。

 メーカーが販売チャネルの棚を獲得することは容易ではない。消炎剤では盤石の地位を築いていても、実績のない入浴剤を持っていって、バスクリンやバスロマン、バブなどの強豪がひしめく棚を「ハイどうぞ」と空けてくれるチャネルはないだろう。確かに「販促品として好評であった」という実績はあるかもしれないが、それが商品として売り出したときに売れるという保証にはならない。
 同社のホームページを見ると、営業活動の様子として<当社の製品は、代理店を経て薬局・薬店に供給されます。私たち営業は代理店、薬局・薬店を訪問して製品の情報を提供しています>とある。
 懸命に新商品である入浴剤を売り込んでもチャネルは取り扱いに関して首を縦に振ってくれないとすればどうするか。「商品として売れるという実績」を切り札にするしかない。ネットでの販売は「実績作り」であると考えられる。
 <入浴剤のハイシーズンとなる秋冬に向けて、店頭での販売も予定している>(同)とあるが、夏の時期、シャワーで済ませてしまう人も多いだろう。だとすると、夏の間は何とか認知を高める努力をして、ネットでの販売の勝負は秋口から。その実績を持って、冬に何とか店頭の棚を獲得することを目指すという動きになるのだろう。

 どんなにすばらしい商品を作っても、販売の場を獲得できなければ消費者の手に取られ、売れることはない。そして、販売チャネルは自社でコントロールすることができない、利害関係が複雑に絡む「他人」である。メーカーの商品が棚に並ぶまでには様々なドラマが存在するのである。
 薬用入浴剤「トクホンの湯」がドラッグストアなどの店頭にいつ並ぶかをウォッチしてみるといいだろう。おっと、そのためにもトクホンモバイルサイトか、楽天市場で購入して試してみることも・・・。

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2011.06.29

「メガネの愛眼」は変われるか?~価値構造とKSF~

 人はナゼ、眼鏡をかけるのか。目が悪いからだ。近視、遠視、乱視、老眼・・・。では、眼鏡に期待することは何かといえば、まずは「見えるようになること」だ。それがどのような状態で実現されることを期待するかといえば、「そこそこよく見える」程度ではなく、「バッチリよく見える」ようでなければならないし、顔によくフィットする、耳が眼鏡のつるで痛くならないなどの「かけ心地」も重要だ。それが実現された上で、オシャレであるという「ファッション性」や「ブランド」などがも止められる。
 上記のような、その商品を手に入れることで実現したい中心となる価値を「中核」という。さらに、それがどのように実現できるかという価値を「実体」、さらに中核の実現には直接関係ないが、その魅力を高める要素を「付随機能」という。フィリップ・コトラーの「製品特性分析」というフレームワークである。

 6月29日付日経MJに「愛眼、若者向け店舗倍増」という記事が掲載された。<20~30代を中心とする若い世代を対象にした店舗を3年で倍増させる>という。同社は<従来の主力店は高額品に強く、顧客の年齢も高いため、低価格品で若者の需要を掘り起こる競合各社に苦戦を強いられていた>という。

 製品の価値構造は時と共に変化する。「眼鏡」というモノの初期段階の姿は、時代劇や漫画で見ることができるだろう。虫眼鏡を2つつなげたような形のレンズとフレームをゴムだかヒモだかで耳に結びつけているアレだ。細かな視度調整などできていそうもなく、かけ心地など望むべくもない。つまり、「中核」の価値しか実現できていないのだ。
 技術が進んで、レンズは近視の度数に細かく対応したり、乱視を併発していたりする場合でも対応できるようになった。さらにフレームの形状や材質も向上し、個々人に合わせてフィットさせることができるようになった。「実体」の価値が充実したのだ。
 1981年からオンエアされている「メガネは顔の~一部~です~♪」というCMソングは、「愛眼」ではなく同業の「東京メガネ」(←実は東京以外でも流れている)のものであるが、当時から眼鏡は人の個性、オシャレと切り離せなくなった。「付随機能」の充実である。
 愛眼は従来<2万円以上の商品を取りそろえ丁寧な問診を徹底>するモデルであったという。眼鏡販売のKSF(Key Success Factor=成功のカギ)は「良い品物を取りそろえることと、丁寧な接客・フィッティング」であったのだ。中核から実体、付随機能までの価値を最適な内容で提供することで顧客満足も高くなり、それなりに高い商品でも買ってもらうことができたのだ。

 しかし、技術の進歩とファッションの流行が眼鏡の価値構造を変えた。単に「見えるようになる」ではなく「バッチリ見える」はアタリマエ。フィット感も当然の「中核」になった。それにつれて、「付随機能」であった「自分によく似合う」「オシャレ」は、中核を実現するために欠かせない「実体」となり、新たに「頻繁に買い換えて気分が変えられる」「ファッションに合わせて掛け替えられる」という要素が付随機能として求められるようになった。
 そうなると、「商品の品質の良さ」や「丁寧なフィッティング」では差別化ができなくなる。さらに、1度買えば1つの眼鏡を何年も使うのではなく、頻繁に買い換えたり、複数個所有したりするという購買・消費頻度が上がるということは、「規模化」して商品を低価格化できることを意味する。KSFは「顧客のファッションに合うよう、より多くの選択肢を、安価に提供すること」に変化したのである。

 愛眼の新規施策は商品に求められる価値構造の変化と、新たなKSFに対応するためのものである。
 若年層向けの店舗として現在、<団塊ジュニアや若い家族を中心にした「AIGAN」>と、<ヤング向けにファッション性を重視した「SYZ(シーズ)」>を大型ショッピングセンターなどに出店している。その両店を強化するのだ。<低価格商品を拡充するため、部材調達を見直す。仕入れ先を今年度から段階的に集約し、大量調達でコストを削減する方針><門新次官を短縮化するなど接客を簡素化し、回転率を上げる>という方針だという。
 
 記事は<市場ではJINZ(ジンズ)やZoff(ゾフ)など低価格品を主体とする競合店が若年層の需要を取り込み、シェアを伸ばしている。愛眼は苦戦を強いられている「メガネの愛眼」を>減らし、<経営資源を若年層に振り向ける一方、不採算分野からの撤退を急ぎ>営業・最終赤字からの脱却を目指すと結んでいる。
しかし、前述の通り、価値構造で考えれば、一連の変革は競合とようやくおなじスタートラインに立っただけにすぎない。愛眼が勝ち残るためには、USP(Unique Selling Proposition=競合に真似できない自社ならではの提供価値)を明確にしていくことがさらに必要だ。
 価値構造とKSFは、自社を置き去りにして容赦なく変化していく。愛眼がこの後どのような戦いを展開していくかウォッチしながら、この事例を自社に当てはめて見直してみることが大切である。

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2011.06.28

将を射んと欲すればまず女子高生を射よ:シーブリーズの噴水戦略

 「シーブリーズ」の日焼け止めが売れているという。主要購入客は女子高生だ。業界の常識を覆したというその製品戦略の狙いは難だろうか。

 6月27日付日経MJに「色鮮やかな容器 女子高生つかむ シーブリーズUVカット&ジュエリー」という記事が掲載された。記事にはイエロー、グリーン、オレンジ、マゼンタの鮮やかなカラーの容器の写真が添えられ「容器は全4色で香りもプラスした」とある。フローズンシトラス、グリーンアップル、ソープ(せんっけん)、クラッシュベリーの香りだ。
 記事には「女子高生に楽しんでもらいたい」という商品のメーカー・資生堂担当者のコメントがある。<日焼け止め商品の容器といえば、通常は白色が多い。紫外線から肌を守り、美白を維持するという商品イメージを連想してもらいやすいからだ>(同記事)という。業界の常識に反して鮮やかなカラー展開にしたのは女子高生ターゲットであるためだ。
<紫外線対策の意識が浸透するにつれ、日焼け止めクリームを利用する年齢層も広がっている。女子高生の使用率は制汗剤(80%)に次いで60%と2番目に高い>とある。

 シーブリーズといえば、まず「女子高生向け制汗剤」というイメージが出てこないだろうか。
1969年に日本で正式発売され、1982年に外資系医薬品会社のブリストルマイヤーズスクイブがブランドを獲得、翌年にテレビCMが放映され若者の人気に火が付いた。シャンプーから始まり、デオドラント製品(パウダー入りローション)を展開したのは96年のこと。しかし、徐々に売上は低迷し2000年に資生堂に事業譲渡。資生堂はシーブリーズの従来のターゲットとポジショニングである「夏」「サーファー御用達」から、大胆に「女子高生」「恋の気分」にシフトし、商品名を「シーブリーズ デオ&ウォーター」として8種類の容器を採用。微妙なオトメゴコロに対応できるよう8種の香りのバリエーションに拡大し、今日では女子高生の定番ブランドとなっている。
 女子高生の間での浸透率は凄まじい。記事には「女子高生の2人に1人が使っている」と担当者がコメントしている。

 圧倒的なターゲット浸透率を持つ「シーブリーズ デオ&ウォーター」から、「UVカット&ジュエリー」を派生させたのは記事にあるような「使用年齢の広がり」という商機ばかりではない。競合からの脅威への対応という意味も考えられるのだ。
 ニベア花王のデオドラント製品の大定番ブランド、「8×4」だ。1974年にドイツの化粧品会社の製品を技術提携しニベア花王が日本市場に展開。今日に至るまで、パウダースプレーやロールオンタイプを基本として様々な製品バリエーションを市場に送り込み、常にマイナーチェンジを繰り返している。そして、3月には発売された「デオウォーター」という製品を発売した。パッケージは「シーブリーズ デオ&ウォーター」とそっくりである。女子高生の主要購買チャネルであるドラッグストアの店頭支配力を活かして棚を取り、価格も100円ほど安くするという攻勢を各地でかけている。

 迫り来る競合、コンビニブランドの業界リーダーによる「同質化戦略」の回避に「UVカット&ジュエリー」はどのように貢献できるのか。
 同商品が展開する4色の容器・香りは<人気の4色を使い、日焼け止め商品としては珍しい香りも加えて女子高生の遊び心を刺激する>とある。日焼け止めは<これまでは日中に何度も塗り直す必要があるため面倒に思う女子高生が多く定着に時間がかかった>という。朝のお出かけ前に制汗剤をつけてお気に入りの香りを身にまとい、同じ香りの日焼け止めをつけて香りを持続させる。本来面倒な作業も楽しみに変わるという寸法だ。
 日焼け止めを塗り直して香りをさらにつけるという行為を促すことは、「8×4デオウォーター」への強力な対抗策となる。同商品は、花王が石けんやシャンプー、洗剤、柔軟剤などに用いている、「香りが長続きする」という得意技である、「はじける香りカプセル」を採用しシーブリーズの上を行こうという戦略だ。それに対して、制汗剤の香りを持続させるのではなく、日焼け止めを楽しみながら塗らせて香りをさらにつけるという行為に代替させることができるのである。

 「8×4デオウォーター」の同質化戦略をかわしつつ、シーブリーズは別のターゲットも狙っている。<制汗剤の場合、年代別の使用率は10代に次いで40代が高い。子どもにせがまれて買ってきた親が気に入ってそのまま使うケースが多いという>とある。40代の親は「元祖シーブリーズ世代」だ。「あら、シーブリーズがこんなにオシャレになっちゃって!」と抵抗なく試用し、お気に入りになる確率は高いだろう。
 記事では<日焼け止めクリームも噴水のように下から上に需要層を広げていけるかも見どころだ>とまとめている。
 ターゲットを評価するには「5R」という考え方を用いる。Realistic Scale(規模), Rate of Growth(成長性), Reach(到達性), Rival(競合状況), Rank & Ripple Effect(優先順位と波及効果)という検証ポイントの頭文字5つのRだ。
 シーブリーズの場合、Rank & Ripple Effect(優先順位と波及効果)において、制汗剤で主使用層として女子高生を優先し、そこからその母親に波及させた。日焼け止めにおいても同様の展開を意図しているのだ。

 「シーブリーズUVカット&ジュエリー」の今後の課題は、記事にある「噴水効果」を実現することだ。40代母親層が選択する日焼け止めは、機能性やブランドなど様々な切り口で多数の商品が存在する。その中で、「娘と一緒」「青春の日々に使ったブランド」など刺さるKBF(Key Buying Factor)を訴求していくことがキモとなる。しかし、そこでDMU(Decision Making Unit=購買関与者)としての娘・女子高生をうまく動かすことが欠かせない。「娘の使う商品のついで買い」ということは、娘にとっては自分の小遣いで買うのではなく「母親に買ってもらえる」ことを意味する。せっかく4種の香りがあるのだ。「毎日の気分によって使い分ける」ことなどを流行らせ、母親に「大人買い」させて、使用を習慣化させることなども有効だ。

 うまくすれば、大人買いしてくれるお金を出す母親をユーザーとして取り込むには、「将を射んと欲すればまず馬を射よ」だ。いかに女子高生を今以上のファンにさせ、母親に働きかけをさせるかがカギとなるだろう。

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2011.06.27

ゼンショー値下げに松屋・吉野家追随せず?牛丼戦争は終わるのか?

 ゼンショーの「すき家」「なか卯」で牛丼の値下げが7月5日までの期間限定で始まった。4月から3ヶ月連続で、今回は両店そろって250円の業界最安値レベルで集客を図っている。一方、4月5月には同様に値下げを行い客足を伸ばした吉野家ホールディングスと松屋フーズは現在のところ値下げを表明していない。牛丼戦争は終結するのだろうか。

 ゼンショーの勝ちパターンはアドオンセリングだ。すき家は実際の注文はトッピングを施した「白髪ねぎ牛丼」「キムチ牛丼」などで稼ぎ、なか卯では、牛丼に「小うどん」などをセット併売する。その意味では、「最安値牛丼キャンペーン」はゼンショーにとっては集客のための販売促進ツールであると考えるなら、定期的に割引クーポンを配布するようなものだから実施する意味がある。
 一方、松屋のメニュー構成を見れば既に定食屋の風情がある。牛丼より高単価な定食を注文する顧客がもともと多く、かつ、最安値牛丼で新規集客しても定食の注文に転換できる割合が少ないとしたら、実施する意味はない。また、吉野家は「牛丼一筋」だ。低価格対応の「牛鍋丼」を発売したが、牛丼の価格は据え置きたい。最も低価格牛丼戦争から離脱したい理由が明確である。

 牛丼各社が利益を削って「チキンレース」の如き戦いも、業界3社による「コップの中の戦争」ならぬ「どんぶりの中の戦争」では済まなくなってきた。
6月27日付日経MJの記事によれば、ファミリーレストランのすかいらーくが4月から甲府市で試験的に運営してきた低価格業態「どんぶりガスト」の多店舗化に乗り出した。年内に2号店を出店し、2~3年で100店体制を目指すという。
 同店は280円の「ハンバーグ牛丼」、同価格の「たぬきうどん」や300円の「ポークカレー」などを販売する。その一方で、客単価は450円と設定しているということから、アドオンセリングのしくみもしっかり整えているということになる。つまり、ゼンショーの展開をしっかりと研究しているのだ。
 「どんぶりの中の戦争」に割って入ってくる競合だけではない。どんぶりメニューではなく、サンドイッチも280円である。「サブウェイ」も今月から曜日ことに通常のサンドイッチメニューが一律290円になる「得サブ」の展開をはじめた。サブウェイファンである筆者の観察するところでは、「得サブ」で「初サブウェイ」(←同店独特の注文方法に慣れていないのでわかる!)と思われるお父さんたちがかなり出現してきた。恐らく牛丼客を吸引しているのであろう。当初、280円のサンドイッチ単品(+無料の水など)を注文していたが、やがて「ペプシネックス(Sサイズ)」などをセットにしても470円としっかりワンコインでお釣りがくることを知り、利益率の高いドリンクをセット注文する人も増えてきた。しっかりアドオンセリングに載せられている。

 しかし、「どんぶりの中の戦争」が拡大した「トレーの上の戦争」も、どこかで潮目が変わるはずだ。

 食べ物の話ではなく、スーツの話に目を移してみよう。同様に6月27日付日経MJのアパレ欄に「タカキュー “1万円スーツ”半減 3~4万円台充実 実用性高める」という記事が掲載された。
1万円を切るスーツはデフレ下の2007年、西友が親会社ウォルマートの調達力を活かして7980円のスーツを30~50代向けに投入し。その後、リーマンショックによる一層の景気悪化も手伝って消費者のニーズも高まり、流通大手各社や百貨店、紳士服専門店も参戦。アンダー1万円スール市場は激戦化した。しかし、契機に薄明かりが見えた2009年から一転、1万円スーツは売れ残りが出る店も頻出した。代わって格安なパターンオーダースーツが人気を集めはじめたのだ。
 既製服中心のタカキューの場合、商機を「機能性」に求めたようだ。「秋冬物はポケットの多さと使いやすさを売り物にする。従来の携帯電話より大きめのスマートフォンの普及や、携帯電話を2台持つ人が増えていることなどに対応し、専用ポケットを設ける」という。価格は「1万円(税抜き)の商品の割合を約8%と前期に比べ約半分程度に減らす。一方、1万9000円(同)のスーツは前期並みの40%程度とし、2万6000円(同)の商品を新たに発売する。3~4万円前後の商品の商品も前期の約30%から約40%に引き上げる」という。

 価値を高め、従来の上の価格帯に移行する動きは他店にも見られる。「機能性スーツ」の主戦場は「洗えるスーツ」だ。紳士服量販大手は1万9800円などの2万円を切る価格でしのぎを削る。そこから一線を画そうとしているのが、株式会社オンリーが展開する「THE @ SUPER SUIT STORE」だ。同店は1万9800円、2万9800円で展開する、いわゆる2プライススーツ店だが、パターンオーダーも提供できるのが特徴だ。そして、その得意技を活かして、「洗えるオーダースーツ」を3万8000円(税別)で展開している。2プライスの競合や、量販大手の洗えるスーツより、「オーダー」という強みを活かして1万円高い価格で勝負を賭けているのだ。

 紳士スーツに見られる、各社が消費者ニーズを見て、機能を高めたり自社の得意技を使ったりして「安いだけではない」という価値で戦う、業界の「ポケットの中の戦争」。牛丼業界の「どんぶりの中の戦争」は同様に各社が工夫し、戦い方に多様性が出てくるのであろうか。
 まずは、吉野家、松屋が追随するかが直近の注目ポイントとなるだろう。

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2011.06.23

フレッシュネスバーガー変身計画のナゾに迫る!

 6月22日付の日経MJに「フレッシュネス200店全店、面積倍増」という記事が掲載された。サブタイトルは「5年後メド セルフ型に転換」。写真のキャプションには「今後は都心の1等地などに積極的に出店する(東京都千代田区の日比谷店)」とある。さらっと書いてあるが、これって、「別モノ」になってしまうぐらいの大変身ではないだろうか。そんな変身ができるのか?いや、そもそも、その狙いは何だろうか?

■日経MJの記事によると・・・

 1等地戦略に転換というのは、フレッシュネスは創業以来<他のファストフードチェーンが出店を控えるような2等立地や3等立地を狙ってきた>(同記事)からだ。つまり、ニッチ戦略だ。ニッチという意味では、世情の禁煙・分煙が厳しくなるまで「全席喫煙可」を一つのウリにもしていた。差別化戦略としては、ファストフードながらバーガー類は全て作りたてで、店員が客席までの配膳をするしくみを取っている。モスバーガーもその点は同様だが、フレッシュネスはフレッシュジュースを絞りたてで提供したり、食器類に登記を使ったりという差別化も行っている。つまり、ファストフードではなく一種のスローフードであり、合理的なオペレーションよりもどちらかといえばユルい手作り感たっぷりの運営を特徴としているのだ。

 新戦略ではタイトルにあるように、従来店舗面積が50~70平方メートルだったところを115~130平方メートルに拡大し、配膳は客がカウンターで商品を受け取り、自ら運んでいくセルフサービス式に転換するという。既に日比谷店など全体の約5割の店を新型店に切り替えたという。
 当然、地代家賃が上昇する。しかし、記事によれば「セルフ化による店内オペレーションの効率化で1等立地の運営コストを吸収。出店済みの日比谷店は店舗面積が2倍になり売上が3倍になった」という。また、「面積拡大でタブレットなどの菓子類やトートバッグなどのPBをレジ前に陳列して売る」というアドオン・セールスも見込んでいるという。
新戦略は奏功しているようだ。「4~5月の既存店売上高は前年同月比約3%増と好調」であり、特に「アボガドバーガー(620円)などの高単価商品の売れ行きが良い」ことが寄与しているとある。

■新戦略の狙いと背景を考えてみた

 記事をよく読むと疑問が出てくる。売上=客数×客単価 だから、単純に面積を2倍にしても売上は2倍にしかならない。3倍になっているという日比谷店のヒミツはなんだろうか。
 まず、「客単価」を考えてみる。記事にあるように、高単価バーガーが売れていることもあるし、レジ横PB商品が売れているのかもしれないが、それで3倍にはならないだろう。
 もう1つの変数「客数」は立地に依存するところが大きい。「客数」にはさらに「回転率」が関係する。人の往来が多い1等立地への出店で入れ替わり立ち替わり客が入って「のべ客数増」を見込む。そうすれば「売上」は上がる。

 しかし、利益=売上-コストだ。売上が上がれば、売上の中の粗利の総額は高くなる。
しかし、コスト面で考えると1つ疑問なのは、1等立地への移行は記事にあるようなセルフ化=店員が配膳をしないという効率化・コスト削減でまかなえるのかということだ。
 もう1つの疑問は、客数も増えて回転率が上がる状況で、しかも「セルフ」にして、従来の「つくりたて」ができるのかということだ。オペレーションを変えなければ、カウンターに出来上がるまで客を立たせておくことになる。それを避けるためには、マクドナルド型の「見込み作り置き」をすることになる。そのノウハウが蓄積できていないと、「廃棄率」が上がってさらにコストアップ要因になる。

■現地で確かめてみた!

 Facebookで上記の謎を提起して議論したが、解明ができなかったので、日比谷店に行ってみた。

Entrance_2


 日経MJにある写真の通りの真新しい店舗である。ロケーションは晴海通りに面し、日比谷シャンテに向かう角の文字通り1等地である。
 4階建のビル1棟丸々が店舗だ。4フロアのうち4階のみが喫煙席で完全フロア分煙を実現している。従来からの喫煙者のファンを逃がさず、時流通り非喫煙者のニーズにも応える造りとなっている。
日経MJの記事にあった通り、PBグッズがレジ前に並んでいたが、まだアイテムが少なく、これからという感じだ。


Counter_2

 1階部分はレジと、その後ろにオープンキッチンがあって、レジに続いて商品受け渡しカウンターとなっている。1階にもカウンター席が窓の方を向いて並んでいるが、繁忙時間には客が背面のレジ~受け渡しカウンター側に並ぶのですこし落ち着けない感じになる。急いで食べて出て行きたい人向けというところだろう。
 疑問点の1つであった「作りたて否か」は、前者であった。注文をすると、レシートに「お呼び出しNo.」が印字され、商品受け渡しカウンターに進むよう促される。カウンターにストックはなく、作りたてが渡されるしくみだ。但し、オープンキッチンではハンバーガーのパティが常にざっと10枚ぐらい焼かれており、ある意味での「見込み生産」をしているといえる。
 カウンター内はレジ1名、商品受け渡し1名、オープンキッチン内調理スタッフ4名という体制だ。みんなキビキビ動いている。従来点の良くも悪くもユルい感じは微塵もない。マニュアルを1から作り直し、それを徹底していることが伺える。
 レジでオーダーし、商品受け取りまでの待ち時間を計ってみた。ちょっと意地悪く「豆腐バーガー」を頼んだので、見込み生産したパティは使えない。待つこと約5分。12時少し前の時間だったから注文が円滑にさばけたのかもしれないが、豆腐バーガーを一から作ったとしては、ストレスなく待てる範囲内だといえるだろう。

Seat_2


 2階客室は下手なスタバより、ずっと居心地がいい。客の滞留時間長そうに思える。
しかし、地域特性か慌ただしく食べて出ていく客も少なくない。考えてみれば、そもそもファストフードを食べに来ているので、ビジネス客、買い物客など本来の目的があって、長時間過ごすことはない。事実、ランチ時間帯の平均滞在時間は20~30分というところだろう。
売上・利益アップをどう図るかという謎の答えは、前述の「居心地のいい客席」かもしれない。それによって、ランチや軽い夕食需要時間以外の「カフェ客」を吸引する。客席の空き時間がなくなり、稼働率が高まる。しかも、ドリンクはバーガー類より格段に利益率がいい。思い出してみれば、従来店も店頭に「飲み物だけでもどうぞ」と看板が出ていたが、正直なところ入りにくかったし、そもそも2等3等立地にはカフェ需要客は通りかからない。

 フレッシュネスバーガーが1等立地戦略に転換し、オペレーションをセルフスタイルに変更したのは、「客数増・客席稼働率向上」が狙いで、そのために相当の努力をしてマニュアルの変更をはじめとしたオペレーション改良を行った。そして、さらなる収益化のカギは、食事時ではないバーガー類販売の閑散時間にゆったりした空間をカフェ需要客に提供し、客席稼働率を上げつつ、高収益のドリンクで稼ぐことなのだろう。

 そうなると、フレッシュネスは時間帯によってはスターバックスが競合になる。そうなると、課題は意外にも円滑だったオペレーションではなく、ドリンクのメニューと味ということになる。個人的な好みかもしれないが、アイスコーヒーSサイズ・300円也は、氷ばかりで量が少なく、味は苦味はあるが風味に乏しい。氷がクラッシュアイスのため、さらにすぐに薄まってしまい300円の価値は感じられなかった。オペレーションの次には、ドリンクの商品力がどのように上がっていくのかも楽しみである。

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2011.06.22

メローイエロー&スプライト復活のナゼ?を考える

 コカ・コーラシステムのニュースリリース(6月21日付)によると、<1980年代に人気を博した炭酸飲料として、シトラス系のフレーバーでなめらかな味わい、そしてほどよい炭酸が心地よい「メローイエロー」を2011年6月27日(月)より、そしてクリアで爽快な飲み口、キレのあるレモンライムテイストと強炭酸が特長の「スプライト」を2011年7月25日(月)より、それぞれ全国で発売>するという。今ナゼ、リバイバルブランドを引っ張り出してきたのか。その背景と狙いを考えてみよう。

 6月22日付の日経MJに1971年以来、年2回恒例となっている「ヒット商品番付」が掲載されている。しかし、今回は異例ずくめだ。何といっても、東西の横綱が不在なのである。<バブル崩壊直後の1991年以来、約20年ぶり>のことだという。
 同紙によれば、<東日本大震災で新製品の発売が相次いで中止になったり、延期されたりしたため>だという。そして<三役以上(横綱、大関、、関脇、小結)をはじめ、震災がらみの商品・サービスが上位を占めました>という結果となっている。

 震災の影響は飲料業界も直撃した。ミネラルウォーターの需要が高まり、サントリーは3~4月は例年の1.5~1.6倍の出荷体制を組んだという。(3月29日・msn産経ニュース)しかし、<ミネラルウォーターの急激な需要の伸びに、ペットボトル容器のほか、ラベルに使うフィルム、キャップといった資材の供給が追いついていない>(同)という状態が続いた。資材が足りない。足りた分はミネラルウォーター優先。当然、清涼飲料の新発売は先延ばしされる。

 震災の影響から様々な業種が脱してきた中、今月に入ってようやく飲料業界にも新発売のニュースが戻って来つつある。筆者も先週末から今週にかけて、「ペプシドライ」と、「ウィルキンソン ジンジャエール 辛口」の記事を伝えた。サントリーとアサヒ飲料の肝いりの新商品である。では、飲料業界第1位の日本コカ・コーラはどう動くかと見ていれば、「メローイエロー」と「スプライト」のリバイバルであった。
 メローイエローは日本では1983年に販売開始。松居直美を起用したCMのキャッチコピーは「とっても訳せない味」だった。2006年には検索サイトgooのgooランキングにて、「もう一度飲んでみたいソフトドリンクランキング」第1位となった経緯があるが、それを遡る2年前、2004年にセブンイレブンよりファンタとともに復刻版が発売されている。(Wikipediaの記述)。スプライトは現在も発売中で今回はリニューアルであるが、そのポイントは<日本初登場時の緑のガラス瓶をモチーフにしたラベルデザインとロゴマークに変更>(リリースより)とある。

 過去にリバイバル発売を行い、再度復活を望む声も高い「メローイエロー」。そして、発売中のスプライトはパッケージ変更でメローイエローに年代を合わせるように80年代のパッケージにリニューアルをする。そこに、巷の話題をさらおうという意図が見える。

 飲料業界第1位のコカ・コーラの力の源泉は日本に設置された飲料自販機、約290万台のうち98万台を保有しているというカバレッジの広さだ。自社で自由に製品を置くことができる自販機の特長を活かして、日本コカ・コーラはコーヒー、ミネラルウォーターや茶系飲料、清涼飲料とバランス良くオールラインナップを揃えている。赤い自販機にずらりと揃ったその商品の彩りは、他社に比べ圧倒的に美しくすらある。
 そんな日本コカ・コーラにとって、1商品をリバイバルさせたり、現行商品のパッケージをレトロ調にしたりということは、全体戦略にとって本来あまり意味はない。商品はあくまで、自販機の中で「面」を構成する1要素であるからだ。

日本コカ・コーラが今回のリバイバルを決めた背景の1つは「自販機の節電」ではないだろうか。
 <清涼飲料各社が今夏、東京電力管内にある自動販売機を対象に、時間をずらしながら冷却機能を止める輪番節電に取り組む。最大手の日本コカ・コーラは15日、6月下旬から約25万台で実施すると発表した>(4月15日日本経済新聞)
 自販機は従来から節電対策として電力ピーク時の13時から16時までは冷却運転を止めていたが、さらにその前後で冷却停止時間を延長する。そのため、最大で6時間冷却が止まる自販機も出る。実際上、自販機は断熱性が高いため、商品温度に大きな影響はないとされているが、買う側の気持ちとしては節電で暑さが身にしみる中、少しでも冷え冷えの飲料を求めたくなる。となると、自販機での購入を忌避する動きも出てくるかもしれない。
 日本コカ・コーラは業界の中でいち早く「他社よりも高い33%の節電を行う」と発表をしている。その一方で、コンビニという販路の重要性が増しているのだ。

 コンビニだ。飲料の販売チャネルにおいてその重要性はどんどん増しており、飲料全体における自販機の販売シェアはかつて50%台だったのに対し35%に低下。コンビニは25%と自販機に迫る勢いとなっている。
 「面」の自販機に対して、コンビニは飲料棚フェイスを獲得する「点」の戦いだ。1つ1つの商品力が求められる。また、話題に乗り遅れ、売れなくなった商品は容赦なく棚から外される。そんな「単品勝負」の厳しいコンビニの売り場でまず求められるのは、話題になる商品、手に取って買ってもらえる商品だ。そうした商品を用意してプレゼンスを発揮してこそ、定番のコカ・コーラや爽健美茶という安定した売上を作り出す商品に加えて、今後新しく発売する商品の棚も確保してもらえるというものだ。

 メーカーにとっては消費者の手前に「販売チャネル」という名の顧客が存在する。リバイバルの要請もネットのアンケートで高い商品。そして、懐かしいボトルの商品。それらはコンビニチェーンのマーチャンダイザーとコンビニのFCオーナーにアピールすること間違いなしだ。そして、飲料の棚に並び、今日ではコンビニの主要層ともなっている中年顧客が購入していくのである。

 モノが売れるしくみ。それを作り出すには、現在の環境がどのように変化しているのか。そして、モノがどのような人の意思決定と手によってデリバリーされ、最終消費者の手に渡るのかという視点が欠かせない。
 懐かしのメローイエロー&スプライトが、どのように消費者の手に取られ、売れていくのか、ウォッチしてみたい。

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2011.06.20

攻める!「ウィルキンソン ジンジャエール」の深謀遠慮

 筆者の友人にダンディーな50歳男性がいる。彼は一切アルコールが飲めないにも関わらず、バーでひとりの時を過ごす習慣がある。カウンターに腰を下ろすとおもむろに「いつもの・・・」とバーテンダーにだけ聞こえるような低い声でオーダーをする。彼の前にスッと差し出されるのが、「ウィルキンソン ジンジャエール」だ。

 オトナの炭酸飲料の代表格を1つ挙げるとすれば、それは間違いなく「ウィルキンソン」だ。アルコールの「割り材」としての炭酸水やトニックもあるが、「なるほど!ジンジャーエールって、ショウガ辛いんだ!」と初めて飲むと驚く「ドライジンジャエール」は特にオススメだ。日本では圧倒的なシェアを占める「カナダドライ ジンシャーエール」の甘さに慣れた舌には強烈な刺激を感じるだろう。

 飲料の主な販路(チャネル)は、消費者にとって目に付くところでは自動販売機とコンビニエンスストアだろう。各々の販売シェアは35%と25%。では、残りはどこのチャネルなのかといえば、量販店やスーパーだ。2リットル大型容器まで含めれば、総販売量でのシェアが大きくなる。もう一つ忘れがちなのが、料飲店である。
冒頭の筆者のダンディーな友人のような下戸にノンアルコール飲料は欠かせない。いける口にはカクテルに早変わりだ。ジンジャーエールを用いるカクテルといえば、ウォッカとライムジュースを加えて「モスコミュール」が作れる。ジンとレモンジュースを加えれば「ジンバック」。ジンをラム酒に変えて、砂糖を加えれば「ボストンクーラー」のできあがりである。割り材としてカクテルに用いられる幅は広い。
そんな夜の街から明るい日の光の下に躍り出たのが、「ウィルキンソン ジンジャエール 辛口 PET500ml」である。6月14日に全国販売された。500ml以下の小型容器飲料の主要チャネルであるコンビニの店頭を狙っている。

 料飲店で出される商品と何が違うのか。「ウィルキンソンジンジャエール」といえば、緑色の小瓶が有名だ。容量も190ml。しかし、容器・容量の違いだけではない。オトナにうれしい「カロリーゼロ」なのである。
 しかし、商品のラベルを見ると「0」とか「ゼロ」の表示はない。成分表示を見なければわからない。なぜ、アピールしないのか。そこにはアサヒ飲料の戦略があるのだ。

 コンビニエンスストアの飲料の棚を見ると、ここ数年で変化を感じないだろうか。08年頃から始まった2007年3月27日に発売された「ペプシネックス」を皮切りに「カロリーゼロ炭酸飲料」ブームがわき起こった。それは、08年秋のリーマンショックで飲料業界全体が地盤沈下をした中でも収まることはなかった。しかし、今日、棚を見るとどうだろう。飲料のラインナップに最もコンサバティブなコンビニチェーンは、筆者はセブンイレブンだと思うのだが、そこにあるカロリーゼロ炭酸飲料は定番の「ペプシネックス」「コカコーラゼロ」「CCレモンZERO」くらいだろう。つまり、一過性のブームで登場した商品の多くは消え去っているのだ。
 ブームに遅れて乗った商品と見られたくない。そんなアサヒ飲料の意志が感じられる。
 アサヒ飲料はかつて、「大人炭酸シリーズ」として第1弾「グリーンコーラ」を発売した。CMに出ないことで有名な大ロックスターの氷室京介を起用し、大きな話題をさらった。続く第2弾ではジンジャーエール風の「アサヒ ドライスパークリング」を発売した。しかし、これは第1弾ほどの話題にはならなかった。「アサヒ ドライスパークリング」は「ハードでドライな刺激・大人の辛口炭酸」であると同時に「カロリーゼロ・糖質ゼロ」をウリにした。その商品との同一視を避けたいという意向もあるのだろう。

 アサヒ飲料の「ウィルキンソン ジンジャエール 辛口」にかける意気込みは本気だ。
 ニュースリリースを見ると、前出の「アサヒ ドライスパークリング」の販売目標数は30万ケースであった。その目標数字は、サントリー食品が昨年まで毎年、ブランドとしての話題喚起のために発売していた、「ペプシしそ」や「ペプシバオバブ」といった「変わり種ペプシ」とほぼ同数である。しかし、「ウィルキンソン ジンジャエール 辛口」の目標は500万ケースだ。対比するならペプシブランドは全体で3000万ケース。その1/6とはいえ、飲料業界第2位のサントリーと、飲料業界第4位のアサヒ飲料の体力差からすればかなりのチャレンジであることがわかるだろう。

 アサヒ飲料はどこで勝負をかけるのか。
 飲料業界トップの日本コカ・コーラの力の源泉は、自販機の保有台数だ。日本に290万台あるといわれているうちの98万台を占める。サントリーは44万台。アサヒ飲料は大きく遅れて23万台である。今日、日本の自販機は完全に飽和状態にある。もはや好立地に設置することは難しい。しかし、自由に商品を展開でき、定価販売できて利益率が高いといううま味も捨てがたい。悩ましい選択である。

 「ウィルキンソン ジンジャエール 辛口」はコンビニで勝負をかけるはずだ。
自販機の台数で劣後しているからだけではない。理由がもう1つある。それは、コンビニの店内には飲料とアルコールが併売されているからだ。
 実は、商品パッケージには「ゼロ」の表示が目立たない代わりに、裏面にしっかりと「割り材としても。」と書かれている。何も「モスコミュール」「ジンバック」「ボストンクーラー」などの「オシャレにカクテルを作ろう!」といっているワケではない。コンビニで安く手に入る「ホワイトリカー(焼酎甲類)」を割るだけでいい。もしくは、アルコール度数が8%以上の「ストロング系チューハイ」を割って軽くしてもいい。そんな飲み方を密かに推奨しているのだ。
 
 アサヒ飲料のグループ会社であるアサヒビールには自社のウィスキー「ブラックニッカ」を使った缶入りの「ブラックニッカクリアハイボール」がある。しかし、ハイボールブームの火付け役であるサントリーの後塵を拝した状態であるのは否めない。世の中はビールのしっかりした飲み応えよりも、スッキリ系のハイボールやカクテル、チューハイがブームであるのは間違いない。その流れにしっかり乗りたいという意図が「割り材としても。」というひと言には込められているのである。自販機で購入して、家に持って帰ってカクテルを作るという消費者行動は考えがたい。故に、コンビニが主戦場なのである。

 飲料がコンビニの棚に並ぶには、2段階のハードルがある。チェーン本部が扱いを決めることと、フランチャイズのオーナーが本部に発注することだ。初回ロットはメーカーと握った本部の押しと、メーカーがマージン率を通常より1割ほど高く設定することもあり、店頭に多めに並ぶ。第2回発注分から通常のマージン率になるので、そこからが本当の勝負だ。今後、どのように健闘していくかウォッチしてみよう。まずは、その辛口を楽しみながら。

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2011.06.17

ペプシドライ100万ケース目標が意味するモノとは?

 ここ数年来、夏、もしくは夏・冬の季節の風物詩ともいうべき存在になっていたものが、今年は姿を現さない。中元・歳暮ではない。「変わり種ペプシ」だ。その代わりに、期待を背負って登場したと思われるのが「ペプシドライ」である。

 6月17日付日経MJのコラム「着眼発想」に「ペプシドライ」が取り上げられていた。5月下旬に発売された、商品パッケージにも明記されている「甘くないコーラ」である。記事によれば<世界でも珍しい>という。飲んでみると、確かにその「甘くないっぷり」が際立つ。それもそのはず、<甘さを示す糖度が5.2と一般的なコーラの半分弱>という商品だ。

 米ペプシコのライセンスを受けているサントリー食品インターナショナルが発売元であるが、ペプシドライは日本オリジナル商品である。ターゲットは「甘さから離れる30〜40代で、人工甘味料が嫌いな層」。ポジショニングはズバリ、「甘くないコーラ」。コラムには同社の開発担当者が登場し、<「さっぱりとした味の需要が拡大しているのではないかと仮説を立ててみた」>と開発のきっかけを語っている。市場ではカロリーを抑制した商品が伸長しているが、ペプシには甘味料を使ったゼロカロリーの「ペプシネックス」がある。一方、酒類はビールの消費が減る一方、スッキリ系のチューハイやハイボールが好調。そこに、「ペプシネックス」とのカニバリ(喰い合い)を回避しつつ新たな価値を訴求できるホワイトスペースを見出したのだ。
 試飲を数百回繰り返しバランスを整えたというが、完成した商品は100mlあたり21kcal。<カロリーをゼロにしなかったのは、人工甘味料を嫌い消費者が少なからずいるからだ。また、ペプシネックスとの違いをはっきりさせておく必要もある>という。つまり、「砂糖・カロリーたっぷりだけど、美味しい←→カロリーゼロだけど、人工甘味料味」というトレードオフの関係を離れたポジションを開拓しようというのが狙いなのである。

 販売目標はペプシブランド全体3000万ケースに対し、100万ケースと設定されているという。そこに、「ペプシドライ」の戦略的位置づけが見える。
 衝撃的なキュウリ味の「ペプシ・キューカンバー」で注目を集め、一昨年は和の味をテーマに「ペプシ・しそ」、昨年はアフリカに自生する木の実の味をモチーフにし「ペプシ・バオバブ」という謎のコンセプトで話題になった「変わり種ペプシ」。年1~2回発売され、毎回の販売数は20~30万ケースという実績だとされている。ブランド全体の1%弱でしかないが、確実に市場で話題となり販売チャネルの棚を確保することは、業界リーダーであるコカ・コーラに対する「差別化戦略」としては大きな貢献をしているといっていいだろう。
 ペプシドライの販売目標は変わり種ペプシの3~4倍だ。つまり、新しいモノ好きが一度購買するだけでは達成しない数字である。確実にリピート購買を狙っている。それが変わり種ペプシとの違いである。つまり、市場に定着させ、定番化させる狙いがあるのだ。

 一方、ペプシドライを一度試した消費者からは、その新しい味に驚きつつ1本あたり100kcal強のカロリー数を気にする意見も散見される。その層はどうするのか。

 当然、ペプシドライの開発においても人工甘味料の使用は試行されたはずだ。しかし、100kcalという犠牲を払っても「味の不自然さ」をなくし、新しい価値(ポジショニング)が際立つ商品を市場に出しておきたかったという意図なのではないだろうか。故に、あくまでペプシドライは100kcalを気にしない人をターゲットとして展開し、ヒットすれば継続販売し、次の段階で「人工甘味料の味がすることより、100kcalが気になる」という層、よりストイックなダイエッターなどを狙って「ペプシドライ・ダイエット」を展開しようという意図なのかもしれない。つまり、100万ケースという目標は、その試金石なのだ。
 もう少し深読みもできる。日本オリジナル製品の変わり種ペプシは、米ペプシコとの調整と開発に18ヶ月かけると以前にメディアで報じられていた。そうすると、ペプシドライ・ダイエットはもうほとんど完成していて、先行商品であるペプシドライの売れ行きを見守っているのではないかとも考えられるのだ。

 世界に先駆けて、日本の市場に新しい価値を投げかけたペプシドライ。その100万ケースの目標達成いかんで、さらにコーラ市場はオモシロイ展開が待ち受けているかもしれない。この動きは必見である。

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2011.06.16

本気出した西友は消費者の味方になれるか?

 日本のスーパーマーケットの販売スタイルが変わるかもしれない。その先鞭をつけているのが「西友」だ。世界最大の売上高を誇る「ウォルマート」の資本傘下としての優位性を活かした展開で攻勢をかけることが予想されるのだ。

■震災後に消えた「チラシ」と「特売」

 3月11日の大震災後、スーパーのチラシが激減しているという。
 6月14日の配信でNEWSポストセブンが<全国約1000人のモニターから約1100チェーン・3万店舗のチラシを毎週1万枚集めて、特売数&価格調査を行う、チラシレポート>社の調べを報じた。<例年と比べてチラシの枚数が地域により半分もしくは3分の1><東北地方だけでなく、全国的な流れ><この20年間でこれほど減ったことはない>という。
 http://news.nifty.com/cs/item/detail/postseven-20110614-22876/1.htm

 チラシの目的は集客である。そしてその「エサ」は「特売」。チラシで特に目玉として掲載されている商品を「ロスリーダー」という。価格変動が少ない卵や牛乳、夏なら飲料や箱アイスが設定される。そして、集客のために赤字覚悟で値付けする手法を「ロスリーダープライシング」という。狙いはロスリーダーと共に高収益商品を併売させることだ。そうして、全体として目標とする利益率を達成する。「マージンミックス」という。日本のスーパーマーケットの伝統的な手法である。

 チラシが消えたということは、「特売」も減っていることを意味している。同・NEWSポストセブンの記事では食品流通の専門家である「食品工場の工場長の仕事とは」主宰・河岸宏和氏がコメントしている。<「震災でモノが足りないという“品薄感”が広まったため、あえて値段を下げなくても消費者がスーパーでモノを買うようになった。顕著なのがヨーグルト。品薄感があったから、自然に特売が減って値段も上がりました」>という。

■「EDLP」という戦略

 チラシによる集客の対極にあるのが上記NEWSポストセブンで河岸氏も指摘している「EDLP(Everyday Low Price)」。日本のスーパーのバリューチェーンを考えてみれば、調達→物流→在庫→販売促進→販売となる。Low Priceはチラシ=販売促進に関わるコストを原資に商品販売価格全体を押し下げ実現する。Everydayは特売期間を設けず、各商品を年間通じて低価格で販売することを意味するのである。
 1962年に誕生した米国のウォルマートが世界最大の売上高を誇るまでに急速に成長したのは、低価格、物流管理、コスト削減という要因であるが、KSF(Key Success Factor=成功のカギ)は「EDLPによるバリューチェーンの最適化」なのである。

 「EDLP」を既に実践している企業は日本にも存在する。例えば、東京都大田区仲六郷に本社を置き、関東と東北に店舗を展開する中堅ディスカウントスーパーマーケット (DS)、「オーケー(OK)」だ。1958年創業の同社は、ウォルマートを徹底的に研究して1986年以降EDLPを実践している。同社は<原則として各商品につき1メーカーに絞り品目数を減らして1品目を大量に仕入れることで仕入れ価格を抑えている。チラシなどに基づき、近隣の競合店(スーパー、ドラッグストア等)が特売などによりオーケーの販売価格を下回った場合にはそれ以下の価格まで下げる「対抗値下げ」を行いPOP広告を掲示して対応している>(Wikipediaの記述)という。そうして同社は激戦区である国道16号線商戦を生き抜いているのである。

■本気出した西友

 NEWSポストセブンの記事では、チラシを減らして特売をなくした結果<「震災後のスーパーの利益率は軒並み上がっている」>と前出の河岸氏は指摘する。しかし、チラシと目玉商品削減により利益率アップをスーパー各社が享受しているうちに、大本命が動き出した。西友だ。
 <西友が1000品目値下げ…16日から>(6月14日読売新聞・@niftyニュース)
 http://news.nifty.com/cs/economy/economyalldetail/yomiuri-20110614-00869/1.htm
 記事によれば<食品や日用雑貨など計1000品目の価格を16日から順次、平均10%値下げすると発表した>という。

 セゾングループの中核企業であった西友が、バブル経済崩壊後の経営失敗の影響から抜け出せずにウォルマートの資本参加を受け入れたのは2002年のこと。以降、あれよあれよという間に資本比率は高まり、2008年についに完全子会社化され上場廃止に至ったのは記憶に新しい。西友には資本だけでなく「EDLP」の手法も注入された。
 EDLPは日本の消費者にはあまりなじみがない。そこで、同社はEDLPをわかりやすくするために「KY(カカクヤスク)」と言い換えてテレビCMでも継続的に訴求している。しかし、バリューチェーンで考えれば、調達→物流→在庫→販売促進→販売という「販売促進」がチラシからテレビCMに変わっただけで、本当に価格を安くする原資の確保にはなっていない。西友の値下げ原資はどこから出てくるのか。

 上記NEWSポストセブンの記事によれば<5月末に総務省が発表した4月の全国消費者物価指数は、生鮮食品を除いた総合指数が2年4か月ぶりに上昇。値上がりした項目は全体の3割以上に及んだ>という。市場は震災直後の「モノがあればラッキー」という、棚がガラガラ状態は脱している。モノが戻ってくれば消費者の目はイヤでも価格に行くことになる。ガマンも限界になってくるだろう。
上記の読売新聞・@niftyニュースの記事で西友は値引きの理由を以下のように述べている。
 <西友が5月末に行った消費者調査で、65%が「物価が上昇したと感じる」と答え、理由として「安売りやセールが減った」ことを挙げたという。西友は「震災後に物価が上がったわけではないが、より消費者に安さを実感してもらいたい」としている>。
 これは、実質的に他社に対する「宣戦布告」である。「KY(カカクヤスク)」は、今回は「KY(根性で・安く)」なのかもしれない。
西友の1000品目値下げはその消費者心理を読んだものだろう。広告投資をしたまま、さらに値下げをすることは二重コストになるが、ここが「勝負のしどころ」だと踏んだのだ。

 利益率アップを享受しているスーパー各社は西友の動きに対してどのように反応するのか。再びチラシと特売を復活させるのか。もしくは、「オーケー」のように独自のEDLPを展開するようになるのか。この節目となるかもしれない動きは継続的にウォッチするに値するだろう。自分の家計のためにも。


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2011.06.15

ドラッグストアで青果を販売するナゼ?を考える

 ドラッグストアが果物や野菜、つまり青果を売る。確かに旧来の薬局・薬店とは異なり、ドラッグストアには菓子やインスタント食品や飲料、酒まで置いてある。しかし、青果まで扱う狙いとは何なのか。そして、それを可能にしているカラクリはどこにあるのか。

 6月15日付日経MJにはコラム「売る技術 光る戦略」に「ぱぱす、都心店で青果販売」という記事が掲載された。「ぱぱす」はマツモトキヨシ傘下で都内に113店を展開する中堅ドラッグストアだ。記事に添えられた写真には、店の入り口の様子。トマト、トウモロコシ、バナナが段ボールに入って山積みされ、「フィリピン産特大バナナ!!」「埼玉 木甘坊(きかんぼう)とまと」などと段ボールの切れ端にマジックで手書きされている。広尾らしくちょっとオシャレな主婦が眺めている風景は、まさに八百屋そのものだ。しかし、規模は大きくない(薬や日用品・化粧品を扱う)本館の横に開業した「食品館」の約50平方メートルの店舗面積の入り口に位置する、5平方メートルほどの売り場で展開されているという。

 ぱぱすの狙いは明確だ。<日用品や化粧品の販売が伸び悩む中、近隣住民の要望の強い青果を扱い、集客につなげる狙いだ>と記事にもある。つまり、青果は「目玉商品」である。
 だが、ひと言で「目玉商品」といっても、プライシングのしかたで実は大きく性格が異なる2つのモデルがある。1つは平たくいえば「薄利多売」。利益は薄くとも数を売る。「ペネトレーションプライシング」ともいう。もう1つが「赤字覚悟の目玉商品」だ。「ロスリーダープライシング」という。その商品単体では赤字を出しても、他の高収益商品を併売させることで収益を出すという価格戦略だ。
 では、パパスの青果はどちらなのか。<4月にはイチゴ「あまおう」を、近所にある高級スーパーの半額となる1パック480円で販売し、集客の目玉にした>と記事にはある。競合に明らかな価格優位性を作っている。
 一方で<扱う品目は約40品目。うち大根やキャベツ、にんじんなどの定番商品が25品目を占める><4割を季節商材にして売り場の鮮度を高めると同時に価格も競合店より抑え、小さい売り場ながらも順調な販売><月次売上高は200万円と広尾店全体の4%を占める>とも記されている。青果の中でも上記の「あまおう」のように「ロスリーダー」として設定されている商品と、収益を出す商品を設定しているのかもしれない。

 ドラッグストアの他の商品と異なり、青果には「廃棄リスク」がともなう。そもそも、同社が青果を扱えるようになったのは、食品スーパーに長く勤めた人材が入社したからだという。また、同社社長も<「鮮度を管理する人材が必要なため、急速な多店舗化は難しい」>とコメントしている。
 人材を得てリスクを低減してもゼロではない。いや、従来取扱商品に比べれば桁違いではないか。そのリスクテイクができるのはなぜか。それは、ドラッグストアという業態の収益構造が関係している。

 古い話だが、2007年11月14日付の日経MJには「激動ドラッグストア」という記事がトップに掲載されていた。2009年に予定されていた改正薬事法に関する内容である。
 それによると<平均粗利率35%という大衆薬で稼いだ利益を原資に、食品や日用品の特売を仕掛けるのがこれまでの“成長の方程式”だった>とある。もともとドラッグストアは、粗利率35%の市販薬を定額近い価格で販売し、その収益を原資に日用品、化粧から食品までを安くて提供して集客を図るというものだったのだ。 
法改正の蓋を開けてみれば、市販薬の劇的な価格値崩れは起こっていないがスーパーなどにもドラッグコーナーが作られている。競合関係が発生しているのだ。しかし、ドラッグストアが本当に売りたいのは日用品や食品ではない。薬だ。そこで、スーパーにあってドラッグストアにない青果を扱うことによって、客の取り合いに対する「逆襲」に出たのである。そして、リスクを取れるのは、まだ薬の利益率がほぼ保たれているからだ。

 本気でスーパーそのものになるつもりではないだろう。しかし、両業態の垣根が曖昧になってきている今日、本業の薬を売るために時には赤字覚悟で集客をし、あるときは外部人材のノウハウを活かして青果で収益を得るという実験を行っているのだろう。ある意味の「瀬踏み」である。
 自社の関わっている業態も環境と共に変化する。そこで生き残っていくためには、しっかりとした収益の柱を持ちながら、時には「賭け」にでて次なる収益の柱や新たなる事業の姿を見つけていかなければならないのだ。それは、どの業種でも起こりえることである。

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2011.06.14

震災後の「イエナカ志向」をどう取り込むか?

 震災はあまりに多くのものを変えてしまったが、日本のお茶の間(←死語)の風景も変えはじめたようだ。ボードゲームに家族みんなで興じるという、どこか懐かしい光景が家庭に戻ってきているというのだ。

 6月14日付日本経済新聞に「定番ゲーム 家族団らん」という記事が掲載された。サブタイトルに「人生ゲーム、ジェンガ、ドンジャラ イエナカ志向と節電意識で人気」。父親と息子がオセロゲームを手に取っている記事写真には、「震災後、電気を使わないボードゲームが人気を集めている(東京都渋谷区の渋谷ロフト)」とのキャプションが添えられている。
 そのロフトでは<室内で遊ぶボードゲームやカードゲームの売れ行きが震災前の3倍以上に跳ね上がった>という。同様に<東急ハンズも5月の売上高が前年実績を5割上回った>とある。そして<定番玩具は人気が安定しているため、例年は売れ行きに大きな変動はない分野。「今年の動きは異例。震災後の『イエナカ』志向が影響しているのは間違いない」>とコメントしている。商品別に見ても “人生ゲーム”が「3月から5月の売れ行きが前年同期比5割増」。“ジェンガ”は「6割増」。“ドンジャラ”は「3.5倍」と動きは大きい。

 記事は、定番玩具は<遊び方を教えながら、親子のコミュニケーションを深めていける>のが魅力とタカラトミーのコメントに続けて<夏場に向けて、サマータイム制度の導入や家庭で小まめな消灯など節電対策が本格化すれば、家族がそろって過ごす時間は増える見通し。子供も大人も楽しめることができる定番ゲームは家族団らんに欠かせないアイテムになりそうだ>とまとめている。
 紙面には「手作り菓子も震災後人気高く」という関連記事も掲載されている。<クラシエフーズの知育菓子「ねるねるねるね」は震災後、売り上げが前年同期比5割増>。<森永製菓の菓子キット「グミをつくろう<ぶどう&みかん>」は2月の発売後に震災が発生したものの、小さな子供のいる家庭を中心に人気は持続し、震災後も販売は好調だ>という。両商品とも幼少時向けの菓子であるが、定番ゲーム同様「イエナカ」と「親子で」が共通キーワードである。

 「イエナカ志向」という震災後の消費者心理の変化をどう商機としていくかがポイントだ。
その「変化」はどのようなスピードで、どのように広がっているのか。
 新たな「変化」、「イノベーション」に対する態度で人は「イノベーター(先端的採用者)」「アーリーアダプター(初期採用者)」「アーリーマジョリティー(前期大量採用者)」「レイトマジョリティー(後期大量採用者)」「ラッガード(遅延採用者)」に分類されると、E.M.ロジャースは提唱した。各々の比率は2.5%、13.5%、34%、34%、16%だ。そして、新しいモノの価値評価行う「目利き」であるアーリーマジョリティーの採用態度を見て、一般大衆であるアーリーマジョリティー以下が続いて大量採用に至るとしている。ジェフリー・ムーアが指摘した、いわゆる「キャズム」超えである。
 まずは、現状の家族で楽しむ「定番ゲーム」や「知育菓子」の普及をどう見るかだ。前掲の“ドンジャラ”の3.5倍というくらいの売れ行きはキャズム超えを予感させるが、5割、6割増の人生ゲーム、ジェンガの数字はアーリーマジョリティーの範疇にも感じられる。
しかし、「イエナカ志向」が本物であるという調査データもある。
 インターワイヤード株式会社が運営するネットリサーチのDIMSDRIVEでは、「震災当日の行動・震災後の意識」についての調査(2011年4月7日~4月21日実施)の結果を発表している。
 http://www.dims.ne.jp/timelyresearch/2011/110518/
 その中の、<家族と同居している人に、“震災後の、家族内コミュニケーションの変化”について、『意識の変化の割合』を尋ねた>という項目では、<家族と一緒に過ごす時間が増えた・・・【東北】39.5%、【関東】32.6%と3~4割だったのに対し、【その他の地域】では12.8%と差があった>という。大震災と長引く余震の不安から家族寄り添う姿が伺える。その後にも続いている原発事故による放射能被害に対する不安も「イエナカ志向」を加速していることだろう。

 では、「イエナカ志向」が本物だとしたら、記事にあるような「定番ゲームが売れている」「小さな子供のいる家庭で知育菓子や菓子キットが売れている」という範囲でとらえては商売に広がりはない。「イエナカ志向」は「ライフスタイルの変化の節目」なのだ。家族でゲームをしながら食べる菓子、食品やエアコン代替の扇風機、清涼グッズなどのクロスセリングの機会もある。それらを取り込むためには、例えば百貨店などでは、階上で催事を行うだけでなく、各売り場を「イエナカ」のキーワードでつないで階下に来店客を誘導する「シャワー効果」を最大化するような展開も望まれる。様々な業種で新たな需要を取り込む知恵を絞ることが求められているのである。

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2011.06.13

大出店攻勢開始?!ロッテリアの戦略のヒミツは何だ?

 ロッテリアが店舗の大型化と大規模出店に舵を切るという。狙いはどこにあるのか。また、その戦略を可能としている背景は何だろうか。

 6月12日付日経MJに「ロッテリア 新店舗、面積1.5倍に 売上高3割増 都市部に出店攻勢」という見出しが掲載された。同記事によれば、<この10年間は不採算店舗の閉鎖を優先し、毎期40~50店を閉めてきた。その結果、現在はピークの半分以下の約450店まで減っている>という。
 記事の示す10年ではなく、もう少し遡ってロッテリアの四半世紀を考えてみると、ハンバーガー業界の強大なるコストリーダー、日本マクドナルドに挑戦し続けた歴史であるといえるだろう。1987年にマクドナルドがハンバーガーとドリンク、ポテトが390円の「サンキューセット」を発売し、ロッテリアはそれに対抗して「サンパチトリオ」を発売。バブルが崩壊しデフレ時代に突入すると、マクドナルドは94年に「バリューセット」を発売。2000年には「平日半額キャンペーン」130円のハンバーガーを65円にするなどの低価格攻勢を展開、ロッテリアも追随した。
 結局の所、両社の安値対抗はどちらにも幸せをもたらさなかった。日本マクドナルドは。2002年に創業以来初の赤字決算を計上し、藤田田社長が引責辞任。現在の米国マクドナルドの直轄・原田泳幸会長兼社長体制で低下したブランドイメージと財務体質の再建が行われた。ロッテリアも経営不振に陥り、2005年から2010年まで、企業再生会社リヴァンプと資本提携し、経営再建を行うこととなったのである。

 それにしても、報道されている方針は大胆だ。店舗規模1.5倍。<店舗を大きくすれば家賃負担も増えるが、「ここ数年で、単価の高いえびバーガーや絶品チーズバーガーなどの商品が収益源に育ってきた」(同社)ことから吸収できると判断した>という。「売上=客数×客単価」である。客単価が向上してきたため、客席数を増やしさらなる売上増を目指そうという狙いだ。しかし、「利益=売上-コスト」だ。本当にコスト吸収ができるのだろうか。
 
 「利益」と「コスト」に関してもう少し詳細に考えてみよう。
 「限界利益」という考え方がある。売上高から、変動費(材料費、人件費など)だけを差し引いた利益のことで、「限界利益=売上高-変動費」となる。「人件費」「原材料費」は「変動費」である。限界利益は固定費を賄うための利益で、ここでは大雑把に「固定費」である「地代家賃」のことを念頭に置こう。
 「限界利益」がわかると損益分岐点の算出ができる。利益と損失が分岐する点(BEP=Break Even Point)だ。「損益分岐点売上高=固定費÷限界利益率」なので、損益分岐点比率が低く収益性が高い状態。売上が少なくとも耐えられる構造には固定費の低さが大きなポイントであることがわかる。

 記事を読むと、<出店エリアは東京、名古屋、大阪の大都市をはじめ、札幌や仙台市、広島市などの地方都市>とある。さらに、<最大手の日本マクドナルドが抜けた大都市の駅前などを中心>とするという。マクドナルドは昨年、不採算店を400店以上閉鎖した。そこを主に狙っていくというのだ。
日本マクドナルドが不採算として退去した後に、同じ家賃=固定費で経営が成り立つわけがないのが道理だ。「高単価メニューが売れている」とのコメントもあるが、マクドナルドも原田社長兼会長の就任以来、値下げは行っておらず、高単価メニューも充実させている。
ロッテリアは家主との相当の交渉を行う用意があるのだろう。
 不動産専門誌の「日経不動産マーケット情報」によれば、専門家は<2011年は都心部の大規模ビルの賃料と稼働率が上昇する一方で、周辺部にあるビルや中小規模のビルは厳しさを増す>という見方だという。(2011年1月19日)まずはマクドナルドが抜けた後の中小規模ビルと家賃交渉をし、地代家賃=固定費を極力下げた出店を行っていく戦略なのだ。

 記事には<直近では年5店舗程度を出店しているが、11年3月期にリストラ効果などで黒字化したのを機に、11年ぶりに大規模出店に展開する。今後5年以内に600店体制を目指す方針だ>(日経MJ)とある。
 「ここ、昔、マクドナルドがあったところだよね?」というところに、徐々にロッテリアの看板を見かけるようになってくるのは間違いない。

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2011.06.10

インタビュー:丸の内のホスピタリティはあるか?(外部サイトリンク)

自宅最寄り駅から電車で13分という気軽さもあり、実は金森は丸の内が好きなのです。
昭和の香りを漂わせる古いビルや、美味しい食べ物屋、ショッピング・・・。


そんな金森に「丸の内の街」に関するインタビューの機会がやってきました。

三菱地所が提供する「丸の内発・情報サイト marunouchi.com」
http://www.marunouchi.com/


タイトルは「丸の内のホスピタリティはあるか?
http://www.marunouchi.com/city/welcome_11_05.html


記事中にもあるように、周辺の有楽町や銀座は街の表情とそこに集う人々が変わってきています。
そんな中で、「丸の内」という街にはどのような価値があり、今後どのように変化していくべきなのかを考えてみました。

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2011.06.09

任天堂の「Wii U」は血みどろの戦いを覚悟したのか?

 任天堂からWiiの後継機が発表された。「Wii U(ウィー・ユー)」。しかし、発売直後に同社株価が<「斬新さは乏しい」(国内証券会社)として見直し買いを入れる投資家は限られた(日本経済新聞)>ことによって年初来安値を記録することになるなど波乱含みの船出となった。

 後継機「Wii U」と2006年に発売された現行の「Wii」の違いは、その姿を見ればすぐにわかる。
 <任天堂ホームページ内関連記事>
 http://www.nintendo.co.jp/n10/e3_2011/02/index.html

 コントローラーの形状が決定的に違う。大きな携帯型ゲーム機かタブレットPCを思わせる6.2インチのタッチパネルが鎮座しているのだ。7日、米ロサンゼルスで開幕した世界最大級のゲーム見本市「E3」での発表において、<(任天堂の)岩田聡社長は7日の発表会で、「初代のWiiよりも幅広い層にアピールできる」と述べた(YOMIURI ON-LINE)>という。例えば、<ゴルフゲームでは、テレビ画面にグリーンやカップ、床に置いたコントローラーにはボールが映し出される。Wiiのリモコンを握ってスイングすれば、コントローラーのボールがテレビ画面を飛んでいく仕組みで、実際のプレーにより近い感覚を体験できる(同)>という。

 今日の任天堂があるのは、失敗の上に立って「立ち止まって俯瞰してみたこと」である。
1960年にセオドア・レビット教授がハーバード・ビジネスレビューで発表した論文にある「マーケティング近視眼」に陥らなかったことだ。米国の鉄道事業は自らを輸送産業と定義せずに、鉄道会社同士の競争にあけくれた結果、自動車産業や航空産業に破れ衰退した。そうした近視眼的な経営を「マーケティング・マイオピア(近視眼)」と呼んだのである。
 任天堂も近視眼に陥って痛い思いを二度も続けてした。スーパーファミコンと、NINTENDO64である。ハードウェアは独自の高度な規格にこだわり、ソフトも高度な開発ができるサードパーティーを厳選し、子供のおもちゃ的なゲーム機のイメージ脱却を狙ったが、プレイステーション、プレイステーション2に破れることとなった。また、次世代のニンテンドーゲームキューブもプレイステーション2に一矢報いることはできなかった。
 そこで、任天堂は「ブルーオーシャン」を見つけることにしたのだ。ブルーオーシャン戦略は戦わない。新たな市場を創り出す。「コアなターゲット」などのような、特定のセグメントを狙わない。新たな市場において、今までターゲットになっていなかった層を丸ごと取り込む。そして、新たな価値を訴求して、今まで持っていた付加価値からいらないものをどんどん捨てていく。任天堂は「ニンテンドーDS」と「Wii」でゲーム機市場で戦わないことを選択した。誰もが楽しめる、学べる、運動できる道具を提供する事業というブルーオーシャンを目指したのだ。

 6月9日付日本経済新聞に「戦略分析」という記事で、任天堂・岩田聡社長のインタビューが掲載されている。サブタイトルに「高性能で巻き返し」とある。記事中ではYOMIURI ON-LINE同様に、<幅広い顧客層の獲得を目指す>とある一方、<「Wii」は家族が主な顧客層だったが、新型機は高画質な映像などで、熱心なゲームファンを引きつけたい考えだ>ともある。ターゲットが定まっていない様子が非常に気になる。
 気になるのはポジショニングも同様だ。<MS(マイクロソフト)やSEC(ソニー・コンピュータエンターテイメント)のゲーム機に比べ見劣りしていた画像の表示性能も高める>とある。Wiiのポジショニングは、映像のきれいさなどではなく、「家族や仲間とワイワイ楽しめること」だったはずだ。そこにおいて、競合との差別化を行っていたのだ。

 WiiのUSP(Unique Selling Proposition=自社独自の提供価値)は「体感」であり、それを用いて「家族や仲間とワイワイ楽しめる」ということだ。その意味では「Wii U」は好景気として正しい進化を遂げているといえるだろう。しかし、「体感」はもはやUSPとはなり得ていない。昨年11月に発売されたマイクロソフトの「キネクト」。Wiiがリモコンを通じて身体の動きをゲーム機本体に伝えるのに対し、ゲーム機X-BOXにプレイヤーの身振り手振りや音声を検知して操作を可能にする入力端末が「キネクト」だ。<発売してから販売台数1000万台を超えた(6月9日付日本経済新聞)>といい、少なからずWiiの販売シェアにも影響を与えている。つまり、任天堂は「Wii」の性能を高め、「Wii U」に進化させることで、競合とのガチンコ勝負を覚悟したのだといえる。

 もはや任天堂と「Wii U」の前に広がっているのは青い海・「ブルーオーシャン」ではなくなってしまった。競合と血みどろの戦いを繰り広げる「レッドオーシャン」である。
 そこで戦い抜くためには<良質なソフトをより集められるかが、Wii Uの将来を左右しそうだ(日本経済新聞)>とある。しかし、「ソフト」もゲーム機の延長、その一部としての「モノ」にすぎない。前掲「マーケティング近視眼」のセオドア・レビットは「顧客はドリルが欲しいのではない。穴を開けたいのだ」という有名な言葉を述べた。道具である「ドリル」は「モノ」、「ウォンツ」。顧客が充足させたい欲求、「ニーズ」は「穴を開けたい」ということだ。
 「Wii」という製品のキモは「加速度センサー」を組み込んで体感ゲームに仕上げたこと。しかし、消費者は「加速度センサー」という「モノ」の存在を知らないし、それを欲しいとも思っていなかった。任天堂は「従来にないゲームの楽しみ方」を「従来ゲームをしていなかった層」に向けて提案したことで成功したのだ。
 任天堂「Wii U」がレッドーシャンを戦い抜く、もしくはそこから抜けてブルーオーシャンを見つけるためには、高性能なゲーム機のプラットフォームの上で動く良質なソフトで、「誰に」「どのような体験」を提供すればいいのかを、今一度立ち止まって考えてみることが求められる。

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2011.06.08

ラジオ出演内容:TBSラジオ『森本毅郎スタンバイ」

6月7日(火)朝7:30よりラジオに出演しました。
「現場にアタック」というコーナーで、テーマは「主戦場で奇策!? 洗剤戦争で洗濯事情が変わる?」です。


当Blog記事を番組担当の方が見つけて、取材・収録に事務所まで来ていただきました。
コーナーの内容が番組のホームページにアップされているので、リンクを以下に貼っておきます。

 →http://www.tbsradio.jp/stand-by/2011/06/post_3579.html


上記ページでも<洗濯石鹸→粉石鹸→粉洗剤→濃縮粉洗剤→液体洗剤→濃縮液体洗剤>と、洗剤の進化に触れていますが、下記の記事を併せてお読みいただくと、よりわかりやすいと思います。


「足し算・かけ算・引き算:新型洗剤の潜在力をチェックする!」(2009年10月2日)
http://kmo.air-nifty.com/kanamori_marketing_office/2009/10/post-7ab3.html

記事中のP&G「さらさ」を使っているという番組レポーターさんとの「洗剤談義」も含めて、事務所での収録は和やかに終了したのでした。

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青山VS.はるやま・スーパークールビズの勝ち組は誰だ?

 夏の暑さと梅雨寒が交互にやってくる天候の中、夏の電力不足対策の一環として環境省が提唱する「スーパークールビズ」が始まった。出揃った紳士服大手各社の品揃えのなかから、青山商事とはるやま商事の戦略に注目してみよう。

 6月8日付日経MJ。題字下のINDEXには<「涼しさ」を売る>として、<毎年、涼しさや軽やかさ、清潔さを競ってきた紳士服専門店。今年は一段とカジュアル化が進む見通しで、商品開発や販促戦術の脱皮が迫られている>とある。記事紳士服大手各社の目玉がレポートされている。<クールビズを意識して今夏に衣料品を購入する予定の人は51.9%。予算は1万6915円だった。この予算の争奪戦が激しくなる>ともある。

 ビジネスマンの仕事着といえばスーツにネクタイが基本。略式でもワイシャツ姿というスタイルを崩すのは容易ではない。のっぴきならない「節電対応」という非常事態の中、「暑いのはイヤだけど、崩しすぎるのはちょっと・・・」という切なさは、「スーパークールビズ」という突き抜けた爽やかさより、「節電ビズ」という、どこか切なげな表現の方がしっくりくる。
 そんな、「密やかな涼しさ」を求める御仁には、青山商事が柱として掲げる「清涼スーツ」がオススメだ。年々機能強化しているという商品であるが、今年はついに<従来品より通気量が5倍という新商品>を投入してきた。<「服の中に熱がたまるから暑い。風通しがよければ涼しい」>という同社担当者のコメントは説得力たっぷりである。

 説得力ある言葉に触れ、試着をしてみればさらに納得かもしれないが、まずは商品を手に取らせるところがキモでもある。その点抜かりがないのが、はるやま商事だ。同社が展開する「パーフェクトスーツファクトリー」の商品にはわかりやすいタグが付けられているという。「COOL LEVEL1」「COOOL LEVEL2」「COOOOL LEVEL3」「COOOOOL LEVEL4」。<衣料品を着たときの涼しさや、周りにも涼しい印象を与えるかを独自に判断し、4段階に分類した「クール指数」>だという。「O」の文字とLEVELが増えるほど涼しいことを「見える化」しているのである。はるやま商事のうまいのは、青山商事が「通気量」というスペック、「機能的価値」を訴求しているのに対し、涼しさの指数を見える化することによって「情緒的価値」に訴えているところである。

 しかし、青山商事も負けてはいない。はるやま商事が提唱する「涼しい印象を周りに与える」ことまで求められるのは、冷房もままならない今年のオフィスではいささか酷にも思える。だが、オフィスの同僚以上に着る本人だけでない「購買決定関与者」、マーケティング的にいえば「DMU(Decision Making Unit)」のココロをつかみそうな商品が青山商事にもあるのだ。同紙の別記事、コラム「ヒットのヒミツ」に紹介されている「ノンアイロンマックスクール」だ。<風通しを通常のシャツの3倍以上にした>というだけではない。ポイントは「シワ防止」である。商品のポイントは、従来<洗濯後にシワがなくなる割合「シワカット率」が50%程度だったが、同シリーズは90%以上>だという。<アイロンがけは嫌いな家事の1位という調査もあり、アイロンがけの手間が省け、クリーニング代も節約できる店を強調>しているという。前掲の「スーパークールビズ予算1万6915円」はイニシャルコストだ。ランニングコストと家事省力化に着眼しているのはDMUのハートに響く。<夫のシャツを洗濯したりアイロンがけしたりする女性からの指名買いも多い>という。

 環境省がポロシャツやスニーカーといった従来の「クールビズ」を上回る軽装を提唱した、「スーパークールビズ」。担当の地球環境局内では、かりゆしウエアやTシャツ姿も見受けられるという。それだけに競合環境は拡大しており、カジュアル最大手のユニクロも5月末に「スーパークールビズ発表会」を開催し、着こなしを披露したばかりだ。お手本ともなるスタイルの中には膝丈のハーフパンツ姿もあるが、シャツは全てパンツの中に「イン」が原則だという。どこまで崩すか、保つか。着る側の悩みは尽きないが、そのココロをつかむ各社のホットな戦いは蒸し暑さが増す梅雨本番から梅雨明けにかけて本格化する。最後に笑うのは誰だろうか。

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2011.06.07

東京タワーは再び人気者になれるのか?

 東京タワー。正式名称は「日本電波塔」。高さ333メートルの偉容を誇っていたが、634メートル・自立式電波塔として世界一位となったスカイツリーに、日本一の座も明け渡した。しかし、その後も存在感を示し続けるプロジェクトが進行しているという。

 6月6日付日経MJに「東京タワー、地方情報発信 」という記事が掲載された。「自治体とPRイベント」とサブタイトルがある。「東京タワーを運営する日本電波塔(東京・港)はここ数年、地方と連携した情報発信の取り組みに力を入れている」とのことである。
背景としては、当然強力なライバルである「スカイツリー」の存在がある。来年の5月22日には地上450メートルの展望施設などの開業を迎える。それに対する切り札が、「地方との連携・情報発信」なのだ。

 東京タワーを情報発信拠点とするメリットは、地方にとっては小さくない。各地方は東京駅や有楽町などを中心として各々アンテナショップを展開している。しかし、それらすべてが良好な立地にあるとは言いがたい。その点、東京タワーは認知度抜群だ。東京タワーを見たことがない人はいない。場所は多くの人が知っているし、知らなくとも人に聞けばすぐわかる。聞いたこともない雑居ビルの一室にアンテナショップを構えているのとは大きな違いである。

 しかし、大きな課題がある。そもそも、「誰に来てもらうのか?」という点だ。
 東京観光の定番スポットとして来場してくれている修学旅行生などの観光客は、日本一、世界一になった新たなスポットであるスカイツリーに吸引されていく。現状より集客力が落ちることは間違いない。
 では、誰を集客するのか。それは、観光バスに乗ってやってくる観光客ではなく、東京及び近隣在住者ということになるだろう。とすると、そこに第二のハードルが存在する。来塔者が2009年に通算1億6000万人を記録したとはいえ、その多くは地方からの観光客だ。東京及び周辺在住者は生まれて一度も東京タワーに来たこと、登ったことがない人が少なくない。

 最大の課題は「東京タワーに来る理由」を提示することができるのか否かだ。正直なところ、東京タワーは眺めるにはいいが、訪れる理由としては「日本一」という要素以外、あまり魅力的ではなかった。付帯の水族館や蝋人形館も含めて。都バスに乗って、もしくは最寄りの東京メトロ・神谷町、都営地下鉄・御成門からそんなに近くない距離を歩いてわざわざ訪れる理由が今まではなかったのだ。

 日経MJの記事では最近の催事の例が挙げられている。「“日本源泉掛け流し温泉協会”の設立イベント&一般向け催事」「大阪市の映画タイアップイベント」「銚子市の特産品・メロンの展示即売会」などなどだ。そうした催事の魅力を高める企画力が求められる。商品力を上げるのだ。いかに知らしめるかも課題となる。
さらに、入れ替わりで次々と開催される催事には、一度来場してもらえればいいわけではない。「一度は東京タワーに登ってみよう」というモチベーションの比ではない頻度での来場を促す必要がある。

 そうした数々の課題を解決するためには、東京タワーの新たなるポジショニングを固めることが求められる。スカイツリーに一位の座を明け渡した東京タワーは、このままだと人々にとって「昭和の郷愁」というような存在にしかならないだろう。そうではなく、東京タワーはやはり、「日本中の情報が集まってくる東京の、その中心にしっかりと建っている」「だからこそ、オモシロイ地方の情報やモノが次々と集まってくる」というパーセプションを獲得することが欠かせないのである。

 東京タワーが「放送電波」ではなく「地方情報」を発信して、再び人気者になるための道は容易なものではないといえるだろう。しかし、「高さ日本一」などのように、何らかの勝ち得た名声・知名度だけで顧客を集めている企業は他にもあるはずだ。人ごとではないはずだ。
築き上げた名声はいつか奪われることもある。その時、新たなる魅力で再び輝くことができるのか否かは、たゆまぬ努力にかかっているといえるだろう。東京タワーの今後に注目だ。

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2011.06.06

「靴磨きの師匠」とマーケティングの神髄

※4月7日掲載の『「職人仕事」の話をしよう。』を新たな取材を元に加筆・修正しました。

 某駅前に陣取って15年。2人の弟子を従えた「靴磨き職人」。彼は客の靴を見ると、自分が磨いた靴かどうかがすぐわかるという。

■シンプルにして奥深い職人仕事とマーケティングの共通点
 その靴磨き職人の師匠の仕事は他の誰とも違う。「靴クリーム」がオリジナルの特製なのである。「靴の自然派化粧品」とでも表現すればいいのだろうか。彼がオリジナルにたどりついたのは、既存の市販品では靴の革の表面を塗り固めて殺してしまからだという。
磨き方のポイントは、革の深部にまでクリームを染みこませ、表面は呼吸ができるような状態にすることらしい。
 「いろいろなものを塗りたくるから、人間の顔も肌の状態が悪くなるんだ。本来、水で洗って拭くのが一番。それと同じ」と言う。
  聞けばシンプルな話だが、彼とその弟子が磨くと靴は本当にピカピカになる。
「何で他の人間の仕事と違うかわかる?」と彼は聞く。無論、クリームの違いだけではない。
 「磨き方の徹底度が違うの。ダイヤモンドと一緒。石炭もダイヤモンドも同じ炭素でしょ。圧力の違いで輝き方は全然違うものになる。技術がない人間が磨いた靴は、布で拭くと靴墨で汚れる。磨く時の圧力のかけ方、磨き込み方が違うの」。

 余分なものを排したオリジナルの靴クリームで徹底して磨き上げる。シンプルにして徹底したその仕事は、職人の技そのものだ。だがそれは、マーケティングの基本とも通じる。

 フレームワークは共通認識を形成するための道具でもある。しかし、多用して難しいメッセージで伝えすぎると、聞き手・読み手を煙に巻く道具にもなりかねない。ビジネススクールの初期課程で教えられるマイケル・ポーターや、フィリップ・コトラーの基本的なフレームワークで極力シンプルに説明ができるようした方がいいのだ。
 シンプルな道具を用いる代わりに「徹底」する。見落としがちな細部に目をこらし、アタリマエと思われることを疑う。そして、フレームワークで切りまくる。石炭がダイヤモンドの輝きを放つようになるまでの圧力を加えるが如く。同じモノゴトも、それをどう磨き込むかで輝くか、路傍にうち捨てられる石塊になるかが変わるのだ。

■「売れ続けるしくみ作り」は職人との共通点

 「一生懸命やるだけじゃダメなんだよ。要は“しくみ”を作れるかが成功のカギなんだ」。
靴磨き職人の師匠は何度も通ううちに、子どもが宝物をそっと見せてくれる時のようないたずらっぽい目をしながらヒミツを話してくれた。
 いや、正確にはもうヒミツではない。「今は弟子たちも自分と同じ技術が使えるようになっているから楽になったんだ。だからこんなヒミツも話してあげられる」のだという。

 客の靴を見て初めてかどうかを見極める。初めてなら、師匠が自ら磨く。2度目以降なら、弟子にやらせる。なじみの客でも靴を見て定期的に師匠が磨くようにする。そしてしばらくは弟子にやらせる。それが、“しくみ”の表面的な姿だ。
 師匠がやっているのは「厚塗り」。クリームをたっぷり使って靴に刷り込む。「厚塗り」といっても、表面に付着しているのではない。前述の「炭素がダイヤモンドになるような圧力」で、革の中まで刷り込んでいく。しっかり刷り込まれたクリームは、徐々に表面に染み出していく。弟子たちがやることは、それを「削りながら、再度刷り込むこと」だという。すり込んだクリームが少なくなっているようだったら、師匠が「厚塗り」する。それが、“しくみ”のキモだ。

 師匠は弟子と分業をするという「売れ続けるしくみ」を作っていたのだ。
 「マーケティングとは?」を端的に表現すれば、「売れ続けるしくみ作り」である。単発で「売る」や、偶然「売れた」ではなく、誰がやっても、何度でも「売れ続ける状態」を作る。その「しくみ」を作ることこそがマーケティングなのだ。師匠は靴磨きのマーケティングを行っていたのである。

■「顧客志向」の靴磨きと「マーケティング2.0」

 師匠と弟子が磨いた靴は、比喩表現ではなく空が映るまでに輝く。しかし、空が映るまでに磨き込まれた靴の仕上げも、それで終わりではない。
初めての客には「クリームが一度では奥まで入り込まないから、また1ヶ月もしたら来て」と客に再来を促す。
「靴磨きの仕事は“一期一会”じゃダメなの。お客の靴を見たら、その靴の状態を見極めて、どれくらいの回数で、どこまで仕上げられるか考えて磨いていかなきゃいけないんだ」と師匠はいう。

 「ニーズとウォンツ」の関係を表す言葉は、セオドア・レビットが「顧客はドリルが欲しいのではない。穴を開けたいのだ」と表したとされている。そして、靴磨きにおいては、「顧客は靴を磨いて欲しいのではない。ピカピカの靴をはいていたいのである」だ。
 そのために、師匠は「一期一会ではダメ」という。客の靴が今までどのような人が、どのような手入れをしてきていて、現在どのような状態にあるかを見極め磨き上げる。長期間にわたって客の靴をどう仕上げるかを考え、最適な状態を保てるようにしている。それは「顧客志向」そのものだ。コトラーのいう「マーケティング2.0」の状態だ。

■顧客と共に「靴のいい状態」を創ることと「マーケティング3.0」

 弟子が育って、クリームが徐々に染み出し「削り磨き」だけで対応できるようにする“しくみ”はもう不要かというとそんなことはない。
磨きながら客には日常の靴の手入れ方法を教える。染みこんだクリームが後から染み出すため、日常手入れは固く絞った濡れタオルで表面の汚れを拭くだけにするのがベストだと。そして、きちんと水拭きメンテナンスをしていない客には、「きちんと手入れをしなきゃダメだよ」と諭す。
 「オリジナルクリームを使っている意味はそこにもあるんだよ」と師匠はいう。顧客が簡便に手入れができるようなクリームは市場に存在していなかった。それを実現する意味もあって、オリジナルを作ったのだという。
 「お客さんもきちんと手入れをしてくれてこそ、靴はいい状態を保てる。そのためのクリームでもあるんだ」と。
 いい状態を顧客とサービスの提供者が共に創る。コトラーの「マーケティング3.0」のSocial的な意味合いは含まれていないが、「共創」というキーワードに通じる部分だ。

 単なるモノやサービスを提供(供給)するだけの状態をコトラーは「マーケティング1.0」といった。目の前の客の靴を磨くだけの状態と同じだ。本当の靴磨き職人は、「顧客がどのような存在なのかを正しく認識すること」から始め、顧客志向を貫いている。そして、顧客と共に、「靴を輝かせる」というサービスを共に創り出しているのである。
 
 あなたのビジネスは顧客を「空が映る」までに磨き込み、輝きを放ち続けられるように、共に努力する“しくみ”が作れているだろうか?


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2011.06.03

イマドキの卒業アルバムは「フォトブック」で作る?

 6月1日付日経MJに「フォトブック普及テコ入れ デジカメデータを製本 卒業アルバムに活用提案 写真関連の協議会」という記事が掲載された。その意図と背景を考察してみよう。

 協議会とは、「フォトブック普及協議会」という名だ。タイトルにあるように、「フォトブックは主にデジタルカメラで撮影した画像データをアルバム形式で製本する」サービスのことだ。「写真プリントの落ち込みで苦戦する写真関連企業の経営を支援する」という目的だという。同協会のホームページにある市場伸長予想では、2007年に19億円・95万冊だったものが、2011年には85億円・440万冊という右肩上がりのようだ。
 しかし、より一層の伸びが期待される。なぜなら、DPE(写真の現像・焼き付け・引き伸ばし)市場が劇的に縮小しているからだ。DPE店だけではない。店内やセンターで使用されるラボの機械のメーカー、用いられる薬剤や印画紙のメーカーに至るまで、関連業者が影響を受けている。

 競合はホームプリントなのかといえば、確かに以前はそうだったようだ。家庭できれいに印刷できるプリンターが手ごろな価格で手に入る。自分で印刷したり、引き延ばしたりする楽しみもあった。しかし、もはや消費者はそんなことには飽きている。
 何より大きいのは、記憶メディアの大容量化と低価格化だ。PCの外付けハードディスクは2TB(テラバイト)という、一生分の画像を蓄積できるような容量が1万円を切る価格で販売されている。しかし、PCに画像データを移すことをしないユーザーも多い。バックアップを取らないと消えてしまうリスクがあるので避けるべきだが、何しろ大きいものではSDカードは32GBもの容量がある。カメラの液晶画面も大きい。カメラの目的の画像を探す機能も進化して使いやすくなっている。自分で楽しんだり、人に見せたりと、アルバムを何十冊も持ち歩いているようなものだ。プリントなどするはずもない。

 タイトルにあるように、同協会はフォトブック普及の活路を「卒業アルバム」に見出した。
 卒業アルバムといえば、写真館が学校から請け負うことが多い。撮影から編集、製本まで。結構な収益が得られるはずだ。そして、その写真館はDPEも手がけていたりする。となると、その収益がフォトブックに喰われることになってしまう。何という身内の喰い合い。写真館危うし!・・・と思うのは早計であった。
 記事によれば、「生徒数が少ないといった理由のため、従来型の卒業アルバムの制作を断念している学校にフォトブックの活用を提案する」という。

 フィルムカメラのデジタル化、記憶媒体の大容量化と液晶の大型化という技術的なマクロ環境の変化と同時に、少子化・学校生徒数の減少という社会的なマクロ環境も変化していた。卒業式には卒業証書と卒業アルバムはセットがお約束なのに、それが実現できない環境になっている。その問題を解決する提案。まさに「ソリューション(solution=解決策)」である。

 自分たちが「売りたい」と思うモノは「ウォンツ」だ。それを消費者が必ず必要としているという保証はない。消費者にあるものは「ニーズ」。理想的な状態と現実のギャップである。「きちんとした卒業アルバムがほしい」のに、「生徒数が少なくコスト高になって作れない」。「少人数でも卒業アルバムを作りたい」というニーズをフォトブックというウォンツが見事に充足させたのだ。

 ターゲットを設定するには「5R」という考え方を用いる。Realistic Scale, Rate of Growth, Reach, Rival, Rank & Ripple Effect,という検証ポイントの頭文字6つのRだ。
 ・Realistic Scale(規模はあるのか?)=少子化の昨今、少人数の学校は多いだろう。
 ・Rate of Growth(成長性は?)=小学校などは統廃合が進んでいる。今後さらなる少子化で、ターゲットは増すだろう。
 ・Reach(到達可能か?)=公的な存在である学校のリスト入手は容易だ。ダイレクトメールなどでのアプローチも可能である。
 ・Rival(競争関係は?)=写真館が活躍できる規模を持った学校は対象にしないのであれば、むしろ経済効率から考えて誰からも相手にされない学校をターゲットに限定するなら、競合は存在しない。
 以上の4つのRだけでも狙うに十分な魅力があるが、残りの2つがフォトブックの普及にとって最も魅力的となる要素だ。
 ・Rank(優先順位は?)& Ripple Effect(波及効果は?)
 卒業生家庭にフォトブック製の卒業アルバムが配布されれば、そこからの波及効果も期待できる。その家庭で「へぇ、こんなにきれいに作れるんだ。うちでもやってみよう!」となる。卒業という区切りは次のステップのスタートでもある。そこから撮りためる写真を定期的にフォトブックに出力してもらえるチャンスなのだ。

 環境の変化を捉え、消費者のニーズに対応する。マーケティングの基本中の基本であるが、言うは易く行うは難し。しかし、今回のフォトブック普及協議会のニーズ発掘は出色に値するであろう。より多くの児童・生徒の思い出がフォトブックに鮮やかに残されつつ、普及が促進されることを祈る。

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2011.06.02

独占取材・ロングセラー商品物語~カルビー「堅あげポテト」の挑戦~

 「落穂拾い」「晩鐘」「種まく人」などの作品で有名なバルビゾン派の画家・ミレーは「人を感動させるためには、まず自らが感動しなければならない」と言った。


Kataage

 「千三つ」、新商品を1000個出してもヒットするのは3つぐらいしかないといわれるのは飲料市場が代表格だが、スナック菓子市場の激しさもそれに劣らない。あまたの新商品が発売され、新商品・定番商品入り乱れて店頭の棚を奪い合い、1年後に生き残っている新商品は1つ程度だという。そんなスナック市場で、10年間以上かけて確実に育って定番化した商品がある。カルビー「堅あげポテト」だ。


■危機感はヒット商品の母?

 新タイプの商品が開発されるきっかけは、「市場の危機」である場合が少なくない。例えば、筆者がかつて取材した事例では、チューイングガム市場が「若者のガム離れ」によって2002年から縮小に転じたことを背景に、「噛むとフニャン」のロッテ「フィッツ」が開発された。市場のリーダーにとって縮小は存亡にかかわる危機であるからだ。市場のチャレンジャーにとっては、危機はチャンスである。カップ焼きそば市場で若年層の食用率低下をキャッチしたエースコックは、従来にない縦型カップで、若者が好む「ながら食べ」を実現することを軸に「JANJANソース焼きそば」を開発した。両商品とも大ヒット商品となった。

■新たな価値定義を!

 「特に大きな危機は感じていなかったと思います」。当時、自分自身は開発担当スタッフではなかったという前置きをしたものの、こともなげに、カルビーの担当者は語った。1993年がポテトチップス市場のピークで、その後ゆるやかに市場は縮小しはじめた。その後の2000年代は横ばいが続いたという。
 ポテトチップスがグループの売り上げに占める割合は38%。ポテトチップス市場のシェア65%をにぎるカルビーにとっては由々しき自体ではないのか。しかし、その市場の縮小は自社商品ヒットの影響も少なくないという。「じゃがりこ」「Jagabee」。新タイプのポテトスナック菓子が大ヒットしたのだ。
 業界では95年の発売時に「じゃがりこショック」が起きたといわれているという。その従来にないポジショニング故だ。スナック菓子は1964年発売の「かっぱえびせん」にしてもポテトチップスにしても、袋をバリバリと開いて、みんなでつまんでワイワイと軽く食べる物だ。それに対してじゃがりこはカップ容器に指を突っ込んで、固い食感を一人で楽しんで食べる。市場がじゃがりこを受け入れたということは、従来の商品に対して、「新たな価値の定義」が求められていることだと社内では解釈したという。

■産みの苦しみと誕生した価値

 ポテトチップスという商品の価値定義を変える。従来見たこともないようなポテトチップスを作るという大きなチャレンジが始まった。開発者が目を付けたのは、日本では商品化されていない米国の「釜揚げタイプ」のポテトチップスだ。従来のポテトチップスより分厚く、カリカリした食感が楽しめる。
 しかし、通常のポテトチップスで人気のフレーバーを試し「味のバリエーション」を訴求したものの売れず、97年にはストレートに「美味しさ」を前面に出して訴えかけたが市場の反応は芳しくなかった。各種のリサーチや地域限定テスト販売などを地道に続けるが、大きな手応えを得られないもどかしい状態が続いた。

 ついに98年に「噛むほどうまい!」というコンセプトにたどりつき、この商品の価値は「噛みしめる美味さ」であることが明確化できた。フレーバーはシンプルな「うすしお味」と「ブラックペッパー」の2種に確定した。
 「商品に対する確たる手応えをつかむまでの売れない日々が乗り切れたのは、社内にしっかりファンができていたからです」と担当者は営業だった当時を振り返る。彼を支えたのは、「食べてもらえればわかる」という商品価値に対する確信だった。そのため、試食のローラー作戦もひたすら商品の価値を信じて実行したという。その甲斐もあって、商品ユーザーの食用のきっかけは「人に勧められて」が多いという。市場に価値が認められたのだ。

■価値を伝えるべき人

 商品は決して万人受けするものではない。「価値が判る人」を囲い込んでいく。そのために、エリア毎に確実に拡大する展開がとられた。通常品は誰もが手に取る商品。「堅あげポテト」は判る人に手に取ってもらう商品。手作り感や職人仕事という価値を共有できる人がターゲットなのだ。ターゲットは年齢の属性でセグメントするというよりは、やはり価値感が重要である。それ故、当初は20代を中心としたヒットであったが、その後ユーザー層は40代にまで拡大した。
 ポジショニングは「自分で買って食べるポテトチップス」。親から与えられたり、家人が買ってきたりしたものを食べるのではない。「親しみ」と「こだわり・通好み」はトレードオフの関係にある。あくまで後者のポジションを取るため、パッケージにはおなじみのジャガイモのキャラクターは存在しない。

■弱点を克服する

 大ヒットの兆しを感じる「堅あげポテト」には大きな弱点があった。生産だ。
 通常のポテトチップスは「じゃがいもの選別→水洗い・皮むき→スライス→水洗い→180℃で2~3分揚げる」という生産プロセスをとる。一方、堅あげポテトは「じゃがいもの選別→水洗い・皮むき→スライス→180℃より低い温度で8~10分揚げる」と、スライス後の水洗いをせず、じっくり揚げ時間をかけるという方式だ。その分、うま味は逃げないが、素材のじゃがいもの選別に妥協ができない。また、揚げ時間は生産効率に直結する。大量生産ができないという弱点になるのである。
 「もっと作れば売れるのに作れない」というもどかしさが今度は襲ってきた。しかし、「うすしお味」「ブラックペッパー」の2種のフレーバーでエリアを広げて着実に売っていく。社内では焦らずじっくりと展開することが暗黙の了解になっていた。
 そして、機は熟した。市場のニーズの高まりを受けて、2010年度についに「のり味」「コンソメ」の2種を加え、全国の需給担当者とともに需給バランスの最適化を図り、市場ニーズとのミスマッチを解消した。

■社内ファンの力

 特筆すべきは、マーケティング要諦である「整合性」だ。そして、その整合性を生み出しているのは、「堅あげポテト」を支えようとする「社内ファン」の力に負うところが大きい。

 「開発・マーケティング→生産→物流→営業・販売」という一連のバリューチェーンでは商品価値を市場に伝えるという目的で整合している。
 開発・マーケティング=自ら価値の再定義しコンセプトを確立させる。
 生産=生産効率が悪く、体制も整っていない状況でも粘り強く生産する。
 物流=生産と市場ニーズのアンマッチが起こると、他エリアから在庫を融通するなどの機動性を発揮する。
 営業・販売=いかに手に取って体験してもらうかを考え、試食の機会を作り出す工夫を行う。

マーケティングミックスの「4P」でも、商品価値を高め、保つことで整合している。
 商品(Product)=フレーバーを思いつきで増やしたり、消費者調査だけでパッケージを安易に変えたりしない。
 価格(Price)=価格訴求でなく価値訴求商品として認知いただけるよう販売チャネルへの働きかけをしっかりとして、ブランド価値を維持する。
 販路(Place)=営業が販売チャネルの棚を確実に押さえる努力を惜しまない。
 プロモーション(Promotion)=「食べればわかる」という当初のコンセプトを確実に体現するため、地道なサンプリングを重ねる。

 「私たちは、“ポテトチップスの1つのブランド”を作るのではなく、“堅あげポテト”というブランドを作りたかったのです」と、担当者は語る。
「新しい価値」を追求し、作り出した商品に誰よりも社内の各部門で関わる社員がファンになり、「わかる人にはわかってもらえる」ということを確信して、各々が各々のポジションで地道な努力を重ねた。
 10年以上にわたって売れ続けているロングセラー商品、カルビー「堅あげポテト」。そのヒットの陰には、カルビーの社内ファンの活動があったわけだ。

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2011.06.01

リピーター8~9割!:丸亀製麺の成功のワケ

 モノゴトがうまくいっている時。その陰には「成功の理由」が存在している。しかし、それを表面的にとらえず最も有用なポイントを深掘りしていくことが成功のためには欠かせない。

 6月1日付日経MJに掲載された「第37回・飲食業10年度調査」。店舗売上高伸び率28.7%で3位となったトリドール。セルフ式うどん店「丸亀製麺」といった方がわかりやすいだろう。記事によれば、店舗数は現在約450店。今年度も約100店ペースの出店を計画しているという。ライバルだった「はなまるうどん」は調査では293店舗。年20店舗ほどの出店で、売上高伸び率も2.6%。既に後方に抜き去った感がある。

 調査ランキングを伝える同紙の1面記事では、同社は「個店に裁量、出来たて感 脱・集中調理」とタイトルが付けられている。タイトル通り、同社の成功は450もの店舗を抱えているのに、「セントラルキッチン」を持たないという特徴に依存する。しかし、一足飛びに思いつきでそのスタイルを確立したわけではない。そこに至るまでには「環境の変化」と「顧客のニーズ」をしっかりと読み取った同社のマーケティング眼が存在しているのである。

 きっかけは市場のマクロ環境・法規制の変化だった。「トリドールの出店地域は商業施設のフードコートが主だった。法改正によって郊外の商業施設の出店にブレーキがかかり、路面店に軸足を置かざるを得なくなった」と記事にある。
 では、路面店に来る顧客(Customer)のニーズはどのようなものだろうか。「路面店では”しっかりした食事をとりたい人が目立つ”」と同社社長が語っている。ショッピングセンターなどのフードコートなら、顧客は「買い物のついで客」が多い。ニーズは味もさることながら、「手早く食べられること」だ。一方、路面店への来店者は食事そのものが目的だ。しっかりと食べたい客が基本となる。その違いを明確につかんだのだ。

 競合(Competitor)の環境も異なる。フードコートは多数の飲食店コーナーがオープンスペースに軒を連ねている。手早く提供でできず、行列ができようものなら途端に他店に客は流れる。また、料理と価格が極めて簡単に比べることができるのも特徴だ。それに対して、路面店の場合「客単価はショッピングセンター内の店舗よりも50円高い520円」だという。

 軸足を切り替えた自社(Company)は、競合にさらされないだけ、コストにも余裕ができる。その余裕をもって「しっかりした食事をとりたい」というニーズに応える。同社がセントラルキッチンを持たないのは、「面を製造交渉から店舗へ配送すれば時間のロスを生み、コシのある出来たての麺が提供できないから」だという。

 うどんは食べるのに要する時間が極めて短い。筆者がかつて本場・高松に頻繁に出張していた時、店内の客の滞在時間を計ったことがあるが、2分そこそこだった。しかし、同社の設計は、うどんをすすっている時だけを「顧客体験」にしていないのが妙だ。フードコート客のニーズは「手早さ」。ともすれば、他の店で違う料理を買って受け取っている同行者がいれば、待ち時間は気が気ではない。しかし、路面店の来店客にはもう少し余裕がある。同社の特徴は「製麺作業や天ぷらを揚げる作業が“ガラス張り”仕様の店舗レイアウト」にある。それが好循環を生んでいるとある。即ち、「壁をなくした同じ空間を共有することで、従業員とレジ待ち客との間で会話も生まれる」という。

 記事には驚異的な数字が掲載されている。「来店客の8~9割」がリピーター。
顧客の顔が見える。声が聴ける。ニーズが直にわかる。そこに同社の最も大きな成功のヒミツが隠されているのだ。同社はセントラルキッチンを持たないだけでなく、「麺の原料となる小麦の仕入れから、おにぎりの製造に至るまで、各店の裁量に任せる」という。店舗毎に来店する顧客のニーズにできるだけ沿うように、各店が工夫を重ねている。それがバリューチェーンで考えれば一見不効率にも思える「脱・集中調理」こそが、成功のカギ(KSF=Key Success Factor)となっているのだ。

 大きな環境(マクロ環境)の変化に対応することは生き残りの基本だ。また、競合環境が変化したら、自社の戦略を見直すことも欠かせない。しかし、最も重要なことは、顧客の変化を捉え、そのニーズを深掘りし、充足させるためのしくみを全体の整合性を持って構築することなのだ。
 記事には「16年の1000店達成まで突っ走る」とある。顧客の心を捉えて放さない、同社の快進撃は続くだろう。

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