「トクホンの入浴剤」に隠された戦略は何だ?
「外用消炎剤」、平たくいえば「湿布薬」。代表的なブランド名を挙げるなら、久光製薬の「サロンパス」と「トクホン」の名が出てくるだろう。製品の発売は1933年(昭和8年)。サロンパスより1年先輩の押しも押されもせぬロングセラー商品である。社名を株式会社鈴木日本堂から商品と同じ社名株式会社トクホンに変更したのが1989年(平成元年)のことである。
そのトクホンから薬用入浴剤「トクホンの湯」(医薬部外品)が発売された。
トクホンが消炎剤以外の製品を発売するのは、社名変更と同じ1989年にビタミン配合ドリンク剤「トクホン内服液」発売を発売して以来のことだ。さらに遡れば創業の1901年(明治34年)にかぜ薬「オピトリン」、頭痛膏「乙女桜」などを製造販売していたが、その後は消炎剤一筋を販売し、「トクホン内服液」も振るわず販売中止をして以来、ドメインを消炎剤に集中していたのだ。
企業の成長戦略を考えるフレームワークに「アンゾフのマトリックス」がある。
既存の商品で勝負をするのか、新たな商品に賭けるのか。既存の市場・顧客を相手にするのか、新たな市場・顧客を獲得するのかという4象限で、既存×既存は「市場深耕」、既存×新規は「新商品開発」と「新市場開拓」、新規×新規は「多角化」という戦略となる。
トクホンの薬用入浴剤「トクホンの湯」の発売は上記のどれにあたるのか。既存の顧客に新たな商品として入浴剤を販売しようという戦略と考えれば「新商品開発」だ。しかし、「トクホンの湯」は当面「ネット限定販売」なのである。既存のドラッグストアなどの売り場=市場ではなく、新市場であるネットでの販売を目指すということは、新たな商品を新市場で販売する「多角化」に分類される。そして、「多角化」は成功確率が低い成長シナリオであるのだ。なぜ、そのチャレンジに踏み切ったのか。
<トクホン、薬用入浴剤「トクホンの湯」を通販チャネルで発売>(6月28日マイライフ手帳@ニュース)
http://tinyurl.com/42krgws
マイライフ手帳@ニュースよると、<トクホンモバイルサイトのほか、楽天市場にトクホンオンラインショップを開設>とある。
また、元々はこの商品はトクホンの販促ツールであり、トクホン社の製造ではないようだ。
昨年来、<貼り薬「トクホン」にオリジナル入浴剤を添付するプロモーションを実施している。消費者から、この入浴剤を使うとスーッと心地よく、とても楽になるとの反響と製品化への要望が寄せられたという。そのため、トクホンは製造元の北陸化成(石川県白山市)と共に肩こりや腰痛に効果的な処方をさらに検討した結果、「トクホンの湯」が生まれた>(同)という。
メーカーが販売チャネルの棚を獲得することは容易ではない。消炎剤では盤石の地位を築いていても、実績のない入浴剤を持っていって、バスクリンやバスロマン、バブなどの強豪がひしめく棚を「ハイどうぞ」と空けてくれるチャネルはないだろう。確かに「販促品として好評であった」という実績はあるかもしれないが、それが商品として売り出したときに売れるという保証にはならない。
同社のホームページを見ると、営業活動の様子として<当社の製品は、代理店を経て薬局・薬店に供給されます。私たち営業は代理店、薬局・薬店を訪問して製品の情報を提供しています>とある。
懸命に新商品である入浴剤を売り込んでもチャネルは取り扱いに関して首を縦に振ってくれないとすればどうするか。「商品として売れるという実績」を切り札にするしかない。ネットでの販売は「実績作り」であると考えられる。
<入浴剤のハイシーズンとなる秋冬に向けて、店頭での販売も予定している>(同)とあるが、夏の時期、シャワーで済ませてしまう人も多いだろう。だとすると、夏の間は何とか認知を高める努力をして、ネットでの販売の勝負は秋口から。その実績を持って、冬に何とか店頭の棚を獲得することを目指すという動きになるのだろう。
どんなにすばらしい商品を作っても、販売の場を獲得できなければ消費者の手に取られ、売れることはない。そして、販売チャネルは自社でコントロールすることができない、利害関係が複雑に絡む「他人」である。メーカーの商品が棚に並ぶまでには様々なドラマが存在するのである。
薬用入浴剤「トクホンの湯」がドラッグストアなどの店頭にいつ並ぶかをウォッチしてみるといいだろう。おっと、そのためにもトクホンモバイルサイトか、楽天市場で購入して試してみることも・・・。