ミスドの「焼ド」はオイシイか?
ミスタードーナッツが5月25日から新カテゴリーのドーナツとして、油で揚げていない焼きドーナツの発売を開始した。従来と全く異なる製法を導入してまで展開するほど商売としてはミスドにとってオイシイのか。また、そもそもドーナツ屋という商売のうま味はどこにあるのかを考察してみよう。
佐藤隆太と剛力彩芽が新しいドーナツ店の開店を思いつくというテレビCM。ホームページには「もうひとつのミスタードーナッツ」というキャッチフレーズが掲げられているが、それほどまでに力が入っている。油で揚げたドーナツとは色も味も食感もすべてが異なるとい商品を実現したヒミツは、オーブンでじっくり焼き上げるという製法だ。その名は体も素姓も明らかな「焼ド」。
「焼きドーナツ」は大阪の「ミエル」が元祖と言われているが、これはドーナツ業界最大手のミスドによる同質化戦略だといえる。大手は「規模の経済」で商品価格を下げ、アイテム数を豊富にして「範囲の経済」で買上点数・客単価を高めて市場シェアを奪取する。
ミエルの商品はプレーン、 きなこ、ココア、シナモン、ラム・レーズン、焼き芋、クッキーショコラ、大納言の8種類。価格は150円~220円(税込み)だ。一方、ミスドもいきなり8種の味を投入してきた。さつまいも&ほうれんそう、かぼちゃ、チョコチップごぼう、ダブルベリー、オレンジピール、シナモンチョコ、カラメルアップル、ミルクレイズド。価格は147円~157円(税込み)。品目と価格では大きな差は出てないが、店舗数がミエルは関東から九州まで合わせて8店舗しかないのに対し、ミスドは1300店を超える。
同質化をかけられると、加工度の高さや熟練度が問われない場合は、顧客に価値を示すことが難しくなる。ミエルが焼きドーナツの元祖であり、ニッチャーとして生き残りを図るには、より「あくまでも質で差別化!」と磨きをかけ、コアなファンを囲い込む必要があるだろう。
そもそもドーナツというカテゴリーのうま味はどこにあるのだろうか。
ドーナツはケーキなどに比べて生の材料が少ないため原材料の廃棄率・コストは高くない。スイーツとしてケーキの競合・代替になる割には原価率が低いという商売上のうま味がある。限界利益が低いため、「開業するならフレンチの店より餃子屋」という図式と同じだ。
量産できるため低単価でリピート率が高いという点も見逃せない。
従来からミスドには日計売上アップの必殺技がある。それは、鉄道会社にショバ代を払い、夕方から最寄りの駅ナカに机1つとレジ1台を持ち込んで「10個詰め合わせで1000円」と帰宅客に販売する。地元の駅で見かけた人も多いのではないか。狙いはズバリ、お土産需要。千円札円1枚ポッキリの買いやすい価格に設定できるのは、もともと低価格で原価率が低いため値引きが容易であるからだ。
ちなみに、「10個で1000円」は、「10個って多くね?」と思わないだろうか。(核家族化、少子化、単身世帯増加的に)。実際に出張販売していた店長にヒアリングしてみると、「5個500円より10個1000円にした方が、ドーナツの総個数はさばける」とのことだった。「5個で500円」だと買いやすいから客数は増えるが、「6個以上買ってもいいかな」とか、「1000円ピッタリなら払ってもいい」と思う客まで5個500円で満足してしまう。つまり、「売上=客数×客単価」という基本の基を押さえながら、消費者心理を巧みに突いた設定だ。
しかしながら、世は健康志向が大勢。メタボ検診も2008年から法制化され、男性だったら85センチという比較的フツーのオトナなウエストサイズですら許されない世の中だ。そんな環境は、油で揚げたドーナツにとってアゲインストな風であることは間違いない。「ヘルシーな油で揚げてない焼きドーナツ」は「数を売る戦略」であるミスドにとって欠かせない武器である。
業界のプレイヤー同士は戦い競い合いながら市場を維持・拡大していく。最近でドーナツがブームとなったのは、米国からクリスピークリームドーナツが上陸し、2006年12月に新宿サザンテラスに1号店が出店した時だ。以後、2007年10月に有楽町イトシアに2号店が出店。2010年からは全国各地に出店を広げはじめた。しかし、常に購入のための長蛇の列を作ってきた同社の勢いもさすがに弱まり、行列は沈静化。それにともない、順番待ちの客に振る舞われる、揚げたてドーナツ丸ごと1個サービスも終了した。
もともとの逆風下に起こったドーナツブームは風前の灯火。それを再び明るく輝かせるためには新機軸が必要だったのだ。果たして、ミスドの「焼ド」が「ミエル」を同質化したのか。そもそも、元祖が「ミエル」なのかも諸説あるが、ミスドにとって焼きドーナツが「ヘルシーなスイーツ」であるというブームがわき起こったことは見逃すことのできないチャンスだったのである。
テレビの日曜劇場で大沢たかお、綾瀬はるかが出演する人気ドラマ「JIN-仁-」。幕末に原題の外科医師がタイムスリップしたという設定で、大沢たかお演じる主人公の医師が脚気の薬を兼ねた甘味として考案する「安道名津(あんどうなつ)」。ドラマとコラボレーションして劇中の品を再現した商品が、全国のセブンイレブンで「焼ド」と同じ25日に発売された。ドラマでの「その調理シーンは瞬間最高視聴率26%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を記録している」(5月25日・毎日新聞デジタル)という。奇しくも同じ発売日となった「焼ド」と「安道名津」が刺激しあって、再びドーナツをオイシイ商売にするかもしれない。
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