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13 posts from May 2011

2011.05.31

「アンチエイジング」に励むブランド

 5月30日付日経MJに掲載された隣り合わせの記事。「リーガル」はカジュアルな商品を2009年から展開。「ローラアシュレイ」は駅ビルや専門店などに今期10店の小型店を出店。目的はどちらも「ターゲットの若返り」。かつて一世を風靡し、多数の顧客を囲い込んだ両ブランドが、「若返り」を賭けた模索をしている。

 同紙コラム「ブランド深化論」によれば、リーガルの成功物語は日本の成長と時を同じくする。1960年代の「アイビーブーム」(若者のための注釈:アイビー‐スタイル=(和製語ivy style)アイビー‐カレッジの在学生の間に生まれた流行を取り入れた服装。肩パッドを入れないブレザーなどが特徴。1965年頃流行・広辞苑第7版)で火が付き、1980年代にかけて紳士靴の定番ブランドとなったとある。1965年生まれの筆者も父親からリーガル=しっかりしたいい靴と教えら、色気づいた頃に買うようになった。
 支持基盤を確立して「定番」になるということは、経営的安定をもたらす。しかし、その一方で、「顧客は当時の若者層である40~60代に固定化してしまった」という。
 顧客の固定化は2つの問題をもたらす。1つは主要顧客がファッションに対する関心を徐々に失っていく世代であるということだ。購買頻度が低下する。もう1つは、60代が定年を迎えた時に、「定番ビジネスシューズ」として購入していた場合は、「もっと歩きやすさに特化した靴がほしい」というようなニーズによってブランドスイッチされる危険性があることだ。「顧客は歳を取る」という冷徹な事実。その時、ブランドはどうあるべきなのか。リーガルの答えは「若返り」だ。2002年にデザインや色などを若者向けにしたシリーズを積極展開し、2005年にカジュアル靴専門部署を設置、2009年には専門店を開いた。
 記事では同社幹部が「50年かけて築いた『丈夫で長持ち』というブランドの価値は変わらない」と述べている。その価値の上に、カジュアルでオシャレという新たな価値を付加する挑戦をはじめたのだ。
 
 同紙の隣には「ローラアシュレイ」の新型店舗の記事が掲載されている。
 カラフルなプリント布地を特徴とした衣料品・家庭用品のブランドで、1953年公開の映画『ローマの休日』で、主演のオードリー・ヘップバーンが同社のヘッドスカーフを用いたことでブレイクし、1960年代の終わり頃、プリント布をふんだんに使ったロングスカートがミニスカートからの流行の変遷にヒットし一斉を風靡した。日本でのローラアシュレイの展開は1985年に東京・銀座に第1号店がオープンしたのが最初だ。1980年代後半にトレンディードラマに多数出演した「ダブル浅野(浅野温子・浅野ゆう子)」のロングスカートスタイルを模した女性に大いに受けた。
しかし、流行は変遷する。誰もがロングスカートをはいたままでいない。実にその後、ミニブームが起こった。昨今、再びロングブームが来るといわれているが、そうだとしても誰もが同社の花柄のプリントを欲しがるわけではない。お気に入りの花柄で部屋を飾ろうとするわけではない。
 新型店舗の戦略は従来と全く異なる。小型店で得意の衣料品や家具を扱わずに、25〜35歳前後の女性に人気の雑貨で勝負する。「客単価は2500円前後と、家具なども含む通常店の雑貨部門に比べ4~5割低いが面積あたりの売上高は約2倍」だという。
 同社の資産は「ブランドの特徴である花柄」であり、「それを活かしたレターセット、手鏡など化粧関連雑貨、傘、スキンケア用品」などの新型店専用品を開発するという。ブランドイメージの根幹は何かを見据え、ニーズのあるカテゴリーの商品に軸足を移していくというチャレンジが見て取れる。

 2005年から人口の縮小が始まり、もはや拡大が望めない日本市場。ともすると、細る需要に失望し、囲い込んだ自社の顧客基盤に安住して変化することを怠ってしまいがちだ。しかし、しっかりと時代の変遷、顧客ニーズの変化や新たな顧客層の台頭に目を光らせ、「アンチエイジング」の努力を怠らなければ、ブランドは輝きを失うことはない。ブランドの根幹となる価値は何なのかを明確にしながら、新たな価値創造を欠かさないことが求められる。

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2011.05.30

ファミレスの「捨てる勇気」はいかほどか?

 ファミレスが相次いで変身を遂げているという。それは「選択と集中」の結果。数多くのメニューを多様な顧客に適合するようにと「選択」はしてきたものの、「集中」を欠いていた業界がいよいよ生き残りをかけて「集中」するために、「捨てる」勇気を振り絞った。

 5月27日付日本経済新聞に「外食大手 ファミレス縮小 専門店へシフト」という記事が掲載された。ファミレスチェーンの業態転換を伝えているのである。記事によれば、ロイヤルホールディングスはロイヤルホストを300店越えの現状から5から10年で200店に縮小する一方、天丼の「てんや」を5年後めどに125店から200店に拡大。セブン&アイ・フードシステムはデニーズの出店を凍結。ハンバーグ店「ぐーばーぐ」等の新業態開発・展開に注力。スカイラークはガストの出店を駅前好立地30店に絞り、「ステーキガスト」を126店新設。他、しゃぶしゃぶ、焼き肉などを強化するという。

 ファミリーレストランが登場したのは1970年のこと。「すかいらーく・府中店」が第1号だ。当時は1973年の第1次オイルショック前の高度成長期末期。昭和の古き良き時代である。ファミレスは庶民のささやかな贅沢であった、「デパートのお好み大食堂」に代替しつつ、モータリゼーションの進行と相まってロードサイドを中心に店舗数を伸ばし、「すかいらーく」ブランドだけでもピークの1993年には全国720店舗に達した。
 1993年、つまり日本がバブル崩壊後の「失われた20年」に突入した年を境にすかいらーくの店舗は減少に転じ、2008年10月に低価格な「ガスト」に転換するため埼玉県・川口新郷店が最後に看板を下ろし、社名のみに名を残すこととなった。
 高度成長期やバブル期を経て失われた20年を過ごす間、世の中は大きく様変わりした。2005年に日本の人口は減少に転じた。一方、現在も世帯数は増加し、2015年までは上昇するといわれている。単身世帯の増加である。家族世帯の中でも食事の風景は確実に変化している。家族構成員の行動時間が多様化し、一家揃って食卓を囲む機会が減少している。それを背景にレトルト・インスタント食品の進化や中食ビジネスの台頭し、「個食化」が進む。もはや、食のシーンでは「ファミリー」という概念が消失しつつあるのだ。ファミレスの業態転換は時代の趨勢に従ったものであるといえよう。

 専門特化は一つの解である。業態名ともなっている「ファミリー」というセグメントを捨てて、「○○が食べたい」という明確なウォンツを提供する。「家族で外食」を前提とするのではなく、「仲間」や「同僚」、そして「家族」などという属性の中で、「今日は○○を食べたくない?」という顕在ニーズを同じくしたセグメントをターゲットとしているのだ。
 さらにボックス席だけでなく、カウンター席も充実させて「一人で気兼ねなく食事をしたい」という潜在ニーズにも応えている。
 しかし、単なる「○○が食べたい」という顕在ニーズを実現するだけでは、牛丼チェーンのように差別化困難になって、泥試合になる可能性もある。「どのように、どんな食事(味)を求めている顧客ニーズに応えるのか」という絞り込んだターゲティング。それに対して、「自社ならではの味や工夫で応える」明確なポジショニングが求められる。

 極端な事例としては、とんこつラーメンの「一蘭」がある。カウンターの座席は両隣とパーティションで仕切られ、厨房側も赤いのれんで閉ざされている。特許出願中という「味集中システム」だ。ラーメンの味は確かだが、そのシステムは賛否両論。しかし、「食事の際の雰囲気」にこだわる客を捨て去り、「美味しいラーメンに没頭して食べたい」という熱心なファンを同社は確実に押さえ、高いリピート率を実現しているという。
 「味」だけで勝負するのが戦略ではない。5月27日付日経MJのコラム「食ビジネス考」に興味深い事例が掲載されていた。富山県黒部市の洋食店「レストラン&喫茶 ジェノバ」という店だ。大手外食チェーンの攻勢で右肩下がりだった売上がある工夫で大幅な反転攻勢に転じたという。その工夫の1つが「マンガ本」だ。集客に悩む平日の夜に「食事を摂りながらマンガを読みたいという20~40代の男性客」を600冊超のマンガ本を店内に設置して取り込んだ。メニューもマンガを読みながら食べやすいように、ハンバーグをあらかじめカットするなど改良。若い男性の「味が薄い」という声に応えてうま味調味料の使用量を増すなどの変更も行い、看板メニューとなったという。
 あらかじめカットされた濃い味のハンバーグを、右手のフォークで口に運びながら、左手でマンガのページをめくる一人客が何人かいる店内。同様のニーズを持った顧客以外はちょっと入りづらい。しかし、その時間帯のメインの集客層以外にも受けるサービス・商品をと考えて、一般的なものを提供すれば、顧客は離反する。

 ターゲットを絞るということは、それ以外を「捨てる」行為である。消費者の行動や嗜好が多様化した昨今、「誰からも愛される店」はもはや幻想に過ぎない。「捨てる勇気」を持つことも、生き残りの条件だ。ファミレス各社の新業態店は、どこまで「捨てる」展開を行うのか、しっかり見定めてみたい。

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2011.05.26

ミスドの「焼ド」はオイシイか?

 ミスタードーナッツが5月25日から新カテゴリーのドーナツとして、油で揚げていない焼きドーナツの発売を開始した。従来と全く異なる製法を導入してまで展開するほど商売としてはミスドにとってオイシイのか。また、そもそもドーナツ屋という商売のうま味はどこにあるのかを考察してみよう。

 佐藤隆太と剛力彩芽が新しいドーナツ店の開店を思いつくというテレビCM。ホームページには「もうひとつのミスタードーナッツ」というキャッチフレーズが掲げられているが、それほどまでに力が入っている。油で揚げたドーナツとは色も味も食感もすべてが異なるとい商品を実現したヒミツは、オーブンでじっくり焼き上げるという製法だ。その名は体も素姓も明らかな「焼ド」。

 「焼きドーナツ」は大阪の「ミエル」が元祖と言われているが、これはドーナツ業界最大手のミスドによる同質化戦略だといえる。大手は「規模の経済」で商品価格を下げ、アイテム数を豊富にして「範囲の経済」で買上点数・客単価を高めて市場シェアを奪取する。
 ミエルの商品はプレーン、 きなこ、ココア、シナモン、ラム・レーズン、焼き芋、クッキーショコラ、大納言の8種類。価格は150円~220円(税込み)だ。一方、ミスドもいきなり8種の味を投入してきた。さつまいも&ほうれんそう、かぼちゃ、チョコチップごぼう、ダブルベリー、オレンジピール、シナモンチョコ、カラメルアップル、ミルクレイズド。価格は147円~157円(税込み)。品目と価格では大きな差は出てないが、店舗数がミエルは関東から九州まで合わせて8店舗しかないのに対し、ミスドは1300店を超える。
 同質化をかけられると、加工度の高さや熟練度が問われない場合は、顧客に価値を示すことが難しくなる。ミエルが焼きドーナツの元祖であり、ニッチャーとして生き残りを図るには、より「あくまでも質で差別化!」と磨きをかけ、コアなファンを囲い込む必要があるだろう。

 そもそもドーナツというカテゴリーのうま味はどこにあるのだろうか。
 ドーナツはケーキなどに比べて生の材料が少ないため原材料の廃棄率・コストは高くない。スイーツとしてケーキの競合・代替になる割には原価率が低いという商売上のうま味がある。限界利益が低いため、「開業するならフレンチの店より餃子屋」という図式と同じだ。
 量産できるため低単価でリピート率が高いという点も見逃せない。
従来からミスドには日計売上アップの必殺技がある。それは、鉄道会社にショバ代を払い、夕方から最寄りの駅ナカに机1つとレジ1台を持ち込んで「10個詰め合わせで1000円」と帰宅客に販売する。地元の駅で見かけた人も多いのではないか。狙いはズバリ、お土産需要。千円札円1枚ポッキリの買いやすい価格に設定できるのは、もともと低価格で原価率が低いため値引きが容易であるからだ。
 ちなみに、「10個で1000円」は、「10個って多くね?」と思わないだろうか。(核家族化、少子化、単身世帯増加的に)。実際に出張販売していた店長にヒアリングしてみると、「5個500円より10個1000円にした方が、ドーナツの総個数はさばける」とのことだった。「5個で500円」だと買いやすいから客数は増えるが、「6個以上買ってもいいかな」とか、「1000円ピッタリなら払ってもいい」と思う客まで5個500円で満足してしまう。つまり、「売上=客数×客単価」という基本の基を押さえながら、消費者心理を巧みに突いた設定だ。

 しかしながら、世は健康志向が大勢。メタボ検診も2008年から法制化され、男性だったら85センチという比較的フツーのオトナなウエストサイズですら許されない世の中だ。そんな環境は、油で揚げたドーナツにとってアゲインストな風であることは間違いない。「ヘルシーな油で揚げてない焼きドーナツ」は「数を売る戦略」であるミスドにとって欠かせない武器である。
 業界のプレイヤー同士は戦い競い合いながら市場を維持・拡大していく。最近でドーナツがブームとなったのは、米国からクリスピークリームドーナツが上陸し、2006年12月に新宿サザンテラスに1号店が出店した時だ。以後、2007年10月に有楽町イトシアに2号店が出店。2010年からは全国各地に出店を広げはじめた。しかし、常に購入のための長蛇の列を作ってきた同社の勢いもさすがに弱まり、行列は沈静化。それにともない、順番待ちの客に振る舞われる、揚げたてドーナツ丸ごと1個サービスも終了した。
 もともとの逆風下に起こったドーナツブームは風前の灯火。それを再び明るく輝かせるためには新機軸が必要だったのだ。果たして、ミスドの「焼ド」が「ミエル」を同質化したのか。そもそも、元祖が「ミエル」なのかも諸説あるが、ミスドにとって焼きドーナツが「ヘルシーなスイーツ」であるというブームがわき起こったことは見逃すことのできないチャンスだったのである。

 テレビの日曜劇場で大沢たかお、綾瀬はるかが出演する人気ドラマ「JIN-仁-」。幕末に原題の外科医師がタイムスリップしたという設定で、大沢たかお演じる主人公の医師が脚気の薬を兼ねた甘味として考案する「安道名津(あんどうなつ)」。ドラマとコラボレーションして劇中の品を再現した商品が、全国のセブンイレブンで「焼ド」と同じ25日に発売された。ドラマでの「その調理シーンは瞬間最高視聴率26%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を記録している」(5月25日・毎日新聞デジタル)という。奇しくも同じ発売日となった「焼ド」と「安道名津」が刺激しあって、再びドーナツをオイシイ商売にするかもしれない。

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2011.05.25

迫り来る8×4の脅威!シーブリーズ逃げて~!

 「マネっこ」をすると先生に叱られたり、友達に嫌われたりする。それは子どもの世界の共通認識でありルールだ。しかし、生き残り競争に支配されたビジネスのルール、オトナの世界では必ずしもそれは通用するものではない。

 「シーブリーズ」と聞いて「夏!」や「サーファー」などというキーワードが思い浮かんだら、ちょっと中年の証拠かもしれない。1969年に日本で正式発売され、1982年に外資系医薬品会社のブリストルマイヤーズスクイブがブランドを獲得、翌年にテレビCMが放映され若者の人気に火が付いた。シャンプーから始まり、デオドラント製品(パウダー入りローション)を展開したのは96年のこと。しかし、徐々に売上は低迷し2000年に資生堂に事業譲渡。ブリストルマイヤーズスクイブ社は本業とのシナジーがないため、同時にパーソナルケア事業を閉鎖した。
 一方、資生堂はシーブリーズの従来のターゲットとポジショニングである、「若い男性」「夏」「サーファー御用達」から、大胆に「女子高生」「恋の気分」にシフトし、微妙なオトメゴコロに対応できるよう香りのバリエーションを多数拡大し、同時に「通年対応」も実現した。今日では女子高生の定番ブランドであるといっていい。

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 シーブリーズに危機が迫っている。デオドラント製品の大定番、「8×4」だ。
 1974年にドイツの化粧品会社の製品を技術提携し、花王(ニベア花王)が日本市場に展開。今日に至るまで、パウダースプレーやロールオンタイプを基本として様々な製品バリエーションを市場に送り込み、常にマイナーチェンジを繰り返している。
 写真はあるドラッグストアの棚の写真だ。右がシーブリーズ。左が8×4そっくりだ。
 8×4は今年3月に発売された「デオウォーター」という製品である。花王は石けんやシャンプー、洗剤、柔軟剤などに用いている、「香りが長続きする」という得意技、「はじける香りカプセル」も用いてシーブリーズのシェアを切り取り、定番のポジションを奪取する意欲満々であることがうかがい知れる。

 業界№1のポジションにある「リーダー」の基本戦略は「全方位戦略」である。大きな市場シェアを誇り、強大な商品開発力や販売力を背景として、全方位的に戦い方を展開する。その戦略パターンの一つが「同質化」である。
 リーダー以外の企業がヒット商品を開発したら、余りある技術・開発力を総動員して同種の製品を上市。流通チャネルに働きかけて店頭の棚を確保して、一気にシェアを奪う。
 飲料業界の門外漢であった大塚製薬が自社の輸液の技術から、カリウムなどの電解質を補い水分吸収に優れた飲料、「ポカリスェット」を開発・上市した。それに対して、飲料業界のリーダー企業である日本コカ・コーラは、同様の製品を開発して「スポーツ時の水分補給に」と「アクエリアス」売り出して一気にシェアを奪取したという例がある。

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 資生堂は大手化粧品会社であるが、従来の流通チャネルは百貨店であり、販売手法は美容部員による対面販売だ。しかし、ドラッグストアの台頭により化粧品もセルフ販売と低価格化が進み、資生堂もついに千円以下の「3ケタ化粧品」に参入した。昨年9月中旬に「専科 保湿クリームからつくった化粧水」を発売したのだ。
 領空侵犯されたリーダー企業は報復攻撃に出た。その1つがシーブリーズ対抗の8×4デーウォーターである。左の写真は別のドラッグストアの店頭だ。花王が体力勝負の価格構成に出たことがわかる。一方、資生堂はシーブリーズブランドの新製品である日焼け止めのサンプルをセットにして差別化を図っている。
 リーダーに攻め込まれたチャレンジャーとしては、何といっても「差別化」がキモである。リーダーが同質化を仕掛けようとしても簡単には真似できない戦略を展開するしかない。しかし、サンプルのパッケージ同梱というレベルでは防衛できるか不安である。両製品を組み合わせて使ってこそ得られる便益などの訴求ができるかが差別化の要諦となってくるだろう。

 気温と湿度が上がり、暑さが本格化してきた季節。店頭の戦いも価格競争で一層の熾烈さを増しはじめた。特に今年は震災の影響の影響による暑さ対策で、デオドラント市場も大きな伸びが見込める環境にある。8×4とシーブリーズの攻守から目が離せない。

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2011.05.24

イオンの「弁当売り場の変身」に学ぶべきこと

 イオンの総合スーパー(GMS)の総菜売り場が変身する。グループ会社の「オリジン弁当」の出来たて総菜を導入するというのだ。その他、自ら「超ローカルスーパー」という理念を掲げる愛知県豊橋市の「一期家一笑(いちごやいちえ)」の事例から差別化と収益を上げるポイントを学んでみよう。

 5月20日付日経MJに「“オリジン”の惣菜導入 イオン、3年で120店に」という記事が掲載された。記事に添えられた店舗の総菜・弁当コーナーの写真には「既存商品とあわせ、惣菜の品目数が2割増える」とキャプションがある。
 「おかずをもう一品!」と駄々をこねる旦那を黙らせる必殺技でもあるスーパーの総菜コーナーは忙しい主婦の味方だ。しかし、その品揃えはアジフライやとんかつ、メンチやコロッケなど揚げ物の定番が多くを占め、食指が動かないこともある。同記事によれば、イオンにおいても「従来はコロッケや焼き鳥などが中心だった」とある。

 食指が動かない時にはその背景をついつい邪推してしまう。売れ残った食材を揚げたり焼いたりして提供するのが総菜コーナーなのではないかと・・・。
 実際に、そのプロセスをバリューチェーン(VC)で考えればありえることだ。「食材仕入れ→食品トレーパッケージ→販売→売れ残り廃棄」となるところを、「総菜調理」「総菜販売」というプロセスを入れれば、「食材仕入れ→食品トレーパッケージ→販売→総菜調理→総菜販売」となって廃棄率を下げ、新たな利益を確保できる。総菜調理・総菜販売にかかわるコスト<利益となるならやらない手はない。

 筆者は記事のタイトルを見た時、イオンもGMS売れ残り食材を、惣菜・弁当店のレシピと調理で商品にして売るのかと思ったが、実際は全く逆だった。記事には「オリジンが材料を供給し、毎日イオンの惣菜売り場の従業員が作る」とある。そして、「各店には立ち上げ担当者が1ヶ月間付き、毎月4店のペース導入していく。売り場の従業員は増やさず生産性を高め、利益も上げる」とある。
 つまり、「(イオンとオリジンの)共同仕入れ」を行い規模化してコストを低減。食材は食材として販売し、総菜・弁当は食材の仕入れ価格低減と「調理」のプロセス効率化によってコストを押さえ込んで利益を上げるという、バリューチェーン全体を最適化しているのだ。

 NHK総合テレビで日曜8時25~55分に「サキどり」という番組が放映されている。5月22日の話題は自ら「超ローカルスーパー」という理念を掲げる愛知県豊橋市の「一期家一笑(いちごやいちえ)」という地域密着型スーパーの話題であった。大繁盛という同社のヒミツは、食品スーパーは通常1~2kmを商圏とするのに対して500m商圏という「超地元密着」である。同社の総菜・弁当売り場は地産地消。地場の食材を活かしたメニューが強みでもあるが、特に弁当は「ごはん」も強力な武器だ。
 同社のホームページには、「地元の丸梅伊藤米店さんに毎日搗いて貰うお米を毎朝炊き上げたピッカピカの白飯と、一期家自慢のお惣菜を一つのお弁当箱の中に詰めていきます」とそのこだわりが記されている。番組でも販売時には並べられた弁当のトレーには、ごはんを入れる場所が空いており、買い上げ時に炊きたてを詰める様子が紹介されていた。「地元米店への発注→精米→炊飯→買い上げ時でのパッケージ」というプロセスで差別化を図っているのである。

 自社のプロセスを組み直したり新たな要素を加えたりして価値を付加する。束ねて効率化を図る。そうすることによって、強みの構築・弱みの克服ポイントが見えてくる。また、どこか一カ所だけ改良するのではなく、俯瞰することによって全体として整合性を図って価値を高める・効率化するというプロセス全体の設計図を作り上げることができる。
 「アタリマエ」と思っているプロセスも、バリューチェーンで分解してもう一度考え直してみることをお勧めしたい。

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2011.05.20

「メガチキン竜田そば」は誰がためにある?

 1日約32万人もの乗降客が行き交うJR東日本の品川駅には山手線、京浜東北線、東海道線、横須賀線と新幹線5路線が乗り入れている。山手線は実は品川が起点駅となっていたりするのだが、そのホームはとりわけ人がせわしなく乗り降りしている。そんなホームの片隅、駅のコンコースに上がる階段の下に、ひっそりと建っている立ち食いそば屋がある。

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 何の変哲もない立ち食いそば屋ではあるが、ひときわ目を惹くポスターが壁面に掲出されていた。「ドデカチキン最高! 新味 メガチキン竜田そば・うどん 490円 」。
 山手線から降りてきた会社員風の若い男性二人連れが、ポスターをチラリと見て「うわっ、胃もたれしそう~」と言った。一方、階段からホームに降り立った中年サラリーマン氏はポスターに3秒ほど目を留めて思案した後、店内に入っていった。

 メガフードブームが最高潮を迎えたのは2005年頃。大食いタレントのギャル曽根がテレビ各局に頻繁に顔を出しはじめた頃だ。2008年に「メタボ検診」が法制化されて沈静化するかと思われたが、「メガフード」はすっかり定番となった。日本マクドナルドから2007年に発売された「メガマック」が象徴的なメニューとなり、2008年には「クォーターパウンダー」に受け継がれて定番化している。ハンバーガーだけではなく、「メガフード」は牛丼やコンビニ弁当など外食・中食に幅広く飛び火し、すっかり市民権を得ている。
 「男もすなるメガフードといふものを、女もしてみむとてするなり」というワケか、女性狙いのメガフードも登場している。最も新しいものは、ケンタッキーフライドチキンから5月12日に発売された「ローストチキンサンド」だ。チキン胸肉1枚をまるまる使ったというボリューム満点のチキンサンドを、綾瀬はるかが豪快にかぶりつくCMも好評である。

 品川駅の「メガチキン竜田そば・うどん」もメガっぷりでいえば、「胸肉まるごと1枚級」だと思われる。チキン胸肉は原価が安い割にはボリュームが出しやすい。それを揚げたチキン竜田はランチの定番メニューである。「コスト・パー・カロリー」というか、安価にお腹いっぱいに食べられる定食として、大学の学生食堂や新橋界隈の居酒屋昼ランチではおなじみだ。キャベツの千切りを添えて、マヨネーズがドバッとかけてある様子が目に浮かぶ・・・。
しかし、写真にあるような、そばの上に鎮座しネギを載せた姿はあまりお見かけしない。若干、メニューとしてのバランスを欠いた観もある。
 「胃もたれしそう~」と言った若い会社員のキモチもわかる。そば・うどんは胃に負担の少ないメニューの代表格だ。天ぷらそば・うどんも定番だが、からりと揚げた天ぷらと比べれば、チキン竜田はあまりにボリューミー。しかし、恐らくその写真に惹かれて中年サラリーマン氏は店内に食しに行ったのだ。KBF(Key Buying Factor=購入理由)は何だろうか。どんなターゲットを狙っているのだろうか。

 ポイントは、あくまで「立ち食いそば」のメニューであって、さらに店舗は駅、しかも駅ナカ商業施設の「エキュート」に隣接したコンコースではなく、山手線ホーム上にあるということだ。好立地なコンコースなら、単価を上げねばならないだろうが、ホーム上の階段下という立地なら、同じ利益率を目指しても地代より原材料に原価がかけられる。よりボリュームが出せる。
 そのボリュームメニューを求める客。それは、コンコースで移動中ながら一息ついて食事をしたくなった客とはニーズが異なる。ホーム上で電車を1本見送って食事を摂ろうという行動が想像できる。1つの明確なニーズは「時間短縮」だ。それだけなら「かけそば」でもいいのだが、他にも「手軽なワンコインで、夜まで腹持ちする食料(←“食事”ではない?)を胃に納めたい」というニーズが存在するだろう。故に、つまり、多少メニューとしてのバランスを欠いていても、「とにかく手っ取り早く、安く、ボリューミーに!」という、ターゲットのKBFを押させているわけだ。

 どこにでもある立ち食いそば屋。どこにでもあるが故に、利用客はその駅で食べなくとも他の駅でもいいし、牛丼屋で代替してもいい。そのため、そこに並べるメニューは想定するターゲットと充足させるべきニーズ、KBFを見据えなければならない。
商品(Product)だけではない。ワンコインという手軽な価格(Price)を設定し、ホームという立地(Place)を活かし、目を惹くインパクトのあるポスター(Promotion)を掲出するという、一連の「マーケティングの4Pの整合性」と「ターゲットニーズとの整合」を実現しているのだ。
 何気なく目にするホームのポスターから、しっかりしたマーケティング戦略が学べる時もあるのである。


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2011.05.19

ジーンズの「ボブソン」はいかに再生すべきか?

 ジーンズメーカーのボブソンが5月2日、東京地裁に民事再生法の適用を申請し、6日に手続きが始まった。百貨店などの既存の取引先は打ち切られておらず、営業は継続できるとのことであるが、この後は債権者が納得できる再建に向けた戦略を描くかだ。

 5月18日付日本経済新聞で、上記ボブソンの民事再生法適用申請をからめて、ジーンズ市場縮小の理由をコラム「消費のなぜ」で解説している。タイトルは「振るわぬジーンズ “1000円”乱立の後遺症で苦戦」「値頃感変化 “楽な着心地”流行も逆風」とあり、都内の専門店の写真に「従来のジーンズがチノパンなどに押されている」と説明が加えられている。
 2009年にファーストリテイリング傘下・ジーユーが990円ジーンズを発売したことを皮切りとして、西友やイオン、ドン・キホーテなどの流通がPB(プライベートブランド)の安価品を相次いで発売し、1000円を切る商品が乱立。「ジーンズデフレ」とでもいえる様相を呈した。記事では「消費者が適切価格を見失い、さらに従来の7〜8千円という価格に対しても不信感を抱くようになった」ということがジーンズ不振の一因であると指摘している。また、代替品の存在も大きいという主旨も開設されている。男性はビジネスカジュアル対応可能なチノパンツ、若年男性は楽なカーゴパンツにジーンズの着用機会を奪われた。女性の場合はレギンススタイルがジーンズスタイルを代替したのである。
それらに対抗し、新たなブームを創造するため、ジーンズメーカー各社は体型補正などの機能をうたう商品を投入しはじめたとある。ストレッチ素材の採用や立体裁断・縫製を施し細かなサイズ対応を展開した商品のことであろう。

 同日の日経MJにはボブソンの代表取締役であり、投資会社のターンアラウンドマネジメントの社長である早瀬恵三氏のインタビュー記事が掲載されている。復活策の中心は「直営店を2倍(6店を12店)にし、売上に占める比率を2割から4割にすること」であり、出店の初期投資も極小化できる見込みだという。また、市場観については、日経記事指摘の「ジーンズ市場縮小」に関して「アパレル全般に比べれば状況は良い」とコメントしている。さらに、「デニム素材のジーンズにこだわらず、パンツ全体で見れば、メーカー数はトップス(上着)に比べれば少ない」と、業界内の競合状況が意外と激戦でない様子を明かしている。そして、インタビューの締めくくりとして、「総合パンツメーカーとして生き残る道はある」とも語っている。

 マクロ環境で考えれば、経済がデフレ化し、様々な市場で価格破壊が起きた。社会的には、「ファストファッションブーム」が起きて、「安いこと」は消費者の重要なKBF(Key Buying Factor=購入主要因)となり、安いがゆえに様々なスタイルを試す機会を創出した。技術的には、「安いけど高品質(ユニクロ)」や「安いけどオシャレ(外資系ファストファッション)」と従来のバリューラインを上回るポジションを獲得できる生産技術が登場した。

 顧客のニーズを考えると、もはやジーンズはファッションの中心にはなり得ず、多々あるアイテムの「one of them」でしかなく、高額(従来の7〜8千円)で購入する理由はない。また、ジーンズスタイル以外の選択も多いため、ジーンズそのものに対するニーズは減少している。特に女性のレギンススタイルはジーンズだけでなく、パンツ(ボトムス)縫製メーカー製品を選択しなくなっているため、「顧客消失」という状況に違い。それに対して、男性層には「使い回しがきく」「楽」など、ジーンズ以外のパンツには明確なニーズが健在している。
競合を見れば、ジーンズメーカーにとっては、ボブソンの代表取締役・早瀬氏のコメントの言うように、狭い「パンツメーカー業界」だけでなく、ユニクロやファストファッションメーカーもジーンズ代替としての競合となる。そして、各社はジーンズだけでなく、幅広いスタイル提案と品揃えがある。

 では、自社の活かすべき強みと克服すべき弱みは何か。また、KSFは何なのか。

 ファストファッション勢のように「規模の経済」を活かして低価格化を図る、調達・生産の量産化を行う技術はないものの、専門メーカーとして、ジーンズのトレンドであるダメージ加工や、ストレッチ、立体裁断・縫製による体型補正などの技術は持っていると考えられる。だとすれば、従来の「定番」に縛られない「スタイル提案」や「機能性訴求」が1つは考えられる。

 機能性を高める方向性の問題は、低価格化によってジーンズは極端なまでにコモデティー化し、消費者の関与度が低下していること。「ジーンズで体型補正ができるの!!」というレベルのインパクトがあればヒットの芽はあるが、そうした潜在ニーズを持っているターゲットボリュームは大きくなく、ニッチに留まる可能性は高い。同様に、例えば「iPod収納機能付き」などの旬な機能を付加してもニッチとなると考えられる。
 もう一方の可能性として、情緒的価値向上の可能性もあるが、ヴィンテージジーンズはマニア、ニッチの極みだし、デザイナーズがマス的にヒットしたのはバブルの昔日。そもそも、ジーンズへの関与度が低下しているので、通り一遍の情緒的価値では訴求力はない。

 ボブソンの早瀬社長の言うように、「総合パンツメーカーとして生き残る」という可能性はどうか。
 ジーンズというドメインを越え、広い市場で戦うということは、より多くの競合と戦うことになる。そうなると、より広範なKSFの獲得が必要となる。例えば、流行りのカーゴパンツにしても、シルエットのバリエーションはジーンズの比ではなく、それに素材、カラーもジーンズ以上の幅が必要となる。もしくは、ピンポイントで流行りのスタイルを的中させるノウハウが必要。「にわか総合メーカー」には荷が重いのではないか。

 ではどうするか。安売りはできないし、したくない。顕在ニーズに応える程度の機能性強化では、関与度の低くなった消費者のKBF(Key Buying Factor=購入決定要因)には不十分。ステロタイプな情緒的価値はもはや求められない。「総合パンツメーカー」になるには体力とノウハウ不足。・・・という悩ましい前提満載だが、1つの決定している要素として、直営店を6店から12店に増やし、売上の4割を稼ぎ出そうとしているということがある。残り6割を何店舗の百貨店、GMS、アパレル店などの委託販売先に頼っているかわからないが、12店で4割だとすれば、1店舗当たり売上はかなり大きそうだ。また、直営店だから当然だが返品なしなので利益率も高そうだ。

 その、直営店というコントロールのしやすい販売チャネルで、高付加価値・高収益な展開を目指すなら、「パターンオーダージーンズ」というのはありえないか。
ジーンズに対する消費者のニーズギャップは「動きにくい」というもの。また、「イマイチお洒落じゃない」ということもあるだろう。ストレッチジーンズ生地の使用、立体縫製に加え、パターンオーダーできれば、動きやすく、自分の思い描くイメージにピッタリなジーンズができあがる。オンタイム用ならパターンオーダーのスーツを比較的こなれた価格で扱う店は多くなっており、ドレスシャツなら「鎌倉シャツ」が人気だ。ジーンズも打ち出し方では十分ニーズを拾えるのではないだろうか。

 企業再生において、バランスシート(BS)をキレイにすることは、冷徹かつ粛々と行いさえすれば、さほど困難ではない。問題は「売れ続けるしくみ」をいかに再構築するかにかかっている。今後のボブソンが描く再建戦略に注目したい。

 

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2011.05.17

トールサイズコーヒー560円!スタバの新戦略は何だ?

 トールサイズのコーヒーが560円。驚きの高価格だ。スターバックスのドリップコーヒーはトールサイズで340円。490円と定番メニュー中最も高価な「ダークモカチップフラペチーノ」と「コーヒージェリーフラペチーノ」の価格をも軽く上回る。そんな商品を提供する狙いは何だろうか。

 5月17日付日本経済新聞のコラム「消費の現場」に、スターバックスの新展開が取り上げられていた。記事には「チェーン店でも個人経営の喫茶店のように、客が店員と話しながらコーヒーの知識を深められる。スターバックスがそんな店を3店作った」とある。そのうちの1店、記事にもあるのは、スターバックス日本1号店である銀座松屋デパートの裏手の店舗にも近い「銀座マロニエ通り店」。2階がソファー席も混じる広い客席であるが、1階は商品販売を中心とし、客席は少ない。その1階の片隅、フードのケース→注文レジ→ドリンク受け取りという一連のカウンターの末端に、小さな客席が新設されている。記事に「抽出の様子を見ながら客が店員と会話できるスペースをカウンター横に設けた」とある通りだ。記事には利用客の印象的なコメントが掲載されている。「“スターバックスリザーブ“のトールサイズ(560円)を注文した男性会社員(34)は“知識も深まるし、むしろ安いくらい”と話す」とある。

 スターバックスには種々雑多な顧客が訪れ、思い思いに本や雑誌を読んだり、勉強したり、ケータイやスマホをいじったり、仲間と談笑したりしている。そして、総じて滞在時間は長めだ。スタバの来店客の滞在時間が長いのは、提供価値が「コーヒーそのもの」だけでないことを店も客も合意の上、成立しているからだ。単に1杯のコーヒーで喉の渇きをうるおし、一瞬のいとまを過ごすだけなら、コーヒー1杯200円のドトールコーヒーショップや、150円のカフェベローチェで十分だ。ショートサイズなら300円。トール340円也の対価は、ちょっとオシャレな店内やBGMなどの「店内空間」と、そこで過ごす「時間」にも支払われているのである。

 では、「スターバックスリザーブ・トールサイズ560円」の対価とは何だろうか。
 それは、「特別な豆や抽出方法を使ったコーヒーの味わい」という有形物だけではない。「抽出係のバリスタが独自の手法を実演しながら約3分間、来店客に説明する」と記事にあるように、「抽出の様子を見ながらの店員との会話」であり、「知識の習得」という無形の価値が含まれているのである。

 飲料価格と価値の関係を考えてみよう。単に「喉の渇きをうるおす」というだけなら、ペットボトル入りのミネラルウォーターで用に足りる。価格は約100円だ。その「中核的価値」に、「おいしい」「炭酸でスッキリ」するなどの味やのど越しという「実体価値」が加わると、清涼飲料の150円という価格になる。50円分がプレミアムとして設定されているのだ。さらに特保飲料は体脂肪を燃焼しやすくするという魅力を高める「付随機能」としての要素を持っている。概ね価格は189円だ。ミネラルウォーターと147%の価格差があるが、それだけの価値が顧客から認められれば対価を得られるのである。
 同様に、同じチェーン展開のドトールやベローチェのように「コーヒーを提供する」という「中核価値」だけであれば、150円~200円。店内空間という「実体価値」を提供することによって、スタバはショート300円、トール340円の対価を得ている。そして、スタバはさらに「店員との会話でコーヒーの知識を習得できる」という付随機能を持ち込み、トール560円という対価を得る戦略に出たのである。

 「店員と会話してコーヒーの知識が学べるコーナー」を見ていると、もう1つ、スタバの狙いが見えてくる。
高価な「スターバックスリザーブ」を注文した来店客にバリスタはベタ付きしているわけではない。基本は「3分間コーヒー教室」だ。そして、その客は実はさほど滞在時間が長いわけではない。それもそのはず。客のニーズは「美味しいコーヒーをオシャレで落ち着く空間で、抽出の勉強をしてから楽しみたい」というコーヒーを中心としたものだからだ。
 スタバで最も滞在時間が長いのは、何冊ものテキストを開いて勉学に励んでいる客と、パソコンを取り出して仕事(?)をしている客だ。つまり、「空間的価値」に重きを置いている。そんな客は1時間はアタリマエ。2時間を超える時間を過ごす者も少なくない。(ちなみに、この原稿はスタバで執筆中で、書き始めて現在1時間が経過している。恐らくWebにアップする頃にはあと15分ほど要するだろう)。
 商売の基本は「売上=客数×客単価」だ。そして、客数にかかわる変数として「回転率」は大きな要素となる。スタバの新展開は、「回転率が高く、高単価な商品を注文してくれる客」を狙う戦略であるとも考えられるのである。

 どのような顧客に対し、どのような価値を提供するのか。そして、そこからどの程度の対価を得ようとするのか。また、「客数×客単価」の結果である「売上」をどのように設計するのか。恐らく、スタバの新展開は従来と異なる別のモデルを模索する実験だ。その成否しばらくウォッチしてみたい。

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2011.05.16

たかが5グラム、されど5グラム:吉野家の戦略を読み解く

 チキンレースの如く、すき家・吉野家・松屋の大手3社が一歩も引かぬ「牛丼値下げ戦争」。しかし、その三すくみの均衡をついに吉野家が崩しにかかった。「肉増量」「質で勝負」宣言である。その狙いを考察してみよう。

 5月16日付日経MJに「吉野家肉増量 固定客拡大狙う “次世代牛丼”に位置付け」という記事が掲載された。
 記事を読み進めると牛丼並盛りの「肉は従来の85グラムから90グラムに増量する一方、コメは260グラムから250グラムへと減らす」という仕様変更であり、その背景としては「消費者の嗜好の変化などに対応するのが狙い」だとある。何が「次世代」なのかといえば、「具材の分量を見直すのは戦後で初めて」だとあり、かなり戦略的な仕様変更であることがわかる。

 「次世代牛丼」に対して吉野家ホールディングスの安部修二社長も「昨年は値段で客数を回復したが、今期は品質で勝負したい」(asahi.com・5月13日掲載)と抱負を語っている。
 しかし、ネット上の反響を見てみると、「増量といっても、たった5グラムか!誤差範囲ではないのか?」「今までの肉量が少なすぎだったのでは?」というように、決して好意的な反響だけでないこともわかる。「今までが少ない」という意見は、散見される「提供される商品が見本写真と違う」という意見が論拠のようだ。仄聞するところによると、盛りつけは「±10gが許容範囲」というオペレーションもあったようなので、「5グラムは誤差範囲」という指摘もあながち間違いではないかもしれない。そして、総じて「それが次世代か?!」という論調となっている。

 確かに消費者にとっては「たかが5グラム」かもしれない。しかし、吉野家としては「されど5グラム」なのではないだろうか。日経MJの記事には「昨年12月に品質向上への取り組みを開始。具材や調理工程など108項目を修正した」とある。

 「牛丼」という商品(Product)を提供するためには、価格(Price)、店舗(Place)、プロモーション(Promotion)という、いわゆるマーケティングの4Pに加えてさらに2つのPが欠かせない。業務プロセス(Process)と要員(Personnel)だ。
 今回、「次世代牛丼」を提供するために「108項目を修正した」とあるのは、まさに業務プロセスであ、それを要員に徹底することが「品質向上への取り組み」である。オペレーションのバラツキをなくし、カッチリ90グラムを徹底する。つまり、「次世代」は消費者に向けた発信だけでなく、各店舗、末端の要員全員に向けて徹底を図るための宣言ではないかと考えられる。

 そうして考えると、安部社長の「品質で勝負」にもある種の「覚悟」が感じられる。
 かつて吉野家は「牛丼№1」であった。しかし、後発のすき家(ゼンショー)に店舗数でも売上でも水をあけられて久しい。牛丼戦争の一角である松屋の追い上げも厳しい。すき家は牛丼のトッピングバリエーションという得意技でファミリーを取り込み販売量を増し、規模の経済を効かせた「コストリーダーシップ戦略」と取っている。松屋は牛丼以上に豊富な定食のバリエーションを展開する「差別化戦略」で、数多くのリピーターを確保している。では、吉野家はどのようにして生き残りを図ろうとしているのか。それは、同社がこだわってきた「牛丼一筋」、つまり「集中戦略」である。
 狭い領域に限定して戦う集中戦略において、肝心要の牛丼の品質を徹底し、さらに磨き上げることは欠かせないのだ。日経MJの記事でも品質向上への取り組みは「“牛鍋丼”の投入などで客数が回復したのを受けて」であるとしている。競合対抗のための低価格の派生商品から、牛丼へ顧客を誘導するためにも品質向上は欠かせないのだ。そして、「肉量を増すために原価率は上昇するが、品質を高めることで中長期的に固定客を増やせると見ている」という狙いを実現しようとしているのである。

 次世代牛丼は、「1日から試験的に販売をはじめており、17日に東日本で始める値下げキャンペーンには全店で本格的に販売できるようにする」(日経MJ)という。その実力が試されるのは、まずは17日からの顧客の反応と、キャンペーン終了後の牛丼の注文比率だろう。まずは、商品の「5グラムの差」を体感してみつつ、店内のオペレーションにも目を配ってみるといいだろう。

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2011.05.11

アスクルの新展開とガソリンを売らないガソリンスタンド

 5月11日付日経新聞に掲載された2つの記事。そこには変化の激しい昨今の環境の中で模索する企業の姿が描かれていた。そこから学ぶべきことは何だろうか。

 アスクルが実験器具やガラス容器などの、いわゆる「理学用品」のネット通販を展開するという。
記事によると、ターゲットはメーカーの研究施設や学校からの受注を見込むとある。取扱う商品は実験器具や計測機器、洗浄機など約25000点。将来的には数十万点まで増やすことを見込んでいるという。販売チャネルはネット限定。カタログでは掲載商品点数に限りがあり、製品の仕様変更や研究現場の要望による品揃え、価格設定変更に機動的に対応できないためだという。

 注目すべきは、収益と市場拡大の見込みだ。見出しにも「価格競争少なく高収益」とあるが、一方、上記の将来的に数十万点という取扱商品点数になった時点で「数億円の売上を計画している」という。

 アスクルの売上高は2010年5月期で1889億円。それに対して数億円は微々たる金額だといえるだろう。しかし、その売上高の数字は2009年の1904億円から低下。営業利益、経常利益も2008年から右肩下がりが続いている。
 アスクルの歴史は、文具メーカーのプラスの社内で1990年に新たな文具流通の仕組みを検討する「ブルースカイ委員会」としてスタートした。その後、1993年にアスクル事業を開始。1997年にメーカーであるプラスから、流通業として独立を果たしたのである。その足跡は、ひたすら商流・物流を構築・強化してきた歴史であるともいえよう。市中の文具店を敵にせず、味方に付ける「エージェント(代理店)制度」や、「明日来る」を実現するために構築した巨大物流センターなどがその成果だ。
 しかし、今回の「実験用品のネット販売」は、「アスクルが自社倉庫から配送するのではなく、メーカーから直接届けるしくみとする」という。理由は、「在庫リスクを避けるほか、少量多品種の注文が多いと見ているため」だ。記事にはサラリと書いてあるが、それはアスクルのバリューチェーンを一部組み替えることを意味しており、大きな変化だ。それを、わずか全体の売上から見れば1%未満の事業のために行おうとしているのである。

 同社の真の狙いは、価格競争に巻き込まれない領域に「いち早く参入し顧客を囲い込み、さらに企業や研究機関への営業体制を強化して収益の柱に育てる」ことにあると記事にある。
 20年以上前に「ブルースカイ委員会」が見つけた「ブルーオーシャン」は、後発の追い上げも激しく、すっかり価格競争の激しい血まみれの「レッドオーシャン」になってしまった。そのため、今は「オーシャン」どころか、小さな水たまりか池ぐらいの大きさしかない業界に自社のバリューチェーンを一部変更してでも参入し、FMA(First Movere’s Advantage=先行優位)を構築しようとしているのだ。
 せっかく構築した自社のしくみ、強みに固執して目の前のチャンスを見送ってしまうという例は様々な企業で散見される。アスクルが「実験用品」という小さな池でどのように泳ぎ、成長させていくのだろうか。

 同日の日経にもう1つ注目したい記事がある。「電動バイクを給油所で販売 伊藤忠エネクス」。

 伊藤忠系のガソリンスタンドを通じ、台湾製の電動バイク(バイクといっても、写真を見ると小型スクーターの大きさだ)を来年3月までに700店で取り扱い、初年度に2000台の販売を目指すとある。
 パン屋さんはパンを売る。スタバはコーヒーを売る。そして、ガソリンスタンドはガソリンを売るのが仕事だ。基本は。しかし、電動バイクはガソリンではなく、電気で動く。本来はそんなモノを売っても商売にはならない。

 筆者は四半世紀も前にガソリンスタンド関連の業務に携わったことがあるが、その頃からテーマは「油外強化」だった。つまり、「低収益なガソリン販売以外を強化すること」である。具体的には整備、洗車、タイヤ交換などである。四半世紀の間に自動車の燃費性能はどんどん向上し、顧客の来店頻度は低下した。若年層をはじめとして「クルマ離れ」も進んで顧客数も減少。まさにジリ貧である。そこに、ガソリンを使わない電気自動車(EV)という新たな脅威が襲来してきたのだ。

 脅威は見方を変えれば機会になる。「ピンチをチャンスに!」というヤツだ。みんながガソリンを必要としないなら、売らなければいい。しかし、車が走り続けるために必要なメンテナンスや消耗品の販売にビジネスを転換すればいい。そのための格好の練習台が「電動バイク」なのだ。
 記事には同社の狙いが述べられている。「電気自動車(EV)の普及をにらみ、整備や充電の支援のノウハウも蓄積し、ガソリンなどの燃料販売以外の収益源を広げる」とある。
 環境の変化に対して既存のビジネスのしくみにとらわれることなく、自社のビジネスモデルを切り替えていく。その重要性を示唆してくれている。

 筆者の座右の銘は、読み人知らずであるが、「今日は昨日の続きでも、明日は今日の続きではない」だ。今回のアスクルと、伊藤忠系列の取り組みは、今日と異なる明日を切り開くための展開であることは間違いない。その成果に期待したい。

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2011.05.10

親子で2倍?!QBハウスの新戦略!

 「お散歩感覚“10分間の身だしなみ”」がキャッチフレーズの1000円理容室、「QBハウス」がJR東日本と組んで、親子連れを狙った新店舗の展開をはじめた。その戦略を読み解こう。

 5月10日付日経新聞に「家族連れ向けの理容店 キュービーネット」という記事が掲載された。キュービーネットはQBハウスの運営会社である。記事によれば、「店名はIKKA(イッカ)“で、1号店をJR東日本系の駅ビル“イーサイト籠原”(埼玉県熊谷市)に開いた」とある。店名も違えば、店舗内の設計も従来のQBハウスの店舗とは全く異なるようだ。「小さな子どもが親と一緒にカットを受けられるように座席の間に間仕切りを設け、レンガ風の壁面など内装も一新する」とある。変わらないのは「料金はQBハウスと同様に一律1000円に設定。洗髪や顔ぞりのサービスは省く」というところだ。

 ちょっと考えれば、「親子」というセットを狙えばオイシイことはわかる。「売上=客数×客単価」だからだ。特にQBハウスの場合客単価が1000円に固定されているが故に、客数をいかに増すかが売上アップのキモである。親子なら一度に二人。2倍だ。狙いは「親が子どもを連れてくる」というパターンだけではない。「子どもが親を連れてくる」というパターンも考えられる。特に小学校入学前ぐらいの子どもは、母親が家庭でカットしているケースも多い。それが「1000円ぽっきり」だとすれば、「お父さん連れてってちょうだい!」と省力化を図ろうとすることも大いに考えられる。父親は他の店でカットしていたかもしれないが、子どもがきっかけで利用するようになるのだ。

 「客数」に関係する変数は「来店頻度」である。
 「親子」の場合、父親の来店頻度向上にも寄与する。QBハウスの来店客を観察してみると、2つの種類に大別されると思われる。「お散歩感覚」のキャッチフレーズどおり、こまめにカットに通うタイプと、かなり髪が伸びるまで放置しておいてバッサリ切るタイプだ。一方、子どもは「髪の毛伸び放題」という風情はあまりいないだろう。小学生ともなれば、「衛生検査」で「前髪が長すぎ!」とか怒られてしまう。(←最近はそんなのない?)故に、こまめに手入れをする。子どものカットのタイミングに合わせて父親もカットするようになり、来店頻度が向上するのだ。

「客数」に関係するもう1つの変数が「リピート率」である。
 働きに出ている父親は、仕事の空き時間や通勤の帰りなどにカットをする機会がある。昨今ではQBハウス系列店だけでなく、「1000円カット」の競合も乱立傾向にある。そんな環境の中で、「子どもと一緒」にカットするのか習慣化すれば、他店にスイッチする可能性を低減できる。高リピート率な優良顧客化できるのである。

 いいことずくめに思える「親子で一緒にカットの店」だが、どこでも成立するというワケではない。まずは、低年齢人口が多く、住宅地と商業施設などとの利便性が高いという立地が求められる。どちらかというと都市型のQBハウスがJR東と組んだのは、郊外の駅ビルという、その条件をクリアする物件を多数所有しているからだろう。
 条件は立地だけではない。「親子で一緒」を実現するには、「親子が同時にカットをスタートして、終了すること」が求められる。QBハウスのスタイルは、所要時間は10分と決まっているので、同時終了は間違いない。では、同時スタートはといえば、QBハウスは理容師の指名なしなので、これも可能なのだ。前の客が終わったら、手が空いた理容師に呼ばれてカットを受ける。一見、機械的に見える方式が、「親子一緒、同時スタート・終了」には実に都合がいいのである。

 2010年4月11日付日経MJ・3面コラム「底流を読む」にQBハウスの事例が掲載され、以下のような記述があった。「理美容の業界には“10分1000円の法則”がある。10分あたりの料金設定の目安であり、このラインを下回ればそれだけ価格競争が激しいことになる」。ジャスト10分・1000円の価格設定は、実は業界の標準価格であり、「旧来の理容店がシャンプー、ひげそり、それに軽妙な会話までをパッケージで売っていたものを、QBハウスはカットだけ売ることにした」ことがQBハウスの成功の方程式なのだ。それをさらに「売上」を要素分解し、「客数」を増し、さらに「来店頻度」と「リピート率」を高めるため、新業態「IKKA(イッカ)」をJRと組んで展開したというのが今回の戦略のキモなのだ。

「売上を上げよう!」「利益を高めよう!」というかけ声だけでは何も改善しない。具体的に高めるべき変数は何なのかを「要素分解」して、具体策を考えていくのが肝要なのである。

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2011.05.09

対メガマック?ケンタッキーはナゼ「肉食女子」を狙うのか?

 5月12日、胸肉1枚をまるまる使ったというボリューム満点のチキンサンドを、綾瀬はるかが豪快にかぶりつくCMがオンエアされ、新商品発売もスタートする。その名もケンタッキーフライドチキン「ローストチキンサンド」(←意外とネーミングはフツーだ・・・)。狙うは「肉食女子」だという。その戦略の背景を考察してみよう。

■綾瀬はるかさんがKFCの新作サンドのTVCMに登場!!迫力の一枚肉にかぶりつきます!(同社ニュースリリース)
 http://japan.kfc.co.jp/news/news110509kfc.html

 実は、迫力満点のメニューが登場するのはケンタッキーだけではない。13日には、マクドナルドから2年半の沈黙を破って「メガマック」が6月上旬まで期間限定発売される。米国からの黒船メニュー、「クォーターパウンダー」や、ビーフパティを同じくする「ビッグアメリカ」シリーズの陰に隠れ人々の記憶からも消え去ったかに思われたが、パティ4枚を挟んだ迫力満点の勇姿で帰ってくるのだ。

 パティ4枚の「メガマック」 対 胸肉まるまる1枚の「ローストチキンサンド」。胸躍るようなガッツリ頂上対決に思えるが、上記ニュースリリースにあるように、ケンタッキーフライドチキン(KFC)は「昨今急増の肉食女子にもオススメのサンドです」と、メインターゲットを女性にしている。

 KFCは目下、日本マクドナルドとの「チキン戦争」の戦時下にある。コトの起こりは日本マクドナルドの原田社長の発言からだ。
 2010年6月20日のチキンメニュー製品発表会での発言。「チキン市場3950億円のうち、マクドナルドは640億円。すでに16.3%のトップシェアを持っているが、まだマクドナルド=チキンという認知がされていない層がある。」(J-CASTニュース 6月20日)
 名実共に不動のチキン1位を目指して開始されたマクドナルドの侵攻は、CM大攻勢と店頭での試食キャンペーン、メニューの連続投下によって、主力の「アイコンチキン」がすっかり定着した。
 守勢に廻ったKFCはコロンブスのタマゴとして、社名にあるまじき(?)「揚げないチキン」で反転攻勢をかけた。7月8日から「オーブンローストチキン」というノンフライのメニューを開始したのだ。新メニューは従来店舗と異なる新型店舗で提供される。店舗の什器・装飾などや、サラダなどのサイドメニューを充実させ女性にアピールする店舗である。新型店は3年で100店舗という方針が打ち出されているが、今回は「ローストチキンサンド」という1メニューを切り出して全国販売したと解釈できるだろう。

 メニューのボリューム感だけを見ると、「メガマック」 対 「ローストチキンサンド」という構図が思い浮かぶが、KFCはターゲットを明確にして直接競合を回避していると考えられる。

 理由は2つだ。1つは強大なるコストリーダーであるマクドナルドの「全方位戦略」と競って無用な消耗戦を避けるため。全面対決をするのであれば、CMも綾瀬はるかの起用ではなく、男女セットだったり、老若男女を取り混ぜた人物だったりを登場させただろう。実際、チキンメニューの攻勢に際しては、CMには中年男性の鶴瓶を起用しつつ、女子学生との会話のシーンで構成するなど、オールターゲットへの訴求をしている。オールターゲットへの浸透を図るには、CMの投下量も大量にならざるを得ず、コストも膨らむ。
 もう1つの理由は、ターゲットをキッチリ絞ってそのターゲットに確実に販売するためだ。「ローストチキンサンド」をリリースの要素から分解して考えてみると、「胸肉1枚、レタス、スライストマト、グラハム粉と粗挽きのバンズ」となる。セットならこれにポテトとドリンクだ。それらを別々に盛りつければ、「チキンソテーと付け合わせポテト・パン、サラダ、ドリンク付き」という結構普通のランチセット的メニューになることがわかる。つまり、「肉食女子」や「ガッツリ女子」という特殊な女性でなくとも食べきれるのである。ターゲットとしては、ダイエッターなどを除いてしっかりと食べたい女性を幅広く取り込むことを狙っているのだ。

 このメニューとCMでアピールしたいのは、「食べた時の満足感」と「食べることの罪悪感を打ち消すこと」だ。それはとりもなおさず、自社の弱みを払拭することでもある。
 まさに低価格競争の「チキンレース」を繰り広げている牛丼業界。それに引きずられて、外食業界全般のランチ価格がデフレ化しているのに比べてれば、KFCのセットメニューには割高感があるといえよう。そこで、「胸肉まるまる1枚」という明確さで、単品410円、セットで710円という価格の妥当性をアピールしているのである。一方、しっかり食べつつも、ヘルシーでローカロリーであってほしいのはオンナゴコロ。そこで、もともとローカロリーな「チキン」を揚げずに「ロースト」して、さらにレタス・トマトではさんだというところを訴えているのだ。従来の満足感はあるものの、食べちゃった罪悪感に悩むフライドチキンとの違いを明確化しているのである。「食べることの罪悪感」を持たずに「食べた満足感」を得たいというニーズを持っているのが最も多い層が女性であるが故に、そこに集中して「チキンシェア奪還」を効率的に、着実に行おうとしているのだ。

 強大なリーダー企業との直接競合を回避しつつ、割高と思われがちな自社の価格イメージを払拭し、ヘルシー訴求による女性層集客とういう従来の戦略を強化する。そんな狙いがバッチリとあたるのか。同商品の販売期間は6月まで。売れ行きの様子を楽しみにウォッチしてみたい。

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2011.05.06

スタバ対抗!キーコーヒーは勝てるのか?

 キーコーヒーが個人経営喫茶店を、コーヒーチェーン店に対抗できるような店舗とする支援を開始するという。その背景と勝負の行方を考えてみよう。

 5月4日付日経MJ記事に「キーコーヒー 個人喫茶店に新型店舗提案 チェーン店に対抗」という記事が掲載された。業務用豆の卸し先支援のため、「焙煎方法やメニューなどの運営方法も一緒に提案する」という。記事には店舗の写真が添えられており、「“キーズカフェ”で統一する」とある。
 記事によれば、「個人喫茶店は“スターバックスコーヒー”や“タリーズコーヒー”などの海外のコーヒーチェーンの普及で市場の縮小が続いている。キーコーヒーは業務用の卸売りが売り上げ全体の4割を占めており、収益改善に向けたテコ入れ策が急務になっている」とある。

 メーカーと販売チャネルの関係は「愛と憎しみの世界」である。チャネルはメーカーのいいなりでは生きていけない。かといって、メーカーがなければ売るモノがない。メーカーの立場にしてみれば、販売チャネルに甘い顔ばかりはしていられないが、チャネルがなければモノは売れない。互いの利害が絡み合った複雑な関係なのだ。
 しかし、コーヒー業界に関しては、販売チャネルである個人経営の店舗の弱体化が進み過ぎている。記事にあるスターバックス、タリーズコーヒー等のシアトル系カフェや、ドトール、ベローチェ等の低価格カフェは、いわゆる「垂直統合型」のビジネスモデルだ。コーヒー豆の調達→焙煎→豆の販売・コーヒーの販売というバリューチェーンを自社1社でまかなう。そこにコーヒー豆のメーカー・卸会社の入り込む余地はない。メーカーとしては何とかテコ入れしなければ、花が枯れ果ててしまったミツバチのように死んでしまう。そのため、「既に取引のある事業主が店舗をリニューアルする際や新規出店の検討時に提案する。同業態で新規に事業を始めたい人も積極的に開拓していく方針」だという。

 そもそも、個人経営の喫茶店はスターバックスが1996年にアジア進出第1号店として、銀座の百貨店・松屋の裏に出店した時に既に衰退期にあった。低価格カフェの普及によってだ。低価格カフェの戦略を3C分析的に説明するなら、当時の顧客(Customer)は、もっと気軽ってコーヒーを飲んだり小休止をしたりすることができる店を求めていた。それに対して、競合(Competitor)である旧来の個人経営喫茶店は、コーヒー1杯を500円~600円程度で、過度に(?)ふかふかなソファーと、ウエイトレスによるおしぼりの提供・受注と商品を席までデリバリーするフルサービスで提供していた。それに対し、自社(Company)である低価格カフェは、セルフサービスでコーヒー1杯150円~200円という価格で提供していた。KSF(Key Success Factor=成功のカギ)は、狭い空間に座席数を少しでも多く確保すること。コーヒーマシンで商品の提供時間を短縮すること。そして、客の滞在時間を短くし回転を早くすることだ。

 それでも、「本格的なコーヒーを飲みたい」「ゆったりと過ごしたい」というニーズを持った顧客(Customer)の存在で個人経営喫茶店は生き長らえていた。そこにとどめを刺したのが、スタバなどのシアトル系だ。市場を席巻しつつある低価格カフェを競合(Competitor)と考えれば、その特徴は価格が安いものの座席は狭く、長時間ゆったりするのではなく、主に喫煙者や男性向けの短時間の休憩場所という性格いといえる。またメニューもブレンドコーヒーと1~2種類の果汁ジュース程度に限られていた。それに対して自社(Company)のスタバは、最高級コーヒー豆の使用と豊富なメニューとコーヒーのバリエーション、高級ソファーや絵画などのオシャレな店内に加え、徹底した店員教育によるホスピタリティーを実現した。価格もセルフサービスの低価格カフェと、個人経営喫茶店の中間である300円~500円台として、旧来のカフェと喫茶店に不満を持つ非喫煙者や女性、若年層を中心に取り込んだのである。KSFは中間価格帯で高い品質の商品(コーヒー・店内空間・接客)を提供する「高価値戦略」の実現である。

 では、キーコーヒーが展開する「キーズカフェ」はスタバに対抗できるのだろうか。

 価格は(Price)はどうだろうか。「割安な大手チェーンに価格ではなく品質で勝負する」と、記事には同社のコメントが掲載されている。あくまで卸→販売という商流のため、中間マージンが発生するのでコスト勝負はできず、低価格カフェと競合するつもりはなく、あくまでシアトル系のスタバ、タリーズとの勝負である。そして、それらに対して高価格だが品質の高い「プレミアム戦略」を仕掛けるつもりであろう。
 では、プレミアム戦略の要である商品(Product)としてのコーヒーの品質、メニュー、店員のサービスはどうだろうか。記事によれば、コーヒーの品質は「全国に70あるキーコーヒーの営業所の従業員が各店舗を廻り、コーヒーの焙煎方法などを指導する」とある。メニューは「コーヒー飲料のほか、デザートやサンドイッチなどフードメニューも含め、約50品目を扱う」とある。さらに店員教育は「子会社の外食産業であるイタリアントマトが持つパート従業員教育のノウハウも提供していく」とある。キーコーヒーグループ総がかりの構えだ。
 販売拠点(Place)はどうか。「標準の売り場面積は30~50平方メートル」「最小は15平方メートル」で、「従来、個人事業主が開店できなかった駅ナカやサービスエリアなどに出せる」と同社のコメントがある。スタバも駅ナカやサービスエリアには出店済みだ。
 プロモーション(Promotion)はどうか。スタバは広告をしないポリシーで有名だ。その代わり、徹底して同社のロゴを前面に押し出して刷り込みを図る。そのブランドとしての蓄積は大きく、「キーズカフェ」の認知を高めるにはそれなりの時間がかかるだろう。

 上記のように4P(商品・価格・販売拠点・プロモーション)で、スタバとキーズカフェを比較してみたが、キモはやはりスタバに対する「プレミアム戦略」が奏功するか否かにかかっているだろう。先に旧来の個人経営喫茶店に対する低価格カフェ、低価格カフェに対するスタバを3C分析的に考えた結果のように、「明確なニーズを持った顧客の存在」がカギとなる。
 現在、市場に存在するスタバが取り込めていないニーズギャップを持った顧客とはどのような存在だろうか。
あくまで個人的な見解だが、スタバのコーヒーに慣れるとついつい忘れてしまうが、スタバのコーヒーに足りないものは「香り」ではないだろうか。筆者は趣味で神田神保町界隈の古い喫茶店に行くことがある。その中には時流に合わせて完全分煙をしている店もあり、店内に入るとコーヒーの香りにはっとする。「香りの品質」は1つのカギだと思う。
 もう1つはフードの充実ではないだろうか。スタバがフードを改訂したのは2002年のこと。味に対する不満の声も多かったことから、パン・デニッシュ類をパンのアンデルセングループから調達することとした。常にフードメニューのラインナップは入れ替え、改訂を行っているが、デニッシュが半分近くを占めるメニューは高カロリーで、健康志向やダイエットを気にする顧客には手を出しにくいように思われる。そうした、コーヒーやフードの「味」にまだまだ満足できていないターゲット層を取り込むことが必要となる。
 もう一方、ターゲットとして取り込みにくい層もある。「味」以上に、スタバの「空間」を重視し、対価を払っている層だ。キーズカフェは狭小スペースにも展開できることを個人事業主への売りとしているため、店舗のスペース効率も重要視されると思われる。パソコンを広げて1時間も2時間も過ごす快適性を求める顧客は相変わらずスタバに通うだろう。
 とすれば、KSFはズバリ「味」となる。


 「キーズカフェ」は現在、福岡県や埼玉県など3店舗で試験的に営業されており、今期中に10店舗、3年で全国50店舗の展開を予定しているという。50店舗はまだまだ、「規模の経済」が効く店舗数ではない。それだけに、キーコーヒーの全面バックアップのもと、各店舗があくまで「味勝負」で「プレミアム戦略」を実現できるかにかかっているといえるだろう。

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