新聞の外食業界ニュースから見えてくる風景
3月4日付・日経MJフードビジネス面に掲載されている大小いくつの記事。そこから共通する業界としての現状、市場の環境、そして消費者のニーズを読み取ってみよう。
■「節約疲れ」対応?・牛丼戦争の出口はここか?
うっかりすると見落としてしまいそうなたった12行のベタ記事。「角切りステーキ 松屋が定食発売」。牛めしの松屋(松屋フーズ)が7日15時から発売するのが「角切りステーキ定食」690円。肉の量が2倍の「角切りステーキW定食」990円。
「牛丼戦争」といわれる、出口の見えない安値合戦が続く業界で、松屋はここのところ立て続けに肉系の高単価メニューを投入し、Wで990円という1000円弱のプライシングで勝負をかけている。それは、ロスリーダー(目玉商品)としての牛丼で集客し、高単価定食を販売。肉増量のアップセリングを行う「勝ちパターン」。それは、景気にほんの少しだけ明るさも見え「節約疲れ」といわれる消費者の行動をすくい取る、定食のバリエーションが強みの松屋ならではの展開である。競合のすき家(ゼンショー)も牛丼のトッピングでの100円程度のアップセリングだけでなく、定食メニューの充実に動き出している。吉野家(吉野家ホールディングス)の動きに注目である。
■脱・デフレは価値向上の提案から
牛丼業界同様、低価格戦争を脱したいのが居酒屋業界だ。「280円均一」などの低価格均一競争に業界は疲弊し、個人営業店を皮切りに、体力のないチェーンも倒れはじめた。そんな中で、「節約疲れ」を狙いつつ「価値向上」を提案する動きが見える。
「野菜メニュー拡大 モンテローザ 「笑笑」320店で6月まで」という記事。「味が濃い」「脂っこい」という居酒屋のイメージ払拭をし、女性客の取り込みを狙うという。さらに、国が推奨する1日摂取量350gの目安にするよう、料理毎に野菜量を表示する。「居酒屋で1日に必要な野菜が摂れる」というは明確な価値提案だ。同時にカロリーも表示した方がいいだろう。ネガティブ要因として出したくないかもしれないが、「脂っこい」という「購買棄却理由」の根源はカロリーだ。カロリーをあえて表示し、自己調整できるようにして支持を得た例としては、ネスレのチョコレート菓子「キットカット」がある。「購買棄却理由を払拭して、「購買理由(KBF=Key Buying Factor)」に転換していくことが、価値向上の原点である。
■ちょっと高めだけど・・・舞台はコストパフォーマンス競争に?
「節約疲れ」をすくい取ろうという動きがもう1つある。「サラダバー付きステーキ・ハンバーグ店へ転換 ファミレス各社が加速 客単価は高め」という記事。すかいらーくは「ステーキガスト」、ロイヤルホールディングスは「カウボーイ家族」への転換を進め、客単価は1000円未満から1000円台にUPを狙っているという。撤退した店舗をそのまま活用するエムグランドフードサービスの「けん」がステーキ・ハンバーグ+サラダバーという店舗形態を開発し、ファミレス業界がこぞって追随している構図だ。景気の低迷で内・中食全盛の時代でも、家庭料理と思われているハンバーグは、実は焼きムラなどができてうまく焼くのが難しいといわれ、08年頃から「煮込みハンバーグソース」が人気となった。その後、ハンバーグ専門店も次々に登場し、サラダバーも「家庭で買えば野菜が高い!」と人気になった。セントラルキッチンでの集中調理と、大量購買による仕入れの力を活かして、コストパフォーマンスを高めた業態が人気を呼んでいる構図だ。記事にもあるように、類似店が多くなることで、今後は競争が激化する。競合との差別化が課題だ。「デザートブッフェ」の充実など、メインメニュー以外の「付随機能」が勝負のしどころになってくるかもしれない。
■ハンバーガー業界での差別化はニッチ狙いで?
「ハンバーグ」ではなく、「ハンバーガー」に目を転じてみれば、そこにはマクドナルドという強大なコストリーダーが君臨している。業界2位・モスバーガー、3位・ロッテリアとの差は店舗数でも売上げでも歴然だ。そんな業界に一度撤退して再参入してくるのが「ウェンディーズ」だ。「米ウェンディーズ、日本再上陸 単品で500円超投入」という記事。高級素材を使用し、日本人の味覚に合わせて独自商品開発。今秋から5年で70店出店を目指すという。1000円超の高級バーガーは密かなブームとなっていて、個人経営の単独店も多い。15店舗の小規模チェーン展開ながら、根強い人気を誇っているハワイアンバーガーのクァアイナもメニューは1000円前後。700円~800円の価格レンジでは首都圏で37店舗を展開するバーガーキングもいる。70店舗は少ないようで、意外とハードルが高いかもしれない。旧ウェンディーズのブランドをどこまで継承しつつ、中~高価格帯のスペシャルティー・バーガーとしてのポジショニングを確立するのかがポイントだ。
■巨艦を精緻に操縦するコストリーダー
昨年、不採算店を中心に400店を超える店舗を閉鎖したマクドナルド。しかし、依然として約3200店を展開する巨艦であることは変わりない。しかし、この強大な力を持つコストリーダーは、きめ細かさこそが特徴でもある。例えばメニューは低価格、中価格、高価格と各レンジに属するメニューを適度なバランスを持って販促をかけたり、チキンメニューの強化を図りつつ、その集客のために無料コーヒーを展開したりと、愚直に「売上げ=客数×客単価」の最大化を図っている。
そんなマクドナルドのきめ細かさを示す記事。「デザートにマックフルーリー 190円に値下げ・小型化」。300円を35%減量し190円にしたという。マクドナルドはクーポン販促や100円マックなどで「安売り」のイメージを持つ人もいるが、現・原田社長が就任してから単純な値下げは1度として行っていない。今回の値下げも、サイドメニューとしてのクロスセリング(もう1品購入)率向上と、子どものおやつという新たなターゲット、ポジショニング拡大をねらっているのである。
■「もう1品」は並べただけでは売れない!
「注文後に仕上げ ケーキの新商品 ドトール」。ドトールが注文を受けてからブルーベリーソースをかけて仕上げる「ニューヨークチーズケーキブルーベリーソース」をドトールの1120店で展開するという。昨年12月の期間限定販売好評を受けて本格展開という運びになったようだ。カフェにスイーツが当り前に置いてある昨今、従来の作り置きしただけの商品では顧客は魅力を感じず、「もう1品」と手を伸ばすKBF(購買理由)になり得ないということだ。
日経MJの記事を眺めて見えてきたことは、薄明かりの見え始めた景気のなか、フードビジネスも必死で需要を増そうとしている姿だ。厳しい業界ほど、生き残りに知恵を絞る。特に、日本という縮小市場では、従来のように「消費者」という一律、大括りのターゲットでは売れない。支持を得られない。どこの、誰がどんなニーズを持っているのか。細分化し、そのKBFになる提案をし、ポジショニングを明確にすること。その実現に向けたしくみを組み上げることが生き残りの条件だということを示している。他業態も学ぶところは大きい。
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