新商品は誰がために?「生茶」と「エステー」の挑戦
3月1日付・日本経済新聞消費面「New Face」欄に並んで掲載された2つの商品。そこから、企業のどんなメッセージが読み取れるだろうか。
1つめの商品はキリンビバレッジの「生茶ザ・スパークリング」。同社のニュースリリースによれば、「新芽のみずみずしさを微発泡で楽しむ」というコンセプト。「みずみずしい味覚と微発泡の爽やかな刺激は、1日を有意義に使うために朝を充実させようという方にぴったりなおいしさ」というターゲティングとポジショニングの設定がなされているようだ。
そもそも、飲料業界の昨今のトレンドはどうなっているのだろうか。
業界の概観としては、09年頃から長引いた不景気の影響で、家庭で浄水を使用したり、茶葉を自分で淹れたりという消費者行動が顕著になってミネラルウォーターや茶系飲料が低迷する一方、炭酸飲料は「カロリー・糖質ゼロ」が開発され、健康志向を背景に需要上昇した。また、飲用目的は止渇や空腹、暑さ対応という身体的欲求が減少し、「リフレッシュ」「リラックス」が伸長。それに用いられるコーヒー、炭酸、紅茶という根強い人気の飲料が目立つ状況である。(楽天リサーチ調べ)
では、「生茶ザ・スパークリング」はどのような狙いで上市されたのだろうか。
茶系飲料で炭酸といえば、花王の「ヘルシア・スパークリング」が思い出されるが、同商品はどうにも苦い「ヘルシア」や、スポーツ飲料風でもどうしても残るカテキンの苦みを、炭酸とクエン酸の絶妙な配合によって飲みやすくしたトクホ飲料である。狙いは「苦くて飲みにくい味をガマンしてまでトクホを飲みたくない、ダイエットのライトユーザー」である。「お茶+炭酸」という今回の商品とはターゲティングとポジショニングが異なる。
リリースでは「朝を充実させようという方にぴったりなおいしさ」とあるが、確かに緑茶は朝に飲まれることも多いが、コンビニでは昼食(弁当)との併買が多い。一方、炭酸は主に午後のブレイクにリフレッシュ目的で飲用される。(同・楽天リサーチ調べ)。少々、ターゲティングとポジショニングの整合性に疑問が残る。また、昨今のコンビニを見れば顕著なように、カロリー0の流行は既に盛りを過ぎており、棚で生き残っているのはコーラ系以外「CCレモン」など1~数商品程度。低カロリーももはや「当り前」になっており、差別化要因にはなりにくい。
ところが、「生茶ザ・スパークリング」に関してTwitterでツイートしたところ、フォロアーの反応が非常に高かった。「緑茶+炭酸」は「どんな味なんだろう?」と、消費者の関心を惹きつける力があるのだ。
消費者の反応がいい商品は、まず、誰にとってうれしいか。それは、流通チャネルだ。並べた商品をまず、手に取ってもらわなければ始まらない。店頭を活性化したいというコンビニエンスストアの本部、及び店舗オーナーは話題になる商品にはまず、棚を確保する。そして、それが派生商品なら、本体商品の棚を確実に確保しておく。棚の取り合い、生き残り合戦が激しい飲料業界においては戦いの定石ともいうべき「新商品展開」である。
日本経済新聞に掲載されたもう1つの商品が、エステーの「天然ハーブの自動でシュパッと虫よけ」。商品の特徴としては、電池式で60日効果持続。「玄関などに置き、外からの虫の侵入を防ぐ」「殺虫剤成分の代わりに虫が嫌がる天然ハーブ」を使用したという。「エステーの虫除けって、“衣類に付く虫”じゃなかった?」と思った人は鋭い。エステーとフマキラーのコラボ商品である。エステーの芳香剤自動噴霧の技術+フマキラーの虫よけ剤の技術を用いた商品である。
ポイントは消費者の「購買棄却理由の払拭」を徹底している点だ。
従来のコンセント式でも60日以上の持続は可能であったが、常に電気を付けっ放しするのは抵抗感がある。しかし、付けたり消したりはめんどくさい。また、玄関にはちょうどいい所にコンセントがない場合も多い。フマキラーの虫除けにも電池式はあるが、常に通電状態で継続使用には向かない。そこでエステーの芳香剤に用いられている30分間隔自動噴霧だ。家の印象を左右する玄関に殺虫剤の匂いが漂う抵抗感も、ハーブの使用で払拭している。資本業務提携した両社初のコラボ商品としては、かなりの高得点だといえるだろう。
新商品は消費者に向けてだけ上市されるのではない。市場のステークホルダーやDMU(Decision Making Unit:購買決定関与者)への働きかけも大きな目的となる。キリンビバレッジ「生茶ザ・スパークリング」は、とにかく目新しさをチャネルにアピールし、棚を確保する。フマキラー+エステーの「天然ハーブの自動でシュパッと虫よけ」は、資本提携効果を端的に株主に示すことが目的だ。
商品(モノ)は単なる対価を得るための道具ではない。モノを通じてどのようなメッセージを、誰に届けて、どのように動かすべきなのかを精緻に設計することが欠かせないのである。
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