「ターゲットニーズ」を見極めろ!異色のプロモーションに学ぶ
バレエ公演会場でスポーツサプリメントドリンクの配布。異色のプロモーションが3月4日、東京・芝公園のメルパルクホールで行われた。その背景と効果のほどは・・・?
■ハードなスポーツとよく似たバレエ?
サンプリングが行われたのは、篠原聖一 バレエ・リサイタル DANCE for Life 2011。演目はロマンティック・バレエの代表作「ジゼル」。観客は時間前に押し寄せ、時間を前倒しで開場したロビーには人があふれた。バレエダンサーだと思われるすらりと手足の長い女性、子どもをバレエ教室に通わせているような家族連れ、昨今流行りの「大人のバレエ」を趣味として習っていそうな20代~30代を中心とした女性たち。古くからのバレエファンという雰囲気の老婦人。そんな客層を目の前にして、サンプル提供元である江崎グリコの担当者は、「いつもと違うターゲット層に興味がより高まった」という。
協賛したのは江崎グリコが販売している「パワープロダクション」ブランド。サプリメントやドリンク、プロテインなどの商品をフルラインナップで取りそろえている。サポートしているアスリートは清水エスパルス、全日本プロレス武藤敬司、ビーチバレー浦田聖子など、そうそうたる面々が名を連ねる。担当者自らも100㎞を駆け競い合う「ウルトラマラソン」のアスリートである。
「動きを見ていて出演者の方々の日頃の練習を想定すると、サプリメントが必要だと強く感じた」とサンプル配布を行う幕間までの第1幕を観た感想を担当者は語った。
「芸術」ではあるが、バレエは「体育会系」である。その世界のトップアスリートともいうべきプロのダンサーは日々のハードな稽古に耐え、何度もリハーサルを繰り返し、本番では2時間を超える時間を踊り抜く。江崎グリコはそんなダンサーたちをサポートしようと、今回の公演出演者に事前にサプリメントドリンク「CCD」をリハーサルから配布していた。高エネルギーであるにもかかわらずハイポトニック(高吸収)なので、動きながらの補給にも適している。アスリートだけでなくダンサーにも最適なのだ。
趣味の世界でバレエを踊るファンにとっても、カラダのメンテナンスは重要である。しかし、スポーツ用であるパワープロダクションとの接点はもちろんのこと、多くのバレエファンは、スポーツ競技者の間では当たり前になっているサプリメントでのサポートという認識が乏しい。それを埋めるための狙いがサンプリングにあるのだ。
■バレエ界の悩み
「このままではいけないと、誰もが思っているのだけれど、誰も解決策を知らない」。
日本バレエ界を牽引する振付家・プリンシパルダンサー、篠原聖一はかつて悩みを打ち明けた。
きらびやかに感じられるバレエの公演。しかし、その実態は多くが赤字だ。文化庁などの助成金などもあるが、それは赤字の半分を補填してくれるに過ぎない。かつてはメセナ、昨今ではCSRなどの名目で行われていた企業からの協賛も、長きにわたる不景気によって集めるのが難しくなっている。
日本全国には数多くのバレエ教室があり、その裾野の広い。しかし、それはいわば「閉じた世界」だ。教室の先生や関係者が出演しているため公演を見に行くというモチベーションの観客も多い。閉じた世界でカネがまわる。大きく拡大することはない。故に、チケットも高額になり、1万円を超えるケースも少なくない。新たな観客・ファン拡大が難しい。公演での何らかの副収入があれば赤字を埋めたり、ファンに還元したりできる。だが、現状では公演のパンフレットを販売する程度に留まっている。
■Win-win-winを目指す
閉塞感が漂うバレエ界に新たな動きを起こそうと挑戦したのが、ノイアートプロモーションの井野 美瑞希。自身もバレエダンサーの母に育てられ、バレエダンサーとなったものの怪我で断念。ビジネスの世界に入り、広告代理店勤務などを経て一昨年独立した。怪我を克服し、バレエを再び踊るようになりながら、「ダンサーと観客と企業の3者にメリットのある仕組みを作りたい」と考えたのが独立した目的だ。まさにその目論見は篠原 聖一の語った悩みを解決するのと同じ方向性を持っている。
企業は単なる寄付ではなく、実利を得なければならない時代になっている。バレエの団体やダンサーの経済状態は厳しい。一方、ファンや観客は比較的経済的に余裕のある層が多い。その3者を結びつければ、課題が解決できると見込んだのである。
■ターゲットニーズの見極め
井野の構想を実現する最初の取り組みとして目を付けたのが、江崎グリコの「パワープロダクション」とのコラボレーションだ。
「サンプルを試した出演者からは「味があっさりしていて、吸収が速く感じていい」、来場者からも「スタジオでも使いたい。グリコがバレエを応援して頂けるのは嬉しい」と
いう声が寄せられた」と、江崎グリコの担当者はサンプリングの成果を語った。
普通に考えれば、スポーツ競技とバレエの接点はないに等しい。しかし、最も重要なのは、「商品=ウォンツ」を用いる人の「ニーズ」が、「カラダを使ってより良い結果を出したい」ということに帰結するという点を見抜いたことだ。そのために、アスリートはライバルに勝つ。ダンサーは観客に魅せる。目標は違うが、より良い成績、より良い演技のためには、「まずは自らに勝つこと」である。その実現をサポートする「商品=ウォンツ」として「サプリメント」は共通していたのだ。
「今回はダンサーや趣味で踊る観客のニーズと商品を結びつけることができました。今後もバレエを観に来るファンの何らかのニーズに応えられる企業とうまくコラボレーションすることを模索していきたい」と、井野は今後の抱負を語った。
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