百貨店生き残りのキーワード?「中野マルイ」は誰を狙う?
3月7日付・日経MJに「中野マルイ」の記事が掲載された。「丸井中野店」を老朽のため2007年8月26日に閉館させ、創業の地に今年1月28日にリニューアルオープンした店舗だ。都心の店舗にも集客力は負けていないという、そのヒミツは「地域密着」のようだ。そこにこれからの百貨店の生き残り策が隠されているといえる。
百貨店業界の業績は、日本百貨店協会の統計数字が発表されるたびに暗澹たる未来を映し出しているかのように見える。きれいな売上げの右肩下がり。地区別、商品別などの切り口でも大勢は同じ。特に地方百貨店の困窮が伝わってくるが、その結果として昨今メディアが伝える閉店ニュースは枚挙にいとまがない。右肩下がりも店舗数が減っているのだからアタリマエの話である。
そんな百貨店業界の環境の中で、東京23区第1位という高い人口密度のおかげで、3㎞という狭商圏にも関わらず商圏人口は30万人を抱えているという。そして、記事の見出しには「子供から高齢者“全方位”の客照準」とある。「何とうらやましい!」と地方の百貨店は思うだろう。
店舗のコンセプト、つまり顧客に示しているポジショニングは、「ふらっと立ち寄れて楽しく過ごせるみんなのマルイ」(記事より・以下も)だという。
その工夫として、「雑貨店と菓子店を近づけ、女性客などを中心にプレゼントやついで買いに適した商品を並べた」とか、「地域に少ない分野の店の誘致も重視した」とか、「全店で最も遅いエスカレーター」が設置してあるなど老人への配慮をしたり、屋上にはビオトープなどの憩いの施設を配したりと確かに「全方位」である。多くの人が集まる恵まれた商圏に、商圏内から来店客を吸引する各種の工夫が込められている。
しかし、本当に「中野マルイ」のターゲットは「全方位」なのか?「みんなのマルイ」なのだろうか?
「中野」という地域から考えると、一つの見方ができる。
中野駅から新宿駅まで中央線快速で4分。渋谷まで山手線に乗り換えて約15分。いわゆるターミナル駅まで至便な駅である。そこには新宿エリアなら、「新宿マルイ本館」「新宿マルイカレン」「マルイカレン別館」「新宿マルイワン」「新宿マルイアネックス」「新宿マルイメン」の6店舗。渋谷エリアなら、マルイシティ渋谷」「マルイジャム渋谷」の2店舗がある。当然、競合の百貨店もひしめき合っている。・・・にも関わらず、来店客は「中野マルイ」を訪れ、買い物をしているのだ。
「中野マルイ」の来店客は、近隣に大きな売り場、豊富な品揃えの店舗があるにも関わらず、「地元の店を選んでいる客」である。もしくは、新宿や渋谷の店舗、競合店でも買い物をするが、「地元で買い物をするオケージョン(場合・とき)の客」である。
「丸井中野本店」から「中野マルイ」へ。立て替えによって変化した店舗の概要を考えると、生き残りのヒミツが見えてくる。
店舗は「地下1階地上6階建てで、直営部分の1~5階の売り場面積は約4,950平方メートルと旧本店の約半分に縮小した」という。狭い売り場面積をどのように使うのか。重要なエピソードが掲載されている。顧客の声を集めたところ、「1階靴売り場の品揃えに不満が多いと判明。隣のギフト売り場を一部縮小して靴売り場を広げる案が固まった」という。
「店が売りたいモノ」ではなく、「顧客が必要としているモノ」を売る。極めて当たり前な話だが、なかなかそこに意識を向けることは難しい。
「丸井中野店」の閉店によって、その跡地は立て替えの際に「本社関連施設を建設予定であったが、地元の陳情を受け、店舗と本社機能オフィスの複合ビル建設に計画を変更」(Wikipediaより)したという経緯があるという。「中野マルイ」に生まれ変わる過程で、日経MJの記事にあるような「地元密着を徹底」になるような「住民との対話」がベースにあるのである。
自社のポジショニングは誰が決めるのか。
もちろん、最終的には自社であり、その意思決定は経営者の責任だ。しかし、ポジショニングの基軸は「顧客の買う理由=KBF(Key Buying Factor)」、つまり「なぜ、自社を利用してくれるのか、買ってくれるのか」を考え抜いて、または対話の中から汲み取って作り上げていくのである。
タイム誌が選んだ「20世紀の3大広告人」の1人、レスター・ワンダーマンは、「主人公は商品ではなく、顧客である。(The Consumer , not the Product must be the hero.)」とその根本思想を語っている。
「中野マルイ」は、「主人公は商品ではなく、顧客」にして、「ふらっと立ち寄れて楽しく過ごせるみんなのマルイ」になったのである。
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