「洗濯男子」を狙う、ライオン&丸井のコラボ販促に学ぶ
「コラボレーション」流行りだ。そんななか、妙手を繰り出したのがライオンと丸井である。その事例から学んでみたい。
3月14日付・日経MJに「襟袖の汚れ専用洗剤 拡販、丸井と連携 ライオン 1万本プレゼント」という記事が掲載された。
ライオンの商品は「トッププレケア えりそで用」。同社ホームページによれば、「洗濯機で洗う前にエリやそで口に直接塗れば、あとは洗濯機まかせでしつこい汚れをすっきり落とす、便利で効果的な衣類の部分洗い剤です」とある。
「20~30代の男性客が多い丸井の販売網を活用」という効果をライオンは期待していると記事にあるが、商品プレゼントの条件は丸井各店と通販サイトでプライベートブランド(PB)「ビサルノ」のワイシャツ1枚と、ワイシャツ専用洗濯ネットを同時に購入することだという。
「ビサルノ」のワイシャツは形態安定素材のワイシャツなのに着心地がいいのが特徴だ。形態安定なので、クリーニングには出さない。自宅の洗濯機洗い。しかし、帰宅して風呂に入る前に、パンツや靴下などと一緒に洗濯機に放り込むという無法な振る舞いをする輩には「プレケア」はプレゼントしない。なぜなら、「プレケア」は、汚れに用いるのは洗濯の直前。放置してはいけないとホームページにある。あくまで洗濯機を回す直前に塗布して、ワイシャツ専用洗濯ネットに入れてケアするという繊細さを持った顧客がターゲットなのだ。
ターゲットイメージとしては、ファッション感度が高く、さらに服を買うだけでなく、それをケアしてきれいに着続ける喜びを知っている男性。すなわち、「洗濯男子」である。
「洗濯男子」との遭遇確率が最も高いのはどのような接点なのか。
紳士服量販店とそれに対抗するGMS(general merchandise store=大規模スーパー)で「替えパンツ付きスーツ9,800円」を「使い捨て」的に購入する層はちょっと違うだろう。また、いわゆる「高級ブランド」で全身を固めるタイプも対象外だ。そうしたブランドのワイシャツは、ほとんどが形態安定ではなくクリーニング店でのケアが前提としたものだ。
では、丸井はどうか。丸井はデザイナーブランドのショップが多いのが特徴だが、PBの「ビサルノ」も扱っている。来店客の購買行動を観察してみると、スーツやジャケットなどの重衣料はデザイナーズブランドを購入するが、シャツはPBを選ぶ人もいる。また、オフタイム用の服はブランドにこだわるが、オンタイムのスーツやワイシャツはPBを選択する人もいる。つまり、ファッション性とコストパフォーマンスのバランス感覚に優れた顧客層が多いと想定できる。
来店客の主要な年齢も20~30代。その年代は独身者や既婚者でも共働きや子どもが小さな家庭が多い。「弁当男子」「水筒男子」という「自分のことは自分でやる」というセルフメンテナンスに始まり、「イクメン(育児を率先して行う男性)」など、家事の協働という意識が高い年齢層である。「ちょっと~、ワイシャツはせめて裏表に脱がないでキチンと入れておいてね!」などと妻に言われて、洗濯機に放り込んで終わりというタイプは少ないだろう。
「プレケア」は、サンプルとはいえ、少量ボトルではなく、フルサイズ (250ml入り)の商品をそのままプレゼントする。メーカーにとってフルサイズの商品をそのままプレゼントするというのは勇気がいる。黙っていても購入するかもしれないターゲットの購買機会を自ら奪ってしまうからだ。特に「プレケア」の効果は一度使用すれば実感できるだろう。なのに、フルボトルだと、サンプルを使い切るまで買われることがなくなってしまうからだ。
機会損失を覚悟してもフルボトルをプレゼントするのは、もちろんライオンにとって、ターゲットが「手放せなくなる」まで刷り込むという効果を期待する意味合いもあるだろう。しかし、それ以上に「コラボレーション」としての意味合いが強いはずだ。
ライオンにとって、丸井とのコラボレーションはオイシイといえる。しかし、コラボレーションは双方にメリットがあるフェアな関係でなくてはならない。ありがちなのは、その名の下に、どちらか一方が果実を得てしまうことだ。
その点、ライオンは「フルボトルの提供」によって丸井に対して十分なメリットを創出しているのである。丸井の顧客、特に「洗濯男子」でもあるPB「ビサルノ」のワイシャツ購入見込み客であれば、購入を「どうしようかな・・・」と思っているところを確実に最後の一押しできる。丸井にとっての販促効果が高まるのである。
コラボレーション流行の今日、単独で行うより魅力を増すだろうという狙いや、どちらか一方でも響けばというリスク分散、はたまた販売促進費用を負担し合うコスト低減など様々な思惑が入り乱れて、枯れ木も山の賑わいといった観すら漂う。しかし、コラボレーションとは、「共同作業」であり「共同制作品」を意味する。そこで重要なのは、その原義の通り、双方がメリットを享受できる仕組みになっていることだ。
広告の巨匠の一人であるレスター・ワンダーマンの名言を紹介したい。(ワンダーマンの「売る広告」:翔泳社より)
「“なぜ私に?”に答えなさい。(Answer the Question “Why Should I?”)」
ワンダーマン氏は言う。「とかく企業は自分が売り込みたいものを、売れそうに見える相手、もしくは儲けられそうな相手に売り込もうとする。しかし、顧客は必ず、「なぜ、自分に、その商品を勧めるのか?」を尋ねてくる。自社の利益や思いだけではなく、顧客にとって利益になる商品を、合理的な理由を明確に告げた上でお勧めするべきである。もしそれができないのであれば、それは売り込むべき顧客を間違っているのだ。」
上記はコラボレーションについても同じことがいえる。どちらか一方に利益がある関係は、ターゲット顧客にとっても奇異に映る。効果的な販売促進として実施したいのであれば、共同作業を行う両者と顧客にとって益のある関係を構築することに最も留意すべきである。
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