「中古品保証」に見る真のリレーションシップ形成
節約志向が高まる中、安さを求めて中古品の購入が活況だが、一方で中古でも購入後保証サービスを重視する消費者が増えているという。そのワケを考察すると、思わぬビジネスチャンスが見えてくる。
2月2日付・日本経済新聞消費面に「中古品でも保証重視 腕時計点検・ゲーム機修理・・・ 安さに安心感プラス」という記事が掲載された。
表題の時計点検は中古ブランドショップ「銀蔵」が始めたサービスとのことであるが、入会金1,000円で3年間は点検・洗浄サービスが無料だという。さらに本格的な分解洗浄・注油も業界平均の1/3の価格で提供するため、新規客だけでなく常連客も付いているという。その他、中古ゲーム機販売の「ゲオ」はゲーム機に安価に独自の延長保証を設定。総合リサイクルの「トレジャー・ファクトリー」も各種家電に独自の延長保証を設定し、「価格面以外でのサービス強化」を図るっているという。それらの展開に対し、電通総研の研究員は「気に入った商品を長く使い続けることが結果的に節約につながると考える消費者が多い」とコメントしている。(以上、記事要約)
中古品の保証・延長保証で期待できる効果は何か。それは、顧客との「リレーションシップの構築」である。中古品の購入は安さとのトレードオフとして故障の不安がつきまとう。その不安を払拭し、使い続け、時に整備や修理という顧客接触によって一層のリレーションシップを強化していくことになるのだ。
顧客とのリレーションシップの構築。それは、「言うは易く行うは難し」の典型だ。
タイム誌が選んだ「20世紀の3代広告人」の1人、レスター・ワンダーマンは、企業と消費者がrelationshipを構築できると安易に考えることを戒めている。2000年頃に企業が先を競って導入したCRM(Customer Relationship Management=顧客関係管理)の源流ともいうべきダイレクトマーケティングの創始者が言うのだ。しかし、彼は実にわかりやすくその真意を説いている。曰く、自分はコルゲートの歯磨き粉を毎日使っているが、その商品にもメーカーにも何のリレーションシップを感じてはいない。しかし、それを用いるのは、それが自分にピッタリ(relevant)だと感じるからだ。(筆者意訳:“Being Direct・日本語版「ワンダーマンの売る広告・翔泳社」”)
中古品を購入するのはどのような心理からだろう。新品が手に入るならそれに越したことはない。しかし、それは価格的な制約がつきまとう。そこで、「中古でも十分だ」と判断する。まさに自分にとってのレレバントを感じるわけだ。しかし、一方で不安もある。そこに、販売店が独自の保証を設定してくれる。そして、整備や点検・修理を通じて企業との接触を重ねるうちに、リレーションシップを顧客は感じるようになる。レスター・ワンダーマンの説く真意もそこにある。まずは、レレバントから始め、徐々にリレーションシップを構築し、深めよということだ。
企業が顧客との関係性によって収益を得られるポイントは5つある。
まずは、何かのきっかけで商品を購入しようと思った時点だ。何らかの「ライフステージ」の変化の時点である。そこでレレバントを感じさせ、顧客化する。そして、整備や点検・修理といったサービスで顧客を囲い込みつつ、サービスの提供料で収益を得る。「アフターマーケティング」である。さらに、囲い込むことで、顧客に同種の商品を買い増しさせたり、買い換えさせたりといった働きかけをする。「アップセリング」である。また、購入した商品と関連した商品を追加購入させる「クロスセリング」を展開して、さらなる収益化を目指すのである。最終的には、レレバントを感じるレベルの関係から、顧客が企業のファンになってくれるまで関係性(リレーションシップ)を深めさせ、本来多額のコストがかかる新規顧客の獲得を、顧客による友人・知人という「顧客紹介」を実現させる。
「失われた20年」の間に市場の伸びの鈍化は恒常化し、人口縮小などによって今後、縮小に向かう。また、消費者に定着した節約志向とエコ意識は、安易な新品購入と使い捨てという文化を書き換えている。中古品販売における顧客との関係構築は、新品販売においても学ぶところが大きいだろう。
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