顧客視点のマーケティング (第4回:最終回)
初出:「バリューコンピテンシー:第29号・2010 Winter(社団法人日本バリューエンジニアリング協会)」全4回
「顧客に受入れられる“整合性”を考える」
◎「ミックス」することがキモ
最終回の今回は、具体的な施策である「マーケティングミックス」を考えよう。「マーケティングミックス」という言葉より、「4P」という言葉の方が一般にはなじみがあるかもしれない。Product(製品)・Price(価格)・Place(販路)・Promotion(コミュニケーション)の頭文字である4つのPである。あえてそれを「ミックス」というには理由がある。現実のビジネスシーンで考えてみよう。
ある日あなたは、昨今の不景気、消費者の低価格志向に対応するため、ある製品の機能を絞り込んだ新製品の設計を担当することになった。連載第1回で取り上げた「製品特性分析3層モデル」などを用いてどのような価値を維持し、どのような価値をそぎ落とそうかと検討することになる。しかし、製品の検討だけでは済まない。価値を絞り込んだ分だけ、当然原価が低下するが、既存製品より顧客から評価は下がる可能性が高い。価格(Price)改定を検討し、妥当な販売価格を設定しなければならない。製品の仕様が簡素になったのであれば、既存の販売チャネル(Place・販路)が専門店を中心としていたなら、量販店に拡大して、より数多く売ることを考えなければならない。すると、広告(Promotion)もコアなターゲットへの接触から、より多くの人の目に触れる媒体や目を惹く表現に変更する必要がある。
上記のように4Pの一つの要素だけではなく、他の要素と関連づけて考えることが「ミックス」の意味なのだ。実際の業務では「新製品」だけではなく、「価格改定」や「販路拡大・変更」、「広告・販促企画」など、4Pの一部が主要な検討課題となることが多いが、その際も「ミックス」を考慮することが欠かせない。当たり前なようだが、そのバランスを常に意識して考えることは意外と難しいのだ。
◎製品(Product)の留意点
製品の市場への浸透状況は、導入期→成長期→成熟期→衰退期という普及過程(プロダクトライフサイクル)を辿る。導入期では、顧客が製品を手に入れて実現したい「中核価値」だけでも購入してもらえる。例えばデジタルカメラで考えれば、「デジタルで画像がきれいに残せること」だ。故に、当初は画素数が競争課題の中心だった。成長期においては、中核価値は当たり前な要素となり、中核をどのように実現するかという「実体価値」が競争課題となる。デジタルカメラの例なら「薄型コンパクトな携行性のよい本体」や「高倍率なレンズのズーム比率」などである。成熟期においては、さらに中核価値とは直接関係のない「付随機能」での競争となる。デジタルカメラは今日、成熟期にあるため、「印刷機能内蔵」や「動画・静止画合成機能」などを各社がアピールする戦いとなっている。重要なポイントは、前述のように製品の普及過程によって顧客から求められる価値、競合と勝負する要素が変化することだ。「顧客をよく見て、ニーズを把握し、深掘りすること」が大切なことがここでもわかるだろう。
◎顧客に受入れられる価格を考える
自社製品の価格(Price)を設定するには、連載第2回の環境分析で述べた、3C(Company・Customer・Competitor)分析と同様の要素を考慮する。
まず、Company=自社として、コスト積み上げて価格を考える。「原価志向」の価格設定という。自社で製品の生産にかかったコスト(固定費の償却分+変動費=原価)にいくら利益を上乗せしていこうかと考える方法だ。但し、その価格が顧客にとって妥当と受け取られるとは限らない。そのため、Customer=顧客の視点でも考える。顧客視点を「需要志向」の価格設定という。「顧客がその製品にどれだけの価値を感じてくれるか」という考え方が「カスタマーバリュー(Customer value)」だ。商品は常に競合と比べられるため、Competitor=競合の視点も必要だ。「競争志向」の価格設定という。同種の製品特性を持つ競合商品がどのような価格設定をしているのかを把握しておくことも欠かせない。
生産財(B to B=Business to Business)マーケティングにおいては、「カスタマーバリュー」を上回る「テクニカルバリュー」を獲得することが求められる。あくまでカスタマーバリューは、顧客にとって顕在化したニーズに対する上限価格だ。顧客企業も気がついていないような課題を発見し、解決する提案を行うことがさらなる価値向上と対価獲得において欠かせないのである。
◎顧客ニーズと製品特性を考慮して販売チャネルを設計する
販売チャネル(Place)はマーケティングミックスの4Pの中でも、利害関係が絡む「他社」が介在する要素が大きい。それだけに慎重な設計が求められる。しかし、そこでも基本は「顧客」を起点に考えたい。
例えばパソコンはメーカー直販であれば、中間チャネルのマージンも不要で、流通在庫を気にせずBTO(Built To Order)で商品を提供できる。一方、量販店チャネルでは、自社で広告を展開することなく、チャネルに商品を流せば全国の各店舗で量販店が店頭に置いてくれて、販売員が説明して売ってくれる。両チャネルの最大の違いは、ターゲットとする顧客層とそのニーズの違いである。直販はパソコンに詳しいユーザーがターゲットであり「安価に自由にカスタマイズしたパソコンを手に入れたい」というニーズへの対応。量販店は初心者を中心としたターゲットが店頭で実物を見て、触って、販売員から説明を聞きながら買いたいというニーズに対する対応である。
生産財においては顧客のニーズ以外に製品特性を考慮したチャネル設計が重要だ。説明や提案が欠かせない製品であれば、直販やメーカー専売の販売会社などのチャネルとなり、説明不要な汎用的製品であれば、より数多くの代理店や業者向けのプロショップなどの店頭に並べて売られることになる。どのような顧客が、どのようにすれば製品理解ができるかという観点で検討すればいい。
◎顧客に買ってもらえる・買い続けてもらえるところまで設計する
「広告」「広報」「販売促進」といった顧客とのコミュニケーション戦略(Place)には、通常、営業訪問や商品デモンストレーション、サンプル配布という人が動く活動も「人的販売」という要素としてとらえる。その四つの手段で顧客に製品を認知させてから、購買行動を完結させるまで、どのように顧客接点を確保して働きかけを行うかを設計することになる。Attention(認知獲得)→Interest(興味喚起)→Desire(欲求喚起)→Action(購買行動)という四段階で考える。いかに途中でストップしないように、上記の四つの手段を組み合わせて顧客の背中を押し続けるかが肝要だ。消費財は広告や販売促進。生産財は人的販売に偏った設計が散見されるが、どの顧客接点で、どのように顧客をもう一歩購入に進めさせることができるか、何度も検討することが求められる。
以上のように、顧客を起点に4Pは検討することが重要であるが、「マーケティングミックス」という言葉の通り、4つの要素が整合していることが重要だ。同様に、4Pの手前で、前回までに述べたセグメンテーション・ターゲティング・ポジショニングや、現在の外部環境・競争環境との整合性を検証することも欠かせない。しかし、何より重要なことは自社のマーケティングを「顧客視点」でもう一度見直してみることである。
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