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2011.02.18

顧客視点のマーケティング (第3回)

初出:「バリューコンピテンシー:第28号・2010 Autumn(社団法人日本バリューエンジニアリング協会)」全4回


顧客に魅力を伝えるポジショニングが最大のキモ


◎商品の魅力をイメージさせる

 「ニンテンドーのWiiってどんな商品?」と人に説明を求めたら何と答えるだろう。「家庭用据え置き型ゲーム機で、価格は二万円で・・・」などと詳細スペックを語り出す人がいるかもしれない。しかし、続けて「どんなふうに使うの?」「誰と使うの?」と聞けば、ほとんどの人が、まず間違いなく「こうやって・・・」と手にコントローラーを持ってそれを振る様を演じ、「家族とか友達とかと一緒にやる」と答えるはずだ。「家族や友人と一緒に、体感的に遊べるゲーム機」。それが、多くの消費者の頭に刻みつけられたWiiのポジショニングである。
 ポジショニングとは、「顧客の頭の中に明確に商品の魅力をイメージさせること」である。「Wiiってどんな商品?」と聞いてみれば、同商品が多くの人に正しく魅力を伝える「ポジショニング」に成功して、国民的ゲーム機として普及したかがよくわかる。同時に、マーケティングにおけるポジショニングの重要性が理解できるだろう。


◎唯一無二のポジションを取れ

 芸人は「キャラが被った」などという言葉をよく使う。同じような芸人がいては面白くも何ともない。つまり、ポジショニングがかぶっているということが致命傷なのだ。
ドイツ製のプレミアムカーであるBMWの例を見て見よう。同社は自社のクルマを「究極のドライビング・マシン」と言っている。日本においては全ての広告のロゴマークに添えられた「駆け抜ける喜び」という言葉の方が有名だが、同義だ。BMWは単なる移動や輸送のための手段としてのクルマを売っているのではない。ひとたびハンドルを握れば、運転する者に疾走感によって喜びを与えてくれるそんな商品を売っているのであると主張しているのだ。それはBMW意外では実現することができないと言い切っている明確なポジショニングである。

◎顧客の「買う理由」を考えよ

 BMWのようにひと言で唯一無二の存在を示せるなら良いが、なかなかそれは難しい。また、人は初めて見るものは、何か比較対象がなければ判断しづらい。故に、競合商品との差別化を意識してポジショニングは検討する。前出のWiiの場合もX-Box、PS3という商品の存在との対比で魅力がより明確になっているともいえる。競合と比較して優位性を明確にするには、二つの軸を設定して整理するとよい。それを「ポジショニングマップ」という。二軸で区切られた四象限のどこにポジションを取るかで、ターゲット顧客の頭の中に明確なイメージを抱かせるのかを整理するのがポジショニングマップであり、伝わりやすさが勝負だ。ポジショニングの「わかりやすさ」のキモとなるのは何といっても「軸の設定」である。二つの軸で、顧客にとって自社の魅力がいかに競合より明確になるかを抽出するのだ。
 マップの作成には、まずターゲットのKBF(Key Buying Factor)を洗い出す。KBFとは「顧客が購入に踏み切る理由」であり、顧客が認める「価値」である。つまり、マップの軸=KBFなのである。価格、品質、大きさ、商品バリエーション、CSランキングなど……。その商品を顧客が「買う理由」=KBFとなる要素を余すところなく洗い出すことが肝要だ。

◎マップは一度で描けると思うな

 ポジショニングマップを用いた整理は単純に見えて意外なほどに難しい。なぜなら、顧客の「買う理由」をたった二つにまで絞り込んで競合以上の魅力を打ち出さなければならないからだ。故に、一度で描けるなどとは思わずに、何度でも軸を変えて描き直してみることが必要となる。その際に、最も心がけたいのが「顧客視点」だ。売り手の気持ちだけで書いたマップなど、顧客にとっての魅力は何度描いていても出てこない。重要なのは、顧客の立場に立って魅力を表わしていくことなのだ。場合によっては一つのマップだけで整理が付かないことがある。その場合は二つ程度のマップをつなげて意味合いを出すことも可能だ。
 例えば、携帯型オーディオプレイヤーのポジショニングマップを書くことを想定してみよう。ターゲット顧客はKBFとして、「価格が安いこと」「軽いこと」「丈夫なこと」「多機能であること」「カラーバリエーションがあること」「操作がしやすいこと」「丈夫なこと」などを挙げたとしよう。その中で、最も重要視するものから順番を付ける。KBFの一番目が「価格の安さ」、二番目が「多機能であること」であれば、各々を軸としたマップが描ける。しかし、競合となる存在をプロットしてみると、優位性が出せないことがある。つまり、「被っている」のである。その場合、ターゲット顧客の三番目以降のKBFで軸を切り替えてマップを書き直してみる。「軽量であること」「操作がしやすいこと」という軸でマップを描くと、ようやく自社の優位性が見えてくることになる。

◎顧客視点で確認してみよう

 一通りポジショニングを構築したら、大きく二つのポイントで確認をしてみることが必要だ。まず、「ターゲットは明確か」ということ。前回、セグメンテーション→ターゲティングと考えてきたが、「誰にとって魅力を訴求するのか?」が曖昧では全く意味がない。さらに、前回「ダメなターゲティング」として例示した「若年層」などというようなざっくりした定義ではなく、具体的にどのようなニーズを持ったどんな人なのかという人物像が定義されているのかが重要だ。
 次に「魅力は明確か」がポイントだ。自社ならではの提供価値をValue Propositionという。それがターゲットにとって意味のあるものとして示されているかである。それを確認するためには、軸の意味合いを言葉にしてみることである。図二のオーディオプレイヤーの場合なら、二枚のマップを連続して「携帯オーディオプレイヤー○○は、価格が安いのに機能が豊富で操作がしやすく、その上軽量(だから使いやすくて持ち運びが楽ちん)」という具合だ。ポジショニングマップは描くことに苦労するほど、その過程で「売り手の言葉」に変容しがちである。最後にポジショニングの本来の意味である「顧客の頭の中に明確に商品の魅力をイメージさせること」になっているかチェックすることが欠かせない。

◎BtoB(生産財)における留意点

 当連載は一般消費者を対象としたBtoC(Business to consumer)マーケティングを基本としているが、ここで企業顧客を対象としたBtoB(Business to Business )・生産財におけるポジショニング上の留意点を述べておく。BtoBとCの差異は様々な点があるが、ポジショニングにおいて最も大きく作用するからだ。
BtoBにおけるポジショニングはマップで整理するより、「QCD」というキーワードで表現できる。QCDとは「Quality(品質)」「Cost(価格)」「Delivery(納期)」だ。ポジショニングはその組み合わせである。例えば日本電産の永守社長は、自社のコンセプトを「確かな技術、値段は高め、しかし納期は半分」と表現している。つまり、Q=高い技術、C=高め、D=早いというポジショニングである。一般消費者のモノやサービスの購買は、自身の満足を充足させる様々な要素が絡み合う。しかし、企業の購買は自社の利益を最大化するために、シンプルにしてシビアなポジショニングの提示を求めてくるのである。


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