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2011.02.02

顧客視点のマーケティング (第1回)

初出:「バリューコンピテンシー:第26号・2010 Spring(社団法人日本バリューエンジニアリング協会)」全4回

<strong>◎生き残りのキーワードは「顧客視点」

“100年に1度”という言葉を1日1回は耳にするほどに、世の中は不景気である。世界最大手債券ファンド・米ピムコのCEOであるモハメド・エラリアンがサブプライム危機を予言した著書の中で、景気が回復しても元通りの経済水準にはならない状態を「ニューノーマル」と表現した。
 では、どの程度が「ノーマル」な状態であるのかというと、「ハーフエコノミー」という言葉が昨今、用いられるようになってきたように、「市場における需要が半分程度の規模になった経済のこと」だという。
 しかし、“ 1 0 0 年に1 度”や、サブプライム問題などを抜きにしても、日本市場は少子高齢化で確実に縮む市場だということはとうの昔にわかっていたことである。2009 年の東京モーターショーで海外勢が3社しか出展せず、今や世界有数の市場となった中国の展示会に行ってしまった事態が象徴するように、問題が顕在化しただけのことなのである。
 だが、座して死を待つわけにはいかない。縮む国内市場、ハーフがノーマルな状態になってしまった経済環境において生き残りを賭けるキーワードは、顧客視点を取り戻すことである。

◎「売る」のでは「売れない」

 顧客視点とは、特別に新しいキーワードではない。むしろ古くから言われ続けてきたことだ。ピーター・F・ドラッカーが1973年に『マネジメント─課題・責任・実践』で、顧客視点について次のように記している。

「マーケティングの理想は販売を不要にすることである。マーケティングが目指すものは、顧客を理解し、顧客に製品とサービスを合わせ、おのずから売れるようにすることである。すぐにでも買えるようにすることである」

 要するに、売る側の都合でモノを作り、意味もなくチャネルに並べ、広告をひたすら流し、無理に値引きを行う─そのような「売込み」を否定しているのである。

◎マーケティングとは「価値の交換活動」

 米国の経営学者フィリップ・コトラーは、「製品と価値を生み出して他者と交換することによって、個人や団体が必要なものやほしいものを手に入れるために利用する社会上・経営上のプロセスである」とマーケティングを定義している。
表面的には売り手と買い手が、製品(モノ・サービス)と対価を交換している。しかし、マーケティングとは単なるモノやサービスと対価の交換ではない。たとえば、最近では水道水ではなく、ペットボトル入りのミネラルウォーターを飲む人が増えている。わざわざミネラルウォーターに対価を払うのは、水道水より「おいしい」「安心」と消費者が感じているからである。
 つまり、買い手はミネラルウォーターにおいしさや安心といった「価値」を見出し、そこに対価を払っているのだ。すなわち、“マーケティングとは「価値の交換活動」”なのである。

◎「価値」を分解して捉えよう

 では、フレームワークを使ってヒット商品を分析し、「顧客にとっての価値とは何なのか」を考えていこう。 
2006年の発売以来、新築・リフォーム市場において常に指名買いで大ヒットを続けているパナソニック電工の全自動おそうじトイレ「アラウーノ」に着目したい。
 まず、トイレの価値をフィリップ・コトラーの「製品特性分析3層モデル」で考えてみる。
その製品を手に入れることで実現したい中核価値は、「用を足す」ことであり、それを実現するために求められる実体価値は「楽に用が足せる」ことと、「用を足したあとの処理が速やかにできる」ということになる。これは便器の洋式化と水洗化で、旧来の和式トイレの問題点が一気に解決された要素である。
 中核価値には直接影響を与えないものの、あるとうれしい付随機能は、足下照明や音消し音楽が流れることなどであり、高級便器で実現されている。
 アラウーノの大ヒットの要因は、本体が汚れのつきにくい樹脂製であり、市販の台所用中性洗剤をセットして使用後に水洗すれば、「自動洗浄」する点にある。中核価値である「用を足す」ためには、その前提としてトイレの清潔さを保つことが必要となり、毎日ブラシでこすらねばならない。それを「自動化する」ことは、実体価値が加わったことを意味している。
 トイレだけでなく、いわゆるコモデティー商品は、とかく中核価値とは関係のない付随機能、すなわちカラーバリエーションやデザインなどの勝負となりがちであるが、実体という欠かせない価値を提案したところに、ヒットの秘密があるといえる。

◎「不」の字を探すことがニーズへの近道

 アラウーノのヒット要因からもわかるように、顧客の持っている「理想的な状態」と、それが実現できていない「現状」とのギャップの中に、「ニーズ」が存在している。こうしたニーズを実現する対象物を「ウォンツ」という。
 単純に「ヒット商品」というウォンツを考えているだけでは、答えは見えてこない。顧客は何を実現したいのかという「ニーズ」を探すのだ。ニーズの探求には、不便・不満・不自由・不可能・不利益─といった顧客の抱える「不」の字を探すことが欠かせない。なぜなら、そこには必ずニーズが隠されているからだ。

◎まずは顕在的な「不」を解消する

 ニーズに注目すれば、顧客が購入する理由( K B F / KeyBuying Factor)にたどり着ける可能性が高い。しかし、ニーズは顕在化しておらず、潜在的な状態であることがほとんどだ。ゆえに「不」の字を探すのである。
 ミツカンが納豆事業に本格進出したのは1997年のこと。2000年には独自の技術で、納豆特有の気になる臭気だけを抑えた「金のつぶ“におわなっとう”」を発売した。「納豆は血液をサラサラにする健康食品だというが、においがどうしてもダメで食べられない」という顧客のニーズに着目したことが功を奏した。納豆ににおいは当たり前と「においの不快」という不の字を見過ごしていたなら、ヒット商品も生まれなかったことだろう。

◎購買理由と購買棄却理由

 さらにミツカンは、においという顕在的なニーズだけでなく、潜在的なニーズも探り当てた。2008年発売の「金のつぶ“ あらっ便利”」である。同社は、開発にあたり独自の調査を行い、「納豆パックのフィルムやカラシなどの小袋が開けづらかったり、開ける際に手が汚れたり、開けたあとの始末に困るなどのストレスを感じている人は9割にのぼる」という事実をつかんだ。

 すなわち、
・開けにくい=不自由
・汚れる=不潔
・ゴミが出る=不要

 という「不」の字に着目した同社は、調味料メーカーとしての技術を応用し、タレにとろみをつけ、つまんで混ぜられるようにするという、画期的な解決策を見出
したのである。
 マーケティングにおいては、「これなら買いたい」という購入理由を見つけるだけでなく、購入棄却理由にも注目する必要がある。とくに不景気で消費者の生活防衛意欲が高まると、消費者自身が知らず知らずのうちに「買わない理由」を意識していることが多いからである。たとえば納豆なら「朝食に面倒なものは食べたくないから」といった理由である。
 まずは、そのような購入棄却理由を見つけ出し、それを払拭すること、その上でさらに「身体によさそう」とか「便利そう」といった購入理由に転換させていくことが重要なのである。そのためにも、まずは「顧客をよく見ること」から始めてみていただきたい。


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