「すれ違い」を商機とせよ!
マーケティングのキモは、「未充足ニーズを発見して、充足させるしくみを作ること」でもあるが、言うは易く行うは難し。まず、発見することが難しい。そして、それが顕在化したとしても、継続的に提供するしくみ化することが難しいのだ。
ドラマの「君の名は」というタイトルを聞いて思い出す方は、それなりの年齢であるのは間違いない。初演は1952年。NHKラジオ連続放送劇として。54年に松竹で映画化され、主演女優の岸惠子のショールの巻き方「真知子巻き」が大流行した。テレビドラマ化は4度されているが、最も新しいものが91年のNHK連続テレビ小説で、ヒロイン役は鈴木京香だった。そのテーマは「すれ違い」。
第二次大戦の東京大空襲の中で知り合った名も知らぬ男女二人が、銀座・数寄屋橋で再会を誓い合いながら、運命のいたずらで何度もすれ違いを繰り返す。視聴者はその不条理さに身もだえしながら固唾をのんで見守るのだった。
1月19日付・日経MJ総合小売面の小さな記事。「有料配達、高齢者に的 京成ストア、千葉県で実験」とタイトルにある。記事によれば、食品スーパーの京成ストア(東京・葛飾)は、店舗で顧客が購入した商品を有料で自宅に配達する実験を始めたという。店員の手の空いた時に無料配送するサービスは昨今、他の中小スーパーでも行なわれているが、同社は需要の高まりに対し、サービスを拡充。外出・来店困難な高齢者のためには電話での注文・配送も行なう。
ポイントは「市に登録している60歳以上の退職者」を配達員として雇い入れたところだ。退職者の活用では、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律に定められたシルバー人材センターが各地域に1つ存在する。しかし、その内容はあくまで業務は臨時的・短期的な仕事を請負・委任の形式で実施することに限られ、長期雇用はできない。故に、直接雇用する形を取ったのだろう。<団地の中を自転車でまわるため、一度に大量の注文をこなせない。そこでサービスの対象顧客は原則高齢者に絞る>とある。無料配送サービスの場合、いくら以上の利用で配達という制約が付く場合もある。対して、有料であれば「宅配して欲しいが、そんなにたくさん必要はない」という高齢者も気兼ねなく依頼できる。また、「働きたいが、安定的に長期間働ける先がない」という働き手側の高齢者のニーズも充足できる。サービスを受けたいニーズを持つ高齢者と、サービスを提供できるウォンツ(労働力)の「すれ違い」をなくして両者を結びつけた展開である。
同日の記事にもう1つ、注目の記事がある。上記の有料宅配はきっと「君の名は」に夢中になった世代同士の「すれ違い」をなくした事例だが、こちらはそんなドラマは全く知らない世代向けだ。
7面記事「チョコのお返し『これ買って』 マガシーク、バレンタイン向け QRコードで『おねだり』」とある。20~30代女性向けの衣料品や雑貨のネット通販を手掛けるマガシークが。人気の衣料品や宝飾ブランドと組んで展開する。チョコレートのメッセージカードにQRコードを印刷し、チョコを送られた男性をホワイトデー向け商品の購入サイトに誘導するという。チョコの価格が千円台前半なのに対し、お返しギフトは10倍返しに設定されているのが恐ろしいが、10倍張り込んで外してしまうこともあるのがギフトというもの。贈る側と贈られる側の「すれ違い」を防ぐ手立てとしては有効だ。
ドラマでも実際の人生でも、人と人の「すれ違い」は悲しい。ましてや心と心のすれ違いは。しかし、「ニーズのすれ違い」がどこかに転がっていないか、世の中をつぶさに観察して、それを発見することができれば商機とすることができるはずだ。
1面にある「外食『お届け』に走る」という大きな見出しで掲載された記事。メインはマクドナルドが開始したデリバリーの話題である。マクドナルドのデリバリーも、実験的に展開した結果見えてきた「すれ違い」があったようだ。注文が多数寄せられた「職域」からの注文であったという。特に「自動車販売店の接客担当者や病院の看護師など、昼間に外出しにくい職場の人たちが何人かまとまって注文したようだ」と記事にある。マクドナルドは「顧客を増やしたい」。しかし、一部の職業の人々は「マクドナルドに行きたいけど行けない」という「すれ違い」があった。それをつないだのが宅配だったのだ。
ラジオドラマ「君の名は」の冒頭に流れるのは、「忘却とは忘れ去ることなり。忘れ得ずして忘却を誓う心の悲しさよ」というフレーズだったという。
「すれ違い探し」だけは、ビジネスチャンスの発見のためにも、日頃から忘却することなくアタマの中に入れておきたい。
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