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20 posts from January 2011

2011.01.31

「食べるラー油」の次の本命!「食べる焼肉のたれ」の狙い

 大ヒットした「桃ラー」の次を狙う商品は多いが、大本命は「食べる焼肉のたれ」ではないか。なぜならそこには、背水の陣ともいうべき背景が透けて見えるのだ。

 「桃ラー」こと「辛そうで辛くない少し辛いラー油」も桃屋の増産効果が現れてきたのか、市中のスーパーの棚でも見かけられるようになってきた。そして、「食べる調味料」ブームに乗ろうと「食べる七味」や「食べる醤油の実」など次なるヒットを狙うなか、大本命ともいうべき商品が登場しようとしている。
エバラ食品工業が「黄金の味 具だくさん」。発売は2月21日だという。

 <エバラ 「 黄金の味 具だくさん 」 新発売~ 玉ねぎとガーリックの旨味とコク 中辛 ~>(ニュースリリース)
 http://www.ebarafoods.com/company/press/2011/01/24/ir/pdf/20110124_gudakusan.pdf
 注目すべきはリリースに記されているその用いられ方だ。
 <焼いたお肉に乗せて、そのまま召し上がるのはもちろん、千切り野菜と一緒にサンチュなどに包む食べ方もおすすめです>とある。
・・・新しい。新しいが、肉を食べる量が減りそうだ。
  リリースを受けて、あるメディアでは<「焼肉の味のほとんどは肉の味じゃなくてたれの味」>であるとして、<焼肉代が節約できますよ! おめでとう!>などと記している。(1月30日live doorニュース)Twitterや掲示板でも「たれで飯三杯!」「もう、肉いらねぇな!」というような声が上がっている。

 統計局総合統計データ月報によると、2000年から2009年にかけて、牛肉年間消費量は約30%減っている。「牛肉需給表」に掲載されている2010年3月までの「推定出回り量」を見ても、上下はあるものの右肩下がりが見て取れる。その原因としては、BSE問題が大きな影を落としているといえるだろう。
 関東圏では焼肉として家庭で豚肉を焼くこともあるが、全国的には牛肉が一般的だろう。消費者の牛肉離れは、「牛肉のたれ」にとっては死活問題だ。

 お好み焼きにかける「お好みソース」の大手、「オタフクソース」は家庭のホットプレートでお好み焼きを美味しく焼く方法を広めるため、全国の小学校などをまわって「お好み教室」を開くことをミッションとする「お好み焼き課」が存在する。本体となる料理が食されなければ、消費が減少してしまうコバンザメ的な存在である調味料の生き残りの知恵である。
 「チャ~ハンの素なら・・・」というコマーシャルソングは耳に残っているだろうか。和田アキ子の歌声。永谷園。同社のWebサイトにはチャーハンの素でチャーハンを作るために使うだけでなく、餃子の具に用いるなど、様々なアレンジレシピが掲載されている。家庭でチャーハンが作られる機会を待つだけでなく、その使用機会を増すべく努力を重ねているのだ。
 「桃ラー」は家庭の冷蔵庫や調味料棚の片隅でひたすら餃子が食べられるのを待っているという境遇から、「ラー油の自立」を実現した。同様に、エバラは牛肉消費量と共に登場機会が減少する「焼肉のたれ」を肉から解放しようとしているのである。

 売上=顧客数×客単価である。「黄金の味 具だくさん」はリリースによると小売参考価格(税込)368円だという。客単価としては特別高くなるわけではない。しかし、牛肉離れしている消費者にも、肉にも依存せず単独で用いられる「食べる調味料」カテゴリーに食い込めるなら、客数は劇的に伸びる。
 売上げを左右するもう一つの要素は購買頻度だ。購買頻度など、顧客の購買行動をもとに顧客価値を計る指標として、通信販売会社などを中心に用いられている「RFM分析」という手法がある。R(recency=最新購買日):最近いつ購入したか、F(frequency=累計購買回数):どのくらいの頻度で買っているか、M(monetary=累計購買金額):いくら使っているかだ。
 焼肉のたれを購買する顧客を一人一人管理することはあり得ないが、この新商品のもたらす効果がどのようなものであるかRFMで考えることができる。焼肉に依存せず、単独で様々な食材に用いられ、「白いごはんのおかず」にもなるとすれば、食卓での登場機会はます。容量130gだというから、あっという間に1びん使い切ってしまう。RとFは極めて高くなる。その味にはまって買い増しすれば、Mも増すこととなる。極めて優良な顧客を大量に作り出すことができるのだ。

 減少する使用機会のなか、待っているだけでは生き残ることはできない。「黄金の味 具だくさん」の牛肉に対する下克上的な立場の転換、もしくは独立は、「桃ラー」の後を狙う存在という以上に見習うべきところがあるだろう。


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2011.01.28

「ラーメン女子」と「カップ焼きそばガール」を狙うワケ

 ラーメン店に女性客が増えているようだ。その現象を取り上げた日本経済新聞は1月28日の記事で「ラーメン女子」と名付けている。「男の牙城」であったはずのラーメン店に「女子」を呼び込むのは、いかなる戦略なのだろうか。

 山に釣り場にと、昨今、男の世界に進出する女性の勢いは凄まじい。1月28日付・日経経済新聞・消費面に掲載された記事のタイトルは“「ラーメン女子」増殖中”。日経の記者も男の牙城にひしひしと迫り寄る脅威を感じての表現だろうか。
 <「脂っこい」「ベタベタする」といった女性に敬遠されがちなイメージを払拭>と記事にあり、<具材に野菜をたっぷり使ったり、内装を明るいイメージにしたりと店作りを工夫>と女子が進出している店舗の特徴を挙げている。そこには、我ら男がラーメンどんぶりの中のスープ、ひとすすりの麺に人生を重ね合わせるような風情は感じられない。
 記事に出ているメニューは「野菜たっぷりしょうがラーメン」。<冷え性のが多い女性に訴求するため、スープにしょうがを溶かし込んだ>という。そのおかげで店の女性客比率は40%に達しているとある。

 どこのチェーンかと思って記事を読み進めて驚く。<喜多方ラーメンの「坂内」など55店を運営する麺食>とある。会津盆地の風土に育まれた多加水平打ち麺を特徴とする喜多方ラーメンの坂内といえば、肉々しくもこれでもか!とばかりにてんこ盛りにされている焼き豚が特徴だ。まさに肉食獣の食べるラーメン。健康だの、栄養バランスだのとは無縁の男の世界である。(参考:http://www.mensyoku.co.jp/menu1.htm )それが「野菜たっぷり」である。なんという草食化。野菜たっぷりは、リンガーハットの「野菜たっぷりちゃんぽん」で十分ではないか。

 女性狙いはラーメン店だけではない。男の大盛りガッツリ食品の一角を成す「カップ焼きそば」も女性の取り込みを図る新商品を繰り出した。エースコック「JANJAN たらこ焼そば」。
 ニュースリリース( http://www.acecook.co.jp/news/pdf/1102janbj.pdf )によれば、<パスタやおにぎりのメニューで広く受け入れられている「たらこ」に注目し新商品開発を行ないました。醤油を麺に練り込み、ソースは醤油をベースにチキンや魚介の旨みを効かせたあっさりしながらもコクのある仕上がりになり、後がけのたらマヨふりかけが絶妙にマッチする味わいです>とある。
 カップ焼きそばといえば、添付のソースをかけ、申し訳程度に入っている具材のキャベツを大事にしながら大ボリュームの麺に挑む食べ物だ。これまた男の世界。それが、「タラコ」だ。リリースにあるとおり、「タラコはスパゲッティーだろう」と突っ込みたくなる。

 ターゲットを拡大するとどうなるのか。
 最も懸念されるのは、既存顧客層の離反だ。「女子供の来る店にいけるか!」とか、「これは男の食いもんじゃねぇ!」とかである。
 それは、ラーメンやカップ焼きそばという商品、男性というターゲットに限ったことではない。高級志向の店が低価格商品を扱って従来と違う顧客層が押しかけた場合などを考えれば、既存顧客が離れていくことは想像に難くないだろう。そのリスク冒しても坂内とエースコックは女性客を開拓しようとしているのだろうか。

 エースコックには明確な戦略があった。
 カップ焼きそばの3強といえば、「ぺヤングソース焼きそば」「日清UFO」「明星一平ちゃん」だ。つまり、エースコックは3強の一角に食い込むことを狙うチャレンジャーである。「JANJAN 」はリリースにある通り、<新たなユーザー層(若年層、女性層、ライトユーザー)の獲得>を狙った商品である。そもそものきっかけは、同社ホームページの開発ストーリーにある「10~20代の食用率の低下」だ。ユーザーのニーズに応え大容量化の一途をたどったカップ焼きそば。その反面、リリースにあるように<従来のカップ焼そば容器(筆者注:四角または丸い平型容器)に対するニーズギャップ>があったという。持ちにくい・食べにくい、ガッツリ大盛りすぎて人から見られると恥ずかしいというものだ。
 チャレンジャー故、恐れることなく既存ユーザーの慣れ親しんだ容器の形状を改良するという冒険に打って出た。そして、最大の商品特徴である<「ハンディでスマートに食べられるタテ型パッケージ」>を実現し、<「ながら食べ」や「食のライト化」という近年の食トレンドにマッチ>させることで、新たなユーザー層を獲得し、大ヒットしたのである。
 若年層の新たなユーザーを獲得した。その中で、特に女性ユーザー、「カップ焼きそばガール」を獲得しようと、スパゲッティーのような「たらこ味」というさらなるチャレンジに出たわけだ。

 では、「ラーメン女子」を狙う坂内の戦略はどうなのか。実は同社の「女子狙い」には、「その前」がある。
 記事では触れられていないが、同社は来店客の「高齢化」が顕著であったという。2010年5月24日付・日経MJフードビジネス欄に「喜多方ラーメン 若者客開拓へ新型店」の見出しで記事が掲載されていた。同記事によると客層は<他のラーメン店より高齢者が多く、30~40代が4分の3を占め、10~20代は2割にとどまる>という。
 2008年のメタボ検診法制化以降、中高年にとってカロリーの取りすぎはタブーだ。ガッツリ系を避けるようになる。自社のメイン顧客をつなぎとめようと思えば、味はそのままにボリュームを押さえる方向性に走ることになる。しかしそれは、2005年ごろからブーム化し定着した「大盛りメニュー」の台頭という流れに反することになる。
 同社はまずは、<メニュー、量、内装の見直しで若者の来店を促し、客層を広げる>(同日経MJ)改定をした。確かにその後、同社の新規出店した店舗や既存店でもランチ時には若年層の姿が目に付くようになった。
 若年層を取り込んだ。次は女性を取り込もうという戦略をカタチにしたのが「野菜たっぷりしょうがラーメン」なのだ。同メニューは、まずは新宿パークタワー店限定だというから、実験段階ということだろう。

 顧客も歳を取る。少子高齢化が進む日本市場。従来のユーザーだけを相手にしていたのでは、櫛の歯がこぼれるようにぽろぽろと消え去っていく顧客の背を手をこまねいて見送るだけになってしまう。また、既存顧客のニーズにだけに合わせていると、徐々に自社本来の独自性や、世の中の流れと乖離してしまう。その商品カテゴリーにおいて「アタリマエ」になっていることを疑わずにいると、新たな成長のチャンスを見失うことになる。
 既存顧客を大切にしつつ、ターゲットの拡張、新たなポジショニングの獲得という「命がけのジャンプ」も避けて通れないのである。


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2011.01.27

街の人の視線~続々・雑誌「BIG ISSUE」の売り子にもらったもの~

 「ビッグイシュー(BIG ISSUE)」は、ホームレスの自立支援という目的のために作られている雑誌だ。1冊300円を売って、ホームレスは160円の収益を得る。簡易宿泊所の代金などを得て路上生活からの脱出を図るのだ。( http://www.bigissue.jp/about/index.html

 ある「BIG ISSUE」の売り子と顔見知りになったのは、昨年の11月のこと。このBlogで彼とのちょっとしたふれあい、心の交流のようなものをつづって今回が3回目になる。連載化を図ろうとしているのではない。彼の態度や言葉から、いつも何か忘れかけている、忘れている大切なものをもらったような気がして、それを書きとめているつもりなのだ。

 <バックナンバー>
 ・「雑誌「BIG ISSUE」の売り子にもらったもの」
 ・人の好意にどう応えるか?~続・雑誌「BIG ISSUE」の売り子にもらったもの~

 月2回発行される「BIG ISSUE」。1月の2号目の発売日からだいぶたったある日の夕方、いつもの駅前で雑誌を左手で高く掲げ、販売のアピールをした彼の姿を見つけた。
 久しぶりだった。発売日には欠かさず駅前に立つ彼の姿がここしばらく見えなかったのだ。

 私が彼を見つける以前に、彼はこちらに気がついていたようだ。遠くでニコッと笑顔をみせている。
 近づいてみると、もともと小柄な彼の姿が一回り小さくなったように感じた。
 雑誌代を手渡す前に、珍しく彼から話しかけてきた。
 「いや~、ついに風で寝込んじゃいましたよ・・・」
 インフルエンザではなかったというが、一時は体温が39度近くになり、都合10日間は寝込んだという。

 「ちょうど新刊が出る前後だったんで、何とかしようと思ったんですが、無理をすると死んでしまうんで・・・」

 日常的に「死ぬ」という言葉は比ゆ的によく使う。「仕事が多すぎて、もう死にそう」とか。
 しかし、彼の日常で「死ぬ」は、文字通り「死ぬ」なのだ。ほんの少しの差で、死が隣にあるある暮らしをしている。

 「保険証を持ってないんで、こじらす前に休む。なけなしの金をはたいて、薬局で薬を買って、とにかく寝る。本当は医者の薬、抗生物質があれば一発で治るんでしょうが、そういうわけにもいかないんで、とにかく手に入る薬を飲んで寝て治す。これしかないんですよ。で、10日もすると、たいがい手元の金も、食べるものもなくなって、それ以上休むと首をつらなきゃならないようになる頃、治るんです」。

 完治して調子がいいのか、シリアスな内容に似合わないニコニコ顔で、いつもよりよくしゃべった。
 病み上がりには見えないほど、いつも以上に身奇麗にもしている。きれいにヒゲをあたって、頬が青々としている。シャツの襟首もきれいだ。「身支度はモノを買ってもらう以上、お客に対する最低限のマナーだ」というのが彼のポリシーである。しかし、路上ではなく簡易宿泊所に泊まって身支度を整えるためにも、雑誌の販売収益を上げることは欠かせない。病床から復帰して間もない今日は、特に気合が入っているということだろうか。ちょっと見た限りではホームレスには見えない。
 
 寒い故郷出身だといっていた彼だが、今回は不覚だったなどと語り、大事にしなくてはなどと私が話す。そんなやり取りの横を通る街の人々の視線が気になった。

 彼は独特の間合いで待ち行く人々に声をかける。
 「BIG ISSUE 最新号発売中です」
 大きな声で叫ぶのでなく、彼の「間」入った人に呼びかけるような、問いかけるような動作だ。私と話している間も販売の基本動作として途切れることはない。
 彼の「間」に入っても、多くの人は一瞥もくれずに通り過ぎていく。それはそれで仕方ない。私も「BIG ISSUE」のことを理解する前はそうだった。
 中にはチラリと侮蔑の色が浮かぶ眼差しを向けて通り過ぎる人もいる。確かに身奇麗にしているとはいえ、おしゃれな街の入り口の駅前広場では、いかんせん彼の姿はみすぼらしくみえる。

 そんな人々の視線を見ながら彼と会話をしていると、ふと彼が言った。
 「今回は何人ものお客さんに心配されちゃいましたよ。『発売日に姿が見えないってことは、これはきっと寝込んでいるに違いないと思った』ってね。ありがたいことですよ」。

 彼は雑誌を売って、ものを食べ、簡易宿泊所で眠り、身支度を整える。そして金をため、いつか定住できる部屋を借りて職業を探すことを夢見ている。
 無関心だったり、蔑んだりする街の人の視線の中で、「死」がすぐ近い距離にあることを意識して生きているホームレスの雑誌売りを、その名前も知らぬ人のささやかな再起をかけた夢を支え、心を通じて暖かい視線で見守っている人がこの街にも何人もいたのだ。

 この街も、この世の中も悪くないじゃん。
 久しぶりに、そんな気持ちになった。

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【連載リンク】金森努のロングセラー商品の戦略を聞く!・第3回:バスクリン

 朝日新聞社広告局が運営する「ウェブ“広告月報”」。企業トップや広告クリエーターのインタビュー、朝日新聞に掲載された広告キャンペーン事例、紙面調査の結果や海外論文紹介などのマーケティング情報が提供されています。

 同サイトで金森がインタビュアーとして、数々の「ロングセラー商品」を生み出したメーカーを直撃取材。そのヒミツを解き明かす連載です。

 連載第1回では岩波書店の編集部を訪問し「広辞苑」のヒミツを、第2回はキッコーマンのプロダクトマネージャーに迫り「丸大豆しょうゆ」のヒミツをひも解きました。
 そして今回は、昨年80周年を迎えたロングセラーでありながら製品リニューアルを行い、さらに商品名と同じ社名に変更するという大胆な改革を打ち出した「バスクリン」です。
 さて、どんなヒミツが飛び出してくるか。記事をお楽しみに!


<金森努のロングセラー商品の戦略を聞く!第3回『バスクリン』 >

 ○記事はこちらから!→ http://bit.ly/eCIB53

■バックナンバー

 ・第1回 岩波書店『広辞苑』 [2010/09/03]  → http://tinyurl.com/4g45rpv

 ・第2回 キッコーマン食品「キッコーマン 特選 丸大豆しょうゆ」 [2010/11/18]  → http://tinyurl.com/4dj28s6

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2011.01.26

携帯電話店半減のワケを読み解く:フレームワークの練習

 1月25日付・日経新聞企業総合面に2段21行の小さな記事が掲載された。「携帯電話販売店 中小の淘汰進む 昨年末2.4万店 4年で半減」と見出しにある。「まぁ、携帯業界も厳しいんだな」とか、「そういえば、小さなケータイ屋って見なくなったよなぁ」程度で終わりにしないで、「どうしてこうなった?」をもう少し深く読み解く練習台にしてみよう。そのカギはフレームワークだ。

 業界の動向は記事タイトルにあるよう状態だが、本文にもう少し詳しい情報がある。<端末出荷台数が減少したほか、スマートフォン(高機能携帯電話)の普及で詳細な商品説明ができる大手の店舗に顧客が流れ、中小の撤退が相次いだ><大きく減少したのは複数の携帯電話販売会社の端末を安価に販売する「併売店」><端末価格を1円などに大幅に割り引いて集客していたが、07年の販売方式変更で端末価格が上昇。値引き原資だった販売奨励金も減り、経営環境が厳しくなっている>とある。
 上記の記事の情報をもとに、マクロ環境を分析する「PEST」と、業界環境を分析する「5F(5つの力)」のフレームワークで考えてみよう。

 PEST分析は、社を取り巻く外部環境を、Political(政治・規制)、Economical(経済環境)、Social(社会環境)、Technological(技術的普及)という大きな4つの要素がどのように影響を及ぼすかを考えるフレームワークだ。記事の内容と、そこからの仮説で考えてみよう。

・Political=「販売方式の変更」「販売奨励金減少」は規制関連の変更に起因する。wikipediaの「インセンティブ(携帯電話)」の項目が参考になる。販売奨励金=インセンティブとは、<ユーザーを新規で獲得すると、1契約あたり一定金額が報奨金としてキャリアから支払われるので、これで端末価格の元を取ることができる>という制度だ。この制度は日本の携帯電話の短期間での普及に大きく貢献したといえる。しかし、インセンティブの原資になっているため通話料が割高になっているという弊害もあり、2007年に総務省は販売奨励金を機軸とした販売制度を変更するよう指導した。中小販売店は販売奨励金を値引き原資としつつ、狭小で簡素な店舗を少人数で運営するという「ローコスト・薄利多売」モデルであったため最も影響をこうむった。
・Economical=携帯電話販売に限った影響ではないが、2008年秋の「リーマンショック」に端を発した経済危機は消費を激しく冷やした。
・Social=経済危機によって失業率の上昇や賃金の抑制、ボーナスの減額などが起こり、消費者の節約志向が顕著になった。上記の販売奨励金廃止によって端末の価格が大幅に上昇していたため、携帯電話に関しては消費者の買い控え、機種変更期間の長期化がさらに顕著になった。
・Technological=記事にあるスマートフォンの普及は2008年7月11日から発売されたアップルのiPhoneで一気に火がついた。キャリアとしてはソフトバンク1社に絞られたため、複数のキャリアの機種を取り扱い、取引条件のよい機種などを顧客に勧て高収益化を図るという、中小の併売店ならではの収益モデルが成り立たなくなった。その後、ドコモ、auも「アンドロイド端末」を多数投入し、スマートフォン戦争ともいうべき今日に続く状態となった。少人数・ローコスト運営で収益を捻出する中小販売店は、記事にあるように複雑なスマートフォンの機能説明をするスキルのある人員を抱えることができず、販売力において大手に劣後することになった。

 上記のように、PEST分析だけでも十分、中小携帯電話販売店にとって厳しい環境であることが分かるが、「携帯電話販売業界(特に中小携帯電話販売店業界)」を5F分析で見てみると、よりその状況が明確になる。
 5F分析はその業界に働く影響要因を5つに切り分けて、どこにどのような力が作用して、収益が失われていくのかを明らかにするフレームワークだ。

・業界内の競争=販売奨励金が飛び交っていた2006年3月末の時点で既に携帯電話の普及率は75%を超えていた。日経の記事によると、その時点での販売点数は全国で4万5千店以上が営業していたというから、過当競争が進むのは明らかであった。競争は極めて激しいといえる。
・売り手の交渉力=売り手は通信キャリアであるが、キャリアも好むと好まざるにかかわらず、総務省の指導で販売奨励金を打ち切った。インセンティブがなくなるという、取引条件の厳格化は売り手側の交渉力が増していることを意味する。強い力が働いていることになる。
・買い手の交渉力=通常は買い手がどの程度、他社・他ブランドにスイッチしやすいかを考えるが、スイッチというよりは買い控えの影響が大きい。また、買い替えの、もしくは買い増しするのはスマートフォンであり、iPhoneならまずはソフトバンクの専売店で購入する人が多かった。また、その後、多数の機種が他キャリアからも発売されてからは、詳細な説明が求められる状況になった。中小の苦手なところだ。買い控えと要説明は強い力として作用する。
・新規参入の脅威=携帯販売業界、もしくは中小販売店業界に新規に参入してくる企業は少ないが、大手寡占化を強めている。販売力と資金力に劣る中小は真っ向勝負ができない。強い力として作用している。
・代替品の脅威=携帯電話店以上に販売力があるのは家電量販店だ。新規契約でも機種変更でもポイントがつくサービスもある。代替品としての力は大きい。

 以上のように、5F分析で見ると、5つの力の全てが大きな力として働き、八方ふさがりで利益がどんどん失われていく状態であることが分かる。
 中小携帯電話販売業界は、今後も淘汰が進むだろう。また、上記のような状況下で生き残りを図るためには買収・合併などで規模化して効率化をさらに進める動きも顕著になるかもしれない。
 環境は日々刻々と変化していく。そして、1つの影響要因が大きく動くと他の要因も絡み合って、大きなうねりとなっていく。その渦に巻き込まれて沈んでしまう前に、打開策を探るためにも環境分析を欠かさず、明確に状況把握を行うことが欠かせない。

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2011.01.25

防御は最大の攻撃なり?P&G・逆転の戦略

 P&Gから濃縮液体洗剤の新製品「アリエールレボ イオンジェルコート」が発表された。発売は4月上旬。花王の「アタックNeo」、ライオンの「トップNANOX」とガチンコ勝負になる。しかし、その作戦は実は奇策であるといってもいいだろう。

 日本における衣料用洗剤のトレンドは、それが用いられる洗濯機の進化と共に近年大きく変貌を遂げた。経済産業省によると、衣料用洗剤のうち液体のシェアは2003年には15%(販売金額ベース)であったが、節水型のドラム式洗濯機の普及で2009年に入って40%へと上昇。そして、2010年1~8月の累計ベースで液体洗剤がついに50%を超えた。その背景には販売数量の伸びによって規模の経済が働き、従来よりも低価格化が進んだことも普及を促進したと思われるが、現在は低価格品による価格競争ではなく機能競争となっている。

 主戦場は「濃縮液体洗剤」というカテゴリーだ。濃縮液体洗剤は従来の液体洗剤を高濃度に圧縮し、少量でも抜群の洗浄力を発揮する。繊維に残りにくく、すばやく泡切れするという特徴だ。それにより、従来すすぎを2回していた洗濯のしかたが、1回ですむようになったのである。市場の2強は花王の「アタックNeo」、ライオンの「トップNANOX」だ。前者は日経MJ2009年ヒット商品番付の前頭1枚目に選ばれ、後者はそれを追うように発売され、2010年に同じく前頭1枚目となった。
 
カテゴリーの先行者である花王の「アタックNeo」は最大限その効用を訴求した。広告のキャッチコピーは「節水・節電・節時間」。すすぎ1回で水と電気の使用量を削減できる。水道代、電気代の低減できるため財布にもやさしいがそれ以上に、すすぎ1回分の10分間という時間が短縮でき家事の負荷軽減が実現することを強調した。「機能的価値」と同時に、主婦の気持ちに訴えかける「情緒的価値」も訴求したのである。
 発売時期において後れを取ることになったライオンは、価値訴求の切り口を変えた。同様に「すすぎ1回」を訴求できる商品であったが、それよりも、花王のアタックNeoに勝るとも劣らぬという「洗浄力」を前面に出し、従来の洗剤では落としにくかったニオイの元となる皮脂汚れを繊維の中まで入り込んで落とすという機能的価値を強調した。

 大手3社の中では最後発となったP&Gは「アリエールレボ イオンジェルコート」でどう戦うのか。それは、同社のニュースリリースを見るとよくわかる。
 <P&G史上初! “食べ物汚れ*をつきにくくする”コンパクト洗剤誕生「アリエールレボ イオンジェルコート」新発売~汚れる前に、洗って防ぐ。今日からはじめよう、「予防洗い」!~> http://tinyurl.com/47j9s67

 同製品も先行2商品と同様に「すすぎ1回」を訴求できる商品である。しかし、そこはメインの訴求ポイントとしていない。<衣類の表面をコートして、汚れをつきにくくする>という。
 リリースでは、<スパゲティソースや餃子のたれなど、よくある食べ物の汚れに高い効果を発揮します>とその効用が具体的だ。<「予防洗い」と洗浄力で、食べ物汚れに高い効果を発揮する。スパゲティートマトソースの場合(P&G実験結果)>と、コーティング効果によって普通の洗剤では落ちないトマトソースの汚れが、キレイさっぱり落ちている比較写真が掲載されている。
 ランチにパスタを食べに行き、ついつい、トマトソースを注文してしまう。そんな時に限って真っ白なシャツやブラウスを着ている。食べ終わった満足感を味わった次の瞬間、服に飛び散ったオレンジ色のポチポチを発見。そんな悲しい思いをしたことがある人なら、「これはいい!」とイチコロになりそうな訴求である。トマトソースの猛攻すら簡単に排除する鉄壁の防御が「アリエールレボ イオンジェルコート」で洗えば手に入るのだ。

 鉄壁の防御を手に入れられるのは消費者だけではない。「汚れを防止し、簡単に汚れをキレイさっぱり落とす」という機能はP&G自身にとっても鉄壁の防御として機能する。
 訴求の強さはともかく、「すすぎ1回は」3商品とも実現している。加えて、ライオンは「臭いの除去」、P&Gが「汚れ防止と食べ物汚れ除去」という付加価値を増している。とすると、シェア№1でリーダー企業の花王は、「アタックNeo」をリニューアルする際に、競合商品が持っている付加価値を取り込む可能性が考えられる。優れた研究開発力で同等の機能を実現し、強大な販売力で先行する商品を覆い被するようにチャネルの棚を席巻していく。リーダー企業の常套手段、「同質化」だ。

 しかし、「コーティング」「汚れを防止し、簡単に汚れをキレイさっぱり落とす」という機能はP&Gにはできるが、花王にはできない。技術的にできないのではない。
 白いシャツをトマトソースの飛沫で汚してしまったらどうするだろうか。ああ、早く汚れを落とさなきゃ・・・と、家に帰ったらそそくさと漂白剤に浸けるだろう。「コーティング」があれば、そうした手間は不要になる。普通に洗濯すればいいだけだ。とすると、トマトソースに限らず、ひどい汚れの場合でなければ漂白剤を使わなくなる。使用量が減る。異なるカテゴリーの自社商品同士がカニバリ(共食い)を起こしてしまうのである。故に、花王は同様の機能を付加価値として取り込まない可能性が高いのである。では、P&Gはどうなのか。漂白剤を発売していないのだ。カニバリの懸念はない。

 リーダーの事業同士のカニバリ懸念を引き起こし、同質化を回避する戦略を「事業の共食い化」という。ジョンソン・エンド・ジョンソン社が奥歯までしっかり届く「リーチ歯ブラシ」を発売した。ヘッドが小さいため「奥まで届く」のである。それは消費者にとって虫歯を防げるという価値があるだけではない。競合であるライオンは歯磨き粉シェア№1であるため、歯磨き粉の消費が減ってしまうため同様の歯ブラシを作れないという「事業の共食い化」を狙ったのである。

 「攻撃は最大の防御」というが、防御を固めることでリーダー企業の動きを封じるという手もある。固定観念にとらわれることなく柔軟な発想で戦い方を考えることが重要なのである。


※参考文献:「逆転の競争戦略」(生産性出版) 山田英夫・著

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2011.01.24

文具メーカーが造花を売り、DPE店が中古時計を売る

 先が見えない時代。既存ビジネスだけで勝負するのではなく、常に新たな成長戦略を描くことが欠かせない。また、生き残りの展開を探らねばならないこともある。では、その時に何を頼りにすればいいのだろうか。

■文具大手とDPE最大手の次の一手

 文具大手のキングジムが造花レンタル事業に参入するという。キングジムといえば、いわずと知れた、「キングファイル」のメーカーだ。最近ではテキスト入力に機能を絞ったデジタルメモ機「ポメラ」が累計販売台数10万台のヒット商品となるなど、デジタル機器領域にも進出している。しかし、その次は何と、「造花」だという。
 一方、DPE(写真の現像・焼き付け・引き伸ばし)のキタムラは、中古時計の買い取り・販売を始めると発表した。キタムラはフィルムカメラの衰退と、パソコン+プリンターによるホームプリントの普及、デジタルカメラや携帯電話の記憶媒体の大容量化で、撤退や縮小が相次ぐDPE市場に踏みとどまっている最大手である。

■次なる成長領域と収益源を探して

 1月21日付・日経MJに「キングジム 造花レンタル事業参入 法人向け、多角化加速」という記事が掲載された。実に「シェア50%」と記事にある。しかし、同時に「主力のファイル市場が頭打ち」で「伸びる余地は少ない」ともある。それが多角化を展開する背景であるという。
 同日・同紙には「キタムラ、中古時計に参入 収益源を多様化」という記事も掲載された。前述の通り、縮小するDPE市場において、キタムラは持ち込まれた古い時計の査定や買い取り、販売を行ない、修理やメンテナンスも専門の会社と連携して展開する。そこにはタイトルにある通り、落ち込むDPE収益を補う収益源とする狙いがあるという。

■キングジムの勝算

 レンタル先、ターゲットはタイトルにある通り、法人。製品(Product)は受付や応接室に飾る人工観葉植物と造花。価格(Price)は購入すると1万円以上するところを、年4回入れ替え・回収作業込みで月額2,500円だという。
 人工観葉植物は手入れが楽だ。水をやり忘れて枯らすこともなく、伸びすぎた枝を切ったり落ち葉を掃除したりする手間がいらない。造花も生花と違い水替えもいらず、枯れた花を始末したり、新たに買ったりする必要もない。レンタル人工観葉植物と造花の利点は、レンタルならではの「初期費用の安さ」と、観葉植物・生花と比べた「ランニングの手間とコストの削減」という、いいとこ取りを実現できる。それがポジショニングである。
 ポジショニングが活きるのは、販路(Place)と販売促進(Promotion)においてである。販路は事務機の既存の営業先・法人チャネル。販売促進はいわゆる「人的販売」。営業部隊が製品メリットを説明・説得するのだ。
 上記のように見ていくと、「当たり前」な展開に見えるが、その当たり前な「手堅さ」こそ、キングジムの狙いなのだ。単なる造花メーカーが営業部隊を作って法人チャネルを開拓しようとすれば、極めて高いハードルを越えねばならないからだ。なぜなら、セキュリティーが厳しい今日、飛び込み営業もままならず、市場にも法人の担当者にダイレクトメールを送れるようなリストも出回っていないからだ。営業先が確保できないのである。キングジムにはその営業先がある。その資産があってこその展開なのである。

■キタムラの勝算

 キタムラはDPEだけでなくカメラの販売も行なっており、その領域では家電量販店と競合する。しかし、新品だけでなく中古カメラも扱っている点が大きく異なる。中古機に手を伸ばすのは、「安く済ませたい」というよりも、希少なカメラや新品ではとても手が出ないような高級機器を買いたいという購買動機の方が大きい。なぜならば、初心者や一般のユーザーが使用するカメラは今日では新品でも十分安い価格になっているからだ。
 記事では「中古時計は中古カメラと顧客層が重なると見られ、相乗効果が見込めると判断した」と、キタムラの勝算を挙げている。写真のコアなファンはフィルムカメラの名機に固執し、写真はプリントしてこそというこだわりを持つ。属性としては、中高年男性に多い。そうしたキタムラが抱える顧客層は、中古の機械式時計の名機にも手を伸ばすだろうという判断だ。

■まず、既存顧客を見て商機を探るということ

 キングジムとキタムラ。全く業種の違う両社の成長戦略は、どちらも既顧客を基盤として新たな商品を展開するという戦略である。
 成長戦略を考える場合、基本は商品と顧客のかけ算だ。既存の顧客に既存の商品の使用機会を増やしたり、使用用途を増やしたりするアプローチをする「市場浸透」。既存の顧客に新たな商品を使用することを促す「新商品開発」。新たな顧客に既存の商品を提供する「新市場開拓」。新たな顧客に新たな商品を提供する「多角化」の4つだ。経済学者のイゴール・アンゾフが考案した「アンゾフのマトリックス」という。
 文具・ファイルにおいては、キングジムは市場の大半を刈り取り、もはや成長余地がない。DPEにおいては市場自体が縮小して深掘りもままならない。であれば、選択肢は他の3つとなる。
 マイケル・ポーターが上記の4パターンの勝率を検証したところ、市場浸透>新商品開発>新市場開拓>多角化であったという。それはどのような意味を持つのか。
全く新規・新規で勝負をかける多角化は論外として、新たな商品を展開するにしても、既存の顧客を相手にするなら、そのニーズや購買動機を知ることは難くない。勘所も働く。一方、既存の商品を売るにしても、顧客のことがわからなければどう売っていいかは迷う。外しもする。その差だ。

 新たな成長戦略を描こうとしたり、生き残りを図ろうとしたりする場合、ついつい、全く新しい可能性を求めて新たな顧客を獲得しようという意識が働きがちになる。市場自体がどんどん拡大していた時代の名残だといえるだろう。しかし、もはや文具・ファイルやDPEに限らず、拡大し続ける市場は今日の日本にはあまり多くはない。既存の顧客をしっかり見て、そこに活路を見出すことが重要なのだ。

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2011.01.22

良い値下げ・仕方ない値下げ・悪い値下げ

 景気に明るさが見えてきたとはいわれるものの、デフレ環境に代わりはなく、むしろその圧力は増している。その中で、サービス業の値下げや利用料金低下が顕著になっている。

 1月21日付・日経新聞夕刊に「個人向けサービス 顧客獲得へ低価格競う」という囲み記事が1面に掲載された。低価格競争の例として「カーシェア 基本料金3割下げ」「宅配レンタル 新作DVDも割引対象」とサブタイトルにある。他の例も掲載されている。フィットネスクラブ最大手のコナミスポーツ&ライフが1月末まで初期登録料を無料化した。森ビルが運営する自習室「アカデミーヒルズライブラリー」の料金が月額3万1500円1本だったものに、平日限定2万1000円、休日限定1万5750円と細分化した。美容室大手では、顧客1人が1回の利用で支払う料金の客単価が下落を続けているという。

 記事の主旨としては、顧客数を確保するために各企業が値下げに踏み切らざるを得なくなっていることを指摘しているわけだが、その内容をよく見れば各々の狙いと背景は異なる。

 売上=客数×客単価であるため、デフレ環境下で市場全体の価格が低下する中、競合に顧客が流れないようにするためには客単価を積極的に下げ、顧客数を増して売上げを確保しようという動きが顕著になる。「利益なき繁忙」に陥る可能性は否めなく、各社とも避けたいところではあるだろうが、致し方なしだろう。「仕方ない値下げ」の典型だ。日経新聞の例ではDVDレンタルの低価格競争がそれにあたる。
 しかし、DVDは通常、新作は誰もが見たがり貸出の稼働率も高いため、本来は値下げする必要はない。それにも関わらず、競合同士が首を絞め合うように値下げ合戦をするのは、新作+旧作のクロスセリングと、1顧客あたりの貸出回数を増すことで、全体としての稼働率を向上させて収益アップを高めようという狙いがあるからだ。

 「稼働率」が最も重要になるのは、前掲の事例ではスポーツクラブである。
 本来は館内施設のキャパシティーが決まっているため、顧客数を際限なく増やすことはできない。しかし、顧客が常に館内にいるわけではなく、顧客あたりの利用時間は限られる。会費を払いながら、1ヶ月にほとんど、または全く利用しない「幽霊会員」も数多い。そして、収益はそうした会員がどれくらいいるかで変わってくる。スポーツクラブは初期費用を無料化し、「それなら入会してもいいかも!」と入会ハードルを下げ、月会費を払いながら利用率の低い会員を増やし、設備稼働率が一定に保たれている状態が理想なのだ。
 同じ稼働率という意味ではカーシェアも「幽霊会員」が重要だ。基本料金(月額料金)を下げても、クルマを使用する際には利用料金が別途発生する。基本料金を払いながら、使用しない幽霊会員を一定数確保し、利用する際には利用時間や走行距離に応じた重量料金を徴収する。実稼働が増えればクルマの数を増やす。
 以上の観点で考えれば、フィットネスクラブとカーシェアの「値下げ」は、ビジネスモデルにもとより組み込まれたしくみであるといってもいいだろう。顧客視点であるかはともかく、企業にとっては「合理的な値下げ」である。
 但し、顧客もいつまでも利用しないまま会員であり続ける人ばかりではない。どこかで気がつき、「やっぱり必要ないか!」と気がつき、離反する。そうならないためには、顧客視点に立ち返り、一定期間利用七位顧客には利用促進や効果的な利用方法をオススメする働きかけが必要である。

 フィットネスクラブと同じく自習室も「箱物」である。企業側の背景としては、空気を座らせておいてもお金にならないため、プランを細分化して利便性を上げ、入会のハードルを下げているのである。アカデミーヒルズの自習室は料金を曜日で分け、記事にはないが利用時間制限を撤廃し、さらに座席の予約制だけでなく自由席も併設するという改訂を行なっている。これは、利用者にとっては使い勝手が向上する、顧客視点に立った「良い値下げ」であるといえるだろう。さらに、新入会員に効率的な利用法のアドバイスなどをして、利用率を一定に保ち離反を防止すれば、新入会員を獲得・補充するというコストも低減できることになる。

 「良くない値下げ」とは何か。それは、顧客視点というよりも、企業にとって「ヤバイ値下げ」だ。前掲のように売上=客数×客単価である。客数が減る。仕方なしに料金値下げを行なう。客が増えない。売上げが低下するというパターンだ。
 積極的に客単価を下げない場合でも、顧客のリピート率を勘案すると結果的に客単価が低下していることになる場合もある。美容室業界が顕著だ。来店間隔が延びる。パーマやヘアカラーを毎回ではなく、カットだけの時と交互に利用するようになってしまうなど、顧客の利用形態が変化して、結果として年間の利用金額(売上)が低下してしまうのだ。記事にある、「顧客1人が1回の利用で支払う料金の客単価が下落」とは、その一連の現象の一部であるといえる。
 では、どうすればいいか。既出の他の例と異なり、美容業界は顧客に対して1対1でサービスを提供する点に大きな特徴がある。だとすれば、そこで提供するのは単なる「作業」ではなく、「顧客がなりたい自分に近づくためのサービス」であるといえる。そのために、カウンセリングなり、コンサルティングをキッチリと行なう。その結果として、パーマやヘアカラーの提供や、各種用品の販売が実現して客単価が向上するという好循環が生まれるはずなのだ。当然、顧客との信頼関係醸成によって、離反防止にもなり、来店頻度向上も実現する。

 「値下げ」をするのは、単に数字をいじるだけでできる。しかし、値下げすると、どのような影響が起きるのか。本当に売上げと利益向上(もしくは、維持)に貢献するのか。そもそも、自社のビジネスモデルはどのようなものであるのか、といった要素を十分に検討することが重要なのである。
 

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2011.01.20

リユースから学ぶ、新たな価値創造と新コンセプトの作り方

 市場環境が変わった。消費者のニーズが変化した。そして、既存の製品が行き詰まった。手をこまねいているわけにはいかない。リニューアルだ。しかしどうやって?・・・そんな時には、「製品の価値を見直して、コンセプトを明確にすること」である。

 1月17日~19日付の日経新聞夕刊1面に、「捨てたもんじゃない リユースのすすめ」という興味深い特集が掲載された。「リユース」とは、エコロジーのキーワードである、3R=Reduce(ゴミをなるべく出さない)・Reuse(モノをすぐに捨てずに何度も使う)・Recycle(ゴミを再生して利用する)の2番目のRだ。
 リユースの1つめの事例は姫路市のベンチャー会社「コウメイ」。使い古された50CCスクーターのエンジンや燃料タンクをモーターと蓄電池に置き換えていく。改造費は25万円から。記事では「ガソリン仕様の新車より高いが、長期的に見れば経費節減につながる点をアピールし、多くの台数を保有する金融機関などに売り込む」と同社社長のコメント。他に納入実績は「音が静かなため、早朝の配達でも迷惑にならない」と新聞販売店が導入を決めたとある。

 スクーターの価値とはなんだろうか。コトラーの製品特性分析のフレームワークで分解して考えてみよう。
手に入れて用いることによって実現される「中核価値」は、「簡便な移動」だ。それを実現するために欠かせない「実体価値」は「(クルマと比べて)安価な本体価格・維持コスト・燃費の安さ」という「経済性」が第一。加えて「取り回しの良さ」などの操作性だろう。中核の実現に直接貢献しないが、モノの魅力を高める「付随機能」は、デザインの良さなどだ。
 中古スクーターは、電動化の過程で価値構造が組み替えられていることがわかる。
 「実体」の本体価格は高くなるが、燃費が安くなる。「付随機能」は中古なのでデザイン性の新しさはないが、リユースされた電動スクーターということで、「環境への貢献」という価値が加わっている。生産しているコウメイ社の狙う金融機関などには、地域の顧客にアピールできる魅力ある価値となるだろう。
 ターゲットによってどの価値が魅力となるかは異なる。導入を決めた新聞販売店にとっては、「中核」の「簡便な移動」が、「静かで簡便な移動」と、その魅力が高まっているのである。

 18日の記事で紹介されたのは中古パソコンだ。山形市で携帯電話などの塗装を手掛けている「ノア」は、中古パソコン店「オンデマンドスリー」を展開している。店頭に並んでいるのは、カラフルなノートパソコン。中古品を同社の塗装技術を応用し、携帯電話並みの耐久性と、超高級車塗装に用いられる研磨材仕上げによってピカピカでカラフルに変身させていく。価格は2001年~02年型のモデルで1台3~4万円程度だという。

 例え既存の価値構造を分解し、組み替え、新たな製品価値を創造したとしても、それが受入れられなければ全く意味がない。製品にどのような価値があるのか認められるには、それを用いる人やシーンによって大きく異なるからだ。自社が検討した「価値構造」を、顧客が理解できる「コンセプト」に変換する必要がある。

 上記のカラフルに生まれ変わったノートパソコンの価値構造をます、検証してみよう。
 計算・ドキュメント作成・インターネットの使用がパソコンとしての「中核」だ。ノートパソコンなら移動可能なことも加わる。計算・ドキュメントの作成・インターネットなどがやっとやっと動くのではなく、快適に利用できる性能、さらに持ち運びするならある体の軽さや丈夫さが中核を実現する「実体」として求められる。製品の魅力を高める「付随機能」は、メーカー独自のデザインやカラーバリエーションなどがそれにあたる。
 オンデマンドスリーで販売されているパソコンは、旧式なので、実体の性能に関しては最新モデルや年数の新しい中古機より劣るだろう。一方、付随機能は昨今のノートパソコンはカラーバリエーションを競い合っているが、同社の塗装仕上げは色の多彩さ、仕上げのキレイさで次元が違う。

 コンセプトは、いわゆる「4W1H1B」で整理できる。Who?:誰が・どんなターゲットが/When?:いつ・どんな時に/Where?:どこで・どのような状況で/How?:どのように用いると/Benefit:どのような便益があるのか/Why?:なぜ、その便益が実現できるのか。

 まず、「誰にとって」:Who?というターゲット像が重要だ。上記の通り、性能はシビアに求めないとすると、ネットの閲覧やメールのやりとり、カンタンなテキストの作成を主とする初心者か、サブマシンを使う人ということになるだろう。
 When?・Where?=外出先、特に人に見られるような状況で、How?=バリバリと仕事をこなす道具ではなく、ファッションの一部として用いることで、Benefit:自分自身を演出することができる。Why?:安っぽく見えない、携帯電話や超高級車並の塗装で高級感が演出できるから。というようになるだろう。
同社のWebサイトを見ると、商品が紹介されており、次々に「完売しました!」の表示が出されている。コンセプトを受入れ、価値を認めた顧客が多数いることが見受けられる。

 ともすればうち捨てられてしまう中古品に新たな価値を吹き込んで、価値を認めてくれる人に届けるリユースの取り組み。その価値構造の組み替えと、新たなコンセプトの構築は、冒頭に記したように、中古品だけでなく、販売が行き詰まった製品を生まれ変わらせる時などにも十分応用できる。
 大切なのは、自社の製品がどのような価値を顧客に提供しているのかを「分解」して考えることと、価値を認めてくれる「顧客は誰なのか」をしっかりと考え直すことである。


※記事は1月17日~19日付の日経新聞夕刊「捨てたもんじゃない リユースのすすめ」を参考にし、一部引用しています。
※本記事中、及び日経記事でで紹介された企業のWebサイトは以下を参照のこと。
  ■コウメイ http://www.eonet.ne.jp/~koumeijapan
  ■ノア(デマンドスリー) http://www2.ocn.ne.jp/~demand3/index2.html

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2011.01.19

「すれ違い」を商機とせよ!

 マーケティングのキモは、「未充足ニーズを発見して、充足させるしくみを作ること」でもあるが、言うは易く行うは難し。まず、発見することが難しい。そして、それが顕在化したとしても、継続的に提供するしくみ化することが難しいのだ。

 ドラマの「君の名は」というタイトルを聞いて思い出す方は、それなりの年齢であるのは間違いない。初演は1952年。NHKラジオ連続放送劇として。54年に松竹で映画化され、主演女優の岸惠子のショールの巻き方「真知子巻き」が大流行した。テレビドラマ化は4度されているが、最も新しいものが91年のNHK連続テレビ小説で、ヒロイン役は鈴木京香だった。そのテーマは「すれ違い」。
 第二次大戦の東京大空襲の中で知り合った名も知らぬ男女二人が、銀座・数寄屋橋で再会を誓い合いながら、運命のいたずらで何度もすれ違いを繰り返す。視聴者はその不条理さに身もだえしながら固唾をのんで見守るのだった。

 1月19日付・日経MJ総合小売面の小さな記事。「有料配達、高齢者に的 京成ストア、千葉県で実験」とタイトルにある。記事によれば、食品スーパーの京成ストア(東京・葛飾)は、店舗で顧客が購入した商品を有料で自宅に配達する実験を始めたという。店員の手の空いた時に無料配送するサービスは昨今、他の中小スーパーでも行なわれているが、同社は需要の高まりに対し、サービスを拡充。外出・来店困難な高齢者のためには電話での注文・配送も行なう。
 ポイントは「市に登録している60歳以上の退職者」を配達員として雇い入れたところだ。退職者の活用では、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律に定められたシルバー人材センターが各地域に1つ存在する。しかし、その内容はあくまで業務は臨時的・短期的な仕事を請負・委任の形式で実施することに限られ、長期雇用はできない。故に、直接雇用する形を取ったのだろう。<団地の中を自転車でまわるため、一度に大量の注文をこなせない。そこでサービスの対象顧客は原則高齢者に絞る>とある。無料配送サービスの場合、いくら以上の利用で配達という制約が付く場合もある。対して、有料であれば「宅配して欲しいが、そんなにたくさん必要はない」という高齢者も気兼ねなく依頼できる。また、「働きたいが、安定的に長期間働ける先がない」という働き手側の高齢者のニーズも充足できる。サービスを受けたいニーズを持つ高齢者と、サービスを提供できるウォンツ(労働力)の「すれ違い」をなくして両者を結びつけた展開である。

 同日の記事にもう1つ、注目の記事がある。上記の有料宅配はきっと「君の名は」に夢中になった世代同士の「すれ違い」をなくした事例だが、こちらはそんなドラマは全く知らない世代向けだ。
 7面記事「チョコのお返し『これ買って』 マガシーク、バレンタイン向け QRコードで『おねだり』」とある。20~30代女性向けの衣料品や雑貨のネット通販を手掛けるマガシークが。人気の衣料品や宝飾ブランドと組んで展開する。チョコレートのメッセージカードにQRコードを印刷し、チョコを送られた男性をホワイトデー向け商品の購入サイトに誘導するという。チョコの価格が千円台前半なのに対し、お返しギフトは10倍返しに設定されているのが恐ろしいが、10倍張り込んで外してしまうこともあるのがギフトというもの。贈る側と贈られる側の「すれ違い」を防ぐ手立てとしては有効だ。

 ドラマでも実際の人生でも、人と人の「すれ違い」は悲しい。ましてや心と心のすれ違いは。しかし、「ニーズのすれ違い」がどこかに転がっていないか、世の中をつぶさに観察して、それを発見することができれば商機とすることができるはずだ。

 1面にある「外食『お届け』に走る」という大きな見出しで掲載された記事。メインはマクドナルドが開始したデリバリーの話題である。マクドナルドのデリバリーも、実験的に展開した結果見えてきた「すれ違い」があったようだ。注文が多数寄せられた「職域」からの注文であったという。特に「自動車販売店の接客担当者や病院の看護師など、昼間に外出しにくい職場の人たちが何人かまとまって注文したようだ」と記事にある。マクドナルドは「顧客を増やしたい」。しかし、一部の職業の人々は「マクドナルドに行きたいけど行けない」という「すれ違い」があった。それをつないだのが宅配だったのだ。

 ラジオドラマ「君の名は」の冒頭に流れるのは、「忘却とは忘れ去ることなり。忘れ得ずして忘却を誓う心の悲しさよ」というフレーズだったという。
「すれ違い探し」だけは、ビジネスチャンスの発見のためにも、日頃から忘却することなくアタマの中に入れておきたい。


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2011.01.18

吉野家が「自社株買い」で目指す成長戦略

 吉野家が筆頭株主である伊藤忠商事が保有する全株を買い取った。「経営の自由度を上げる」「中国などへの進出を加速」などと、日経新聞をはじめとするメディアが伝えるが、具体的にはどのような成長戦略を描いているのかを考察してみる。

 吉野家はやる気満々である。
「すき家」を運営するゼンショーにトップの座を奪われて久しく、昨年投入した低価格メニュー「牛鍋丼」による効果も短期間で息切れしたというマイナス面が取り沙汰されるが、吉野家には財務的な底力がある。ゼンショーと吉野家ホールディングスのバランスシート(BS)を比較してみれば、一目瞭然だ。ゼンショーはBSの右側の短期有利子負債が大きい。そのため、否が応でも規模を拡大して低単価でも日銭をガンガン稼いでキャッシュを回していくことが求められる。対して吉野家は有利子負債が少ない。それが、今回、自社株買いのためにみずほ、三菱東京UFJ、三井住友の3行から75億円の融資を受け、勝負をかけることを可能にしている。「吉野家は大丈夫か?」といった声も牛丼戦争といわれる競争環境の中で聞かれるが、どっこい、まだまだ戦いには第2ラウンドがあったのだ。

 では、吉野家は何を目指すのか。
 成長戦略を考えるフレームワーク、「アンゾフのマトリックス」で同社の展開を分析してみよう。マトリックスは、縦軸に既存市場で勝負するのか、新市場に展開するのかという市場の軸をとり、横軸に既存製品で勝負するのか、新製品を開発するのかという製品の軸をとる。次にその掛け合わせで、既存市場を既存の製品で深掘りする「市場深耕」、新市場に既存製品を展開する「新市場開拓」、既存市場に新製品を投入する「新製品開発」、新製品を新市場に展開する「多角化」の4象限を作る。

 「市場深耕」は子会社化したステーキ店「どん」などの不振もあり、本業の国内の牛丼事業をどうするのかが課題だ。前述の通り、牛丼戦争の中で競合のすき家、松屋と並ぶ価格帯を「牛鍋丼」で実現し、値下げ合戦から一線を画す構えを見せた。しかし、今年初の各社一斉値下げキャンペーンに参戦。吉野家はその牛鍋丼を下回る価格で牛丼を提供している。多くのファンからも「まさか」の声が上がった。なぜそんな展開をしたのか。
 おそらくそれは、吉野家の「牛丼へのこだわり」である。価格競争回避のため牛鍋丼を開発したが、牛丼に比べれば材料の肉質を見てもあくまでダウングレードだ。食べ比べれば違いがわかる。つまり、牛鍋丼で流出した顧客を呼び戻し、牛丼でキャンペーンをかけ、さらに通常価格に戻しても牛丼に回帰してもらうことが狙いだ。国内はメイン牛丼勝負。サブで低価格メニューというシナリオだろう。国内向けの投資余力はメディアの伝える通り、効率的ローコストオペレーション可能な店舗改装に充てる。となると、「新商品開発」にあたる、他業態の子会社はこれ以上増やさないということになるはずだ。

 「新市場開拓」はもちろん中国事業だ。吉野家は国内市場はもはや規模は追わず、むしろ牛丼のプレミアム化を進めて、社運を賭ける主戦場は中国に置くはずだ。1月18日の日経新聞によれば、海外牛丼店舗は440店舗。ゼンショーの16店舗、松屋の2店舗を大きく突き放している。しかも、そのうち200店舗を中国に集中させている。そして、昨年9月にMSN産経ニュースが報じたところによれば、<9月末までに沿岸部を中心に218店を出店。21年2月期の販売額は約170億円に達した。さらに「2010年代半ばまでに1千店」の計画を掲げ、店舗網の拡大を急ぐ>という。計画は着々と進んでいるというところだろう。
 中国という新市場では、狭義での「新商品開発」も自由だ。国内では、「吉野家ブランド」を守るためと、前述の「こだわり」で牛丼をメインに据え、メニューの幅をいたずらに拡張しないことに腐心している。しかし、それが一種の自縄自縛となっている感も否めない。一方、中国ではチキン系や豚系の日本では一般にお目にかかれない多彩なメニューを展開している。「現地化」しているのだ。
 「多角化」も好調だ。参加の「はなまるうどん」も中国市場向けメニューや、うどんに入れるラー油をサービスするなど、「現地化」を進め好評を得ている。

 吉野家の完全復活に向けた成長戦略の要が、日本国内ではなく中国にあるとすると、吉野家ファンとしては少々寂しくもある。しかし、軸足を移しバックボーンを強固にすることで、「吉野家ブランド」に恥じない品質の牛丼を安定的に国内で提供してくれるのだとすれば、むしろそれは歓迎すべきことなのかもしれない。


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2011.01.17

回転寿司戦争:スシロー、かっぱ寿司の天下は続くのか?

 回転寿司チェーンのトップが入れ替わった。しかし、乱世の如くトップの座は今後もめまぐるしく交代する可能性が高いという。

 首位陥落である。「 かっぱ寿司」はトップ死守を賭け、平日1皿90円のキャンペーンを展開。CMでは宇宙人まで食べに来たものの、2010年下半期(7~12月)の売上高は後発の「スシロー」が前年同期比20%増の462億円と、かっぱ寿司の同9%増455円に対し僅差で追い越した。メディアの伝えるところでは、<勝因は「素材の良さ」というから、回転ずしでは安さよりもネタのほうが重視される>かららだという。

 <回転寿司で下克上!スシローかっぱ抜く「安さ」より「素材」>(2011.01.14産経zakzak)
 http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20110114/dms1101141227002-n1.htm

 記事では回転寿司のKSF(Key Success Factor:成功のカギ)は「素材のよさ」にあるとしている。確かにネットにはスシローのネタのよさに対する賞賛が散見される。しかし、それは消費者のKBF(Key Buying Factor:購入理由)にはなり得ても、絶対的で継続的なKSFたり得ない。<業界内の競争は激化しており、3位の「くら寿司」を展開するくらコーポレーション(大阪)は10年10月期決算で最高益を記録。「銚子丸」なども業績が好調だ>と業界内の順位は今後もめまぐるしく変わる可能性が指摘されている。

 独立起業するとすれば、最も参入障壁が低い業界の1つが飲食業だ。材料を仕入れ、調理し、客に提供するというバリューチェーン(VC)のシンプルさがその理由である。しかし、成功し、継続することが難しい。シンプル故に、差別化が難しいからだ。極めて良い仕入れルートを持っている。卓越した調理の腕がある。絶妙の接客サービスを提供できるなどの要素がなければ「成功」ではなく、よくて「そこそこ」。人に食べさせるどころか、自分が食えなくなって「廃業」という憂き目を見ることになる。街を歩いていて「あれ、ここの店、代わったんだ」と日常的に目にする光景の背後には、その数だけ起業と廃業のドラマが隠されているのである。

 バリューチェーンは日本語に訳せば「価値連鎖」。ビジネスのしくみのどこでどれだけコストをかけ、付加価値を創出するかということを表している。では、回転寿司というビジネスのキモはどこにあるのか。
 「安さ」より「素材」とはいえ、回転寿司の価格帯で寿司を提供しようとするなら、ある程度の安さは必須要素だ。そこでモノをいうのは「規模」である。原価に占める固定費率は販売数量が多くなればなるほど低減できる。「規模の経済」という。固定費とは、研究開発費・設備費・広告宣伝費。人件費や原材料費などの変動費に関しては、規模が大きくなれば、単位時間あたりの生産性を向上させることで人件費率は低減できる。原材料費は大量購買による価格交渉力の向上で低減を図ることになる。

 回転寿司業界はなぜ、下克上が起こりやすいのか。それは、「仕入れ」→「調理」→「接客」という飲食業のバリューチェーン上で、差別化要素が少ないからだ。「接客」という俗人要素を極限まで削減したサービス。調理は「にぎり」といっても、シャリは「寿司ロボット」が握る場合が多い。調理という製品の加工度を高めるプロセスや、接客というサービスで付加価値を付けるプロセスが削減されているからだ。どうしても「仕入れ」の段階に依存する比率が高くなるのである。

 競争戦略で戦う方法は大きく分けて3つある。1つはコストを武器に戦うこと。「コストリーダーシップ戦略」という。もう1つが差別化要素で戦うこと。「差別化戦略」という。もしくは、特定市場に集中して戦うこと。「集中戦略」という。
 この戦いは、「回転寿司」という特定市場の中での戦いだ。そして、そこは差別化困難な市場だ。コストリーダーをめぐる戦いは「水の中で息を止め合う勝負」のようなものだ。勝負のポイントは、原価率を抑えること。そのためには前述の通り、「規模」がモノをいう。どこも規模化してトップを取り、価格交渉力を握ることを狙う。その一方で、利益率を抑えて原価率を高めるガマン比べをするのである。しかし、ガマンにはおのずと限界がある。ガマンは絶対的で継続的なKSFたり得ない。ガマン比べをすれば、牛丼業界の二の舞だ。
 この業界がどこへ行くのか、目が離せない状況である。


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2011.01.14

人の好意にどう応えるか?~続・雑誌「BIG ISSUE」の売り子にもらったもの~

 「ビッグイシュー(BIG ISSUE)」は、ホームレスの自立支援という目的のために作られている雑誌だ。1冊300円を売って、ホームレスは160円の収益を得る。簡易宿泊所の代金などを得て路上生活からの脱出を図るのだ。( http://www.bigissue.jp/about/index.html

 ある「BIG ISSUE」の売り子と顔見知りになったのは、昨年の11月のこと。といっても、それは筆者が相手を認識したという意味で、相手は何度か購入した筆者をとっくに見知っていたのだ。そのいきさつは、以前に記したコラムを参照されたい。
 →「雑誌「BIG ISSUE」の売り子にもらったもの

 さて、お互いが顔見知りになったという認識ができると、とかく相手が気になるもの。特に彼のいる駅前は、筆者の定番タウンウォッチのルートになっている。
ところが、彼の姿が年末年始と見当たらなかった。年の瀬が慌ただしくなる前に最新号を買った。月2回発行なので、少なくとも松飾りが取れる頃には次の号が売り出されるはずだ。
 正月休みにして、郷里に帰ったのだろうか。それとも、晴れて自立して売り子を卒業したのだろうか。もしかして、病気でもしたのだろうか。
 名も知れぬホームレスの雑誌売り。その姿のない駅前を通るたびに、気がかりさと期待がない交ぜになりつつ増していく自分の心を不思議に思った。

 何度目かの通り道。雑誌を右手に高く掲げた「BIG ISSUE」売り独特のポーズの彼を見つけた。いつもの如く、筆者を遠くから見つけてニコリと人なつこい笑顔を投げかけてきた。
ポケットの小銭入れから300円を取り出しながら、彼のところに歩み寄って雑誌と交換する。
 「しばらく見かけなかったから、故郷に帰ったか、卒業したか、病気にでもなったのかと思ったよ」。と話しかけると、いつものクリクリとした瞳が少しだけ伏し目がちになった気がした。
 「故郷に帰りも、卒業もしないですよ」。
 いつもより小さな声でポツリと言ったあと、
「カラダは見た目以上にポンコツですが、何とか病気はせずにやってます!」
 と、少し声を大きくして言葉を続けた。
 何か、触れない方がいいものに触れた。開いてはいけないものを開いた気がして、少し気まずかった。

 「もっと寒い故郷で新聞屋をやってたんですよ。頬が切れるくらい冷たい風が吹くところで、真っ暗で星が出ているうちから新聞を配っていたんです。だから寒さには強いんですよ」。
 問わず語りに初めて彼が身の上話のようなことをつぶやいた。
 もっと自分のことを話すのか。聞いて欲しいのかと思ったが、話はそれで終わりだった。いや、話したかったというふうではなかった。少し昔を思い出したことが、口から出たというような話し方だった。

 筆者は一旦その場を去って、再び戻り、彼にレジ袋を差し出した。近くの果実店で買い求めたバナナ四本と蜜柑一山。合計500円だった。現金を渡したのでは、商売をしている彼に失礼だ。かといって、何かできないかと思案した結果の代物だ。それでも恐らく、差し出す筆者の姿はひどくおずおずとした様だっただろう。

 「ありがとうございます!遠慮なく!」
 思案したのは全くの無駄であった。彼はいつもの人なつこく、クリクリした目を輝かせて躊躇なくレジ袋を受け取った。
 決して、ちょうど空腹であったからとか、「タダでもらえるものならば」といった様子ではない。かといって、差し出されたので義理で受け取るという風情でもない。

 人の好意に感謝して素直に受け取る。その表現が最も適切に彼の反応を表現する言葉であるはずだ。
 思えば、自分自身が人に対してそんな応え方をいつしただろうか。
 「いやぁ、いいですよ~」。
 「本当ですかぁ~、いいのに・・・。スミマセンねぇ・・・。」
 また一つ、大切なことを彼から思い出させてもらった。


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2011.01.13

ワールドビジネスサテライト・特集:外食デフレに反転攻勢

ワールドビジネスサテライト・特集:外食デフレに反転攻勢

 1月12日、テレビ東京・ワールドビジネスサテライトの特集にビデオ出演しました。その番組の概要と追加解説を紹介します。

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 特集のタイトルは「外食デフレに反転攻勢」。久しく効かなかった景気のいい数字が紹介される。内閣府から毎月発表される景気ウォッチャー調査。12月の現状判断DIは45.1。前月比1.5ポイントのアップで2ヶ月連続の改善だ。基調判断は「持ち直しの動きが見られる」と発表され、9ヶ月ぶりに上方修正された。注目すべきは飲食業。全業種トップの3.9ポイント上昇である。

 飲食業がなぜ重要か。飲食業は市場規模:約24億兆円。440万人以上の雇用者を持つ。しかも中小零細が極めて多く、参入障壁が低いため気軽に開業できる反面、廃業も多い。また、個人事業主はイコール消費者でもあり、その業績は消費とも直結している。
 さらに筆者が考えるに、衣食住・衣食足りて礼節を知るというが、「衣よりもまず胃」(ちょっとおやじギャグ?)。ギリギリ我慢する状態から少しずつ財布の紐が緩んでいく時、食べる物の「プチぜいたく」が始まると考えるからだ。消費経済の先行指標である。

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 番組のインタビューでは触れられなかったが、「節約疲れ」でおっかなびっくりと、「プチぜいたく」をするだけではなく、景気の底上げに乗って継続する勢いがあるのだ。これは「反動的需要」だ。「食」に限らず、モノゴトは何か一方向に振り切れると、もう一方に振り戻す力が働く。消費者心理としては特にだ。例として、「メガフードの流行」を図示する。健康志向の高まりは時代の潮流だった。しかし、いわゆる「メタボ検診法案」の進行と呼応するかのように、「メガフード」が勃興し、爆発し、今日、定着をしている。「メタボだの何だのいわれるが、そんなことは構わず食べてしまいたい!」というニーズがヨノナカには確実にあったということだ。
 メタボに抑圧された人々とメタボ検診法制化という反動の規模ではない。日本全体を巻き込んだ「デフレ不況」。そこで耐えた国民の多くが反動的に動く。それが、「食のプチぜいたく」に対する期待なのである。

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 キモは、あくまで「“プチ”なぜいたく」であるということだ。古き良き(?)バブルの時代のようなキラビヤカなぜいたくでは全くない。あくまで等身大。手が届く、ちょっと先の、日常の中の「ちょっとだけのぜいたく」であるということだ。抑圧されたストレスからの一時的な解放。咲いてぱっと散る桜や花火では景気の底上げにはならない。ハレの日需要ではなく、ケの日の外食が底上げされてきた傾向に明るさを感じるのである。

 番組では2つの外食の事例が紹介された。
 1つめは「バーガーキング」。番組当日の1月12日から発売の「ウエスタンBBQワッパー」。ワッパーは「口に入りきれない」という大きさが特徴のバーガーだ。単品で530円。セットだと890円だ。来店客には「少し高めの価格」でも、「普通のランチ定食と変わらない価格」「味と食べ応え」で好評だ。
 2つめが「エムグランドフードサービス」の「ステーキハンバーグ&サラダバー けん」。 現在全国143店舗。約1年間で100店舗を出店し、来年度は約90店の出店を計画するという勢いだ。客単価は1,100円。決して安くはない。しかし、昨年は客単価が100円アップするという支持を集めている。撤退した飲食店の跡を活かしてそのまま出店する「居抜き」に代表されるローコスト経営に徹する。その原資をメニュー・サービス向上に充てているのが人気のヒミツだ。サラダバーはカレーまで食べ放題。生姜機1年生以下の子どもは無料など心憎いサービスである。

 バーガーキングは「フツーの店の定食と同じ価格で、美味しくて大きなハンバーガーが食べられる」。「けん」は「ちょっと高いけど、割安に感じる満足のサービス」。その構図がポイントだ。図示したように、価格と品質(商品・サービス)は正比例の関係にあって、世間相場が形成される。「バリューライン」という。そのバリューラインを超えるプレイヤーの出現が、「プチぜいたく需要」をすくい取っているのである。

 「衣食」の「衣」においてはバリューラインを超えた存在としては「低価格にも関わらず高品質・高機能」にこだわる「ユニクロ」が顕著であろう。そうしたプレイヤーがどんどん現れることによって、冷え込んだ消費が少しだけ取り戻したぬくもりをすくい取れることで、消費が底上げされることを願ってやまない。

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番組ホームページに掲出された動画はこちら→ http://tinyurl.com/492cg9c


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2011.01.12

まずは目標を定めよ!ファナックのプライシングに学ぶ

 1月12日付・日経新聞1面の連載コラム「企業 強さの条件」第7部の初回は工作機械数値制御装置の最大手・ファナックが紹介された。そこから学ぶべき点は多い。

 実に世界シェア6割という同社は、富士山のふもと、山梨県忍野村に本社を置く。記事の「ファナックの国産宣言」というタイトル、小見出しの1つに「1カ所で作る」とある通り、同社のポリシーは本社と同じ場所に向上を集約しておくことだ。研究開発・設計・生産を集約するものづくりのメリットを活かす同社のポリシーである。

 記事にはもう1つの小見出しがある。「まず価格を決める」。
 価格の設定方法は、<内外約200カ所に置いた保守サービス拠点を通じて市場の変化や顧客の要望を吸い上げ、競合他社に負けない価格を探る。価格から一定の利益を引いて製造原価を算出する。この原価に収めるのが設計の絶対条件。原価に利益を上乗せし価格を決める手法の逆を行く>とある。

 ファナックのプライシング手法は、「ターゲット価格設定」という。想定される事業規模をもとに、一定の利益が確保できるように価格を設定する。工場設備装置の稼働率が利益に大きく影響する業種で採用されることが多い。一方の原価に利益を上乗せする手法は「マークアップ価格設定」原価に一定の利益のマークアップ(上乗せ)を行うことを意味している。多品種生産などの場合に適している。
 原理原則からすれば、ファナックに「ターゲット価格設定」という価格設定手法が向いているというわけではない。それは同社のポリシーだ。記事では、<「ありきたりの設計を製造段階で改善しようとしてもどだい無理」「利益は開発時点で決まり、製造段階では生まれない」>と、同社の創業者で名誉会長の稲葉清右衛門氏の言葉を紹介している。

 「ありよう」と「やりよう」という言葉がある。あるべき姿を描き、現場でそれを実現する計画を立てる。建築の世界では、本社の設計部門が「ありよう」を設計し、建築事務所・現場が「やりよう」である施工計画を立てて実行する。東洋一の高さを目指して建築が進んでいる「スカイツリー」は、いままさに「やりよう」に従っているのだ。
 ファナックが優先しているのは、ものづくりの現場にありがちな「乾いた雑巾を絞る」的な「現場のカイゼン」への依存だ。「ありよう」の段階が甘ければ、「やりよう」での努力で吸収できるコストはたかがしれているという考え方だ。

 とはいえ、同社は自社の視点だけでプライシングをしているのではない点にも注目したい。
 価格設定には3Cの視点を持つことが必要となる。自社視点(Company)・顧客視点(Customer)・競合視点(Competitor)である。日経の記事中にあるように、<内外約200カ所に置いた保守サービス拠点を通じて市場の変化や顧客の要望を吸い上げ>という顧客視点で、いわゆる「Customer Value」=顧客が受入れられる価値に見合った価格を設定する。「知覚価値価格設定」という。売れる価格帯を明らかにし、原価がそれ以下に抑えこむ設計をするのだ。さらに、製品の競合となる存在とその動きを洗い出し、その上で「競争志向の価格設定」も見据えているのである。

 プライシング(価格設定)はマーケティングの最重要事項の一つだ。なぜなら、製品を作り、販路を構築・維持し、広告・販促で商品を知らしめるといういわゆる「マーケティングの4P」である施策展開は、プライシング以外は全て「コスト要因」だからだ。それを間違えば、全ての活動はムダになる。

 もう1つファナックの事例から学びたいことは、「まずは目標を定める」ということだ。
  ビジネスの世界だけでなく、「PDCA(Plan・Do・Check・Action)サイクル」という言葉は広く浸透している。計画を立て、実行し、進行管理をし、改善する。その「PDCA」に「O」を加えて「OPDCA」とする場合が昨今多い。「Objective(目標)」だ。実行計画の前に、しっかりとした目標を定め、それでいいのかを熟考してから走り出すことも忘れないようにしたい。


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2011.01.11

「トイカメラ」人気から学ぶべき「価値基準の変化」

 今日の不況は、デフレに起因して価値基準が変化し、一義的な問題として消費者が「モノを買わなくなった」ことにあるといわれている。しかし、「成熟市場」といわれる商品カテゴリーにおいてさえ、売れているモノもある。そこから何を学び取るべきなのか。

 1月10日付・日経MJに東京・渋谷の「ロモグラフィー・ギャラリーストア・トーキョー」の記事が掲載された。「ロモ」はロシアや中国で作られたプラスチック製のフィルムカメラを輸入販売する会社だ。ピントが妙に甘かったり、ずれていたり、色のコントラストが極端だったりという写真に仕上がる「トイカメラ」と呼ばれるカテゴリーに属する商品だ。同ギャラリーでは数千円台の普及機から4万円台の高級機までのカメラを販売するほか、一般のDPE店のように、写真の仕上がりを自動補整してカメラの「味」をダメにしてしまわないようなプリントサービスも行なっている。キャラリーの壁には所狭しと、トイカメラで撮影された味のある作品が掲出されている。

 今日、「トイカメラ」がなぜ流行するのか。それは、「できあがるまでどう映っているか判らないワクワク感」という一言に尽きるだろう。
 
 写真という言葉を広辞苑(第6版)で調べると、以下のようにある。
 (1)ありのままを写しとること。また、その写しとった像。写生。写実。
 (2)物体の像、または電磁波・粒子線のパターンを、物理・化学的手段により、フィルム・紙などの上に目に見える形として記録すること
 通常のカメラで撮った「写真」の意味は(2)であるが、広辞苑は原義を先に記述する用例となっている。

 今日のカメラは人間の目に写った映像を「ありのまま」として記録することにおいては、既に完成の域に達している。人間の目というものは恐ろしく高性能にできている。一昔前のカメラで撮影すると、「こんなはずじゃぁ・・・」という仕上がりに映ることも多かった。それが、暗いところでも夜景と人物の双方がきれいに映るように露光が調節されたり、脳裏に刻まれた被写体の笑顔と寸刻も違わぬタイミングでシャッターが切れたりということをやってくれる。全て自動でだ。その意味ではカメラは「映すことを楽しむ機械」から「映ることを楽しむ機械」変化したともいえるだろう。

 あくまで「映す」ことを追求する人々が購入することで伸長したカテゴリーが「一眼カメラ」だ。もはや成長余地がなくコモデティーと化して価格の下落も激しいコンパクトデジカメと比較して、一眼カメラはまだ伸びを示している。
 しかし、その一眼デジカメにも変化が現れている。従来の機種よりもコンパクトで、操作が簡単な「ミラーレス一眼カメラ」が売れ筋となってきたのだ。従来型とは「写し方」において大きな違いがある。従来機は光学ファインダーを覗いて映る映像を想定し、シャッターを切り、その後で液晶画面で写りを確認する。ミラーレスは液晶画面で映すべき映像を確認しながらシャッターを切るのである。
 特に昨今流行っているのは「ボケ味」のコントロールだ。カメラファンの言葉でいえば「被写界深度」。露出の絞りが開放に近くなるほど、ピントの合う距離(範囲)は狭くなる。それを計算して露出とシャッタースピードを設定すれば、映すべき中心の被写体を際立たせて背景をぼかした印象的な写真を撮ることができる。ミラーレスはその調節を液晶画面で確認して調節しながらシャッターを切ることができるのだ。つまり、事前にあらゆる撮影効果をコントロールすることができるのである。

 全てを事前に、自らコントロールできるようになった今日のカメラ。そこに「失敗」の二文字はない。「意外性」の三文字もない。
 トイカメラの流行は、利便性と確実性という方向に極端まで振り切った今日のカメラに対する反動であると解釈できる。それは、カメラの流行だけではない。モノゴトは、一方に振り切った時にはその反動が出る。2007年に「メガマック」が人気を集め、2008年頃には牛丼、コンビニ弁当、カップ麺など様々な食品に飛び火した「メガブーム」は、それまでの健康志向の高まりや2008年度から法制化された「メタボ検診」などへの反動的需要であるともいえる。
 次のブームを読むには、一つの方向に振り切った状態を見つけ、その反対方向を見るのだ。

 トイカメラには、そのデジタル版の「トイデジ(トイデジカメ)」というものもある。液晶画面がなく、データをPCに移すまで仕上がりが判らないというものもあり、手軽に「ワクワク感」を楽しむこともできる。しかし、そうした簡便なものよりも、あくまで「フィルム」にこだわり、「トイカメラ」にこだわるファンも多い。そうしたファンは、iPhoneのカメラをトイカメラ風に画像を加工できるアプリなどもあるが、目もくれない。
 トイカメラのファンは、そもそもカメラに求めるニーズや中核価値が違うのだ。カメラは「ありのままを写しとる」ための手段ではない。作品を作るという「コト」を楽しんでいる。トイカメラを購入して撮影し、フィルムの現像・焼き付けを依頼して仕上がりを待つという一連の行為にまつわる「非日常的ワクワク感」を購入しているのだ。
 
 2008年以来自転車ブームであり、「自転車通勤」も脚光を浴びている。自転車に乗ること、それで通勤することという手段が目的化している。自宅の片隅で起きっぱなしになっている高価な自転車も少なくないだろう。ブームを一過性のものにしないためには、サービスの提供が足りない。
 「ロモグラフィー・ギャラリーストア・トーキョー」の売り物の一つは、フィルムの穴の部分まで使って撮影したフィルムにも対応するなどの、様々な形態での焼き付けサービスだ。もう一つが、月に数回開く撮影テクニックを学ぶイベントや撮影会。参加資格は「写真に少しでも興味のある人」であり、カメラの貸し出しまで行なうという。

 流行の兆しをつかむ。それを一過性の流行に終わらせない。そのためには、言い古された感もある「モノからコトへ」「モノ売りからサービスの提供へ」という言葉を真摯に追求してみる必要があるだろう。


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2011.01.07

臨 ~ 2011年「この一字」より

当Blog記事を週1回「それゆけ!カナモリさん」としてチョイスし転載していただいているGLOBIS.JP( http://www.globis.jp/ )の新春企画。

金森の執筆部分を転載します。

-----------<以下転載>------------

経済情勢が依然混とんとする中、2011年を迎えた。加速するグローバル化、情報環境の進化の渦中にあって、この1年、私たちの社会・ビジネスは、どこへ向かうのか。どのような気構えで日々に臨むべきか。GLOBIS.JP執筆陣が漢字一字でその方向性を示す。(このシリーズは3回連載です。書:編集部・藤井亜希子)


金森努(グロービス経営大学院客員准教授 連載「それゆけ!カナモリさん」著者)

 

2011

 「臨」の字義は、「高いところから見おろす」「その場やその時にのぞむ」「高位の人が来ることを敬っていう語」とある(明鏡国語辞典)。
 景気動向は、「国内景気の踊り場」や「二番底懸念の回避」などの復調を匂わすキーワードを目にするようになってきた。しかし、政局の不安定さなど、消費生活に不安の影を落とす要素も小さくない。世の中がどのような流れに向かうのか、常に高いところから全体を見おろし、戦略を練ることが欠かせないだろう。また、環境が急変しても、いつでも有事に臨める心や体制の備えも必要だ。
 企業と生活者の関係に目を転じると、フィリップ・コトラーは、著書『マーケティング3.0』で顧客を「価値共創のパートナー」と見るべしと説いている。パートナーとは対等の関係を表す。しかしながら、ホテル・リッツの創始者、セザール・リッツの経営哲学“The customer is king.”という言葉も忘れたくない。頭を垂れ敬い、その言葉に耳を傾ける姿勢から見えてくる新たな価値もあるだろう。

その他の著者の文字はこちら。

2011年「この1字」(その1) http://www.globis.jp/1534
2011年「この1字」(その2) http://www.globis.jp/1536
2011年「この1字」(その3) 1月7日公開

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2011.01.06

戦略は、正しく言葉にせよ!

 起業する。または、プロジェクトを立ち上げて遂行する。
そんな時、誰しも「失敗」は避けたいはず。では、どうすればいいのか。
一つの絶対法則がある。「人間の行動は思考に従い、思考は言語によって形成される。故に、適切な行動のためには目的・目標・手段を正しく言語化しておく必要がある」ということだ。

 「失敗」といっても色々な状態があるが、ここでは「こんなはずではなかった・・・」という状態に陥ることとしよう。自らの望まざる結果を招くということだ。
 なぜ、道を誤るのか。それは、そもそものゴール設定が間違っている。もしくは曖昧であったからということが多い。

 「戦略」という言葉はビジネスにおいて多用される。
 では、「戦略」とは何か。

 『戦略とは「目的」と「手段」の組み合わせである。つまり「戦略」=「目的+手段」である』と、『世界一シンプルな戦略の本』(PHP研究所:長沢 朋哉・著)にある。

 目的なき戦略、つまり単なる「アクションプラン」の集合体である誤った戦略に従って行動した結果、「こんなはずではなかった・・・」という結果を招くことは多い。

 上記定義に従うと、「目的」というものが極めて重要であることがわかるはずだ。
 しかし、ここでありがちなことは、『「目的」と「目標」の取り違え』だ。両者の関係は以下のコラムに詳しい。

 『「目標」と「目的」の違い』(INSIGHT NOW:キャリア・ポートレート コンサルティング 代表 村山 昇)
 http://www.insightnow.jp/article/3310

 村山氏は<目標とは単に目指すべき方向や状態(定性的・定量的に表される)をいう。
 そして、目的はそこに意味や意義が付加されたものである>と説く。それを数式化すると<「目的=目標+意味」>であると。

「失敗した」「こんなはずではなかった・・・」と結果を嘆くのであれば、そもそも、「どうなるはず」だったのかが問題だ。

 業界トップシェアの地位を奪取する。・・・それは「目標」だ。
 それを達成するためのアクションプランを組み合わせれば、「戦略」になるが、そもそも、業界トップは何のために、何を実現するために達成する目標なのか。それに何の「意味」があるのか。・・・つまり、「目的」は何かということだ。

 例えば、業界トップシェアを奪取して規模の経済を働かせ、より低廉な価格で顧客に商品を提供する。その結果、シェアを維持・拡大し、安定的に低廉な価格での提供を継続して、顧客の生活に貢献する。これは、一つの「目的」だ。
 目標だけを追い求めれば、シェアのパーセンテージの上下に一喜一憂し、トップになったとしても、まかり間違って2位に転落した瞬間にこの世の終わりのような気分になる。しかし、目的が明確であれば、「規模の経済を働かせる」というアクションプランが、どの程度のシェアで効果を発揮するのかがわかり、顧客に貢献できるような価格の達成見込みも見えてくる。短期的目標設定、近視眼的視野に陥ることもない。

「こんなはずではなかった・・・」にならないためには、「戦略」は正しく言葉にすべきだ。
 正しく言葉にして、可視化し、共有できるようにしたものを「ミッションステートメント」という。Statementとは「声明」や「言葉」を意味する。
 ミッションステートメントを作るための、筆者オリジナルのフレームワークを紹介しよう。「ピラミッドチャート」と名付けたが、構成は図の通りだ。構成要素は以下の通りである。
Pyramid_chart
 1.価値理念…何のために企業として存在するのか。または、プロジェクトが立ち上がったのか。「顧客に対してどのような存在であるのか」「何を約束するのか」を明確にする。
 2.個性…他にはない独自性を表す部分。自社(プロジェクト)にしかできない、顧客に提示できることは何かを明確にする。
 3.理想とする顧客…どのようなお客様のために存在するのか、「約束」するのかを明確にする。
 4.機能的付加価値…理想的な顧客に提供できる物理的メリット。自信を持って提供できるものは何なのかを明確にする。
 5.情緒的付加価値…理想的な顧客との各種コミュニケーションを通じて、どのような気持ちにさせることができるかという、無形の付加価値を明確にする。

 上記にフレームワークを示したが、穴埋めテスト的に思いついたキーワードを当てはめるのは「ちょっと待った」である。全体像をつかんだら、まずは1~5のうち、1の「価値理念」と2の「個性」を徹底的に自問自答・議論することだ。短い言葉でキレイにまとめることが主旨ではない。一旦はフレームワークを忘れて、「自らが実現したいこと(目的)なは何で、それを実現しようとする自らは何者なのか」を箇条書きに書き出して、さらに長くても構わないので、文章化する。その上で、「人に伝わる言葉」にしてフレームワークに入れ込むのだ。1と2が明確になったら、そうした自分を受入れてくれる。さらには自分が働きかけたい顧客が見えてくるだろう。さらに、「戦略」における「アクションプラン」を意識すると、4と5が見えてくるはずだ。

 今回は2000文字強の文字数でさらっと書いているが、上記のミッションステートメントの定義は、ああでもない、こうでもないと懊悩しつつ書き上げることになり、実は恐ろしく時間がかかる。しかし、あえてそれをやる価値はある。なぜなら、 冒頭に記したように、人間の行動は思考に従い、思考は言語によって形成される。故に、適切な行動のためには目的・目標・手段を正しく言語化しておく必要があるからだ。
 一橋大学の伊丹敬之・名誉教授は「どんな企業にも戦略はある。成功しているかどうかは別として」と説いている。あるべき姿=目的が設定・共有され、そのあるべき姿に到達するためのアクションプランを構成員が一丸となって執行すれば、成功する。目的設定が曖昧な戦略は、各人がバラバラに行動し、どこかの時点で「こんなはずではなかった・・・」ということになるのだ。


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2011.01.05

「釣女」「釣りガール」は本当に流行るのか?!

 年が明けて人も経済も本格的に動き出した。そこで、昨年の後半に各所から出された「トレンド予測」を改めてチェックしてみたい。筆者が注目したいのは、今年流行すると日経関連が推す「釣女」、もしくは「釣りガール」だ。

 「釣女」とかいて「つりじょ」と読む。歴史好き・歴史通の女性を意味する「歴女(れきじょ)」と同じ読ませ方だ。日経トレンディネットが昨年11月に2011年のヒット予測ランキングの4位として「釣女ギア(ちょうじょギア)」を示している。( http://tinyurl.com/23h7vqf
  日経ウーマンオンラインも2010年11月17日付けで「次の流行ファッションは、釣女、怪獣…」という記事を掲載している。( http://tinyurl.com/2g3yrln )記事中で、< “釣女”というよりも“釣りガール”と言ったほうが分かりやすいかもしれない>と、語感の悪さを修正しつつ、<「ランスカ」や「山スカ」など、アウトドア系の服がヒットし、次にくるのは釣りファッションというわけだ><“山ガール”ではなく“釣りガール”ブームがくるかもしれない>とトレンドを予測している。

 上記の通り、女性のアウトドアのトレンドは「ランスカ」や「山スカ」など、ウェアから起こる傾向が顕著だ。そのため、釣り具最大手のグローブライド(旧ダイワ精工)は、人気のカジュアルブランド「A BATHING APE®(ア・ベイシング・エイプ)」とコラボレーションし、さらに佐藤可士和氏クリエイティブディレクターに迎えて「A FISHING APE®(ア フィッシング エイプ)」を立ち上げた。
 製品のデザインのポイントをzakzak(産経)の2011年1月4日付記事「ハマちゃんモテモテ?「釣りガール」がトレンドになる!」( http://tinyurl.com/3xyl58p )で、同社の広報課がコメントしている。<「今春投入するウエアでは、派手なカラーリングで、丈を短くしたデザインにしたりして、女性を意識したものにしています」>とのことだ。
 製品だけ作っても、当然売れない。販売チャネルでの展開にも注力している。同記事によれば、<釣り用品販売大手のキャスティング(東京)は首都圏の大規模店舗で、「THE NORTH FACE」など人気のアウトドア用品ブランドを店の目立つ場所に配置。「釣具店というと女性にとってどうしても敷居が高くなってしまう。その敷居の高さを低くしたかった」(同社総務担当)>とある。キャスティングは、実はグローブライドの子会社である。

 そもそも、ブームがくると誰が得をするのか。それは、シェア№1の企業だ。それがグローブライドである。同社は精密機器のメーカーであるが、釣り具セグメントの売上げが極めて大きい。2010年5月の発表では、売上高623億のうち、釣具部門が486億円(78%)を占め、競合であり、自転車部品では圧倒的なシェアを持つシマノの釣具部門の売り上げ410億円を抑えている。しかし、シェア№1でも安泰ではない。価格が1桁安い中国・台湾・韓国製品が釣具店の棚を席巻しているからだ。「釣女ブーム」に乗り、さらに仕掛け、新たな価値と顧客を創造することに活路を見出したいというところである。

  さて、そろそろ「釣女」「釣りガール」が本当に流行るのかを考えてみよう。
 マーケティングの4Pで考えれば、製品(Product)は従来にない、女性受けするものが作られた。販売チャネル(Place)も子会社を使って積極的な展開を行なっている。広告・広報・販促(Promotion)は、日経関連に続き、産経関連の記事に載ったため、広報は効き始めているということだろう。価格(Price)は前述の通り、アジア勢に価格勝負をするのではなく、「高価値戦略」を取ることになる。それが受入れられるかがキモであるともいえるだろう。

 ごく一部の従来からの女性ファン以外は、女性にとって釣りは「生き物を相手にする」というという意味では、ランニングや登山以上に未知なる体験、イノベーションである。そこで、E.M.ロジャースの「イノベーション普及論」の普及要件で検証してみたい。

 1.相対優位性=今まで使っていたものと比べ、いかに優れているかが分かりやすいこと。
   今までの趣味との比較となるが、未知なる体験で楽しさを知れば優位性が理解できるだろう。
 2.両立性=当面は今まで使っていたものを捨てることなく、両立できること。
   今までの趣味との両立ということになるが、釣りは現地に行って時間をかけて獲物を手に入れるので、それなりに時間がかかる。無尽蔵に時間を持っている人はいないため、何らかの趣味とトレードオフの関係になるだろう。釣りの魅力が勝るかがカギだ。
 3.複雑性=理解できないほどの複雑性を持っていないことと、逆に当たり前に見えすぎない程度に複雑であるというバランス。
   未体験の女性からは、「釣りって難しそう」という意見も多い。その壁を越えることも欠かせない。
 4.試行可能性=本格的な導入の前に自ら触って効果を認識できること。
   上記の1~3の要件でも、まず「試す」ことが欠かせないことがわかる。また、一般に「釣れない釣りほど楽しくないものはない」ともいう。お試しで成功体験を得ることが必要だ。この要件が最もハードルが高いといえるだろう。
 5.観察可能性=目に見えない効果ではなく、効果が観察・実感できること。
   「魚が釣れなくとも自然に触れるだけで釣りは楽しい」という人もいる。しかし、やはり獲物を手にするという実感は大切だ。それが観察可能性に該当するだろう。やはり、どうやって成功体験を得るかにかかっている。

 普及要件から考えれば、誰か「教えてくれる人」の存在が欠かせないことが見えてくる。
 日経ウーマンオンラインでは、2010年12月から『初心者のための「釣りガール」入門』という連載( http://tinyurl.com/2ekxscj )を始めている。そこでは編集部の女性2名に、男性ライターが指南役となっている。

 DMU(Decision Making Unit=購買決定関与者)という。何らかのモノやサービスの購入に際して、ターゲットに関わってくる人のことである。この場合は、初心者である彼女らに成功体験を与えてくれる人ということになる。

 では、DMUは誰なのか。「彼氏」か?確かにグローブライドは上記の通り、若年層に人気のアパレルブランドとコラボして取り込みを図っている。「A BATHING APE®」は男子にも大人気だ。しかし、初心者同士で「成功体験」を得られるかは、ちょっと危なっかしい。女子ゴルフブームの時には、彼女らにやたらと指導をしたがるオジサマたちがいた。しかし、釣り人は孤独だ。一人で海や川、魚と戦っている。釣り場は「釣りバカ日誌」的な光景ばかりではない。と、考えると、意外にDMUを誰に設定し、働きかけるのかが難しいのである。

 浄瑠璃の常磐津には「釣女」という演目がある。独身の大名と太郎冠者(従者)が、嫁が欲しいと恵比寿様に詣でたら、釣り竿を授けられた。大名がそれを使ってみると、世にも希な美女が釣れ、仲むつまじくなることができた。太郎冠者が焦って自分も釣り糸を垂れると、同じく女性が釣れた。末永く添い遂げることを誓ってから顔を見ると、二目と見られぬ醜女であった・・・という話。

 「釣女ブーム」が本当に流行るためには、まず、釣り上げるべくは女性ではなく、「成功体験をさせてくれる指南役」だ。その必要要件は、美醜などではなく、「下手くそ」ではないこと。太郎冠者のように焦って、「二目と見られぬ」ではなく、女性が「二度とやりたくない」と思うような結果になってしまったら、ブームの火はあっという間に消えてしまうことになる。


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2011.01.04

ホームランは無理?!では、「ヒット商品」はどう作る?

 あけましておめでとうございます。
 本年もよろしくお願いいたします。
 本日より、Blogの更新を再開します。

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 イノベーティブな商品・サービスを世に送り出し、一気に「キャズム越え」を狙いたい。誰しも考えることではあるが、なかなかそれは、ままならぬ。では、2011年をどのように戦えばいいのだろうか。

■確実なヒットが求められる

 2010年に「キャズム」を超え、大ヒットとなった商品といえば、日経MJヒット商品番付2010年の東の横綱・「スマートフォン」が上げられるだろう。サービスでは、2009年に既に西の小結に選ばれてしまっているが、本格的な普及段階という意味では、筆者としては「Twitter」を推したい。しかし、イノベーションを生み出し、普及させるのは「ホームラン」を放つに等しい。日々、ビジネスの打席に立つなら好機に一発を狙うことを諦めてはいけないが、低成長な経済環境では確実なヒットも積み重ねなくてはならぬ。では、どうすれば「選球眼」が養えるのだろうか。

■ヒットを打つためには

 確実にヒットを打つには、まず、世の中と顧客の変化をつかみながら、競合の動きを見逃さず、自社の強みを最大化することである。概念的にいうと難しく感じるかもしれないが、多くの企業が行っているチャレンジである。大切なのは、それを意識的に、ツボをおさえて行うことだ。日経新聞の記事にいくつか興味深い記事が掲載されていたので、それを例に検証していこう。

■高級コンパクトデジカメの狙いは?

 1月1日の日経11面は今年市場に投入される「新顔家電」の特集だ。その1つに「高級コンパクトデジカメ 高解像度のプロ仕様」とある。記事では<コンパクト型の高級志向も強まりそうだ>との予測が示されている。コモデティー化が進み、プロダクトライフサイクル(PLC)は成熟期。シェア確保のための競合と競争が激化して、カテゴリー全体で価格下落に歯止めがかからない。その外部環境・競合環境への対応である。春に発売されるという富士フイルムの「Fine Pix X100」は価格が12~15万円の見通しだという。<一眼レフと同サイズで、1230万画素の画像センサーを搭載><高級ガラスレンズを使用したプロ向け仕様>だとある。
 商品の仕様以上に特徴的なのは、極端に絞り込んだターゲットとポジショニングだ。記事にある同社役員のコメントによれば、<「プロカメラマンの意見を集約して開発した。一眼レフの代替ではなく、機動的に撮影できるサブ機としての利用を想定している」>という。ターゲットはプロカメラマン。しかし、それではいくら何でも狭すぎるので、プロをイメージターゲットとして、ベースターゲットである、セミプロフェッショナル(もしくは、ハイアマチュア)への波及効果を狙っている。ポジショニングは、「サブ機」と明確だ。
 デジカメを手に入れることで実現したい中核的な便益は「デジタルで写真がきれいに撮れること」である。それを実現するものは、「画素数」だ。それを実現するのは、「コンパクトで手軽なボディー」や「いいレンズが搭載されていること」というような要素だ。さらに、中核の実現と直接関係はないが、商品の魅力を高める付随機能はといえば、ネットワークに接続して瞬時にBlogやSNSにアップできる機能などが最近は開発されている。そのようにPLCが進むほどに、勝負のしどころは本筋ではない、付随機能の戦いとなってくるのだ。
  「Fine Pix X100」はデジタルカメラの「製品の価値構造」をもう一度見直して考えていると思われる。サイズは一眼レフと同サイズ。商品写真を見るとレンズ口径が大きい。一般に写真のキレイさはレンズ径の大きさと比例関係にあるといってもいい。コンパクトデジカメでありながら、コンパクトさよりレンズが大きくキレイな写真が撮れることを選んだ形状を持った商品だといえる。つまり、ターゲットを絞り込んで、ポジショニングを明確にすることによって、勝負のしどころを付随機能ではなく、実体である「レンズ」に集中して価値を高めているのだ。記事ではオリンパスも高級コンパクトデジカメへの参戦を表明しているという。

■「エコ」なコピー機の戦略は?

 コモデティー品といえば、オフィスでは「コピー機」がその代表格だ。「複写ができる」という中核は当たり前で、今日のオフィスで稼働しているのは、ファックスもプリントアウトも、スキャンもできる「複合機」になっている。それを実現する実体も、速さ、キレイさ、節電機能などはもはや当たり前。勝負のしどころは、サービス・メンテナンスのよさに移っている。しかし、サービスレベルの向上には限界があり、人が動く部分であるためコストも幾何級数的に高くなっていく。
 同紙14面の「日進月歩の技術革新」という記事では、「事務機 機能毎に通電制御」というタイトルがある。商品写真には「機能別に通電制御が可能な富士ゼロックスの複合機」という説明が添えられている。つまり、前項の高級コンパクトデジカメ同様に、「節電機能」という実体価値を再定義したわけだ。背景にはエコロジーの高まりと、企業のコスト低減化という市場環境がある。富士ゼロックスの「アペオスポート」は従来機が節電/解除を機械全体で行っていたものを、機能毎に4分類した結果大幅に節電解除時間を短くし、消費電力を約7割削減できるという。
 エコとコスト削減のため、節電機能はもはや当たり前。しかし、機械がウォームアップするまでの時間は何ともイライラする。しかし、ユーザーはそれが「当たり前」と思って我慢してしまうようになる。結果的に、トラブル時の対応スピードなどに目が行く。その「当たり前」になってしまっているものを、見直し、細部まで分解して価値を高める工夫には学びたい。

■「当たり前」から「引き算」して生まれたLCC

 「当たり前」と思いがちなものを見直すには、一度自社のバリューチェーンを「引き算」してみることも有効だ。元旦の日経記事にもあちこちにキーワードとして頻出していたLCC(格安航空会社)。昨年、全日空が参入を決め、中国の春秋航空が茨城空港に就航、マレーシアのエア・アジアXが羽田空港に就航して話題になった。通常の航空会社が客室内のサービスを「フルサービス」で提供するのに対し、徹底した省略を行う。
 機内サービスだけではない。[調達]→[販売]→[運行]→[サービス]という、航空会社のバリューチェーンの細部にわたって見直し、「高効率化のための引き算」を行っている。まず、調達機体は統一。顧客ニーズや路線に応じた機体の多様性は引き算だ。その結果、調達条件交の有利さや、全路線での使い回による運行効率や、メンテナンスも効率化えきる。航空券の販売はウェブサイトでの予約を中心として中間マージンを引き算だ。運行は機体にできるだけ多くの客席を作って、低廉な価格で客を集めて搭乗率を高め、高回転で機体を回していくという運行が基本となっている。
 上記のような航空会社は、以前なら誰しも考えも付かなかったが、米・サウスウエスト空港やアイルランドのライアンエアーが確立したモデルは国際的にはすっかり定着化して、今、日本市場にも変革をもたらそうとしている。

■環境の変化と顧客ニーズの変化が「引き算」のカギ

 では「引き算」は何を基準に行えばいいのか。昨年12月29日の記事に「ヨーカドー・イオン セルフレジ導入拡大 電子マネー普及が後押し」という記事が掲載された。<ヨーカドーは2012年春までに全体の1割強にあたる20店前後に拡大。イオンは来春までにグループのスーパー(約1,500店)の2割強で使えるようにする>とある。
 世の流れは少子化高齢化・少人数世帯化が加速している。都市部集中も進んでいる。それに対応して、スーパー各社は都市部に小型店舗を投入する。コンビニエンスストアも生鮮品を取りそろえたり、生鮮コンビニを新たに出店したり既存店を転換したりしている。コンビニの武器は、コンパクトな店舗と、とりあえず必要なものが揃う品揃えだ。コンビニが競合として浮上してくる。
 スーパーにおける顧客のニーズ、及びニーズギャップは何か。次第に増えてくるのは「買い物は少量しか買わない」という顧客だ。そこに「少ししか買わないのにレジに並びたくない」「コンビニ並みにスピーディーに買いたい」というニーズが発生する。そこで、バリューチェーンにおける「レジ精算」というプロセスを「引き算」するのである。元々は、スーパーも「清算後に購入商品を袋に入れて顧客に渡す」というプロセス省略し、購入品をカゴに入れたままレジ袋と共に渡すという「引き算」を行っているのだ。再度、市場の変化と顧客のニーズに注目してバリューチェーンを変更しても、いけないことはなにもない。

 各社・各業界が各様のチャレンジを行っている。それは、ホームランは無理でも、ヒットを出すための工夫だ。市場環境は刻々と変化している。その変化球をヒットにせずに、見送りばかりしていたら、「アウト」になるのである。


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