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2010.12.07

日経の「ブランド広告」は誰がために?

 街にクリスマスソングが流れ、イルミネーションがツリーで瞬く季節がやってきた。男性諸氏は彼女・奥方へのプレゼントは決まっただろうか?

 12月6日の夜、タウンウォッチのため銀座通りを歩いていて、クリスタル製品・アクセサリーで人気の「スワロフスキー(Swarovski)」の前を通りがかった。店舗を覗いてみたら、多数の男性がショーウィンドウにへばりついていた。
 そういえば、朝に読んだ同日の日経MJの連載コラム「マーケティング 八塩圭子ゼミ」には、「ブランドの神通力」というタイトルでクリスマスプレゼントには「ブランドものを贈れば間違いがない」と書いてあった。集団と社会との「同調」という消費者心理や、日本人独特の価値観を説明する例示として用いている論だが、「さすが八塩先生、バブルを知っているオトナは言うことが違う!」と、同世代として密かに思ってしまった。

 八塩先生は記事中で「なぜ人は高級ブランドのファッションやバッグを身につけたいと思うのか」と問うているが、その「理由」は記事に書いてある。本稿では、いわゆる「高級ブランド」という多少背伸びをしなければならない品々は、どのような購買意志決定がなされていくのかを考えてみよう。

 先週の日経新聞の夕刊を思い出せるだろうか。記事ではない。広告だ。きらめく星の如きブランドもののオンパレード。毎年恒例、日経名物(?)のクリスマス・ブランド特集である。
「覚えていない・・・」と思った人。では質問。日経新聞の夕刊は誰が読んでいる?そして、そこに掲載されている広告を主体的に見た?
 全ての人が該当することではなく、未婚・一人暮らしなどの場合は条件外だが、妻帯者の家庭では多くの場合、夕刊は家にいる妻が先に見る。そこでブランドものに目が行き、興味に駆られてしばし眺め、欲求がかき立てられ(AIDMAの法則のA~Dの過程である)、該当ページを開いて、帰宅した夫の目に触れやすい場所にこれ見よがしに置いておくのだ。静かなるおねだり。もしくは、無言の圧力。いや、もしかすると赤ペンで商品に○が付けてあるかもしれない。ポストイットが貼ってあるかもしれない。もはや明確な示威行為である。

 無言の圧力や示威に屈した夫は、いつ行動を起こすのか。ブランドショップにとっては今週あたりが前哨戦。来週あたりが決戦だ。サラリーマンのボーナス支給日がそのあたりから始まるからである。つまり、冒頭のスワロフスキーの店の男性陣は、ボーナス前に、購入に向けた「品定め」をしていたわけだ。
 「でも、日経に載っていたブランドは、“スワロ”はまだかわいい方で、目が飛び出るほど高くて“ちょっと背伸び”どころか“清水の舞台”だ」と思った人。その人は比較的若い人ではないだろうか。今日、年齢と所得は必ずしも正比例しないものの、年功序列は根強い。そして、「若者の新聞離れ」と言われるように、若年層の購読率は高くはない。日経の夕刊を宅配で購読し、隅々まで読んでいる人は年齢層が高い。若年層は「電子版」への移行も多いだろう。故に、読者は収入や生活に余裕があり、高級ブランドもの清水の舞台から飛び降りなくても購入することができる。そうしたターゲットを狙った広告展開なのである。

 上記で「ターゲット」と書いた。確かに直接的なターゲットは、日経夕刊の読者で、比較的金銭的に余裕のある男性層ということになる。しかし、前段で夕刊広告をめぐる、妻の動きを記した。その点も購買にいたる原動力として見逃せない。
 「DMU」という。Decision Making Unit。「購買決定単位」と訳されるが、「モノの購買に関与する人々」という意味だ。ターゲティングにおいては、時に単独のターゲットだけを見るのではなく、「DMUが誰で、どのような関心事を持っているのか」を洗い出して、適切に働きかけを行うことが欠かせない。
 上記の例では、夫はターゲット(Target)であり、購買意志決定者(Decision maker)だ。ターゲットがプレゼントに迷っている時。もしくは、関心を示さない、もしくはあろう事か忘れている時、それに対して、強力な影響者(Influencer)として妻が関与するという関係になる。さらに、妻が働きかけた時、夫は「日経に載っているのだから、品物に間違いはないだろう」と信用する。日経はエンドーサー(endorser:裏書人=裏付け・信用力を与える人)として作用する。日経MJの読者なら、「ブランドもので間違いなし」と言った八塩先生もエンドーサーである。

 商売は完結しなければキャッシュを生まない。誰が、どのような関心事を持っていて、いつ、だれに、どう働きかければ、「購買」に向けて人を動かしていくことができるのかという詳細な設計が欠かせないのだ。
ジングルベルを聞きながら、店頭でプレゼントのラッピングを頼む時に、そこにいたるまでの過程を思い出してみて欲しい。


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