ハンバーガーチェーンのフレッシュネスバーガーが、自社ブランドロゴ入りの生活雑貨を店舗で販売するという。フード業界からの「ライフスタイル事業」へのドメイン拡張ともいえるが、その戦略は伸るのか、反るのか。
12月12日付日経MJ・フードビジネス面に「フレッシュネス 生活用品など20品投入 PBでブランド力向上」という記事が掲載された。<扱うのはタブレット(12個入りで250円)や「トートバッグ」(500~600円)など20品目を予定している。自店の廃油を再利用して作ったせっけんや有機栽培にこだわったアメなどの菓子も現在開発中だ>と記事にある。同社社長も<「オーガニックやナチュラル感にこだわりたい」>(同記事)と製品化のコンセプトを語っている。
オリジナル商品を展開する目的は大きく2つあるようだ。1つは「売上げ向上」。目標は店舗売上げの1割増という。もう1つが、「ブランド力の向上」。<現在、7万人が登録する携帯電話の会員向けに、同社ロゴの入った「エコバッグ」など数品目をプレゼントとして開発してきた。会員から好評なことから商品化に踏み切った>(同記事)とある。商品化への決断は、同社の顧客基盤に対する自信が背景にあるのだろう。<20~30代の女性を中心に単価の高いこだわったハンバーガーなどが人気で、業績は好調だ。「フレッシュネスファンが増えていることが要因」>と同社社長がコメントしている。
フレッシュネスバーガーのハンバーガー業界におけるポジションはどのようなものなのか。業界シェアで見てみよう。日経新聞の過去の調査で2008年と2005年の数字がある。※以下、( )内が2005年の数字
1位 マクドナルド 75.4%(70.1%)
2位 モスバーガー 14.2%(17.4%)
3位 ロッテリア 1.5%(6.6%)
4位 ファーストキッチン 1.5%(1.8%)
5位 フレッシュネスバーガー 1.5%(1.6%)
明らかにマクドナルドの一人勝ちであり、勢いを増していることがわかる。3位以下のチェーンはその存在自体がマクドナルドにかき消されるなり、飲み込まれるなりしそうな状態だ。フレッシュネスバーガーが自社のブランド力を向上させ、顧客の囲い込みを図るのは生き残りがかかっているのだともいえる。
その意味でも「フレッシュネスファンが増えている」という好機に乗って成長戦略を描かなければならない。そのための選択肢は「アンゾフのマトリックス」で考えれば4つだ。
マトリクスは、縦軸に「既存市場で勝負するのか、新市場に展開するのか」という軸をとり、横軸に「既存製品で勝負するのか、新製品を開発するのか」という軸をとる。次にその掛け合わせで、既存市場を既存の製品で深掘りする「市場深耕」、新市場に既存製品を展開する「新市場開拓」、既存市場に新製品を投入する「新製品開発」、新製品を新市場に展開する「(狭義の)多角化」の4象限を作る。
フレッシュネスバーガーの展開は、自社ブランドに囲い込んだ顧客に新商品を提供する「新製品開発」にあたる。マイケル・ポーターによれば、成長戦略としては、既存製品の使用用途を拡大したり、使用機会を増大させる提案をしたりする「市場深耕」が最も手堅く、その次が「新製品開発」であるという。そのココロは、どちらも既存顧客を相手にするため、ニーズも把握しやすくカン所がわかるからだ。その意味では、フレッシュネスバーガーの戦略は間違っていないといえる。
しかし、別の見方をすれば少々危うい気もする。
「ドメイン(domain)」という考え方がある。直訳すれば「領地・領土」のことだ。ビジネスにおいては、企業が戦う「土俵」を現わす。自らが有利に戦える土俵を選ぶことが戦略の基本である。また、何らかの時流の変化を捉え、有利な土俵を構築することも重要だ。
マクドナルドのドメインは、フレッシュネスバーガーと同じ「ハンバーガーレストラン市場」である。そこで十分な領地(シェア)を既に獲得しているため、「1000円以内のカジュアルな外食市場」にドメイン(戦いの土俵)を拡張している。ファミレスその他、低価格帯の外食の市場規模は8兆円。そこをどれだけ取り込めるかという戦いを展開している。
フレッシュネスバーガーはマクドナルドをはじめとする、上位チェーンとの競合しない収益源を求めて「生活雑貨市場」、もしくは「ライフスタイル事業」にドメインを拡張した。そこで成功する論拠としては、「携帯会員向けのロゴ入りエコバッグなどのプレゼントが好評だったから」ということになる。
「フレッシュネスファンが増えている」ということから考えれば、ロゴ入り商品の販売は受入れられるかもしれない。ハンバーガーではなく、ブランドとしてのコンセプトである「オーガニック&ナチュラル」なグッズを販売するのは、「関連商品の販売」を意味する「クロスセリング」にあたる。そこで1割の売上げ増を狙うという戦略は1つの選択肢ではある。
しかし、それを買うのは非常にコアなファンではないだろうか。なぜなら、プレゼントとして「もらう」と「買う」のは大きな違いがあるからだ。また、生活雑貨をあえてフレッシュネスバーガーで購入しようというKBF(Key Buying Factor=購入要因)となるまでに、同社ブランドがパワーを持っているかが問われる。
もし販売をしないのであれば、オリジナルグッズを商品購入額に応じてポイントを蓄積して交換するミスタードーナツと同様な展開も考えられる。ミスドの売り物はあくまでドーナツ。グッズは販売しない。お金を出しても買えないからこそ、プレゼントほしさにドーナツを食べに来てポイントをためる人も少なくない。
ミスドと同様に、魅力的な景品で本業の売上げを押し上げている例として、化粧品通販の「再春館製薬」がある。同社は基礎化粧品を中心とした商品を販売しているが、購入額に応じて顧客にポイントを付与している。ポイントに応じた交換景品としては、サプリメントやヘアケア・ボディーケア品などが多数取りそろえられており、カタログ化されている。どの賞品も「お金を出して買いたい」と思わせる品物だが、同社は「自社のドメインはあくまで化粧品を売る会社」として、販売は行わない方針だという。そして、その賞品が購入顧客の購入額を押し上げているのも確かだ。
本業の販売量を増す施策を「アップセリング」という。フレッシュネスバーガーの今回のもう一つの狙いである「ブランド力の向上」に関しては、販売ではなく景品として、本業の商品=ハンバーガーと関連メニューの販売量を増やす。利用頻度を高めるという方法も選択肢としてあったといえる。つまり、アンゾフのマトリックスにおいて最も手堅い「市場深耕」である。
フレッシュネスバーガーの店舗数は、現在約200店。その全店に展開するのは来年春だという。どのような結果になるのか、注目したい。
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