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2010.11.10

伊藤園「TULLY'Sブランド製品CM大攻勢」への道のり

 伊藤園がTULLY'S(タリーズ)コーヒーブランド商品のCMで大攻勢をかける予定のようだ。4月末までに6,000GRP。年間1万GRPとの計画もある。ざっくり言って、半年で1人60回、年間100回はそのCMを見ることになるほどの大攻勢だ。その戦略的な意図、そして、そこにいたるまでの道のりを考えてみよう。

 <伊藤園、缶コーヒーに6000GRP タリーズ新商品で攻勢>(日本の広告会社・宣伝会議11月4日)
 http://www.ad-navi.jp/news/adti101104d.html

 記事には<伊藤園は3日、1日に発売する缶コーヒー新商品2種のテレビCMの放送を始める。10月29日、都内で開いた発表会で「出稿量は2011年4月末までに6000GRPを投下する」と社三雄・専務取締役商品企画本部長が明らかにした。社専務は「1年間では10000GRPは必要」との見方も示した>とある。
※GRP(Gross Rating Point)=一定期間に流したCM1本ごとの視聴率の合計

 かなりの広告攻勢であるといっていい。そのワケは、「今、乗っている波に乗り続けるため」だ。日本の飲料メーカートップ3といえば、長く日本コカ・コーラ、サントリー、キリンビバレッジという指定席が続いていた。その第3位を伊藤園は奪取したのである。

 8月19日の 読売新聞に業界の変動を伝える記事が掲載されていた。
 <清涼飲料3位攻防戦…伊藤園、キリンビバを逆転か>というタイトルで、<調査会社「飲料総研」によると、今年上半期(1~6月)の販売量は、キリンビバが前年比7%減の7930万ケースで、伊藤園が5%増の7920万ケースと詰め寄った>と伝えている。伊藤園の好調の主因は「お~い、お茶」の味改良と、紅茶飲料(ティーズティー)によるものとしている。
 続いて10月29日の日経新聞は、<伊藤園、清涼飲料3位に 新分野開拓が奏功>というタイトルで、<清涼飲料各社の今年1~9月の販売量で、伊藤園がキリンビバレッジを抜き、初の業界3位となった>と、逆転の結果を伝えている。

 伊藤園「お~いお茶」は緑茶カテゴリーのトップブランドで、他にも「充実野菜」などの野菜飲料も知名度は高い。しかし、それ以外のカテゴリーが弱すぎるという弱みがあった。そこで、<飲料分野で販売量が最も多いコーヒー市場に切り込んだ。「タリーズ」ブランドで昨年11月にコーヒー飲料を投入。紅茶飲料でも昨年8月に「ティーズティー」という新ブランドを立ち上げた。テレビ広告などで消費者にもブランドが浸透した>(同日経新聞)ということが勝因だ。
 しかし、ローマは一日にしてならず。新製品がすぐに作れるわけではなく、ましてや広告の出稿量を増やせばシェアが増えるわけではない。

 上記の日経の記事にもあるように、飲料業界の一番の稼ぎ頭はやはり「缶コーヒー」。日本コカ・コーラのジョージアは、ブランド全体では年間4千億の売上げともいわれている。また、伊藤園の茶系飲料のもう一つの柱である野菜飲料に比べて、原材料費率が低く収益性もいいのである。
その、缶コーヒー市場に参入するべく、伊藤園は数年間の歳月と資金を投じてきた。
 2006年にタリーズに出資・連結子会社化し、2007年にチルドカップの「TULLY'S COFFEE BARISTA'S SPECIAL」をタリーズと共同開発して、関東甲信越のコンビニで限定販売。その2年後である2009年に、タリーズブランドの缶コーヒーを全国販売したのだ。

 伊藤園が缶コーヒーにこだわるのは、稼ぎ頭であり、収益性がいいためだけではない。
 飲料メーカーだけではないが、メーカーの力の源泉の一つは「チャネル支配力」にある。つまり、「売り場をいかに確保するか」である。そして、特に飲料業界の場合、自動販売機の保有台数が販売力の雌雄を決する。日本には265万台の自動販売機が設置されている。(2006年度末時点:2007年12月16日日経新聞 ※総設置台数は統計によって誤差があるので注意)。そのうち、94万台がコカ・コーラの自販機だ。同社の力の源泉は自販機の力に負うところが大きい。利益率が薄くなるコンビニやスーパーなどの販路に頼らなくとも、自社で売り場が展開できる。設置さえすれば、自由に自社製品のラインナップを展開できることも魅力である。
 しかし、伊藤園には自販機に積極展開できない理由があった。同2006年度末時点で12万1000台に留まっている。自販機を展開するには、上記コカ・コーラのように並べるべき商品ラインナップが必要となる。伊藤園には強い炭酸の刺激がクセになる「天然水ソーダ」などもあるが、やはりイマイチマイナーな存在だ。ましてや、街ナカの自販機のユーザーは9割が男性で、売上げの半分は缶コーヒーが稼ぎ出しているという。缶コーヒー不在では自販機を設置しても画竜点睛を欠くことになる。その意味でも、時間がかかろうとも、「売れる缶コーヒーを作って育成すること」が大きな課題であったわけだ。それが、タリーズ買収から4年間をかけて達成しようとしているわけだ。

 売れる商品の目処が立ったら、いよいよ売り場拡大を急がなくてはならない。2009年10月6日の日経新聞に「伊藤園、大塚ベバレジ傘下の自販機運営会社に出資」という報道があった。14億円を投じたという、その狙いは伊藤園の商品を、大塚ベバレジ傘下の自販機運営会社の持つ3万台の自販機に入れることである。
 国内の自販機は飽和している。伊藤園は年間1万台の自販機をコンスタントに設置してきたが(2007年7月26日放送・日経スペシャル「ガイアの夜明け」)、<自販機の設置市場は成熟しており、設置台数は05年の228万台をピークに前年を下回り続けている。全国清涼飲料工業会(東京都中央区)によると「限られた新しい設置場所の奪い合いになっている」という。>(2010年8月24日神奈川新聞)。そんな環境で、一気に商品の販路である自販機を確保するために、多額の投資を決断したのだ。

 自販機で売れる商品を展開することは、もう一つ大きな意味がある。
 自販機が飽和する。自然と過当競争が起きる。ましてや長引くデフレの世の中である。昨今、街ナカの自販機を見れば、100円前後の「安売り専用自販機」や、通常の自販機でも10~20円の値引き販売をしているのが目に入る。商品の魅力を高め、価格を維持すること。それも欠かせない戦略なのである。

 これからイヤでもタリーズの缶コーヒーのCMを目にすることになるだろう。しかし、その裏には、CM(広告・Promotion)だけでなく、魅力ある商品(Product)の開発と自販機という販売チャネル(Place)の確保に多額の投資をして、価格(Price)を維持して販売をしようという、マーケティングミックス(4P)がきれいに整合した中・長期的な戦略が描かれていたのである。


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Comments

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Posted by: Elder scrolls Online beta | 2013.10.21 01:51 PM

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