ピンポイントなターゲット像に賭けるワールドのSC対策
単純化すれば、世の中には2種類の人間しかいない。「買ってくれる人」と、「買ってくれない人」。問題は、それが「誰」なのかを特定することが難しいことだ。それ故、「ターゲティング」に悩むのだ。
11月24日付日経MJの連載コラム「戦略拠点明日を拓く」に極めて秀逸なターゲティングの例が掲載されていた。神奈川県相模原市にある、イトーヨーカドーのショッピングセンター「アリオ橋本」にワールドが展開する「スマーティー」。見出しに「セレクト感、40代女性に的」とある。しかし、ありがちな「40代女性がターゲット」などという漠然、かつ広範なターゲティングはしていない。そこがミソなのだ。
記事には囲みでポイントが3つまとめられているので転載する。
(1)セレクトショップなどで育った40代以上の女性を狙い、買い付け・雑貨を充実
(2)30代の感性で50代半ばまでの体型に対応できるよう、大きめのサイズまで用意
(3)ビートルズの公認グッズを扱い、週末などに訪れる男性客の需要も取り込む
記事の内容を検証してみよう。商品(Product)は、「スマーティー」ブランドの商品は3割に抑え、ポイントの(1) にあるように、外部からの買い付けた服飾雑貨、クッションや自転車関連などの生活雑貨。衣類の品揃えはポイントの(2)にあるデザインとサイズの取りそろえである。また、接客も店の提供価値の一部、付随機能として充実させている。百貨店での接客経験のある年齢が高めの販売員を揃えている。また、(3)のビートルズの公認グッズが他に類を見ない品揃えの特徴だ。価格(Price)は、カットソーで2800円、雑貨で1900円とSCで買いやすい水準に設定しながら、高めの商品まで幅を持たせてあるという。
では、ターゲットはどうか。「30代の感性で50代半ばまで」とあるから、いわゆる「アラフォー」が一番近い表現となるだろう。しかし、もっと具体的に設定している。「ファッションビルやセレクトショップ世代で、今は結婚して郊外に住む40代」とある。さらに、ビートルズの公認グッズが狙うのはサブターゲットである男性であるが、そこで利益を上げるのが主たる目的ではない。「奥さんが買い物をしている間に男性も楽しめる」という配慮であるという。つまり、「週末に夫婦で買い物にSCを訪れる夫婦」がターゲットなのだ。とかく夫は妻の買い物に付き合うことを面倒がる。そうした夫をDMU(Decision Making Unit=購買決定関与者)としてネガティブな行動から積極的に足を運ばせる戦略だ。
上記を見ると、ターゲットである40代女性の姿が非常に具体的に見えてこないだろうか。若い頃の購買行動、現在の暮らしと購入する商品の価格帯や選択基準。さらには家庭内のDMUである夫との週末の行動と、その夫の心理まで。恐らく、「スマーティー」のターゲット設定には「ペルソナ」の手法が用いられている。
「ペルソナ(persona)」という言葉は「仮面」や「登場人物」という意味を持つ。つまり商品のユーザー像を仮想の人格を詳細に作り上げていく手法だ。ペルソナを作り上げると、ターゲット像が極めてリアルになることによって、ターゲットのニーズや課題、購入動機などが理解できるようになり、今まで漠然としていたターゲット像とのギャップを埋めることができるようになる。また、関係者一同がターゲット像を共有しやすくなることから、マーケティングプランの全体の策定などや、詳細な販促プランや接客方法まで落とし込みをする時でもブレがなくなるというメリットがある。
ペルソナを作る時は、できる限り詳細に、生身の一人の人物像を作り上げていくことが肝要だ。例えば、「西橋本4丁目のライオンズガーデンに住む金沢光恵さん44才は、○○大学を卒業後、商社の○○に勤務。○○自動車に勤務している3つ年上の夫との結婚を機に26才で退職。30歳で娘を出産。現在の趣味は紅茶とベランダガーデニングで、ハーブの栽培に凝っている。独身時代の買い物は・・・」というような具合だ。
ペルソナのように、極めて具体的なターゲット像を描くと、必ずといっていいほど「そんなに絞り込んだらターゲットが少なくなってしまう」という意見が出る。しかし、冒頭に記したように、世の中には「買ってくれる人」と、「買ってくれない人」の2種類の人間しかいない。一度、思い切り絞り込んで、「こんな人なら、必ず買ってくれる」というターゲット像を描いてみることだ。そして、そのターゲットに自社がどの程度、到達(Reach)可能かを考え、どの程度の規模(Realistic Scale)があるのかを考える。さらに、そのターゲットを取り込むことによって、ターゲット像の異なる新たなターゲットに波及効果(Ripple Effect)があるかも考えるのだ。そうして、まだ「ターゲットボリュームが足りない」ということになったら、ターゲット像の条件を緩めて、「買ってくれる」という可能性が低くなりすぎない程度まで広げていけばいい。
上記のやり方に厳密性を求めるなら、市場調査などの定量データにユーザーインタビューなどの定性データを加え、最後に想定に想定を重ねて一つの人物像を作り上げていくことになる。そうすれば、規模などが定量的にとらえられるようになる。しかし、定量的な確からしさにこだわりすぎるより、自社で設定しようとしているポジショニングや、商品をはじめとしたマーケティングミックス(4P)が明確にできることを重要視することだ。
「スマーティー アリオ橋本店」のターゲットが、単純に「40代女性」や「アラフォー女性」だったら、どこのSCにもある没個性的なショップになっていることだろう。同店はそれを避けるために、ターゲット像を絞り込んで具体化し、先鋭的な特徴を出しているのである。
スマーティーは神戸市の「イオンモール神戸北」に2号店も出店しており、2店の結果を検証して来春以降、店舗を拡大するという。果たして、「スマーティー」の3号店以下が続々と登場することになるのか、非常に楽しみだ。
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