フラット化する大学生・校風の希薄化傾向の原因を考察する
「バンカラ」とか「ハイカラ」とか、例示するには既に死語だが、かつて各大学には強烈なカラーが存在した。カラーというのでなければ校風といっていいかもしれない。それが希薄化している気がする。ナゼだろうか。
筆者の母校は東洋大学で、現在は本業の傍ら青山学院大学で非常勤として教鞭を執っている。大学卒業の年は1989年。バブル経済真っ盛りだった。その頃の青学のイメージは、お金持ちで、とってもオシャレで「ナウなシティーボーイ」で、「女の子にモテモテ」な感じだった。一方、当時の東洋大生は、入学金や授業料の安さもあってか地方出身者も多く、どこか垢抜けない感じが漂っていた。(※個人の感想です)
ところが…20年以上経った今日、教壇に立つために通う表参道の青学キャンパスと、卒業生として図書館の蔵書を利用したり知人の教員を訪ねたりと訪れる白山の東洋大キャンパスで、学生の雰囲気にそんなに差異がなくなっているように感じるのだ。
個人の感想だけではない。過日、ある業界の人事担当者が一堂に会する懇談会で話をしたところ、採用担当者も同様に様々な大学の学生から感じる雰囲気に差異がなくなっているという。あの、早稲田・慶応というかつては青学・東洋以上に両極といわれていた大学の学生ですらそうだという。
ナゼ、そうなったのか。マーケティング環境分析的に考えてみよう。PEST分析(マクロ環境分析)だ。
■政治的な影響要因(Political)
Politicalには「規制事項の変化」も含まれる。問題は「就職協定」だ。1994年に国会で当時の鳩山邦夫労働大臣は「経済界と文部省の方で話し合って自主的にやっていること」と答弁している(Wikipediaより)。つまり、正確には政治や法律ではないながら、企業と大学・短大の間の間で結ばれていた1996年に廃しされた影響は極めて大きい。翌1997年以降、各企業側・学校が独自基準で動き始め、就職活動年々早期化。現在、四年制大学は協定が存在していた頃の4年次の夏~秋に始まっていたものが、3年次の初秋から始まっている。
■経済的な影響要因(Economical)
91年のバブル崩壊後の93年~2003年は「失われ10年」と呼ばれているが、景気循環で考えると、2002年3月~2007年11月まで69ヶ月間続いた、いわゆる「いざなみ景気」があった。しかし、あまり消費者には実感がないまま、秋にリーマンショック~世界同時不況が勃発した。
前項の就職と関連して、「就職氷河期」といわれる期間は失われた10年初年の93年~2005年といわれている。日本生産性本部が毎年発表している「今年の新入社員のタイプ」では、2007年は「デイトレーダー型」などと名付けられ、「景気の回復で久々の大量採用だったが、氷河期前とは異なり、細かい損得勘定で銘柄(会社)の物色を継続し、安定株主になりにくい」として、一時的に売り手市場だったことが判る。しかし、09年からは「超・氷河期」といわれる状況になった。就職活動はますます熾烈を極めることとなっている。
就職だけでなく、在校生の生活にも昨今の不景気が多大な影響を与えている。
2010年2月10日に、読売新聞に、「大学生への仕送り額ダウン、25年前の水準に」という記事が掲載された。「親元から離れて暮らす大学生への仕送り額が、25年前の水準まで落ち込んでいることが10日、全国大学生活協同組合連合会(東京)の調査でわかった。」ということだ。
では、「アルバイトをすればいいじゃない?」といっても、それもなかなかままならない。就職活動は年々早期化し、激化している。かといって単位取得のためには授業にも出なければならない。昔の学生のようにアルバイトをびっちり入れることができないのだ。
■社会的な影響要因(Social)
日本の生産年齢人口(15~64才)は1995年をピークに96年から減少。97年から少子化社会といわれるようになった。その影響で2007年頃から大学の入学希望者総数が入学定員総数を下回わる「全入時代」に突入。各大学の生き残りが始まった。
その中で、大学の入学金・授業料は初期費用を安くして授業料を高めにするなど様々な徴収方法の変更をしたり、奨学制度の整備をしたりと、相対的に学生及び親の負担を軽減して多くの学生を集める傾向が各校で強まっている。その結果、大学間での費用格差が減少している。
学生のカルチャーやファッションに注目してみると、かつては男子学生でいえば、「ホットドッグプレス」や「ポパイ」、「メンズクラブ」「メンズノンノ」というような雑誌からの情報に偏向していたが、インターネットやモバイルの発達によって、学生・若者同士の生の情報がリアルタイムで入手できるようになった。また、ショッピングも流行のエリア、店に行かずともECでマストアイテムが各日におさえられるようになった。また、買い物のしかたも、お手本コーディネイト例をそっくりそのまま購入する「コーデ買い」(←ちょっと言葉古い?)も一般的になっているようだ。
買い物に言及するならば、現在の若者は「好景気を知らない世代」であり、かつてのバブル世代にあったような、贅沢で人と違う目立つための消費には関心を示さない。身の丈消費はファストファッションやユニクロなどの大量生産・大量販売モデルであるSPA型のブランドに人気が集まる。
■技術的な影響要因(Technological)
友人や仲間とのコミュニケーションにも、前項の情報やモノの入手にもデジタルデバイスは欠かせない。しかし、それらは購入費だけでなくランニング費用の通信費負担が重い。ある青学の学生に聞いたところ、スマートフォンとPCの両方を使用している彼は、1ヶ月のアルバイト代の3割は通信費に費やすという。ましてや前述の通り、アルバイトをする時間は限られている。仕送りも少ない。全体として少ない可処分費用が侵食されてしまうのだ。
PESTの項目を洗い出してみると、各項目の意味するところは各大学のカラーを構成する学生自身の環境や志向がフラット化していることがわかる。
少子化による全入時代において、大学の生き残りのために入学金・授業料格差は減少して、金銭面での入学ハードルは全体として下がった。
入学後の生活は親からの仕送りが減る一方で、全ての学生にとって欠かせなくなっているデジタルコミュニケーション機器と通信費が誰にも等しく支払いを発生させている。さらに3年次以降は就職活動でアルバイトも制限され、自由になる時間も収入も少なくなる。学生間の「貧富の差」は減少する要因が多くなっているといえる。
一方、ほぼ全学生がデジタルデバイスを使用していることから、情報へのアクセシビリティーとリアルタイム性が高まり、情報格差がなくなった。情報を得て購入するモノは大量生産・大量販売型が多くなっている。全体としてはファッションや情報感度は高まるが、一方で没個性化は否めない。
つまり、大学の入試難易度の差異は相変わらずあるものの、金銭的な入学のしやすさは全体的に低くなる一方、学生を取りまく、金・時間・モノ・情報という要素において、個々人の差がなくなっている。その結果、個性がフラット化した個々人が各大学に散らばっているという状態が、「大学カラーの希薄化」を招いているのだと推察できる。
大学カラーの希薄化は、卒業生にとってはゆゆしき問題であり、嘆かわしき自体かもしれない。しかし、大学カラーの希薄化は時代の趨勢だろう。それに、ひとたび社会に出れば、「○○大学出身」という肩書きは以前のように意味をなさなくなっている。前述のある業界の人事担当者も「出身大学は問わない。人物本位だ」と口を揃えていた。
大学生を取りまく環境は厳しく、また、大学生だけでなく没個性化・フラット化は現代社会全体の傾向かもしれない。しかし、筆者は大学生に就職のためだけではなく「個性のフラット化」に抵抗して欲しいと思う。「人と同じ自分」はいない。「唯一無二の自分」を自覚することが、生きていくための力になると考えるからだ。
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