「はみ出す」ロッテリアは何を目指しているのか?
バンズから大きくはみ出したパティ代わりの肉が大迫力を醸し出す、ロッテリアの『はみだしステーキバーガー』。いい肉(1129)の日である11月29日に期間限定で発売が開始された。一体、何を目指しているのだろう。
〜ロッテリアから、"年に一度のご褒美"バーガー 新登場!〜(同社ニュースリリース)
http://www.lotteria.jp/news_release/2010/news11260001.html
上記によると、今回の商品は一年間の愛顧の意を込めて「ご褒美」をコンセプトとしたという。「自分へのご褒美用バーガー」というわけだ。<"ご褒美"というコンセプトに相応しく、バンズからはみだすボリュームの「ステーキ肉」>を特徴としたとある。
「ステーキ」が「ご褒美」といわれると、昭和の香りを感じてしまうのは筆者だけであろうか。「ビーフステーキ」。より的確に表現するなら「ビフテキ」。『語源となったのはフランス語のbifteckで、これをもとに日本では長らくビフテキと呼ばれた。』とWikipediaにも掲載されている。
ロッテリアが「はみ出すほどのボリューム」を演出するのは、実は昨年に続いてである。昨年は「メンチカツ」であったので、大出世だ。
ロッテリアが130gの“巨大メンチカツ”入りバーガーを発売2009年10月2日 東京ウォーカー(2009年10月2日 東京ウォーカー.)
http://www.lotteria.jp/news_release/2010/news11260001.html
価格は今回の「はみ出しステーキバーガー」が、<セット価格は、いい肉(1129)の日にちなみ、1,120円(1,129円の切り捨て金額1,120円)でご提供>(リリース)であるのに対し、昨年の「巨大メンチカツ入りバーガー」は<フレンチフライポテトMとドリンクRをつけたセットでも620円>(東京ウォーカー)とリーズナブルな価格設定であった。
ご褒美とリーズナブルでは方向性が逆に感じるが、通底しているのは「ガッツリ系」である。Twitterでも今回のはみ出しステーキバーガーの話題では、「どうやって食べるんだ?」「喰いきれるか?」「しかし、食す!」と、ガッツリ戦士たちの話題をさらっていた。
もう一方でロッテリアは「味」をも極めようとしている。2007年秋から、日本のファストフード業界で初めて使用したという、高コストなナチュラルチーズと、豪州産牛肉と豚肉の背油ミンチのパティだけのシンプルな味付けで勝負した「絶品バーガー」を発売。大人気を博した。2009年7月には、「おいしくなかったらその場で商品代金をその場で返金」という保証までつけて、「絶妙なバランスのおいしさを実現した王道バーガー」をコンセプトとした「絶妙バーガー」を発売。「美味しくない」という返金率はわずか0.2%に留まった。そしてこの秋、テレビ番組とのコラボレーションで、「イタリアンの貴公子」ともいわれる川越達也シェフの手による「イタリアンチキンバーガー」を期間限定発売した。
ガッツリと美味しさ。と、くれば、もう一つの方向性は「財布にやさしい安さ」だ。それに応えるのが「うまいやすいメニュー」。ハンバーガーや唐揚げ、アップルパイ、ドリンクなどが100円で提供され、マクドナルドの100円、120円メニューにも負けていない。
ハンバーガー業界のリーダー企業といえば、無敵の「コストリーダー戦略」をとる「日本マクドナルド」だ。ハンバーガー業界だけでなく、ケンタッキー・フライド・チキンにも戦端を開く「チキン戦争」を開始するなど、有り余る力で他を圧倒する。そんなリーダー企業に対抗するのは、「オーダーを受けてから作る」というコンセプトを堅持する、「差別化戦略」で戦うモスバーガーだ。店舗数で見れば、マクドナルドは2010年2月時点で3,686。モスが10月末で1,363。3倍近い開きがある。では、ロッテリアはといえば、2月時点で524と、モスに比べても半分以下の数しかない。
リーダーにはなれず、対抗する力もない場合、「集中戦略」で特定の市場に集中するニッチャーのポジションを取る。独自の生存領域を確保するのだ。例えば、ハワイ生まれの「クア・アイナ」はハワイに2店舗、国内に15店舗展開し、「高級バーガー」という独自路線で根強いファン層を獲得している。
ロッテリアのポジションはその意味では非常に微妙だ。
1987年にマクドナルドがバーガー・ポテト・ドリンクをセットにして390円という「サンキューセット」を展開したことに対抗して、380円の「サンパチトリオ」をぶつけた。マクドナルドは翌年に360円の「サブロクセット」で応戦するなど、今日の「牛丼戦争」のような様相を見せていた。結果としては、低価格路線はロッテリアにとって、その後の新メニュー展開の失敗とあわせて経営を大きく圧迫していくことになったのである。
チャレンジャーにも、ニッチャーにもなれない存在は、「フォロアー」となる。リーダー企業の陰に隠れて、積極的にコミュニケーション投資はしない。リーダーよりも一段価格を安く設定し、リーダー企業の築いた市場の、いわば「おこぼれ」を拾う。そんな存在となってしまう。
だが、ロッテリアの展開は明らかにそれとは違う。勝負に出ている。だが、「量・味・価格」の3つの方向性全てを訴求しようという、いわば「全方位戦略」はリーダーの戦略であり、体力に劣るロッテリアが本来取り得る戦略ではないはずなのだ。そこが「微妙」と前述した理由だ。
ロッテリアは何を目指しているのか。「はみだしステーキバーガー」のリリースを見ると、そこにヒントが隠されていた。
今年のスローガンは「ひと手間がんばる、ロッテリア」。<お買い求めやすさはそのままに、食材の手配、キッチンでの調理、お客様へのサービスにも、"ひと手間"加えることにより、もっとおいしく、高品質で、満足度の高いファストフードを目指してまいりました>とある。例えば、「調理」。Webサイトに絶品・絶妙の両バーガーの「おいしさのヒミツ」として、通常のファストフードではあり得ない「店舗で焼く前に塩を振る」というオペレーションを実施しているとある。その理由は<パティの中に塩を入れておくと、焼くときに肉が必要以上に引き締まり、硬くなる>からだそうだ。「ひと手間」加えているのである。
なぜ、ひと手間を加えるのか。当然、手間がかかり、味にバラツキがでるリスクとなる。それは、「ガッツリ系」の登場した理由とも共通する。「デカメンチカツバーガー」は東京ウォーカーの記事に、<「ハンバーガーにガッツリかぶりつきたい!」というボリューム重視派>の<「もっと食べ応えがあるバーガーメニューを!」という声から誕生した>とある。
さらにロッテリアで「ガッツリ」といえば、忘れてはならないのが今年登場した「タワーチーズバーガー」だ。それは同社の目指す方向を如実に示しているといえる。
同社のWebサイトに<今だけ、お客様の声に応えて「タワーチーズバーガー」完成!>と記されている。「タワーチーズバーガー」は、通常のチーズバーガーを顧客の要望に応じて増量(増段)し、10段なら通常1,060円のところ、お試し体験価格の990円で販売していた。ロッテリアは儲かるのか。一度に990円の売上げとなるのは魅力だ。しかし、バランスを取り積み上げる手間たるや、前出の「塩を振る」という「ひと手間」どころの騒ぎではない。
「もっとおいしいバーガーが食べたい」「もっとガッツリ食べたい」「もっと安く食べたい」。そんな顧客の声に全て応えようとすると、リーダーの戦略である「全方位戦略」になってしまう。しかし、規模の経済が活かせるコストリーダーでなければ、3つを同時に叶えることはできない。故に、昨年はまだ、リーマンショックの傷も癒えていない世の中で「デカメンチカツバーガー」を、「ガッツリ&安く」提供した。今年は「節約疲れ」ともいわれはじめた世の中で「はみだしステーキバーガー」を「おいしく&ガッツリ」提供しようという意図なのだろう。
ロッテリアは「フォロアー」ではない。その戦略は、「顧客の要望に徹底的に応じる」ことによって、少ない店舗数でも支持顧客層を確保し、そのファンを独自の生存領域とすることによって、一つのニッチ戦略をとっているのである。
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