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2010.11.01

「利用シーン別売り場」でデジカメを売るカシオの狙い

 カシオ計算機は飽和し、低価格化に歯止めがかからないコンパクトデジカメ市場に対し、新たな売場提案でテコ入れを図る戦略に出た。

 11月1日付日経MJ家電&eビジネス欄に掲載されたコラム。「コンパクトデジカメ メーカー売場提案 利用シーンや一体展示 スペック訴求から脱却」という見出しの文字が目に入る。マーケティングを正しく理解している者ならば、これらの言葉を見ただけでカシオが「マーケティングの本質」に立ち戻ることで、成熟期のコンパクトデジカメ市場での生き残りを図る戦略に出たことがわかる。

 製品、及び製品カテゴリの製品の市場への浸透状況は、導入期→成長期→成熟期→衰退期という普及過程(プロダクトライフサイクル)を辿る。製品が市場の潜在顧客の大部分に行き渡った段階である成熟期においては、ブランドや製品バリエーションが多様化すると同時に価格競争が熾烈化する。やがて競争に敗れた弱いブランドが脱落していき、衰退期に至ることになる。
 「まだまだユーザーも多いし衰退期になるのは早いだろう」と思うかもしれない。だが本当にそうだろうか。こと、「コンパクトデジカメ」というカテゴリで考えれば、オリンパスが往年の名機PENの名を冠した機種を投入して火を付けた「ミラーレス一眼カメラ」というカテゴリがある。ソニーはミノルタ時代からの一眼レフカメラブランドのαシリーズで、「NEX」シリーズというミラーレス一眼カメラを投入した。ミラーレスは一眼カメラの特徴である光学ファインダーがなく、液晶画面で対象を確認して撮影するスタイルで、見かけや使い勝手はコンパクトデジカメと大差がない。パナソニック「LUMIX」シリーズは以前から一眼とコンパクトを同ブランドで展開している。
 従来の一眼レフカメラの光学ファインダーをのぞいて撮影し、どのように撮れたかはシャッターを押してから液晶で確認するという使い方は、一般の消費者にとって少々敷居が高い。しかし、ミラーレス一眼はコンパクトデジカメと大差ない。すると、「もっとうまく、きれいに撮りたい」と思う消費者は価格が高くともそちらに乗り換えていくことになる。結果的に、コンパクトデジカメ市場に残るのは、「こだわりの低い消費者」で、価格低下を引き起こすという構図になる。

 コンパクトデジカメ市場の値崩れ状況は、記事によれば、<9月の平均単価は1万8400円(税抜き)で前年同月比22%下がった。デジカメ全体(12%下落)と比べて値下がり幅が大きい>という。値下げ合戦による価格下落と弱者敗退は衰退期の特徴。その前兆が出ているといえるだろう。

 プロダクトライフサイクルの変化と共に、消費者のニーズは通常どのように変化していくのか。フィリップ・コトラーの「製品特性3層モデル」と併せて考えるなら、デジカメの場合、以下のようになる。
 導入期では、顧客が製品を手に入れて実現したい「中核価値」だけでも購入してもらえる。デジカメラでは「デジタルで画像がきれいに残せること」だ。カシオが1995年にQV-10という25万画素の機種を市場に投入した。価格は65,000円であった。以降、各社の画素数競争が始まった。
成長期においては、中核価値は当たり前な要素となり、中核をどのように実現するかという「実体価値」が競争課題となる。「高倍率なレンズのズーム比率」や、ライカ、ツアイスなど「有名な海外光学カメラブランドのレンズを搭載」するなどの展開を行った。カシオはEXILIM(エクシリウム)という「薄型コンパクトで携行性のよい本体」にこだわった。各社のスペック競争である。
 そして、成熟期においては、さらに中核価値とは直接関係のない「付随機能」での競争となる。「印刷機能内蔵」や「無線LAN内蔵」など、様々な付随機能が開発・搭載されている。カシオは「動画・静止画合成機能」をEXILIMに搭載した。

 記事では、<コンパクトデジカメ売り場はいまだに有効画素数、レンズの広角対応、液晶の大きさなどスペックごとに商品を陳列する店も多い>と指摘している。市場のライフサイクルに追いつかず、成長期の戦場を来店客に見せているのだ。だからといって、付随機能を全面に出しても、それで売れるわけではない。付随機能とは、本来「中核価値の実現とは直接関係ないが、魅力を高める要素」である。誰もが一様に欲するわけではない。

 カシオが家電量販店各社に提案している売り場は、「旅行向け」「アウトドア向け」などの利用シーンごとに商品を陳列する売り方だという。

 「デジタルカメラ」を欲しいと思う人のニーズは何か。前述の中核価値である「デジタルで画像がきれいに残せること」であるが、今日、マニア以外フィルムカメラを使う人はほとんどいないので、「きれいに写真が撮りたい」ともっと単純に考えた方がいい。
 では、なぜ、どのように「きれいに写真が撮りたい」のかというニーズの深掘りをしてみれば、人によって、様々なシーンを想い出や記録を残すということと、思い描く想い出のカタチ(残したい絵柄)があることがわかる。そうしたニーズに対応した機種が一目でわかる売り場をつくって、「よく判らないから、安いのでいいか!」となることを阻止しようという試みだ。

 記事では、ソニーマーケティングの対応も紹介されている。<「コンパクトも動画対応が増え、静止画機能を訴求するだけでは客のニーズに合致しなくなる可能性もある」>として、ビデオカメラとの一体展示を行うという。
 前述の通り、デジカメを購入するニーズは「きれいに写真が撮りたい」であり、もう一段深掘りすれば「きれいに想い出(記録)を残したい」だ。想い出は静止画だけで完結するものではなく、検討過程で動画で残したいと思うようになる人も多いはずだ。その取りこぼしを防止する狙いだろう。

 ハーバード大学大学院の教授であったセオドア・レビットは、著書『レビットのマーケティング思考法』(ダイヤモンド社)で、「工場では化粧品をつくる。店舗では希望を売る」として、以下のように記している。
 <レブロンを名だたる巨大企業に育て上げた天才的経営者、チャールズ・レブソンはこう言った。「工場では化粧品をつくる。店舗では希望を売る」。なるほど、女性は化粧品を買う。だが、女性は化粧品を買うのではない。希望を買っているのだ。レブソンは人間の衝動を正しく理解して、その上にあの金字塔を建てたのである>。

 消費者ニーズをとらえて、それを深掘りする。マーケティングの基本の基ではなるが、言うは易く行うは難しだ。しかし、今日ほど、その原点に回帰すべき時代はないといえるだろう。


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