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2010.11.11

チキン戦争:ケンタッキーは「集中戦略」で逃げ切れるか?

 今年の夏の訪れと共に勃発した、マクドナルド対ケンタッキー・フライド・チキンの「チキン戦争」。猛暑を通り越した激暑だったこの夏の暑ささながらに、マクドナルドが激しい攻撃を仕掛けるも、ほぼ静観を決めていたケンタッキーに動きが見えてきた。果たして戦いの行方やいかに?

 マクドナルドのホームページを見ると、会社概要の業務内容には「ハンバーガー・レストラン・チェーンの経営並びにそれに付帯する一切の事業」と書いてある。そして、原材料の安心を説明するページには「100%ビーフパティ」を訴求している。そう、マクドナルドといえば、消費者のアタマの中には「100%ビーフハンバーガー!」だったはずだ。しかし・・・

 「チキン№1はマクドナルドだ!」とマクドナルドの原田社長が言い出したことから、チキン戦争は戦端が開かれた。
6月20日のチキンメニュー製品発表会での発言。「チキン市場3950億円のうち、マクドナルドは640億円。すでに16.3%のトップシェアを持っているが、まだマクドナルド=チキンという認知がされていない層がある。」(J-CASTニュース 6月20日)ということで、不動の1位を目指し、マクドナルドの侵攻が始まった。キャラクターに笑福亭鶴瓶を起用したCM大攻勢とメニューの連続投下。この秋も新メニュー「アイコンチキン」がシリーズで投入されている。

 そもそも、「チキン戦争」といわれ始めたのは、7月8日に渋谷の公園通りにケンタッキー・フライド・チキンの次世代店舗がオープンし、そのすぐ隣にはマクドナルドの戦略的次世代店舗があるという象徴的な光景だからだ。
 その後、守勢のケンタッキー・フライド・チキンはといえば、静観を決め込んでいるように見えたが、ついに動きが見えた。
 11月11日付日本経済新聞11面に<日本ケンタッキー 健康配慮型拡充 新型店、3年で100店>という記事が掲載された。店内の様子を撮影した写真には<揚げずに焼いたチキンなどで健康志向の消費者を取り込む>とある。
 新型店とは、上記7月8日に渋谷の公園通りにオープンしたタイプの店舗を指しており、その特徴は、オーブンで焼いたノンフライのチキンや、野菜を使ったサンドイッチやサラダなどのヘルシーメニューだ。「揚げないのにフライドチキン。野菜たっぷりで健康になる」という、「ファストフード&揚げ物の美味しさ」と「健康」という二律背反の解決が「次世代のケンタッキーの姿である」というポジショニングを示しているのだ。
 記事には、新型店を渋谷公園通り店に続いて<初のFC店として福岡中央区で2号店を出す。2010年度中に2~3店を設け、全国の都市部を中心に店舗網を築く>とある。実験店舗的な意味合いもあった渋谷公園通り店に続く2号店がFC契約形式となり、立地も具体的に決まった。今後に向けた本格的な始動ということだ。
では、ケンタッキーは「チキン戦争」をどのように戦っていこうというのだろうか。

 ハーバード大学経営大学院教授のマイケル・ポーターは「事業戦略の3類型」を示した。コスト競争力で勝っていく「コストリーダーシップ戦略」。差別化をして競争相手より優位に立つ「差別化戦略」。特定分野に的を絞り、経営資源を集中する「集中戦略」である。

 マクドナルドは極めてわかりやすい「コストリーダーシップ戦略」だ。それも極めて徹底した。2009年12月31日時点で国内3715店にのぼる店舗数を背景にした規模の経済、調達力に敵うものはいない。しかも、低コストと収益性を重視して直営志向からFC展開移行する一方、前年度の通期決算の場で、収益性の低い店舗を12カ月以内に433店舗を閉鎖することを発表した。飲食業の売上げ№1をゼンショーに明け渡したが、直営志向・売上げ重視の同社と対照的な戦略であるといえる。

 コストリーダーは通常、業界の中でただ1社しか存在し得ない。そして、それに対抗するためには「差別化」が必要だ。しかし、ケンタッキーはマクドナルドが「ハンバーガーレストラン事業」の枠を超えて、チキンだけでなくファストフード全般を戦場としているのに対して、ケンタッキーはもともと「フライドチキン」という狭いドメインで商いをしていた。つまり、「集中戦略」を取っていたわけだ。それを「揚げないチキンメニュー」に注力する戦略によって、「チキン」全般にドメインを拡張したことになる。
 ドメインを拡張すると、チキンが売り物の外食店全般が競合となるが、それを100店規模に拡大することで規模の経済を効かせ、調達力を強化してコスト優位に立とうとしていると考えられる。「チキン」という特定分野に的を絞りつつ、その中でコスト競争力で勝っていく「コスト集中戦略」である。

 ケンタッキーの「集中戦略」のキモはもう一つある。ターゲット層の集中だ。
 渋谷公園通り店オープンの日本ケンタッキー・フライド・チキンのニュースリリースにも、<若い女性層をターゲットに、お食事に、カフェタイムに、ちょっとしたブレイクにと、お気軽にご利用いただける店舗>というターゲティングとポジショニングが明記されていた。上記の日経記事でも「20~30代の女性」と記載されている。

 「集中する」ということは「捨てる」ことでもある。「集中と選択」というわりには、「選択しても集中できていない戦略」が散見される。「捨てる勇気」が持てないのだ。
 渋谷公園通り店オープンのリリースでは<白とシルバーを基調としたカラーに赤を効果的に配して新しいKFCを演出します>とあり、日経の記事でもそれが20~30代の女性を意識したものであるとして、今後の出店においてもそれを踏襲するという文脈で書いてある。

 マクドナルドの顧客層は種々雑多だ。オモチャ付きのハッピーセットやDSのゲーム配信など、こどもを連れたファミリーを中心に据えつつも、都市部ではお一人様席を充実させたり、次世代店舗では若年層を意識したり、一方で1971年以来開業39年の歴史から、顧客にはマクドナルドに慣れ親しんだ中高年も多い。
 リーダー企業の戦略は「全方位戦略」が基本だ。特定ターゲットに集中して「捨てる」ことはしないはずだ。捨てて規模を失えば、コストリーダーでなくなる。そこに、ケンタッキーの付け入るスキが出てくる。
 コストリーダーシップ戦略におけるリスクは、特定のセグメントが成長して、市場全体の規模に影響を及ぼすようになることだ。ケンタッキーが狙い通り揚げないチキン・ヘルシーメニューの魅力で20~30代の女性を取り込み、利用率、利用頻度を高めていき囲い込みを図る。そして、マクドナルドのチキン利用者全体からその層をスッポリ奪い取るようになれば、ケンタッキーがマクドナルドのチキン制覇を阻んだことになる。

 一方、リーダーの戦略の定石は「同質化」だ。チャレンジャーが開発・上市してヒットし始めた商品をスピードに勝る開発力を活かして迅速に模倣。強大な販売力であっという間に市場を席巻して競争力を削ぐのである。
 「揚げないチキン」のため、ケンタッキーは専用のオーブンを用意して調理しているという。新型店舗の全国店舗 展開がゆっくりなのは、フロアの改装だけでなく、既存の厨房にオーブンを入れるスペースを確保するなどの改造がハードルになっているのではないかと思われる。とはいえ、マクドナルドが本気を出して、オーブン付き厨房完備の次世代店舗を展開し、そこで「揚げないチキン」を出すかもしれない。それだけの意気込みと、資本力はマクドナルドにはあるのだ。

 勝負の行方はまだ見えない。本格的な戦いのゴングは、まだ鳴ったばかりだ。


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