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2010.11.17

売れるキーワード:「見えない価値」とは一体何だ?

 11月17日付日経MJ6面の小さなコラム「消費 見所 カン所」に、丸井グループの青井社長のコメントが掲載されていた。タイトルは「見えない価値取り入れ」。
「見えない価値」とは一体何だろうか。

 記事では<「見えない価値」とは、服の着心地やバッグの使い勝手といった使う人の内面的な価値のこと>だと青井社長はコメントしている。実績もある。<消費者の意見を元に履きやすさにこだわったパンプスを開発したところ、従来のプライベートブランド(PB=自主企画)商品の約8倍売れた>とある。
 使い心地や使い勝手は確かに重要だし、そうでなければ困る。だが、あえて、流通業のトップがそれを強調しているところに意味がある。青井社長は「内面的な価値」ともいっている。では、使い心地や使い勝手に優れた商品を手にした時に充足される、内面的な満足感とは何だろうか。恐らく「ああ、自分にピッタリだ。よかった!」だろう。
 そう考えると、実はその満足感の重要性が増しているのは、今日の消費者の価値観の大きな変化を表しているのだ。

 丸井といえば、かつてデザイナーズブランド全盛時代に青春時代を過ごした筆者が足繁く通ったものだ。その頃の服のサイズはMとLしかないとか、Fと記して「フリー」や「One Size Fits All」という設定が多かった。(当時の)若者としては少々小柄で、(当時は)細かった筆者にはなかなかに絶望的なサイズ設定で、「F:One Size Fits All」などという表示を見ると、「そんなわけあるかよ!」と内心で毒づいていたものだった。・・・だけど、買っちゃうのだ。ちょっとサイズが合わなくても、そのブランドが、流行の服が着たいから。
 かつては、「服に自分を合わせていた」のだ。それが、「自分にピッタリの服じゃなければ欲しくない」という意識に180度変わっている。
 この夏登場した、リーバイスのジーンズのレディースライン「Levi s Curve ID(カーブアイディー)」。全世界6万人、日本女性6千人のボディサイズから導き出した‘3つのカーブ’を元に3タイプ×ウエストサイズで展開されている。同商品のキャッチコピーがいい。「これからは、サイズより自分のシェイプにあわせる。」だ。まさに「自分にピッタリ」が価値であることを表している。

 「自分にピッタリ」を「relevant(適切な)」という言葉に置き換えてみると、あるブランド理論が援用できる。米国の大手広告代理店Young & Rubicam(日本では電通Young & Rubicam http://www.dyr.co.jp )はBAV(Brand Asset Valuator)という理論でグローバルブランドの評価を1993年から続けている。その基本的な指標の1つがThe Four Pillars(4つの柱)というものだ。Differentiation(差別化活力)=ブランドならではの違いをどの程度ダイナミックに提案しているか・Relevance(適切性)=どの程度自分にふさわしいと思われているか・Esteem(尊重・評価)=どの程度高く評価され尊重されているか・Knowledge(認知・理解)=どの程度認知理解されているか、だ。 実際には上記4指標のバランスなどで詳細な分析をするのだが、ここはDifferentiation(差別化活力)とRelevance(適切性)の関係だけに注目する。BAVでは、Differentiation > Relevanceという状態は、ブランドに他にはない個性や特徴を提案する活力ある状態だと見る。一方、その逆は、ブランドが差別化活力を失ってコモデティー化し、価格や便利さなどが購入理由の中心となっている危険な兆候であると見る。

 今日、ファッションはすっかりコモデティー化した。誰でも買うことができる低価格衣料を牽引するファストファッション勢。H&M日本上陸の2008年はコム・デ・ギャルソンとのコラボレーションが話題になったが、今年はランバンとのコラボだ。ユニクロはジル・サンダーがデザインする「+J」を、かつてのジル・サンダーブランドの価格と0が1つ違う価格で展開する。さらにZARAは、その年のトレンドをいち早く見極め、有名ブランドに遅れることわずか数週間で市場に投入する。ファッションで「人と違う価値」を消費者が手に入れるのはむずかしくなっている。
 そうなると、注目されるのが「自分にピッタリ」という価値だ。丸井のPB商品のパンプスが8倍売れたのも、そうした背景からである。

 日経MJの記事はまだ続く。<低価格衣料品店などが開発した保温性に優れた肌着が支持されているのも(青井社長は)同じ理由とみている>とある。ユニクロのヒートテック、イオンのヒートファクト、ヨーカ堂のパワーウォームなどだ。青井社長は<「開発者の視点で『高機能』という言葉がよく使われるが、お客さんからすると、冬でも厚着をしないでスマートに着こなせたり、Tシャツとしても着られたりする価値がある」からだ>という。
 「体表から放出される水蒸気を熱にして・・・云々」というようなしくみ。さらに、「一般的なコットン素材と比べて・・・云々」という性能。そこからもたらされるのは、「機能的価値」、つまりスペックだ。様々な製品で技術的成熟度が高まり、差別化が困難になった今日、単なるスペックだけを訴求することはできず、差別化困難になり価格競争となる。しかし、デフレの世の中では、安くしても売れない。

 ユニクロがこの冬売り出した「ヒートテックジーンズ」という商品。「冬でもジーンズをはきたい。でも、寒い。」という消費者のニーズギャップに応えるため、ヒートテック糸を織り込んだジーンズである。「発熱」「保温」「保湿」という3つの機能が示されているが、重要なのは「2枚ばきが不要です。寒い日も、ラクに細身シルエットを実現。」というコピーの方だ。その商品を用いると「どのような状態になれるのか」を示している。本当に「細身」なのかどうかは、はく人による。しかし、「今までモコモコしてたのは、ジーンズの下にタイツをはかなきゃならなかったから。これで、これからは細身シルエットになれるわ!」という気持ちになれることが大切なのだ。どのような気持ちになれるのか。つまり「情緒的価値」を提供しているのだ。

  日経MJの記事は<今後の商品開発でも、消費者目線で「見えない価値」を取り入れようと(丸井の青井社長は)意欲的だ>と締めくくっている。
 「自分にピッタリ」という「Relevantな価値」。「こんな気持ちになりたかった」と思わせる「情緒的価値」。そのどちらもが、機能やスペックで表せない「見えない価値」だ。さらに、その重要視するポイントや尺度は人によって異なる。だからこそ、より一人一人の顧客をよく見ることが重要となるのである。


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Comments

私も20代のことは丸井のセールに行ってた記憶があります。
衣料におけるサイズのカテゴリーではなく。自分にピッタリという
オーダーメイド的な手法が成功したんですね。

非情に面白い記事でした。ありがとうございます。

Posted by: たまてん | 2010.11.18 12:18 PM

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