「チキン人気の意外な人気の裏側」:ワールドビジネスサテライト特集より
11月29日、ワールドビジネスサテライトの冒頭特集にビデオインタビュー出演をした。当日の午前11時にテレビ東京のクルーが取材に来て、12時間後には編集済みのビデオが放映されるというスピードは、さすがテレビという感じだ。しかし、テレビは往々にして話したかったことの一部しか放送されない。(昨夜は話の主旨が伝わるようには編集してもらえたのでありがたかったが)。そこで、当Blogで番組の内容を振り返りながら、金森の説明主旨を少し丁寧に採録したいと思う。
特集タイトル『チキン人気の意外な人気の裏側』
■ファストフード各社の近況
特集冒頭は、意外にもロッテリアの担当者へのインタビューであった。マクドナルド対ケンタッキーという構図の「チキン戦争」が目に付くが、さすがロッテリア、巧みに追随している。
ロッテリアフードサービス マーケティング本部 長元恒 本部長氏へのインタビュー。
「ちょうど今12月に入る時期」「チキンは)クリスマスのイメージもある」「食材でチキンを強化したい」
しょうゆマヨチキンバーガー11月18日から290円で販売など、ロッテリアはチキン商品を増やし、売れ行きがよければ定番メニューに加えるという。
次に登場したのは、本命、マクドナルド。
日本マクドナルド 統括マネージャー 萩原和之氏へのインタビュー。
「年々 日本の外食市場におけるチキンの消費量が伸びてきている」「”ビーフのマクドナルド”のイメージが(非常に強いが、チキンやそれ以外のカテゴリーでブランド認知度のNo.1をとっていく戦略が今後の売り上げのベースラインを上げる非常に重要な戦略になる」。
チキンメニュー登場記者会での原田社長の「既にチキンでも№1だが、名実共にトップを取る」という主旨の発言が社内に浸透し、さらに「売上げ底上げ」という戦略の目的が明確化されている点が興味深い。
■チキン需要の急増と卸業者の現状
番組では、「外食産業が低迷している今、コンビニやファストフード ファミリーレストランなどで、チキン市場の売り上げが右肩上がりで伸びている」と紹介し、それらに食材としてのチキンを卸している業者を取材した。
都内にある鶏肉専門商社「鳥新」。倉庫にうずたかく積み上げられ、パワーリフトで次々と運ばれていく段ボールに入ったチキンの箱には「BRAZIL」のマークが。
創業1895年老舗の鳥新は、これまで国産中心だったが、2年ほど前から輸入品の取り扱いを増やし、現在は4割が輸入鶏肉で、そのほとんどがブラジル産だという。
国産に勝る輸入品の強みは、国産の半額だというその価格。日本全体でも今、鶏肉の輸入は豚肉・牛肉に比べて急激に増えている。
さらに「鳥新」では、ある異変への対応に窮していた。国産・輸入合わせても、供給が追いつかないほどの注文が殺到しているという。
鳥新 専務 磯田義昭氏はインタビューに応える。
「リーマンショックで経済状況が悪くなり生産者が生産を絞り込んだ。そこでで需要が急に回復し始めた生産が追いつかなくなった」。
窮状をしのぐため、同社は国内の生産会社に対し、約7%の増産要求をしたという。
■企業が鶏肉に熱い視線を注ぐ理由(筆者解説部分)
このパートは左の図を元に、番組インタビューの内容を補完して解説する。
まず、世の中の大きな動きを振り返る。(図1)
Political(政治・規制)の影響では2003年:BSEが発生し、で米国産牛肉の輸入が禁止された。結果として、消費者の牛肉離れが起きた。08年には「メタボ検診」が法制化され、健康志向が高まった。
Economical(経済)の影響は、08年:世界金融危機が発生し、長引く不況が深刻さを増した。また、翌09年には、政府は月例経済報告会で「デフレ化」認めた。本格的なデフレ不況を誰もが認識した。
Social(社会)の風潮は、健康志向の反動で、「メガ盛り」の流行が顕著となった。皮切りは07年発売の「メガマック」である。コンビニの弁当もメガ盛りが流行り、牛丼も「すき家」の「メガ」が話題となった。
上記の各要素を総合すると、「消費者のニーズ」として、消費者の「牛肉離れ」に加えて、健康志向の高まりと、その反面、デフレ・不景気によるコストパフォーマンス(ボリューム感)を求める傾向も顕著であるといえる。その中で、チキンメニューはヘルシーで安価・ボリュームメニューにも対応しているという点が消費者の支持を集める理由となっていることがわかる。
では、チキン以外の牛肉や豚肉はどうなのか。競合的な存在として検証してみる。
牛肉は、1991年輸入自由化以来、国内に手厚い生産保護政策がとられるようになった。国産牛肉は「価格安定制度」に守られ、生産性が高まらない。少ない生産を補うべく、牛肉の輸入比率は60%に達しているが、38.5%という高い関税がかけられている。かつて、1960年代ごろまでは、牛・豚・鶏の価格差は僅差であったが、上記の理由で「安く・ボリュームを」という昨今の消費者のニーズには全く応えられなくなっている。
豚肉はどうか。牛肉よりは生産性向上が顕著ではあるが、価格安定制度に守られている点は概ね牛肉と似た状況だ。つまり、食材としての低価格化には限界があるという状況である。
番組で最近の市場での取引価格が紹介された。
牛肉 約1500円/キロ
鳥モモ肉 約600円/キロ
鳥むね肉 約250円/キロ
鶏肉の状況を見てみよう。番組では卸業者の輸入肉が取り上げられていたが、まだ約7割と国内生産率が高いため関税はかからない。そして、価格安定制度でも守られてはいない。 輸入が増えたとしても、輸入関税は「骨付きモモ」が8.5%、「その他の部位」が11.9%と低い。さらに、牛・豚と比べると極めて生産性が高い。 飼育3ヶ月程度と短い期間で出荷できるため、健康リスクも低く 人件費と廃棄率が低くなる。 また、生産される肉量に対する飼料の比率が低いため、餌代安い。 ブロイラーはケージを積み上げて飼育するため、密度が高められる。平面で飼育する豚、1頭あたり広い面積を要する牛と大きく効率が異なる。つまり、鶏肉は、規模の経済が効く=最も工業化された食肉であるといえる。
以上のことから、鶏肉は需要が増えれば規模の経済でコストが低減され、利益がさらに出る。ブームによって生産者も外食・小売も儲かるという構図が見えてくる。
■チキンブームは今後どうなるのか
ファストフードでは「チキン戦争」ともいわれているが、「牛丼戦争」のように、チキンも低価格戦争にもつれ込むのか。この点に関しては左の(図2)で説明する。
結論からすると、ファストフード業界は戦ってはいても、「価格競争回避」をしたい意向が見える。
マクドナルドは前出の担当者インタビューにあるように、チキンシェア16%強で既にNo.1だ。当然、リーダー企業は自ら価格競争を仕掛けることを回避したい。その代わり、不動の1位を目指して新メニューと販促を連続展開しているが、価格は「中価格帯」におさえている。つまり、消費者にとってのコスト・パフォーマンスのバランスをうまく取って、シェアアップを図っているといえる。
迎え撃つケンタッキー・フライド・チキンは、チキン専業として防衛・新業態「揚げないチキンメニュー」で直接対決を回避している。つまり、付加価値メニューとして、むしろ高価格で展開する構えだ。ファストフードの業界的には、価格競争回避を志向しており、需要増を図るため、試用促進のためのキャンペーン値引きのみ展開している状況だ。チキン新メニューの充実で利益確保をし、値下げ合戦の牛丼業界と一線を画したいという意向が顕著である。
しかし、広義での「チキン戦争」に参戦している他業態を見ると、様相は一変する。
コンビニ業界では、揚げ物に代表される、「店内調理商品」は利益率が高いため、先細りするタバコの売上げ・利益の穴埋めの意味からも、積極的な販売を展開中だ。しかし、店員の店内オペレーションのいわば「片手間」的にはじめられた「店内調理」は高度な調理は無理であり、そのためメニューの差別化ができない。各社一斉に70円均一で利益ギリギリの戦いになった「おでん」の例のように、チキンも価格競争に走る恐れがある。
持ち帰り弁当の業界も同様だ。ボリュームメニューとしてチキンを積極的に使用している。店内に中食対応の総菜を併設している店では、唐揚げ等が人気メニューとなっている。しかし、消費者の需要は高まるものの、200円・300円弁当の登場など価格競争がさらに進行中だ。その背景には差別化困難という理由も大きい。以上のように、コンビニ業界・弁当業界には価格競争に走る要素がある。
つまり、差別化困難なコンビニ・弁当業界が価格競争になると、チキンメニュー市場全体に飛び火するという可能性は否定できない状況だといえる。
このような状況とは別に、この原稿をまとめ直している間に、「島根県で鳥インフルエンザの疑い」というニュースも流れてきた。業界の動きには今後も注目に値するだろう。
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