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2010.11.24

値段4倍・売れ行き6割増!「新クイックルワイパー」のヒミツ

 11月24日付日経MJのコラム「ヒットのヒミツ」に紹介された、花王「クイックルワイパー ふわふわキャッチシート」のヒットのワケを深掘りしてみよう。

 記事によれば、掲題の通り同商品は10月末の発売から計画比6割増の売れ行きだという。しかも、従来の商品と比較すると1枚当りの価格が100円と4倍するという。ヒット商品には必ずワケがある。しかも、「高くても売れる」からには深いワケが。そのワケを分析してみよう。

 まず、クイックルワイパーという商品。「クイックル」は花王の住宅用洗剤やお掃除用品のブランドであるが、モップ状の柄と取り替えシートを装着するヘッド部分によって構成された「クイックルワイパー」が1994年に発売された。「くすみのない つややかフローリングへ」との商品のキャッチフレーズが示すように、商品の中核的な価値は「床掃除が簡便にできること」である。毎日掃除機をいちいち出さなくとも、この商品で簡易に代替できるのである。それをどのように実現できるかという実体価値は、腰をかがめて雑巾がけをするような苦労なくモップスタイルででき、しかもシートは使い捨てというラクチンさを実現したのである。
 1994年といえば、91年にバブルが崩壊し、93年に後に「失われた10年」と呼ばれた長期不景気に突入した翌年である。同年にバブルに咲いた最後の徒花・ジュリアナ東京が閉店し、テレビドラマ『家なき子』のセリフ「同情するならカネをくれ」が流行語大賞になるなど、景気の悪化が実感を伴ってきた年である。共働き世帯も年々増加していた。一方、バブルの反動による土地価格の下落もあり首都圏のマンション販売は94年から大量供給時代に入ったといわれている。つまり、カンタンに掃除を済ませたい世帯と、フローリングの住居が増えたというマクロ環境をとらえたヒット商品なのだ。

 そんなヒット商品にも競合が登場している。競合であるユニチャームの「ウェーブ 立体フロアワイパー」である。ポイントは、同社が不織布の技術と原料を用いた生産シナジーで参入し、本体も取り替えシートも花王のクイックルワイパーと共用化できるようにしてシェアの侵食をした。さらに、日経MJの記事によればPB(プライベートブランド)商品も登場して、花王のシェアは6割強まで低下したという。

 競合の参入に対してどのように対抗するのか。まずは、顧客の「ニーズギャップ」に注目することだ。中核的な価値は「床掃除が簡便にできること」であるが、あくまで掃除機の代替であり、簡易版である。だとすれば、「もっときれいに掃除したい」「これ一本で済ませたい」というニーズが生まれるはずだ。故に、花王もユニチャームも各々「立体吸着シート」「立体キャッチシート」という名でシートを立体化してゴミやホコリの吸着を高めるという実体価値を高めている。
 今回の「ふわふわキャッチシート」は、さらにその実体価値を強化した製品である。「ふわふわした長い繊維がすき間の奥まで届いてからめ取る仕組みで、従来の2倍強のごみを取り除けるという」(同記事)。

 しかし、仕様の強化だけでは、また競合に模倣されることは間違いない。そこで、花王は新たなターゲットを獲得すると同時に、付随機能の価値を高める戦略にでている。付随機能とは、「直接的に中核的な価値の実現に影響はないが、あれば魅力を高める要素」である。花王は「一昔前に比べて掃除の仕方を知らない若者も増えている。そこで、CMキャラクターには阿部サダヲさんを起用。特設サイトにDr.クイックル研究所と題して掃除法も提案した」(同記事)のである。CMとサイトで製品の使い方提案という付随機能でターゲットを拡大し、さらに製品の利点を詳細に訴求して、既存ユーザーの買い換えを促しているのだ。

 企業が利益を上げるためには、顧客のライフステージの中の購入タイミングに合わせることが第一歩だ。人生の大きな変化だけでなく、シーズナリティーも重要で、今は大掃除需要に向けたタイミングだ。そこで、同種の商品の買い換え、買い増しである「アップセリング」を図る。「従来の2倍強ごみが取れる」ことが理解されれば、シートが他社と共通化している以上、他社ユーザーの買い換えも期待できる。そして、Webサイトの「Dr.クイックル研究所」では、クイックルワイパーブランドの他商品による掃除方法も提案しており、関連商品の販売である「クロスセリング」も狙っている。そして、シートは使い捨てなので、囲い込んで収益を上げる「アフターマーケティング」を図る意図である。

 「自動お掃除ロボット」として、米iRobot社の「ルンバ」の販売が好調であったり、トイレ掃除もパナソニック電工の全自動お掃除トイレ「アラウーノ」が新築やリフォームで指名買いされたりと、掃除の簡便化に対するニーズは確実に高まっている。そうした世の中の変化も敏感に捕まえて、既存ターゲットには商品力強化を。新たなターゲットには使い方提案を行うというきめ細かな展開が、日用品という成熟市場には欠かせない。
 2015年には日本は人口だけでなく世帯数すら減少に転じる衰退市場になるマクロ環境にある。単純な価格競争による販売量競争ではなく、価値を高めて収益を上げる工夫が求められているのである。


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