ガリガリ君とサーティワンアイスクリームで考える販売チャネルとターゲット
暑かった今年の夏、アイスの需要も爆発的に高まった。大定番商品・赤城乳業「ガリガリ君」は、1日の生産100万本といわれる能力(Wikipediaより)を持ってしても生産が追いつかず、店頭から姿を消した。これは一つの伝説になるであろう。同じくアイスの定番ブランドではあるが、店舗販売にこだわるサーティワンアイスクリームもこの夏、7月に全国1,000店舗の展開という記録を達成した。
■誕生と成長
ガリガリ君は、1981年に赤城乳業が世に送り出した。当初の販売チャネルであった駄菓子屋やら、当時台頭し始めたコンビニエンスストアをメインに切り替えて専用期間限定フレーバーの投入をしたことも奏功。売上げは順調伸び、1994年に販売本数6600万本を達成した。しかし、その後、競合の出現や若年女性層からのガリガリ君キャラクターの嫌忌により売上げが鈍化することとなった。
サーティワンアイスクリームが日本に上陸したのはガリガリ君よりもだいぶ早い年代であり、1973年のことだ。米国のバスキン・ロビンス社と不二家の合弁である。83年にサーティワンアイスクリームは店舗の全国展開を達成し、店舗数は200店になった。その後は生産設備の整備や安全性向上、ブランド向上、JASDAQ上場、フランチャイズ契約のしくみ見直しといった内部固めに入り、2002年までに100店舗を増やすに留まるという成長の踊り場を迎えている。
■第二の成長
ガリガリ君は2000年に不評のキャラクターデザインを改良。それを機に「ガリガリ君」の商品名を連呼するCMを投入し、販売チャネルや地域の拡大に勢いを付け、シーズンごとにフレーバーを出す戦略で年間商材となった。最大の年間量は2億5500万本で2008年に記録した。「日本一売れているアイス」の座を獲得したのは、2000年当時の施策をきっかけとし、その後もきめ細やかなプロモーション展開や生産体制の充実を行ったことによるものだ。
2002年に全国400店だったサーティワンアイスクリームは、その後2006年まで、毎年100店舗を順調に出店し800店舗を数えるようになり、その後2年毎に100店の出展を重ね、2010年に1,000店舗を達成した。
■サーティワンアイスクリームの店舗数躍進の理由
ここまでの記述は「ガリガリ君」に関してはWikipediaを参考にした( http://tinyurl.com/2ccnlb )。もう一方のサーティワンアイスクリームに関しては、同社ホームページの企業情報の沿革を参考にした( http://tinyurl.com/27529cx )。
ガリガリ君の販売量躍進のヒミツはわかったが、(もっとよく知りたければ、リンク先のWikipediaの記述を確認されたい)、サーティワンアイスクリームの店舗数が急増した理由がわからない。と、思って調べてみると、エキサイトのコラムに情報があった。
<サーティワンアイスクリームが増えている?!>(10月19日・exciteコネタ)
http://tinyurl.com/23jsybp
上記記事によれば、<イオンさんやヨーカドーさんの中に出店できるようになったことで急速に店舗数を増やすことができた>とある。サーティワンアイスクリームはもともとFC(フランチャイズ)メインの出店戦略で、直営は10店舗しかない。それまでと全く異なるFC出店戦略の策定とその契約獲得がターニングポイントだったのである。
■ターゲットは誰なのか
ガリガリ君は今日、おとなから子どもまで幅広い顧客層から愛され、購入されている。麻生太郎元首相もファンと公言しているし、美食で有名な俳優の中尾彬が、「日本一美味しいスイーツ」と評していることも有名だ。
では、1000店のサーティワンアイスクリームの店頭でアイスを買っているのは誰なのだろう。前出のexciteコネタの記事によれば、<20~30年前に、女子中学生か女子高生のお客様が中心の店>だったのが、昨今は<お子さんがいる主婦の方にも人気で、そのほか年配の方や男性なども増えております>と担当者がコメントしている。
アイスといえば「こどもの食べ物」という先入観にとらわれず、あくまで幅広い年代に受入れられるような工夫をしてきたことが、ガリガリ君の2億5500万本達成のヒミツであることは間違いない。また、サーティワンアイスクリームも「女子中・高生向けのお店」ではなく、「子連れ主婦」をターゲットとしてイオンやヨーカドーなどのスーパーにFCを広げたことが1000店達成のポイントである。
ガリガリ君とサーティワンアイスクリームのターゲット拡大には、一つ重要な示唆がある。それは「顧客は歳を取る」ということだ。
80年代前半にガリガリ君はコンビニをメインの販売チャネルとした。1975年にセブンイレブン第1号店が誕生したコンビニ業界も、80年代前半はまだ「若者中心」であったが、今日ではオトナ・中年・熟年の買い物スポットだ。麻生元首相はわからないが、美食の中尾彬氏も行くだろう。同年代男性もしかりだ。その層をファンとしてしっかりつかんでいることが成功のポイントである。
同様に、サーティワンアイスクリームの店舗に通った花の女子中・高生も「子連れ主婦」になる。単独の路面店にわざわざ立ち寄るのは面倒でもあり、現役女子中・高生の中に割って入る抵抗感もあるかもしれない。そうしたかつての顧客層を振り向かせるにはスーパーのFC店は絶好の接点である。
■そのターゲットでいいのか?
幅広いターゲットに拡張することは、販売量確保と少子化対応という意味からも理にかなっている。ガリガリ君の場合は、従来からコンビニエンスストアをメインの販売チャネルとしていたため、そこで歳を重ねていくファンをがっちりと確保すればよかった。しかし、サーティワンアイスクリームは新たに、かつての顧客である子連れ主婦との接点としての店舗を設けた。そのターゲットが正しいのか検証が必要だったはずだ。
ターゲットの検証には「6R」という考え方を用いる。
「6R」とは、Realistic Scale, Rate of Growth, Reach, Rival, Rank, Ripple Effect,という検証ポイントの頭文字6つのRを表している。以下、その検証をしてみよう。
・Realistic Scale(規模はあるのか?)=300店までの順調な出店を支えてきた顧客基盤である。黙っていれば店舗から足は遠のくが、呼び戻すことができれば十分な規模はある。
・Rate of Growth(成長性は?)=少子化は女子中・高生の減少も意味している。しかし、オトナになっていく少女達を次々に取り込めれば成長性はある。
・Reach(到達可能か?)=exciteコネタには<アイスクリームとしてブランド力ついた>との担当者コメントがある。オトナになったかつての顧客にとって忘却の彼方にあるブランドではなく、近くにあれば、入りやすければ足を運んでもらえるという勝算があったと思われる。
・Rival(競争関係は?)=フードコートのあるスーパーにはアイスを扱っている店もあるだろうが、専業で常時31種類(実は32種類)ものアイスを揃えている魅力ある競合はないだろう。十分に競合優位がある。
・Rank(優先順位は?)=こどもと一緒の主婦であれば、そのこどもに食べさせることによって販売量が多くなることが期待できるだけでなく、こどもへの「刷り込み効果」が期待できる。優先順位は高い。
・Ripple Effect(波及効果は?)=家族を見回せば、あまり接点のなかったお父さんがいる。休日に一緒に買い物に行ったなら、家族で食べるというシーンも想定できる。その効果を期待して、新業態店の展開も09年から始まっている。「あみプレミアム・アウトレット」(茨城県稲敷郡)にアイスクリームを使ったスイーツと、ドリンク・メニューを豊富に揃え、ゆったりとしたテーブル席を備えた「カフェ サーティワン」を出店した。平日のスーパーに加えて、休日のアウトレットモールやショッピングセンターという接点構築を計画しているのだろう。
どちらもメジャーブランドであり、同じアイスでありながら商品と販売形態の違いから一見関連がなさそうなガリガリ君とサーティワンアイスクリーム。しかし、両者の歴史をひもとき、戦略を考察してみれば、ヒットするヒミツが見えてくる。どちらも顧客をよく見て、その変化を捉え、最適な接点を構築していることがポイントなのである。
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