絶滅危惧種?衰退期の「スーツ市場」で、どう生き残るか?!
この記事を読んでいるのが男性であれば、どのような服装をしているだろうか。金曜日ということもあってか、通勤時間帯もカジュアルな服装が目についた。「カジュアルフライデーか」と思いつつ、その言葉自体が死語になりつつあることに気がついた。
スーツ姿がすっかり減ったわけだ。何しろ、この12年で「メンズスーツ市場」は半減したという。
<服が売れない……メンズスーツ市場は12年前の半分以下>(10月6日Business Media 誠)
http://bizmakoto.jp/makoto/articles/1010/06/news067.html
矢野経済研究所が10月5日に発表した、「国内アパレル市場に関する調査結果」が元になっている記事によれば、アパレル市場は<1991年のピーク時には約13兆円あった同市場の規模は、約20年間で3割ほど縮小した>というが、その中でも<紳士服市場の1割を占めるメンズスーツ市場は、前年比19.5%減の2330億6500万円となり、1997年に5335億円あった同市場は12年間で半減したことになる>とある。
ピークであった12年前を思い出してみれば、1990年代後半からインターネット、通信、ITの技術的発展によって、米国で、次いで日本でもベンチャー企業が台頭を始め、いわゆるドットコムバブルとかITバブルとかいわれた現象が拡大していった時期である。どこの大学生かと思うような服装の人がフェラーリに乗ったネットベンチャーの社長だったりしていた。カジュアルウェアがビジネスの世界で拡大した時期であったといえるだろう。
そもそも「casual」という単語の意味は服装においては「略式の」と「普段着の」との両方の意味があるが、当時のネットベンチャー文化は発祥の米国西海岸式に倣ってか後者の「普段着」的なスタイルが主であった。
その後の男性ビジネスパーソンの服装に大きな影響を与えたのは、小泉政権下の2005年に始められた「クールビズ」だ。内閣総理大臣・小泉純一郎のアドバイスのもと、小池百合子環境大臣の肝いりで始まった施策は、当初は室温上限を28度として、その室温の中で効率的に働くことが出来る軽装全般を指していた。つまり、「casual」の意味を「略式の」と捉える主旨が強かった。しかし、アパレル各社がそのチャンスを見逃すはずもなく、単にスーツ姿からネクタイを外しただけのスタイルが「ダサイ」「日曜日のお父さんスタイル」的に捉えられる風潮があった。さらには環境省主催のクールビズのお手本的「ファッションショー」まで開催された。衣服の買い換えによる日本の経済効果は1000億円以上と試算されている。(出所:Wikipedia)
スーツを脱ぎ捨て、「カジュアル」になった男性ビジネスパーソンたち。ふと気がつけば世界的にもスーツを着ない民族になっているようだ。
<職場でのスーツ着用率、日本は世界で10位=調査>(8月5日・ロイター)
http://jp.reuters.com/article/oddlyEnoughNews/idJPJAPAN-16655720100805?sp=true
記事では<調査は計1万2500人を対象に実施。職場での服装に関する意識の違いを調べるため、仕事にスーツやきちんとした格好で行くかどうか>などを質問したところ、<職場でのスーツ着用率が最も高いのはインドで、日本は10位だった>という。トップのインドは58%で、米国は37%、日本は35%だという。
既に日本のスーツ族は「絶滅危惧種」であり、「スーツ」は前世紀の遺物となりつつあるのか。そうでなくとも、日本の人口は少子高齢化が進み、団塊の世代の完全リタイア後にはスーツ市場はますますプロダクトライフサイクルの「衰退期」の坂を転がり落ちていくことになる。
しかし、日本にビジネスシーンから「スーツ姿」が完全に消え去ることは、恐らくない。市場は極端に縮小したパイの食い合いになるのである。
1993年から2003年が「失われた10年」と呼ばれていた日本経済は、2008年においても長引くデフレ不況から抜け出せないでいた。そこに米国発の「リーマンショック」が直撃した。いつの間にかメディアに記される文字は「失われた20年」と書き換わっており、まだしばらくは出口が見えないことを予感させた。
不景気の中、手っ取り早く消費者の歓心を買うには「価格訴求」に限る。大手流通や紳士服専業量販各社は1万円を切るスーツをこぞって発売した。折しも「超・就職氷河期」に突入し、スーツ1着では活動が終えられないリクルート学生や、お小遣いが極限まで削られたお父さんたちに歓迎され、激安スーツは売れに売れた。しかし、2010年に入って潮目が変わったようだ。
<9800円スーツ売れ残り 百貨店「安売り戦略」に異変>(J-CASTニュース・5月17日)
http://www.j-cast.com/2010/05/17066679.html?p=1
記事では< 松屋銀座で9800円スーツがセール初日に完売した2009年から一転、10年はセールから1週間経っても売れ残っているという。代わりに売れているのが高級生地を使った3、4万円台のスーツだ>などと、百貨店担当者の「客単価上昇、景気が多少戻ってきた感じ」というコメント共に<消費者が価格重視から品質志向にシフトしているようだ>と伝えている。
紳士服量販店も高価格帯を狙いにきた。10月15日の日経MJファッション&リビング欄に「はるやま、記事厚めのスーツ 海外企業と開発」という記事が掲載された。中高年の富裕層を狙い、流行の軽くて薄いイタリアメーカーの記事ではなく、中高年から根強い支持のある英国生地を用いて61,950円などのスーツを売り出すという。決して高級スーツの価格ではないが、レディーメイドでもあり、廉価なイメージのある紳士服量販店の商品としては高額だといえる。
しかし、今日の潮流は、前出のJ-CASTニュースの記事が指摘するように、「高額品」が支持されているのではなく、「品質志向」へのシフトであることがポイントなのだ。
少し前の放送だが、日経スペシャル「ガイアの夜明け」5月18日の放送では、『銀座デパート最終戦争~百貨店は新しい価値を作り出せるか?~ 』というテーマが放映された。
http://www.tv-tokyo.co.jp/gaia/backnumber/preview100518.html
「銀座スーツ戦争 松屋銀座の大勝負」という話題では、百貨店紳士服苦境の中、09年に対前年比160%という記録をたたき出した松屋のバイヤー、宮崎俊一氏が仕掛ける有名なスーツ販売催事「銀座の男市」の仕掛けが紹介された。同催事では目玉商品として、完全ハンドメードで3万5000円という常識破りのスーツが人気を博する。それこそがまさに、「品質志向」を示すものである。
商品の「価格」と「価値」の関係は、「安かろう悪かろう」から、「高くて高品質」まで、概ね正比例を示す。それを「バリューライン」という。バブル経済華やかなりし頃は、「高くて高品質」がもてはやされ、ともすれば、「価格が高いこと」自体が価値ともされて、「高くてそこそこの品質」や「高くて品質が低い」ものまでが売れた。今日ではあり得ない話だ。さらに、今日では「価格なりの品質」であるバリューライン上の商品も売れなくなっている。それが、J-CASTニュースが伝えた9,800円スーツが売れ残る理由である。
大手流通も1万円以下スーツが売れなくなることを黙ってみているわけではない。
イオンは跳んでもはねても快適に着られるストレッチ製法で、水を被っても平気な撥水加工まで施してあるスーツを7,800円で発売している。「イオン アクションストレッチスーツ」。その商品特性を見事に表現したCMも大量に投下されている。
http://www.youtube.com/watch?v=tIZOhEnL6Yw (YouTube動画)
「高価で高い品質」の商品で勝負する戦略を「プレミアム戦略」という。「安さに徹して品質も低くする」戦略は「エコノミー戦略」という。バリューライン上の高低両端のポジションだ。「銀座の男市」に代表されるのは、「中価格で高い品質」を実現する「高価値戦略」。7,800円で機能てんこ盛りのイオンのスーツは「低い価格で中程度の品質」に高める「グッドバリュー戦略」である。共に、バリューラインを超えたポジションを実現しているのである。
バリューライン上の究極のポジションは「低価格で高価格品と同等の品質」を実現する「スーパーバリュー戦略」である。しかし、その実現は容易ではない。
少子高齢化と服装のカジュアル化で市場のパイの縮小が続く紳士スーツ市場。生き残りのためには、その困難なポジションをスーパーや量販店という本来の廉価市場のプレイヤーと、百貨店などの高額品市場のプレイヤーが共に狙いに行くことは間違いない。まさに生き残りのための知恵と力比べが続くのである。
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